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奇妙な恋人 7

奇妙な恋人 7


 次の授業の休憩になって、三組に走ると、「ちょっと、きて!」クラスメイトの視線など気にもせずに、「ちょっと!」私は、彼を引っ張ってホールに連れ出した。とにかく広い所にでると、すぐに私は頭を深々と下げた。

「金曜日はごめん!言いすぎました!」


 土曜は怒りで一日がつぶれ日曜になって、ようやく久美子にメールでお母さんと一緒にされたと怒りのメールを送ると、久美子から電話が来た。

「どうしたの?電話なんて。」

「あのさ、日高君のことだけど。」

「うん?」

 久美子の話によると、お母さんは男と出て行って、それを苦に今度はお父さんも出て行ったというのだ。私は、頭が白くなった。私と似ていると彼が言った母親がいないのだ。

「どうしよう……。」

 私はぽつりと言った。たしかに、彼は会話の中で両親がいないと言っていたが、まさかそんなことになっているとは!

 朝一で謝ろうとしたが、彼は来ない。電話で、とも考えたが、直接の方がいいと考え直した。教室から廊下を覗くと先生が来ている。

その後ろから彼が走ってくるのが見えたが、教室で曲がってしまい、私は謝り損ねた。

「絶対に、次の授業後に謝る。」

 そう私は久美子に行った。

引っ張り出して、謝ったのはいいがとくに反応が無い。私はそっと頭を上げると、彼はなんと声も出さずに震えて笑っていた。

「ちょっと!なんで笑うの!?謝ってるのに!」

「いや、ごめ……ふふ。」

「ちょっとー。」

「いや、いや、ごめんごめん、人ってホント変わらないもんだなぁと思って。」

 彼は、笑いながら涙をぬぐいつつ言った。

「なんの話?」

 私が怪訝な顔をすると、彼は思い出すように言った。

「あれはねぇ、小学校の四年生くらいのときかな?僕が前を歩いている時に、一時止まれの標識を無視したおじさんとぶつかってね。僕が後ろに倒れたんだ。そしたら、上からギロっと睨まれてね、気をつけろ!ってどなられて、僕が謝ったんだ。そしたら、君が後ろから言ったんだ。「気をつけるのはそっちでしょ!大人なんだから!」って。」

「そ、そんなこと言った?」

「言った。それと僕も怒られた。」

「ええ!?」

「おじさんによく言えるなぁって感心してたら、「あんたも!」って僕まで。「あんたも、自分が悪くないときまで謝んないの!ほんとに謝る時のパワーが減るでしょ!」って。」

「ぱ、パワー?ホントに言った?」

「言った。それに面食らったのか、おじさんがごめんねって立たせてくれたもん。」

「えええ……あったかなぁ、そんなこと。」

「あった。それからずっと僕は櫻井さんを見てた。」

「え?」

 彼はにっこりと笑った。

「聞いたんだね?僕の母さんが男と駆け落ちして失踪してるって。」

「……男と駆け落ちかどうかはわかんないけど、失踪とは聞いた。」

 私は、正直に言った。彼はにっこり笑う。

「今日さ、僕の家に来ない?」

「家?」

 私は迷う。おばあさんに手土産でも持った方がいいかと。すると、彼はなにか勘違いしたのか、慌てて顔を赤らめてと言った。

「あ!いや!その、おばあちゃんにね、紹介しようかと。その、襲うとかじゃ……。」

「そっち!?」

「え、ど、どっち?」

 顔を見合わせてつい笑った。チャイムが鳴り、慌ててそれぞれのクラスに戻った。久美子に謝ったことを報告して、とりあえず私はほっとした。


 昼ご飯を食べながら、彼が言いだした。

「あ、うちねぇ、母親は別に男と駆け落ちして失踪したわけじゃないから。」

 あっさり言う。

「そうなの!?」

 久美子が目を丸くした。

「ちょっと、久美子。」

「あ、ごめん。」

「いやいや。平気平気。周りがさぁ、結構気を使ってくれて、誰も聞いてくれないから誤解されているんだけど、まず、うちは父さんが最初に失踪してる。」

「そうなの?」

「そうなの?」

 私と久美子の声が同時に出た。

「そうなんだよ。原因は病気なんだけど、父さんが失踪していて、で、母さんが父さんを探す旅に出ているんだ。まだ遺体が出てきていないから生きているはずだよ。」

「た、旅?」

「はず?」

「うん、母さんは日本全国あっちこっち探しているみたい。父さんからはときどきハガキがくるし。生きているはず。」

「ハガキ?」

「メールとかじゃないんだ。」

「あ、母さんからはメールも来るよ。たまにだけど。ねぇちゃんたちとも連携しているのか、連絡は常に取ってるよ。」

「な、なんの病気なの?」

「どうやら、記憶が途切れるらしい。」

「記憶が?」

「うん。最初は事故に遭ったんじゃないかとか、失踪届けとか出したんだけど、本人からある日ハガキがきて、どうも記憶がぶつぶつとぎれるらしくって。日本の地方のあっちこっちからハガキが二、三年に一回しか来ないかなぁ。しばらくは母さんも待っていたし、僕らも近くを探したんだけど、上のねぇさんが大学生になったら、待つのは嫌だから探しに行ってくるって。ま、ばあちゃんもいたしね。」

「そうなんだー。あ!」

 久美子が急に声をあげた。

「どうしたの?」

 私の問いには答えずに、言う。

「だからか!だから、うちの近くの公園とかで日高君を見かけたことがあるんだ!」

「なんの話?」

 なんとなく、自分だけが話に入れないのは寂しい。

「補導されたでしょ?」

「え?誰が?」

「された、された。」

 彼が困ったように笑う。私は、話に入ることをあきらめそうになった。それに気がついたか、彼が説明してくれた。

「いや、実はね。僕らの家の近くっていっても、長い川を一本渡った先のまた奥の方に公園があるんだ。今じゃすっかり木とかも手入れされてすっきり綺麗な公園になっているんだけど、僕らが小学生のころはうっそうとした森みたいなところでね、子供は用が無い限り絶対に近づかないようにって近所で回覧板が回ってくるほどだったんだ。そこに浮浪者が何人かいてね、父さんがそこにいないかと探しに行ったことがあるんだよ。」

「へぇ。」

 私は目を丸くした。

「そしたら、補導されちゃって。ま、そのあとそのおまわりさんとは仲良くなって、一緒にあっちこっち探したんだけど。」

「そんなことが、あったんだ。じゃ、いまでも探しているの?」

「うん、結婚した上のねぇちゃんは、インターネットとかで探してるみたい。下のねぇちゃんは、大学病院で働いているんだ。もし、父さんが死んだら運ばれてくれるかもしれないって。僕は、新聞記者になりたいんだ。」

「新聞記者?」

「うん。日本全国あっちこっち、人探しには良いかなぁと思って。」

 彼はにっこりと笑った。


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