奇妙な恋人 6
奇妙な恋人 6
放課後。彼は、下駄箱で待っていた。
「かえろー。」
「うん。」
私は、彼とポツポツ歩きだした。まず駅に向かう。
「だんだん、一緒の時間に帰る同級生が少なくなるね。」
「そうねぇ。みんな部活とか見に行っているしね。日高君、部活は?」
「ううん、僕はバイトしようと思って。実はもう決めてあるんだ。コンビニ。」
「は、早いねぇ。」
「うん。まぁ、受かるかどうか分かんないけど、履歴書は出したよ。やりたいことがたくさんあるから、さっさと決めないと。櫻井さんは?」
「え?あー。私はまだなんにも。あ、久美子は、陸上部見に行ったの。」
「へぇー。陸上……のなに?」
「短距離。」
「そうなんだ、櫻井さんスポーツは?」
「見るだけ。」
「僕もそうだなぁ。」
「ねぇ。やりたいことってなに?」
「ん?なんの話?」
「ほら、さっきもうコンビニに履歴書出したって。」
「ああ、お金をためてバイクの免許取ろうと思って。」
「バイクかぁ。」
「うちにバイクは無いんだけど、免許があるか、ないかでまた仕事が変わってくるしね。バイクを先に取っておけば、車の免許を取る時も早くとれそうだし。」
「そうなの?」
「だって、標識なんかは車でもバイクでも共通だし。」
「そっか。」
「まぁ、免許は十六にならないと取れないから先にお金をね。」
「誕生日はいつ?」
「バレンタイン。」
「ホント?」
「ホント。櫻井さんのほうが先にお姉さんになるんだよねぇ。」
「なんで知ってるの?」
目を丸くする私に対して、彼はにまにま笑う。
「ふっふっふー。あ、ところでさ、月曜日なんだけど。」
「月曜日?」
「そう、朝も一緒に登校したいんだけど、どうも忙しそうで、ちょっと無理そうなんだよね。だから、先に行っていてくれる?」
「いいけど……。」
朝も一緒に登校するつもりだったのだろうか?
「あ、電車。きたきた。」
この高校の良い所は駅から徒歩七分、走れば五分で着くところである。そして、電車は二駅で自分の最寄り駅につくのだが。
「ところで、日高君はどこに住んでいるの?」
電車はよく揺れる。
「僕?夕日が丘のほう。」
「ああ、久美子のほうだね。」
「そう。櫻井さんは朝日が丘の方でしょ。」
「そう。」
私は、普通にうなずいた。地元の周辺はなぜか駅を中心に朝日が丘、夕日が丘、泉が丘、嵐が丘と別れていて、朝夕で小学校が同じになる。
「自転車?」
「うん。そっちはバスでしょ。」
朝日が丘は平地だが、夕日が丘の方は坂が多い。久美子はその坂を下って小学校に通っていて、帰る時はまた昇るのだ。彼女に言わせると、これでたいぶ体力がついたらしい。 「ううん、自転車。」
私は目を丸くした。
「自転車?だって坂が多くて大変じゃない?」
「うん。だけど、バスだとお金かかるし。体力も付けたいから。」
「お金はさておき、体力って、体でも弱いの?」
「まさか!弱くはないけど、僕が倒れたらばあちゃんが大変だしね。人一倍健康には注意してないといけないしさ。」
「そっか。えらいねぇ。」
「ホント?いやぁ、櫻井さんに褒めてもらうとうれしいなぁ。」
彼は何でもないように言ったが、私は赤面した。忘れていたが、好きだと言われているんだった……。返事をやっぱりしないといけないだろう。電車がホームに入り、駅から出た。
「あ、そうだ、櫻井さん携帯持ってる?」
「え?ああ、うん。持ってるよ。」
私は鞄から引っ張り出した。
「よかった。じゃ、連絡先交換しよう。」
「いいよ。」
最近の携帯は通信が早い。
「それと、はい、これ。」
「ストラップ?」
「そう!お揃いにしようともって。……だめ?」
「いや、ダメじゃないけど……。」
彼はにこにこと笑っている。これはつけろという無言の攻撃だろうか。私はその攻撃に負けて、すぐに 携帯に付け始めた。
「ついた。」
「ホント。これで、おそろいー。じゃ、僕はこっちだから、ここで。」
彼は手を挙げて自転車置き場の方に向かう。私の自転車置き場とは方向が違うようだ。
「あ、うん。またね。」
「うん、また明日。」
「あ!日高君!ちょっと。」
「なに?」
「あのー。この土日で、日高君のことを考えたんだけど、あのー。」
「うん。」
「そのー。」
「うん?」
「えーと……。」
「返事はゆっくりでいいんだけど。」
「じゃなくて!いや、そうなんだけど。」
彼は困ったような顔をした。
「つまりー、そのー。私のどこが、そのー。」
「ああ!好きなところ?」
「う、うん。」
自分で聞いておきながら、ついうつむいてしまった。彼はちょっと考えて言った。
「うーーーん、やっぱり一番は、母さんに似ているところかな?あ!ごめん、僕バイトがあるから、行くね!またね!」
彼は茫然としている私を置いて、さっさと自転車置き場の方へと走って行った……。
お母さん?いま、お母さんって言った?
「馬鹿野郎!」
私は彼の後姿に怒鳴るとさっさと自分の自転車置き場に向かった。彼からの電話には一切出すに私は、シカトを続けて、ついでに久美子に愚痴った。