奇妙な恋人 5
奇妙な恋人 5
その日の昼食前。手を洗いにトイレに行くと、自分が入った後に女の子が三人も自分を取り囲んできた。
「なに?」
「あんた、日高君と付き合ってるの?」
「付き合ってない。」
「付き合うの?これから?」
「ありえないでしょ、ブスが。」
「生意気―。」
私は、基本的に平和主義だし、事なかれ主義だし、怠け者だ。それでも、売られたケンカは買う。
「はぁ?そんなことがあんたに関係ある?」
私がそう言った時に、「ちょっと!」と私の先を見て、相手の女子が目を丸くした。振り返ろうとした瞬間に腕で口をふさがれていた。
「ん?!」
女の子の誰かが襲ってきたのかと、思ったが。よくみると、それは喧嘩を売ってきた女の子ではなく、彼だった。
「ちょっと、ここ女子トイレよ!」
「男子は向こうでしょ!」
わいわい言われるのも気にせずに、彼は言う。
「ずるいぞ!女の子だからって、男の入れないところで櫻井さんに告白とかするなんて!」
私の頭が少し白くなった。なんだろう、この少しオカマっぽい口調は。
「え?」
「は?」
「ぼ、僕だって、ずっと櫻井さんが好きだったんだ。小学校からだぞ!」
「だ、だから?」
「だから、手を出さないで!」
私はため息をついて、腕をぽんぽん叩いた。
「な、なに?」
私は苦しさをアピールしてみた。彼ははっと我に返ったのか、「あああ!ご、ごめん!あ!ごめん。」
彼は慌てて、女子トイレから出て行った。
喧嘩を売ってきた女の子たちはすっかり毒気が抜かれたのか、無言で出て行った。私もトイレから出ると、久美子と彼が一緒にいた。
「おかえり。」
久美子がにやにや笑う。
「ただいまって、どうしたの?」
「あたしが日高君に教えたの。嫁が危ないって。」
「よ、嫁……。」
「いやぁ、まさか女子トイレに入っていくとは思わなかった。」
久美子は、妙なところで感心している。
「いや、つい。僕のせいでなんか傷でもつけられたら困るなぁと。つい。」
彼は頭をぽりぽり掻いた。
「あー、それでか。なんで急に日高君が入ってきたのかと思ったら、久美子が言ったからか。」
「そー。じゃ、みなさん無事だった所でご飯、食べよ?」
久美子はにこやかに笑った。
「そっかぁ、小学校、みんな一緒かぁ……。そして、由美はまったく日高君を覚えてないと。」
弁当の中身をつつきながら久美子が言った。
「久美子覚えてるの?」
「もちろん、だって五、六年で一緒のクラスだったもんね?」
「だねぇ。」
「そうなんだ。」
「私と由美は中学で仲良くなったから、小学校の頃はほとんど顔だけ知っていたってみたいなもんだもんね。」
「ね。」
「へぇ、そうなんだぁ。あ、僕は中学は私立に行きまして。」
「え?」
「なのに、高校はここなの?」
「うん。いま、父さんと母さんがいなくて、ばあちゃんと二人暮らしなんでできるだけ近くにいたいなぁと思って。こっちに戻ってきたんだ。ねぇちゃんが二人もいるんだけど、一人は結婚したし、一人は仕事の出張とかで長崎に行っているんだ。」
「長崎。」
「へー。」
私は、彼の話を聞くのに耳を傾けていたせいか、久美子の顔の変化に気がつかなかった。