奇妙な恋人 4
奇妙な恋人 4
それは、高校入学して、三日目のことだった。廊下で窓の外の校庭をぼんやり見つめていたら、誰かが前に立った。トイレから友人が戻ってきたのかとそっちをみると、こっちをじっと見つめている人がいる。
「あの、なにか?」
「好きです。付き合って下さい。」
「はい?」
「あ、はいって、言った。じゃあ、よろしく。」
彼は、私の手をつかんでにっこりと笑った。
「いやいやいや。」
私はあわてて、彼の手を離した。
「ちょ、ちょっと待って?えーと、ど、どちら様?」
私は、そのハンサムな顔を見つつ、頭の中の記憶をフル回転させたが、知合いに心当たりはなかった。
「僕?日高 司。一年三組。」
「はぁ、そうですか、あ、私は。」
「知ってる。二組の櫻井 由美さんでしょ。」
「そうですけど……。あの、なんで。」
「そりゃあ、自分の好きな人の名前くらい知ってるよ。あ、でもねぇ、小学校も一緒なんだよ。」
「小学校?」
私は、昔のことを思い出そうとしたが、出てこない。いや、その前にさらりと好きって言わなかっただろうか?
「ごめん、出てこない。」
「うん、思い出せなくてもいいよ。今日、一緒に帰ろう。」
「はい?」
「じゃ、放課後にね。」
彼は手をひらひらさせて、教室に戻った。どうやら、私の疑問形のはい?は彼には公定のはい、に認識されたようだ。
のこされた私は、傍にいたクラスメイト達にすっかり噂の的にされた。さっそくトイレにいっていた幼 馴染が走って戻ってきた。
「ちょっと由美!あんた告白されたってホント?」
「久美子、声、大きい。」
私は、あわてて言ったが。
「なに、言ってるのよ。もうこの学年のみんなが知ってるわよ。」
「う。」
「それに、あんたがなにも言わなくたって、日高君がとなりで告白したんだーって、大声で言ってたわよ。あんたの名前出して。」
「うそ!ちょ、ちょっと!」
三組に行こうとした途端にチャイムが鳴る。
「はい、時間切れー。」
久美子はにやにや笑っている。この時間、なんの授業だったのか、さっぱり頭に入ってこなかった。
次の授業の休憩になって、三組に走ると、「ひゅー。日高の嫁だ。」
「おい、嫁がきたぞ。」
「あ、ホントだ。どうしました、櫻井さん。」
「ひゅー。」
「ひゅー。」
「あの。」
とにかく話そうにも、男子の声がうるさい。女子の目線が冷たい。
「ちょっと!」
私は、彼を引っ張ってホールに連れ出した。
「おお!卒業?」
「逆じゃねぇ?」
「心中?」
あれこれ後ろから言われつつ、とにかく広い所に連れて行った。
「日高君、私、まだつきあうって言ってないし、勝手に彼女にしないで。」
「え?」
「え?じゃなくて。私は、はい?って聞き返しただけよ、肯定なんかしてない!」
「ああ!知ってる。」
彼はにこにこして言った。彼のあっさりとした言葉に私の方が面食らった。
「え?」
「だけど、早く宣言しておかないと誰かに取られちゃうと思って。先に本人に好きだって言っとかないと失礼かなと思って。他に好きな人が誰かいる?」
引き続きニコニコ聞く。
「え、いや、いないけど。」
「じゃ、とりあえず、僕の彼女にならない?」
「え、えーと……。」
「あ、待って!すぐに断られたらへこむから、ゆっくり考えて!」
彼はあわてて言った。そして、笑う。
「とりあえず、今日から一緒に帰りませんか?」
「……はい。」
私はこっくりうなずいた。