奇妙な恋人 3
奇妙な恋人 3
「おい、日高君。お、由美君も一緒か。」
建物を出て、公園に向かってぶらぶら歩き出すと、よれよれのスーツ姿のがたいのいい男性が声をかけてきた。
「あー、吉井さん。」
この吉井さん、警察官である。昔から、彼のことをよく知っている。彼とセットで私の事も覚えているようだ。おそらく隣の比較的新しいスーツの男性も同じ職業の人かもしれない。
「今日はデートかーいって、どうしたんだい、その眼?」
吉井さんは、泣きはらして真っ赤になった目を見て、目を丸くした。
「いやぁー、動物もので親子愛の映画見ちゃって、もう……。」
「あああ、あの。吉井さん、今日は?」
司の眼玉がまたウルウルしてきているのを抑えようと、私は話をずらした。
「あー、認知症のおばあちゃんがいなくなったらしくて、探しているんだ。」
「おばあちゃん?いくつくらいの方?」
司が聞く。とたんに涙が止まる。
「七十。んで、どうやら、夜に家族の気がつかないうちに、そっと出たらしくって薄着らしいんだよなぁ。」
「もしかして、ジヌさんのところで、保護されたの、その人かも。」
司はすぐに答えた。ジヌさんはホームレスである。正式な名前を司は知っているらしいが、ジヌさんで通るのだから、そのほうが早い。
「ああ、ジヌさん、あの人は今どこにいるんだ?」
吉井も顔なじみらしい。しかし、ジヌさんたちは、たまに大移動をしていつもいつも同じ場所にいるとは限らない。
「今日、ここの隣の駅の高架下で会いましたよ。段ボール運んでいたから、どうしたの?って聞いたら、若くない女性が裸足で歩いていたって。」
「よし、行ってみよう。あ、そうだ、ついでだ。おい、高島。」
「ハイ。」
隣にいた若い人が声を出す。
「こいつが、日高 司だ。こっちが隣の由美さん、こいつの彼女だ。二人とも、これが新人の高島 晃だ。」
「どうも。」
「はじめまして。」
「どうも。」の挨拶がおこなれた。
「親父さんまだか?」
吉井が聞く。
「まだです。」
「わかった、じゃあ、ありがとな。」
「吉井さん、違ったらまた連絡下さい、他探しますから。」
吉井はちょっと手を挙げて見せた。
二人でまた公園内を歩きだす。私は、また司の腕をとった。
「ジヌさんが保護したおばあちゃんがその人だといいねぇ。」
「そうだねぇ。」
司はゆっくり言う。
「家族が心配しているだろうから、探すんだ。探してくれるうちは、大丈夫なんだよ。」
司は自分に言い聞かせるように言った。
「司だって、探してるじゃない。」
「んー。見つからないけどねぇ。」
司はゆっくり笑った。
司は、別に変人でも変わった趣味を持っているわけでもない。ただ、父親を探しているだけなのだ。彼の父親は、司が子供のころに失踪した。
「司が探しているんだから、お父さんも大丈夫よ。」
私はほほ笑んだ。それしかできないのだから。