奇妙な恋人 1
奇妙な恋人 1
腕時計を見る。私は彼、日高 司と待ち合わせをしている。珍しく映画を見る。だが、彼と映画はなかなか現れない。なんだか、嫌な予感がしてきた。そしてそれは大抵当たる。
「あら。」
携帯が鳴り出す。表示に彼の名前が現れた。私はため息をついた。やっぱり当ったらしい。まぁ、よくやることではあるのだけれども。
「はい?」
家の電話でもそうだが、基本的に名乗らない。携帯など名前が出るから余計にそうだ。
「由美?僕だけど、春だからさ、映画に遅れるから先に見てて。」
いやいやデートに映画を別々に見るってことはあるまい。一人でいいなら、とっくに見ている。
「あー、次回があるから平気。近くの本屋に行ってる。」
「わかった。」
私は電話を切って、すぐに本屋に向かうことにした。
私の彼、司は彼女の私が言うのもなんだけど、身長は特別高くないが、イケメンである。私が隣を歩いているだけで、すれ違う女性たちに睨まれる。私を押しのけて彼にアタックする女の子も当然多い。しかし、そのまま彼の横に十分以上いられた人を私は数人しか知らない。
そんな彼の趣味は、カメラ。なかでも風景が多い。そして、大抵の子はいつもよりも甘い高めの声でゆっくり聞くのだ。
「どこの写真?」
「これはねぇ、この間傷害事件が起きた公園だよ。」
彼もおっとり答える。
「え?」
「じゃ、こっちの海は?」
「これ?毎年最低でも一人は亡くなる海。」
「じゃあ、このデパートは?」
「この間、爆弾予告が届いたんだ。」
「・・・・・。」
質問の返答と比例して声も高めから元に戻り、大抵の女性たちはいなくなる。そして、なかには私に憐みの眼で見ていくまでに変わっていくのだ。
これが、学生時代の通常の毎日だった。まぁ、社会人になって周りの女性が減ったのはただ単に多くの人と会う機会が減ったからかもしれない。
ところで、今回ひさしぶりに映画。なぜ久しぶりなのか。話はずいぶん昔にさかのぼる。デートと言えば、映画だろうと思い、私から誘ってみたことがある。
「映画行かない?これ、見たいな。」
「どれ?いいよ、面白そう。あーでも桜映画館かぁ。あそこは下剤入りのコーラで問題になったんだけど、いい?」
「じゃ、菊映画館は?同じのをやっているし。」
「あ、5年前に強盗に籠城されたところ?」
「…梅映画館は?」
「いいよー。3年前にスリが逮捕されたところだけど。」
「もういい。」
そうして私は映画をあきらめていた。それ以来、彼を映画に誘うことはなかったからだ。これが二回目である。一番古い桜映画館が解体され、そこに新しいビルが建ったなかに、映画館が入ったのだ。これならまだ犯罪の起きていないだろうと声をかけてみたところ、「いいよ。」
彼から珍しく、本当に珍しく、普通の返事が返ってきて、今日にいたるのだ。
私は、本屋に入ると時間をかけて、ゆっくり本棚を見つめた。