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夢は増えていく

作者: シキカン
掲載日:2026/06/26


ハァ、ハァ、ハァ…。

壁を越えたその先には煌めく紺碧の海と、未到の島が聳え立っていた。


僕の街は高い壁に覆われている。なんでも昔、海からの猛獣に襲われたことがあり、先人が島民を守るために壁を建設したらしい。

一応壁の外に行く扉はあるけど、そこには屈強な門番が重装備で24時間立っている。

じいちゃんもよく「海に行くな。行けば魔物に喰われるぞ。」って毎日のように言ってたな。

だけど僕はずっと知りたかった。海を。

だからあの日、内緒で壁を越えて海へ向かった。

学校の裏の壁は歴代の小学生しか知らない秘密の穴がある。

ちょうど子供なら通れる大きさの穴なんだ。

そうしてたどり着いたその先に獰猛な魔物などおらず、煌めく海と地平線の向こう側にうっすら僕たちと同じ島のようなものが見えた。

その日から僕の夢は決まった。

『海を越え、あの島に行く!』


「ファル、サッカーしようぜ!」

「ごめん!今日も忙しいんだ!」

クラスメイトのゾンが毎日誘ってくる。

僕はサッカーどころではない。

一刻も早く船を完成させて、あの島へ向けて漕ぎ出したいのだ!

走り去る僕をゾンが不思議そうに見つめる。

僕はそんな彼を気にも留めず、海岸へ向かった。

葉っぱで覆った木陰の下から、船だか筏だか、なんとも呼べないものを一人で引っ張り出し、海岸奥にある森から木を運んで切り、組み立てていた。

すると、

「なぁ、何やってんの?」

と、頭上から突然声がした。

「うわぁ!」

僕はびっくりして、顔を上げると、声の主の頭がすぐそこにあり、お互い激しく頭をぶつけた。

「「いってぇぇ!!!」」

と、頭を抑え『誰だよ!?』と思いながらそいつの顔を見ると、ゾンが僕と同じように頭を抱え痛がっていた。

「お前、なにやってんだよ!」

僕は小さな体で照れながら船を背にした。

「ファル、最近遊びに誘ってもすぐ帰っちゃうから、気になって後ついてきた。なぁ、何作ってるの?」

ゾンはそう言いながら僕の背中の方に回った。

「ちょっ!見んなよ!」

恥ずかしくて必死で隠そうとするが、隠れる代物なはずがない。

「えっ!?何これ!?船!?なんで!?

 てかっ!すっげぇー!!!」

ゾンはキラキラした瞳で僕にそう言った。

「なんで船作ってるの!?」

僕はモジモジしながら、地平線の向こう側にうっすら見える島を指差そうとして、下ろした。

「ダメだ…。」

「えっ?」

「これは僕の夢なんだ。誰にも知られたくないんだ。」

「あー。そっか…。」

そういうとゾンはおもむろに海岸の流木を船の横に運んだ。

「…何してるの?」

「話したくないなら、話さなくていい。

 でも一人じゃ大変だろ?」

僕はその言葉に泣きそうになった。

涙がこぼれないように上を向いてぽつりとこぼした。

「あの島に行きたいんだ。」

「えっ?」

「僕の夢。船であの島に行きたいんだ。」

僕は顔を真っ赤にしながら夢を語った。

するとゾンは僕に駆け寄り、肩を組んで

「すっげぇかっけぇじゃん!俺も手伝う!」

「ありがとう。このことは二人だけの秘密で」

「もちろん!」

その日から僕の夢は二人の夢になった。


それから月日が経ち、二人で毎日のように船を作り続けた。

時には船の設計で喧嘩したり、巨大台風が来て船が半壊したりと思うようには進まなかった。

家族に「最近遅くまで何してるの?」と聞かれたこともあった。

共通の秘密があるせいか、僕とゾンは唯一無二の親友になっていった。

そんなある日、いつものように二人で船を作っていると、木陰の下の方に人影が見える。

そういえばここ最近視線を感じていたが、振り返ってもわからなかったので気のせいだと流していた。

警備隊か、それとも先生か?

しかしよく見ると同じ歳くらいの子に見える。

くるくるふわふわの金髪のショートヘアに、くりっとした青い瞳。白いポロシャツにサスペンダーをつけた半ズボン。

見た感じは育ちが良さそうに見える。

その子は不思議そうな、でもとてもキラキラした瞳で僕らを見ている。

「なぁ、ゾン。あの子誰か知ってる?」

「知らねっ。」


僕らが見つめていたからだろうか。

その子がこちらに駆け寄ってくる。

えっ?えっ?

僕が戸惑っているとその子は息をあげながら

「ねぇっ…。何作ってるの?」

と聞いてきた。

僕とゾンは顔を見合わせて、しばらく口をつぐんだ。

「もしかして、船?それに乗ってあの島に行くの?」

その言葉を聞いた瞬間、僕らは瞬時にその子に顔を向けた。

そして僕はその子の肩を掴んで必死に

「お願い!誰にも言わないで!頼む!」

と、叫んだ。

ゾンも「お願い!」と頭を下げた。

その子はキョトンとした顔をして、少しビックリしながら

「う…うん。言わないよ。

 ただ、いいなぁと思って。

 僕も行ってみたいから、あの島。

 僕、星を見るのが大好きで、毎晩部屋から夜空を見上げてるんだけど、その時にうっすら見えるあの島がずっと気になっててさ。」

彼の言葉に引っかかり、

「もしかして星から方角読める?」

「あっ、少しなら。太陽からもなんとなくわかるよね?」

「えっ、何言ってんの?」

ゾンが全く彼の話を理解できていない。

僕は期待と不安を入り混ぜながら

「もしよかったら一緒に行く?あの島に。」

と、言ってみた。

その子は目を輝かせ、

「えっ!?いいの!?」

と、叫び、柔らかい笑顔を魅せた。

ゾンは

「えっ!?誰かもわからないのに!?

 それに俺とファルだけの秘密だろ!?

 もしこいつが大人にバラしたらどうするんだよ!?」

と、怪訝そうな表情をしながら捲し立てる。

僕はまっすぐゾンを見つめながら、

「僕も最初はゾンを信じるのは怖かった。

 でも勇気を出して自分の夢を話したんだ。

 この人なら大丈夫と思ったから。

 今もあの時と同じ気持ちなんだ。

 だから信じてみようよ。彼を。」

と、答えた。

するとゾンは少しバツが悪そうな顔をしながら

「ぐぅぅ…。絶対バラすなよ!」

と叫び、一人作業を始めた。

その子は「うん!」とくったくない笑顔で頷いた。

「ところで名前は?いくつ?」

「僕の名前はフェア。歳は12だよ。」

…まさかの歳上だった。


「「「やったー!!!!!」」」

あれから4年。

ついに船が完成した。

そして今日は絶好の航海日和。

僕らは出航前に円陣を組んだ。

「さぁ、いよいよ出航だ。僕は船長。フェアは航海士。ゾンは操舵手。三人で力を合わせてあの島に行こう!」

「ワクワクするけど緊張するね」

フェアは声を上擦りながら答えた。

「かぁちゃんたち心配するかな…」

ゾンは少し不安そうな顔をしている。

僕はゾンの肩を少し強めに叩き、

「大丈夫。必ず帰ってこよう。」

そう言って、三人でより強く肩を寄せ合った。

三人で船を押し、海に乗ったところで乗り込む。

「「「さぁ!出航だー!!!」」」


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