第14話:思考停止の「全自動・御用聞き(プレディクト・デリバリー)」! 注文前に届く荷物が、世界の物流を終わらせる
「アルス、大変よ! 通信網が整ったせいで、注文が秒単位で数万件も押し寄せているわ! さすがの銀色ゴーレム(GR-J76) でも、物理的な配送スピードが追いつかなくなるわよ!」
リーゼロッテが、大量のデータが流れるホログラムパネル を指差して叫ぶ。
だが、俺は椅子に深く腰掛け、不敵な笑みを浮かべた。
「リーゼ、『注文されてから送る』なんて、前時代の非効率なやり方はもう終わりだ。……これからは、客が『欲しい』と思う前に、俺たちの商品が玄関先に届く」
「……えっ? 注文してないのに、商品が届くっていうの?」
「ああ。名付けて『トリニティ・エンジン(欲望予測機関)』だ」
俺は【全自動化】スキルの真骨頂、膨大なユーザー行動のデータ解析を開始した。
全人類が使っている『エーテル・ペイ』 の購買履歴、そして『エーテル・ネット』 で閲覧した動画の傾向。これらを統合し、AI……いや、俺の構築した魔力回路が「その人間が明日、何を食べ、何を欲しがるか」を99.9%の精度で弾き出す。
「ズドドドド……!!」
本部の巨大ハッチから、数万機の小型配送ドローン が、商品を満載して一斉に飛び立った。
行き先は、まだ注文ボタンすら押していない客たちの家だ。
『ピンポーン。――こんにちは、アルス商会です。お客様、そろそろ奥様の誕生日に贈る魔法の香水が必要ではありませんか? ちょうど先ほど、ドローンが玄関先に到着しました。今ならクーポンで半額、決済は全自動で完了しています』
「……な、なんてこと! 客が悩む時間すら奪って、強制的に『満足』を売りつけているわ……!」
「悩むという行為は、顧客にとってコスト(負担)でしかない。そのコストを俺のシステムが全自動で肩代わりしてやるんだ。これが究極の顧客体験だ」
この「予測配送」により、世界中の商店や配送業者は完全に失業した。
朝起きたら、今日必要なものがすでに届いている。そんな「アルスの管理下にある世界」に、人々は抗うことすらできず、熱狂的に依存していった。
――一方、王都の運送組合。
かつてのギルドマスターの紹介で細々と荷運びをしていた元冒険者たちは、荷車を引いたまま立ち尽くしていた。
「あ、ありえねぇ……。俺たちが一週間かけて運ぶ荷物を、あの銀色のドローンどもは空から数秒で、しかも『客が頼む前』に届けてやがる……」
「もう終わりだ。俺たちの仕事は……この世から消えたんだ……」
彼らが絶望に沈む中、空を埋め尽くすドローンの影が、新たな時代の夜明けを告げていた。
俺の商会は、もはや単なる店ではない。人類の「意志」を先回りし、世界そのものを動かす「全自動の神」になろうとしていた。




