7/20
『職場の皆様。何も仕事ができず、いつも仕事を終わらせられず、ご迷惑をおかけするばかりですみませんでした。
お母さん、お父さん。産んでくれてありがとう、親不孝者で本当にごめんなさい。
ウミ。
ずっと前から好きだったよ。友達じゃなくて、世界で一番幸せになってほしい、大好きな人でした。どうか幸せになってください。』
セミの鳴き声。
海のさざめき。
雲の向こう側、飛行機の音。
…
……
………
「サクラ、今年も暑すぎるよ。最高気温、もう昨年越えだよ。溶けてしまいそう」
…
……
………
「折角だしと思って海まで来てみたけど、もっと穴場のところ探せば良かったかな。見たくもない大勢の水着、ちょっと感傷に浸りにくい」
…
……
………
「自分だけ祝ってもらうなんて、ずるいなぁ、サクラ。私だって、社会人になってからも祝われたかったんだけど」
…
……
………
サクラの返答はない。
あるわけがない。
あったとすれば、それは紛れもなく幻聴で。
私が生み出した、都合の良い言葉にしかならない。
サクラは死んだ。
私の誕生日、7月20日を迎える1週間前だった。
ひとりだった。
誰にも相談せず、ひとりで逝った。
手紙と呼ぶには短すぎる手紙があった。
職場への謝罪、家族への謝罪。
そして、私に対する本音が簡潔に書かれていた。
文章は酷く冷たく、サクラが選んでしまった道を、私はなぞることができないんだな、と思わせられた。
「プレゼントのお返し、楽しみにしてたのにさぁ」
「久しぶりに会えると思って、楽しみにしてたのにさぁ」
「ねぇ」
「計画したよね」
「私の誕生日は休み取るからって言ってたよね」
「一緒に新しい水着買ってさ」
「海かプール行ってリフレッシュしようよって」
「サクラから言い出したんだよね」
「無責任だよ」
「本当に」
「ほん、とに」
「じ、ぶんかって、だ、ばか」
両手の中で包み込んだ小瓶。サクラの両親に、縋り付くように許可をもらった、少量の遺骨。
止めどなく流れる涙が瓶を伝う。
押し殺した声は、どうにも勝手に漏れ出てしまう。
一緒に生きたかった。
大人になっても、2人でいる時は大人じゃない私たちでいたかった。
何も幸せに感じられないのなら、
私が絶対に幸せにするって約束できた。
でも、サクラは、
約束の余地なんて与えてくれなかった。
「誕生日プレゼント、勝手に返してもらうね」
「これくらい許してくれるでしょ?」
「私のこと、好きならさ」
涙で目が痛くなり、いつの間にか海がオレンジ色に波打っていた。
私は貰った小瓶を開け、サクラの遺骨を手の平に出した。
我ながら、どうかしていると思う。
だけどこれは、私にお返しをしないサクラが悪いから。
上を向いた。
スナック菓子を放り込むように、遺骨を喉に流した。
水も何もない、粉も粒も混ざるそれらは喉に酷くつっかえて、咳を誘発させた。
吐き出さないように、口は絶対に開けなかった。
自分の唾で、必死に胃の中へ流し込んだ。
ほんのり焦げ臭いような、味の無い、味がした。
喉の奥が痛くて、
痛くて、
痛くて、
痛くて、
痛、く、て、
「サクラ、私もね」
「わたしも」
「好きだったよ」




