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『職場の皆様。何も仕事ができず、いつも仕事を終わらせられず、ご迷惑をおかけするばかりですみませんでした。


 お母さん、お父さん。産んでくれてありがとう、親不孝者で本当にごめんなさい。


 ウミ。

 ずっと前から好きだったよ。友達じゃなくて、世界で一番幸せになってほしい、大好きな人でした。どうか幸せになってください。』














 セミの鳴き声。

 海のさざめき。

 雲の向こう側、飛行機の音。


 …

 ……

 ………


「サクラ、今年も暑すぎるよ。最高気温、もう昨年越えだよ。溶けてしまいそう」


 …

 ……

 ………


「折角だしと思って海まで来てみたけど、もっと穴場のところ探せば良かったかな。見たくもない大勢の水着、ちょっと感傷に浸りにくい」


 …

 ……

 ………


「自分だけ祝ってもらうなんて、ずるいなぁ、サクラ。私だって、社会人になってからも祝われたかったんだけど」


 …

 ……

 ………


 サクラの返答はない。

 あるわけがない。

 あったとすれば、それは紛れもなく幻聴で。

 私が生み出した、都合の良い言葉にしかならない。





 サクラは死んだ。

 私の誕生日、7月20日を迎える1週間前だった。





 ひとりだった。


 誰にも相談せず、ひとりで逝った。


 手紙と呼ぶには短すぎる手紙があった。


 職場への謝罪、家族への謝罪。


 そして、私に対する本音が簡潔に書かれていた。


 文章は酷く冷たく、サクラが選んでしまった道を、私はなぞることができないんだな、と思わせられた。



「プレゼントのお返し、楽しみにしてたのにさぁ」


「久しぶりに会えると思って、楽しみにしてたのにさぁ」


「ねぇ」


「計画したよね」


「私の誕生日は休み取るからって言ってたよね」


「一緒に新しい水着買ってさ」


「海かプール行ってリフレッシュしようよって」


「サクラから言い出したんだよね」


「無責任だよ」


「本当に」


「ほん、とに」


「じ、ぶんかって、だ、ばか」



 両手の中で包み込んだ小瓶。サクラの両親に、縋り付くように許可をもらった、少量の遺骨。


 止めどなく流れる涙が瓶を伝う。


 押し殺した声は、どうにも勝手に漏れ出てしまう。




 一緒に生きたかった。


 大人になっても、2人でいる時は大人じゃない私たちでいたかった。


 何も幸せに感じられないのなら、


 私が絶対に幸せにするって約束できた。


 でも、サクラは、


 約束の余地なんて与えてくれなかった。







「誕生日プレゼント、勝手に返してもらうね」


「これくらい許してくれるでしょ?」


「私のこと、好きならさ」



 涙で目が痛くなり、いつの間にか海がオレンジ色に波打っていた。


 私は貰った小瓶を開け、サクラの遺骨を手の平に出した。


 我ながら、どうかしていると思う。


 だけどこれは、私にお返しをしないサクラが悪いから。



 上を向いた。


 スナック菓子を放り込むように、遺骨を喉に流した。


 水も何もない、粉も粒も混ざるそれらは喉に酷くつっかえて、咳を誘発させた。


 吐き出さないように、口は絶対に開けなかった。


 自分の唾で、必死に胃の中へ流し込んだ。


 ほんのり焦げ臭いような、味の無い、味がした。


 喉の奥が痛くて、




 痛くて、




 痛くて、




 痛くて、




 痛、く、て、














「サクラ、私もね」


「わたしも」












「好きだったよ」









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