あだ花の輪舞曲
あだ花の輪舞曲
キャンプファイアが、手を伸ばすように燃え上がった。周りの子たちが歓声を上げる。炎はぱちぱちとはじけ、湿った夜の空気に溶け込んでいく。どこか怪しい世界に迷い込んでしまったようだった。
先生のアナウンスで、生徒たちがのろのろと立ち上がる。フォークダンスの時間が来てしまった。
所定の位置につくと、軽く目を伏せた。握りしめた手のひらに汗がにじむ。男の子と手を繋ぐのが、なんとなく嫌だった。
ため息は、ぬるい風に紛れていく。夜露に濡れた芝生に、炎が当たって揺らめいていた。
突然、明るい音楽が鳴りだす。目の前に差し出された手を、慌てて取った。白くてすべすべとした手。視界の端で、黒い髪がふわりと舞った。
__今年は女の子余りだから、誰か一人は男の子側で踊るんだって。
肩をすくめて話す友人の声が、不意に頭に過った。
はっとして顔を上げる。ポニーテールの少女が、いたずらっぽく笑っていた。
「男の子じゃなくて、びっくりした?」
先生に頼まれたんだよね、と彼女が困ったように笑う。
慌てて首を振った。手をぎゅっと握ると、彼女は驚いたように目を開く。小さく笑みをこぼした彼女の顔。綺麗に円を描いた睫毛の上で、灯りが躍っている。腰に回された手に力が入るのを感じた。
軽快なリズムが、耳の中で飛び回る。飛んできた火の粉が、彼女の黒髪の近くで爆ぜた。引き寄せられて、くるりと回る。彼女の顔に触れそうなほど近かった。夜空を含んだ瞳に、吸い寄せられていく。
芝生を踏む音がやけに大きかった。彼女の吐く息が肩に静かにかかる。目を伏せて、震える心を抑え込む。閉じた瞼の中で、炎が強く燃え上がった。
ふいに手を強く引き寄せられる。つられて顔を上げると、彼女が眉を寄せていた。黒い瞳から目が離せない。いつの間にか、彼女の瞳の中に私が閉じ込められていた。
触れ合った手が、燃えるように熱い。彼女の息遣いまでもが耳にこびりついて離れなかった。
ぽたり。
頬に水滴が滑り落ちる。雨音と共に、周りのざわめきが流れ込んできた。
繋がれた手が、するりとほどける。汗ばんだ手を、風が撫でていく。星空は、暗い雲に覆われ、月の光さえ奪われていた。たなびく雲がゆっくりと流れる。
突然、彼女の指先が手のひらを掠めた。滑り込んだ指先に、肩が小さく跳ねる。
振り返った先で、彼女の瞳と絡み合った。
彼女が口元を震わせていた。何か言いたげな黒い瞳が、赤い炎に照らされて揺らめく。その奥から伸びてくる手に、引きずり込まれそうになる。重なった手に触れた雨粒が、熱せられて熱くなる。
彼女は震える瞼をそっと伏せ、静かに手を離す。追うように伸ばした手が、彼女の白い腕に軽く触れた。彼女は小さく息をのむ。黒い瞳が微かに揺れた。
彼女の頬に、雫が一筋流れ落ちる。ぱっと目を見開いた彼女は、ぐっと瞼を閉じた。
彼女の腕が、静かに引かれていく。
指先に冷えた風が流れ込んだ。伸ばした腕が、心許なげに宙をさまよう。拳を握りしめる彼女の手が、かすかに震えていた。
遠くで、先生が彼女を呼んでいた。ぼやけた視界が輪郭を取り戻していく。頬に流れた雫を、ゆっくりと拭った。
手のひらの雫は、すっかり冷えて、静かに滑り落ちていった。
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