表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

宣戦布告

 帝国城内の会議室にはとある男が訪れていた。男は巨大な身体を屈めて跪き、目の前にいるユーファスと対峙していた。


「初めまして殿下。『大将軍』ゼスヴァン・カルヌーイ、御命令に従い参上しました。」


「頭を上げよ、ゼスヴァン。多忙な貴殿の時間を取らせるが許せ。」


「私の命はこの国と陛下の為にあります。しかし殿下からの直接のお呼び出しは大変光栄ですが、私も忙しい身でして手短にお願いしたい。」


 軍のトップである『大将軍』ゼスヴァンは、ユーファスからの急な召喚に対して、様々な予定を犠牲にしてこの場に来ている。それにより、ユーファスと背後に控えるジーガスを前にしても不快感を隠さない。


(こっちは大切な会議や訓練を全てキャンセルして来てるんだ。ボンボンの皇子様のお遊びに付き合ってる暇は無い。北軍の指揮を取って女王国を2ヶ月で陥落させたらしいが、それもあの元宰相であるジーガス様の入れ知恵だろう。陛下も息子が可愛いのは分かるが、自由にやらせ過ぎだ。ここらで一喝入れておくか…)


「では、単刀直入に言うぞ。俺はこれから大陸の全てを手に入れる。西も東も含めて全ての国を帝国の傘下に収める。その為に、俺に協力しろ。陛下には既に話を通してある。」


「は?何を言っておられるのですか殿下。帝国を滅ぼす気ですか?冗談はおやめください。」


 荒唐無稽なユーファスの話を聞いたゼスヴァンは無論相手にしない。


(いきなり何を言い出すかと思えば、大陸の全てを手に入れる?全ての国を帝国の傘下に収める?そんな事が出来るはずがなかろう。やはり稀代の天才とは眉唾だったか。しかし、これは本気で不味いぞ。殿下が口八丁で陛下を騙して、陛下が指示を出したのなら本当にこの馬鹿げた戦争が始まってしまう。最悪の場合、この場で殿下を暗殺する事も視野に入れなければならない。)


 そう考えたゼスヴァンは右手を僅かに震わせる。それを見たユーファスは何かを察したように小さく笑った。


「流石は一兵卒から叩き上げで大将軍にまで登り詰めた男だ。最悪の場合、俺を殺す判断をする早さ、素晴らしい。」


「っ!!」


 ゼスヴァンは心を読まれた事に戦慄する。


(バカな!!俺の考えを完璧に読まれた!殺気が僅かに出たか。俺もまだまだだな…だが、殿下もそれを分かっているなら話が早い。)


「失礼しました殿下。しかし、殿下は私の考えを全てお見通しの様子。ここからは包み隠さず遠慮なく意見させていただきます。」


「勿論だ。ここ2日である程度の事は理解したつもりだが、お前の方が詳しい事もあるだろうからな。」


「では先ず最初に隣国である公国についてですが………」


 そこから2人は大陸統一という果てしなく巨大な計画について話し合った。



 2人が話し始めてから2時間後、ゼスヴァンの気持ちは先ほどとは全く変わっていた。


(完璧だ…周辺国だけで無く、私でさえ把握していない極東の国の事まで兵力や弱点など、一切文句のつけようの無い戦略だった…背後に控えるジーガス様は一言も話していないどころか、感心する様子まで見られる。まさか、この膨大で緻密な戦略をこのお方は1人で全て考えられたと言うのか!?しかもたった2日で!?これほどの代物、軍部の指揮官たちを総動員しても1ヶ月はかかるぞ!)


「と、最後にこの国の首都を落として大陸統一が完了する。どうだ?これを聞いた上でもまだ、俺を暗殺する考えは消えないか?」


 その瞬間、ゼスヴァンは椅子から立ち上がって勢いよく地面に頭を叩きつける。そのあまりに強い衝撃で部屋が揺れた。そしてゼスヴァンは額から僅かに血が流れる顔を見せる。


「殿下、先ほどの無礼をどうかお許しください。もう貴方様を暗殺するなどと言う馬鹿げた考えは微塵もございません。殿下の仰った大陸統一、是非私にも協力させてください!」


「ならば、取り急ぎ東軍の全権指揮権を俺に渡す手筈をしておけ。明日、全軍へ視察と挨拶に行くからお前も同行せよ。以上だ。」


「はは!!では、私は早速そのように動かせていただきます。失礼します。」


 そう言って深々と頭を下げながらゼスヴァンは部屋を出ていく。



「お疲れ様でした殿下、それにしても先ほどの大戦略、本当にお見事です。あそこまで緻密な作戦をたった2日で完成なさるとは…やはり貴方様の才能は神をも凌ぐ。」


「そのせいでこの2日間全く寝ていないがな。ふぁああ……流石に眠くなってきた。…爺、ねるをここへ呼べ。」


「かしこまりました。」


 ジーガスが部屋を出てすぐに2人が戻ってきた。


「連れて参りました。」


「お疲れ様です、ユーフ様。」


「ああ、よく来た。ここに座れ。」


 ユーファスは座るソファの隣を指差す。


「はい、失礼します…キャ!…で、殿下!?」


 ねるが隣に座るやいなやユーファスは ねるの膝に頭を乗せて目を瞑る。


「2時間経ったら起こしてくれ。俺はこのまま寝る。」


「ちょ!お待ちください!こんな場所で寝るなんて!!」


 ねるの言葉を無視してユーファスは既に眠っていた。


「えぇ…私、膝枕する為だけに呼ばれたの…」


「お嬢様、これも殿下の婚約者である貴女の大切な勤めです。全力で完遂しなさい。もし殿下を起こしてしまったら、明日からの貴女の教育カリキュラムに膝枕の訓練も入れますからね。」


「膝枕の訓練って何!?そんなのカリキュラムにあるの……でも、殿下の寝顔は初めて見ました。本当に安心した顔をしていらっしゃいますね。」


「そうですね、私は生まれた時から殿下の側にいますが、ここまで安心した寝顔の殿下を見るのは初めてです。お邪魔虫だと思っていましたが、貴女も役に立つ事があるのですね。」


「うう…それってどう言う意味ですかぁ?」


「おっと、本心が出てしまいましたか。」


「あーあ、殿下にチクッちゃおうかなぁ。ジーガスさんに裏では虐められてるって。」


 ねるは悪い笑みでジーガスを揶揄う。しかし、それに対してジーガスも悪い笑みを浮かべ、直後にどこかに電話をかける。


「もしもし、私です。お嬢様の姫教育ですが、明日からは特別厳しくしてください。はい、エルナもお呼びしてください。では。」


「あのー、ジーガスさん?今のってまさか…」


「かつて『鬼』とまで呼ばれた私の妻、この帝国で一番厳しい教師の方をお呼びしました。明日からは彼女に色々と教わってください。ですから、どうか逃げ出さずに最後まで頑張ってくださいね。」


「へ、へぇ…ジーガスさんの奥様ですか…そのぉ…『鬼』ってどれぐらいの…」


「そうですね…若い頃の彼女の指導は、そのあまりのキツさに指導を受けた令嬢のほぼ全員がPTSDになりました。今でも彼女たちの中には、エルナと目が合うだけで失禁する方や、失神する方までいらっしゃいます。今ではかなり優しくなったようですが、貴女には昔以上の指導をするようにお願いしましたので、どうか気を強く持ってくださいね。……この私を脅そうなど50年早いですよ。」


「ひぃ!!ごめんなさいごめんなさい。許してください。どうか命だけは!」


 ねるの必死の頼みをジーガスは笑顔で流した。

 次の日以降、時折部屋から逃げ出す女の姿と、全身簀巻きにされて連れ帰られる女の姿が見られたという。




ーー数日後ーー


 ユーファスはジーガスと2人で隣国の公国へ訪れていた。案内された巨大な会議室には公国の大臣たちが集まっており、緊迫した雰囲気が流れていた。


「今、何とおっしゃいましたかな?」


「これから俺たち帝国は大陸全土の国を傘下に入れる。だから、戦う前に降伏しろ。今なら国の形をほとんど残したまま、誰も死なずに戦争を回避できる。」


 ユーファスは、公国の重鎮たちがいる場で開口一番にこう言い放った。


「おい、舐めているのか貴様!!」


「舐めてなどいない。この場でこの契約書に合意しなければ、即座に宣戦布告する。帝国がお前たち公国と戦えば間違いなく我々が勝つ。だから被害を少なくする為の選択肢を提示してやってるんだ。」


 その明らかに上からの物言いに会議室は殺伐とした空気に包まれる。公国の護衛の者たちも殺気を放っている。


「帝国の皇子よ、貴殿が女王国を落とした指揮官である事は聞いている。凄まじい手腕で電光石火の侵略劇だったと。しかし、それで調子に乗っているのではないかね?我々公国はあのような弱小国家とは違う。本気で我々に勝てるとでも?」


「俺を誰だと思っている?お前ら公国ごときに俺が負けるとでも?まぁ、元からお前たちが降伏するとなど微塵も思っちゃいない。交渉決裂だな、では数日後から侵攻を開始する。被害がデカくなる前に降伏するんだな。爺、帰るぞ。」


「はい。」


 そう言って2人がその会議室を出ようとすると、出口に複数人の兵士が集まって武器を向けてくる。


「おっと、一応俺は帝国の皇子だぞ?こんな無礼が許されると思っているのか?」


「帝国の皇子よ、ここから無事に生きて帰れるとでも?それに、コチラから要求したとはいえ、本当に護衛も連れずに2人で来るとは、まさに王室育ちのお坊ちゃんだな。大人の戦争とはそんなに甘く無い。悪いが貴様を人質として帝国への交渉材料とさせてもらう。」


 幹部の男が指示を出すと武器を持った兵士が2人を囲んだ。それでも2人は眉ひとつ動かさない。


「はぁ…予想はしていたがやはり愚かだ。では、これにて宣戦布告とさせてもらおう。爺、誰1人逃すな。」


「かしこまりました。」


 その瞬間、2人は同時に周りの兵士に襲いかかる。


「グハァ!!」


「ふん!」


 ユーファスは兵士の急所を的確に潰して無力感していく。兵士たちも一斉にユーファスに襲いかかるが、その凄まじい見切りと動きで攻撃が掠りもしない。逆にユーファスに武器を奪われて、次々とやられていく。


「どけ!俺が行く!!」


 痺れを切らして隊長格と思われる兵士がユーファスに襲いかかる。その男は凄まじいパンチを放つが、ユーファスは産毛を掠らせるレベルのギリギリで見切り、目突きによってその男の左目を潰す。


「グゥ!!ふんっ!!」


「おっと?」


 その男は左目を貫かれた状態で瞼に力を込め、ユーファスの指を一瞬だけ止めた。その一瞬の隙で男はユーファスの右腕を掴む。そしてそのままユーファスに殴りかかろうとしたが、男の世界が反転する。


「うおっ!!」


 ユーファスは腕を掴まれた事を逆に利用して合気で男を地面に叩きつけた。そして流れるように男の喉を踏み抜いた。


「ゴフッ!!」


 正確に喉を潰した事で男は息が出来なくなった。そのダメージは致命傷となったが、死ぬ前に男は掴んだ右腕に思い切り力を込める。


「…ふんっ!!」


「ぐっ!!」


 最期の力を振り絞った男の攻撃は、ユーファスの右腕の骨にヒビを入れ、その激痛でユーファスに顔を歪ませた。


「今だ!!隊長の死を無駄にするな!!」


「同時に仕掛けろ!!」


 その瞬間に周りの兵士が全員で襲ってくるが、ユーファスは右腕をほとんど使わずに全員を瞬殺した。


「はぁはぁ…片手でこの人数は流石にしんどいな。爺!そっちは終わったか?」


「はい!コチラもたった今終わりました。」


 そう言うジーガスは、座っていた幹部連中を全員倒しており、死体が地面に何体も転がっていた。


「よし、速やかに撤退するぞ。…っ!!」


 ユーファスは右手の痛みに顔を歪ませる。


「殿下、怪我をなされているのですね?大丈夫でしょうか。」


「問題ない。少しだけ油断してしまった。行くぞ。」


 そうして2人は敵だらけのその建物から脱出する事に成功した。



ーー1日後ーー


「帰ったぞ。」


「お帰りなさいませ、ユーフ様。本日もお疲れ様…ユーフ様!その怪我はどうなされたのですか!?」


「敵にやられた。だが心配するな。ただ腫れているだけで、1週間もすれば治る。」


「いけません!!私に見せてください!!」


 そう言って ねるはユーファスの右腕に手を当てる。そして ねるが目を瞑ると普段灰色だった髪の毛が真っ黒に染まる。そして、力を込めた瞬間、ユーファスの腕が光る。


「はぁああ!!」


「なんだこれは!?」


 そのまましばらくするとユーファスの右腕の腫れは綺麗さっぱり消えて元通りになった。


「おい、ねる!!これは一体どう言う事だ!?」


「はぁはぁ…でん…か…良かった…なおって………」


 全身汗びっしょりになった ねるは顔色が真っ青で、全てを言い終える前に全身の力が抜けて気絶してしまった。ユーファスは咄嗟に、倒れる ねるを抱き上げてその様子を確かめる。


「…ただ疲れて眠っているだけだ。」


「殿下、その腕…」


「ああ、痛みが全く無い。一体どうなっているんだ?怪我を治せる能力など聞いた事が無い。これはまさか『魔女』の力か…彼女にはまだ秘密があるようだな。つくづく退屈させない女だ。」


 ユーファスはそう言って笑いながら、気絶した ねるをベッドの上まで運んで丁寧に寝かせた。


「爺、怪我を治せる能力について詳しく調べておいてくれ。お前たち、ねるが目覚めたら詳しい話を聞くからこの部屋で待機させておけ。俺はこれからゼスヴァンと作戦会議をしてくる。」


「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」


 部屋の全員が頭を下げる中、ユーファスは部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ