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処刑

前回のあらすじ


皇帝によって召集された六傑の2人を撃退したユーファスと将士を含めた4人にケーリオンとエルナが合流する

 戦闘後が残るこの場所の唯一の扉が開く。


「失礼します。陛下、兄上。」


 入ってきたのは、ケーリオンとエルナと、エルナに担がれたバチラス卿だった。


「ケーリよ、久しいな。息災だったか?」


「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません。全ては僕の不得の致すところ。罰は如何様にも。」


「はっはっは!罰などあるものか。皇太子であり、余の後継であるお前はこの国で余の次に偉い人間なのだ。余が許すと言えば、誰もお前に文句は言わん。」


 そう言って皇帝は豪快に笑う。


「…だが、ケーリ…変わったな。良い目になった。お前の入れ知恵か?」


 皇帝はユーファスに問いかける。


「いいえ、私は場を提供したまで。全てはケーリ本人が決めた事です。…陛下、もう迷いはありませんね?」


 ユーファスはそう言って皇帝の目をじっと見つめる。


「ふっ、ユーフよ。お前にしては珍しく殺気がダダ漏れだぞ。余の返答次第ではこの場で殺すと言わんばかりの目だ。戦闘直後でアドレナリンが抑えきれてないんじゃないのか?」


「そんな事はありませんよ。それで、陛下。返答は?」


 一息ついて殺気を消したユーファスは再び問いかける。


「そうだな、以前のケーリはお前の事ばかり意識して、将来的に悪い方向に行くのでは無いかと危惧していた。それ故に、あのような発言をした。まぁ、お前ほどの男を意識するなと言う方が無理という話だが…今のケーリはもう吹っ切れているようだな。それにあの大量の返り血…誰を殺して来た?」


「…はい、母親であるシンファ皇后陛下を殺害しました。」


 そう言いながらケーリは強く拳を握り、一筋の涙を流す。


「そうか…一つだけ聞かせろ、ケーリ。それはお前自身の意思か?もし、エルナやユーフに唆され、お前の意思なくシンファを殺したと言うのであれば、父親として余はお前を許さん。心して答えよ!」


 皇帝はそう言ってケーリオンに殺気を放つ。しかし、ケーリオンは堂々と言い放つ。


「いいえ父上!僕は僕の意思で母上を殺しました。確かに、兄上への罪滅ぼしの気持ちが無かったと言えば嘘になります。ですがこの国のため、裏で暗躍していた母上の一派を失墜させる事が最善であると判断し、僕が直々に処刑しました。この言葉に嘘偽りはありません!!」


 それを聞いた皇帝はユーファスとエルナに視線を送る。


「私は一切、手を出しておりません。殿下の仰ったことはこの命に賭けて全て真実でございます。」


 エルナは一切動じる事なく、真っ直ぐに言い放った。


「陛下、ケーリのあの目を見ても嘘をついていると思いますか?」


 ユーファスは皇帝に質問する。それを聞いて皇帝はケーリオンの目をしっかりと見つめる。


「…いいや、思わんな。どうやら真実らしい、にしてもあの臆病者だったケーリがシンファを………だが、そうか…シンファ…無知とは罪だと何度も教えてやっただろうが…残念だ。」


 そう言って皇帝は一粒の涙を流す。

 皇帝にとってシンファはただの政略結婚相手だったが、20歳の時に初めて出会い、何度も夜を共にした女だ。ケーリオンが皇太子になった際に正室となったが、それと同時に出会う事も少なくなった。他に好きな女がいた皇帝はシンファの事を心の底から愛していた訳ではない。しかし、箱入り娘独特の無邪気な笑顔を見せるシンファの事を妹の様に感じ、大切に思ってはいた。故に、シンファの多少の悪事にも目を瞑っていた。だがその甘さによって、今回の事件が起きてしまった。その事に一定の責任を感じていた皇帝は死んだシンファに哀悼の意を示したのだ。


「ふぅ…さて、ではこの場で前言を撤回する。余の後を継ぎ、次の皇帝になるのはケーリオンだ。この決定は余が生きている限り覆らないと約束しよう。」


 その言葉を聞いて、将士以外の5人が跪き、頭を下げる。


「承りました。このケーオリンノイン、必ずや陛下の期待に応えて見せます。」


「うむ、頼むぞ。…これで良いか、ユーフよ。」


「感謝致します陛下。もう皇太子派の人間たちは、俺に手を出すことは無いでしょう。」


「ふっ、こんな宣言などしなくとも、今回の件でお前の恐ろしさは全ての大臣たちが身を持って知った。もうお前に逆らうバカは帝国の大臣にはおらん。殺しても死なない男相手では、口封じもできないしな。…そこの女がユーフを蘇らせたのだな?」


 皇帝は ねるの方を見る。


「は、はい!あ、挨拶が遅れました!私の名前は旭ねるです!!ユーフ様の…こ、婚約者…です。」


 ねるは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「貴殿がユーフの愛した女か…随分とウブな娘だ…お前が来てからユーフが変わった。余は天才であるこの子(ユーフ)に何も与えられなかったが、お前がユーフの心の空白を埋めてくれたのだな。親として感謝する。」


「いえいえ、私は何も…私の方こそユーフ様に救っていただいた身です。感謝こそすれ、感謝されるような事はありません!」


「そうか…これからもよろしく頼むぞ。…ところで、いつまで寝ておるのだ!バチラス!」


 皇帝はエルナに担がれたままのバチラスの名前を呼ぶ。


「うぅ…ここは…ひぃ!?陛下!!」


 エルナによって起こされたバチラスは目の前の光景に驚愕する。


「ようやく起きたか、この阿呆が。この状況、自分がどんな立場か分かるな?」


「いでっ!……はっ!!まさか、私の計画を…」


 エルナに地面に落とされ少し考えた後に自分の置かれた状況を理解する。


「何か申し開きはあるか?当事者であるユーフと ねる嬢もここにいる。今際の言葉だぞ?」


 それを聞いてバチラスは地面に頭を叩きつける。


「すみませんでした陛下!!…私はただ、ケーリオン殿下のためを思っていただけなのです!!ユーファス殿下が死ねば、次の皇帝は確実にケーリオン殿下になります!だから!!」


「だから、ユーフを殺したと?そんな理屈が罷り通ると思っているのか?確かに余の発言で、皇太子派の貴様らは焦っただろう。しかし、戦争の功労者であるユーフの戦後処理の最中に暗殺計画を立て、エルナを使って婚約者を誘拐し、最終的には2人とも殺害するというこの非道、到底許されるモノでは無いぞ!!」


「そ、それは…いいえ陛下!これも全てユーファス殿下が悪いのです!!この男さえいなければ…ケーリ様が悲しむ事も無く、妹も死なずに済んだんだ!この男の能力は異常です!!同じ人間だとは到底思えません!!コヤツはいつか必ず帝国に不幸をもたらします!!それにあの時、確実に心臓を貫いて殺したはずだ!!死体も何度も確認した!!なのに何故生きている!!」


 バチラスは目の前で妹を失った事で、今も錯乱していた。


「ええい!いい加減黙れ!!貴様はユーフに負けたのだ。これ以上無様を晒すな!…もう良い、貴様には失望した。今回の一件、懲戒処分では生ぬるい。バチラス、貴様を死刑とする!!」


「へ、陛下!!」


「問答無用、この場で余が直々に処刑してやる。そこに直れ!!」


 そう言って皇帝が剣を抜くと、バチラス卿は再び頭を地面に擦り付ける。


「陛下!!どうかご慈悲を!!」


「【黙れ!】これ以上その口を開くな!」


「……!!」


 バチラス卿は皇帝の能力によって声が出せなくなった。そして、皇帝がバチラス卿の元へゆっくりと近づ

き目の前で剣を振り上げた時、ユーファスが声を上げる。


「お待ち下さい陛下。この処刑、この私にやらせていただけませんか?」


「いいや、これは余の責任でもある。シンファの悪行を看過していた事、そもそも皇太子派などというくだらん派閥を放置していた事もな。これは余自身のケジメを付ける意味でもあるのだ。邪魔をするな、ユーフ。」


 そう言って皇帝は再び剣を振り上げた。しかし、ユーファスも譲ろうとしない。


「陛下、私はこの者の策略により一度命を落としています。何より、私の愛する女も目の前で殺されました。私がやらねば、皆に示しが付きません。」


 ユーファスは皇帝とバチラスの間に立ち、皇帝の目を真っ直ぐにじっと見つめた。しばらく2人はそのまま睨み合っていたが、遂に皇帝が折れた。


「はぁ…お前は昔から何かを譲る事は無かったからな…よかろう、お前に任せる。【このまま動くな】」


 皇帝は剣をしまいながらバチラス卿に命令すると、背を向けて離れていった。代わりにユーファスが剣を抜きながらバチラス卿の前に立つ。


「さて、今後俺に逆らうヤツが出てこないように見せしめとしてお前は殺す。何か言い残した事はあるか?」


「お許しを、ユーファス殿下!!」


 バチラスは最期の命乞いをする。しかし、ユーファスはそれを即座に断る。


「ダメだ。ねるを傷つけた貴様は絶対に許さん。死んで彼女に詫びろ。ふんっ!」


「…うぐっ!!ゴハッ!!」


 動けないバチラス卿に対して、ユーファスは無慈悲に剣を抜いて心臓を貫いた。バチラス卿は喋る事も出来ずに血を大量に吐き出して倒れた。


(ああ、私は死ぬのか…国の為にこれだけ尽くしてきた私が、最後は裏切り者として処刑されるとは…これも全てはこの男が……いや、そうでは無いな。私はこの男に負けたのだ…あれだけ準備をして、人質も使って、それでも殺さなかった…やはり私如きが手に負える相手では無かった……もはや痛みも無い…ケーリ様、お幸せに…立派な皇帝になって下さい…シンファと共に見ています……)


 そのままバチラス卿は死亡した。




「…陛下、これでよろしいですね?」


「ああ、死によってバチラスの罪は償われた。後は自由にしろ。」


「ありがとうございます。…ねる、頼むぞ。」


「ユーフ様、本当にやるんですか?」


「いいからやってくれ。」


「はーい。えいっ!」


 ねるが能力を発動させるとバチラス卿の傷が元に戻った。そして、ほぼ同時にバチラスは目を覚まして飛び起きる。


「はっ!!…な、何が!?私は死んだのでは……一体何が起こっているのですか!?」


 生き返った本人は困惑している。


「俺が彼女に蘇生させた。俺が蘇生したようにな。」


 それを聞いて初めは理解できない様子だったが、過去の事を思い出してある程度理解する。


「蘇生…そうですか…やはり貴方は一度死んでいたのですね…彼女が蘇生の能力者だったとは……ですが、何故この私を生き返らせたのですか?まさか、何度も死の痛みを与える為に…」


「違う、お前を蘇生したのは、俺がお前の力を買っているからだ。俺がいない間とは言え、俺を出し抜く計画性、何より財務大臣としてのその手腕、おそらくこの国では俺とジーガスに次ぐだろう。そんな優秀な男を俺の個人的な恨みで始末しては勿体無いからな。お前はこれからも陛下とケーリの為に働いてもらうぞ、バチラス卿。」


「なんと…で、ですが私は貴方様と婚約者様を…」


「その件はお前に一度死んでもらったことと、シンファの命で償われた。それで、ケジメは付けられたと思っている。」


「シンファ…」


「残念だが、彼女は蘇生しない。彼女を蘇生してはケーリの覚悟に泥を塗ることになる。それに、無能にかける慈悲はない、諦めろ。」


「そうですか…」


 落胆するバチラス卿を無視してユーファスは続ける。


「お前が閣僚として働き始めて約40年、一切の横領や不正などなく、全てを捧げて国の為に尽くしていた事は爺から聞いている…命拾いしたな、過去のお前の勤勉さに感謝しろ。」


「まさか、そんな……」


(このお方は自分と最愛の人を卑怯にも殺害したこの私を助けると言うのか!…何という器の大きさだ…こんな私のようなクズに勤勉だと仰ってくださった…これからも国の為に働けと!…ああ、こんな素晴らしいお方に矛を向けたのが間違っていた。私は何と愚かだったのか…)


 その瞬間、バチラス卿はユーファスの前で跪く。


「私如きの命を救ってくださり感謝申し上げます。殿下にいただいたこの命、この国の為に燃やし尽くす事を誓います。」


「ああ、これからもよろしく頼む。」


 こうしてこの一件は解決したのであった。




ーー東の果てのとある国ーー


 豪華な屋敷の一室のソファに腰掛けるその男はどこか不機嫌そうだった。


「あの屈辱から漸く100年か…全く忌々しい…」


「失礼します、ご主人様。お茶をお持ちしました。」


 1人のメイドがそう言って部屋に入ってくる。赤毛のそのメイドを見るや否や、男は更に不機嫌になる。


「こんなタイミングで僕様の前に姿を現すとは…やはり、あのクソ豚のペットもクソ豚だったか。あぁ!!ムシャクシャする!!このクソアマがぁ!!」


 男は急に立ち上がり、そのメイドの女を思い切り殴り付ける。メイドは訳もわからず殴られ、地面に倒れる。しかし、メイドにとってこんな事は日常茶飯事だった。抜け殻のような目をしたメイドは自分の流した血を拭き取っていく。


「大変申し訳ございません。ただいま掃除いたします。」


「黙れ!!誰のせいで僕様がこんな目に遭ってると思ってる!!テメェの相棒とか言うあのクソ女のせいだろうが!!あぁ…あの顔、思い出しただけでも反吐が出る!!テメェもさっさと消えろ!!」


「はい、失礼致します。」


 感情を持たぬメイドは深くお辞儀をした後、部屋を後にする。


「私…の…相棒?…()()()?…」

ここまで読んでくださってありがとうございます。詳しくは分かりませんがコメントとかもしてくれるとありがたいです。


さて、ここで作品の裏話をしておくと、本作は部制になっております。前作(白と黒の特異点)が4部で、本作は3部です。100年毎に現れる特異点の男女が主人公です。時系列を新しい順に書いているので、1部と2部はまだ存在していません!2部に関しては本話でも最後に出てきたドブカス僕様とメイドの子がメインの話を想定しています。気が向いたら2部も書こうと思います。4部では、3部のキャラも出てきますし、特に繋がりは深いです。興味がある方は4部も是非ご覧下さい。

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