終結
「おい、16番の電話には出なくていい!7番の電話を寄越せ!次は13番だ!11番には待機と言っておけ!!…俺だ、M班は全員集合して2時間後に………」
「クソッ!なんだこの量は!?3人で処理できるレベルじゃねぇぞ!!あぁー!!もしもし!お前らはしばらく待機だとよ!」
「文句を言っている暇はありません、手と口を動かしてください。これも貴方が殿下の腕を使い物にならなくしたせいなのですから。それに私は貴方の5倍は働いています。…もしもし、殿下からの指示です。あなた方はチームを二つに分けて……」
制圧した街に新たな拠点を作った本部は、今日も全体の指揮に追われていた。先日の将士との戦闘で両腕が再起不能になったユーファスの手伝いをする為に、ジーガスと将士もユーファスの隣にいた。戦争も中盤戦に入り、各戦場での動きも複雑になってきているが、ユーファスの指揮は一向に衰えない。
その日は各地との電話を繋ぎ続けて、朝の7時から夜の11時までかかった。
「はぁ〜〜!やっと終わった!死ぬかと思ったぜ。」
「鈴木殿、お静かに。まだ殿下は終わっておりません。」
2人が話している時、ユーファスは目を瞑って考え事をしていた。
「……よし、これで大体の戦略は完成した。ふぅ…昨日は腕の痛みでほとんど眠れなかったからな。流石に徹夜でこれはキツかったが、俺が倒れるわけにはいかんからな。爺、食事に行くぞ…おっと!」
「よっと…危ねえな。お前は怪我人なんだから無理すんじゃねえよ。俺が背負って行ってやるから。よいしょっと。」
腕の負傷と連日の疲れで倒れそうになったユーファスを将士が支えて、背中に背負った。
「元はと言えばお前のせいだろうが…まあいい。5分だけ寝るから、着いたら起こしてくれ………」
そうしてユーファスは将士の背中で眠ってしまった。
「おう、ゆっくり寝ろ。それじゃ爺さん、行こうぜ。」
「殿下…最近はほとんどお眠りになられておりません。今日も食事を一切取らずに動いておられました。殿下のお身体が心配です。お嬢様とも会えていませんし…」
「今日の1日で分かったよ。コイツは本当にバケモンだ。戦闘だけじゃ無く、知力が高すぎる。本当に人間かと疑いたくなるくらいにな。それに加えてカリスマ性も高いと来たもんだ。アンタらが心酔するのも無理ないぜ。」
「そんな事はとうに知っています。私は殿下が3つの時からご一緒にいるのですから。ですから、そんな私にしか分からない不安があるのです。このお方の武力、知力はおおよそ人の領域を遥かに超えています。ですが、特別に身体が強いわけでは無いのです。直接戦った貴方なら分かったと思いますが、筋力や持久力は一般人と大して変わりません。頭だって、常人と同じようにカロリーを消費しているので、一日中起きていられる訳ではありません。それ故に、いつ倒れられてもおかしくないのです。今日の指揮も私が少しサポートしましたが、9割以上は殿下がお考えになられています。こんな生活が1ヶ月も続けば、殿下の身体が壊れてしまいます…」
「そうか…コイツの事を完全無欠だと思っていたが、身体は普通の人間なんだな。俺より2つも歳下なのによくやるよ。よし、俺も治してもらって元気になったし、そろそろ動くか。」
その日の夜、将士はユーファスの指示によってとある場所へ出撃した。
ーー次の日ーー
「もしもし?ユーフか?言われた通り、この街は俺が1人で落とした。……ああ、大丈夫だ。流石に無傷ってわけにはいかなかったがな。この後はどうすればいい?俺はまだ全然動けるぜ。……了解だ。今日は昨日より2時間多く寝かせてやる。ベッドの準備しとけ。じゃあな。………さて、ちょっと寝たら次の街に行くか。」
ユーファスが電話を切った時、背後からジーガスが話しかける。
「やはり彼の戦闘力は目を見張るモノがありますね殿下。彼を生かした殿下の判断もお見事だと言わざるを得ません。」
「俺は欲しいと思った人間を生かして手に入れただけだ。ここまでの想定はしていない。それにしても、将士の方から前線へ行かせてくれと言ってくるとは思わなかった。爺、アイツに何か吹き込んだな?俺の想定外を生み出せるのはお前ぐらいなモノだ。」
「そうですね、彼も殿下の素晴らしさに気づいたと言ったところでしょうか。それよりも、今日は全体の動きを減らして彼1人に任せたおかげで、我々にもゆとりが出来ましたね。少しお休みになっては?」
「それが目的か…気を遣わせてしまってすまない。今日はお言葉に甘えさせてもらおう。2時間だけ休ませてもらう。何かあれば呼べ。」
「ごゆっくり。」
そうしてユーファスは本部を抜けて近くにある一室に入った。そこには巨大なベッドがあり能力の代償で ねるが眠っていた。ユーファスは一直線にそのベッドに入り、ねるの寝顔を見る。
「お前がいないせいで俺は寂しいぞ。今日は隣で寝させてもらう。おやすみ。」
目覚めぬ ねるの隣でユーファスも静かに眠り始めた。
「うぅ…まだ少し怠い。…って!ユーフ様!!」
ユーファスが眠りについたタイミングで、ねるが目覚めてしまった。しかし、いつも通りにユーファスのぬいぐるみになっている事に気づく。それでも、大きな声で起こすわけにはいかないと咄嗟に口をつぐんだ。
「ふぅ…危なかった。起こしてしまっては申し訳ないですからね。それにしてもこの腕…とても痛そうです。早く治して差し上げねば。……っ!!」
起きてからユーファスの顔を眺めていると、そのカッコ良さに顔を赤らめてしまう。そして気持ちを落ち着かせ、抱き枕としての役割を全うするために目を瞑り動きを止める。
しかし、その後ユーファスが目覚めるまで、ねるは緊張で一睡も出来なかった。
ーー1ヶ月後ーー
「W班も1日待機した後、明日の13時に首都に攻め込む。しっかりと英気を養っておけ。……ふぅ、これで全ての班が最終地点に待機が完了した。俺たちも行くぞ。」
「ようやくだな、ユーフ。俺にも強いヤツと闘わせてくれよ?お前と闘って以降、雑魚ばかりで腕が鈍っちまった。」
「鈴木殿、君に匹敵する敵はこの国にはもういませんよ。君は殿下の露払いです。」
「ユーフ様、私も行けます!記念すべき最初の勝利、私にも見させて下さい!」
「もちろんだ、これは俺たち全員で戦った戦争。ここに駐屯している軍人たちも最低限の人数を残して全員で行くぞ!最後のフィナーレを飾ろうか!!」
《うぉおお!!殿下万歳!!》
そうして、最終決戦に向けて全軍が動き出した。
ーー公国の中央区の司令室ーー
戦争が圧倒的に劣勢である事を理解している公国の貴族たちは、作戦会議を行なっていた。全員の表情は緊迫しており、それだけ窮地である事が伺える。
「クソッ!マズいぞ!完全に包囲されている!」
「これでは、周辺から兵を集める事が出来ない!!」
「ここから早く脱出せねば!!おい!車を手配しろ!!」
「お待ちください!どこへ逃げると言うのですか!?情報では辺境の村に至るまで全てがヤツらの支配下にあるようです!!もう逃げ場はありません!ここで籠城するしか」
「そんな悠長な事を言ってられるか!!公国最強の鈴木将軍も殺されてしまった!!誰がヤツらを止められると言うのだ!!」
「そうだ!もう、この国は負けたんだ!!私は失礼させてもらう……グハァ!!」
大臣の1人が部屋を出ようとした時、部屋に入ってきた屈強な男に斬られた。そしてその男の後ろから豪華な服を着た白髪混じりの男が現れる。
「見苦しいな、負けそうになったら逃亡か。そんな事を私が許すと思うか?」
「大公様!!…我々はその…」
「言い訳はいい。それに我々はまだ負けておらん。…都市にある全兵力をここ、中央区に集めよ!他の地区は捨てて構わん!とにかく時間を稼ぐのだ!!」
「他の地区を捨てる!?大公様、それは一体…」
「先ほど隣国である神国と話を付けてきた。明後日には神国からのべ4000人の援軍がやってくる。彼らが来ればコチラは総勢8000人、敵は2000人強、数の差で圧倒できる!!だから、それまで時を稼ぐのだ!!」
「なんと!?流石は大公様です!!この絶望的な盤面をひっくり返す一手を打たれていたとは!!すぐに将軍に連絡いたします!!」
「ああ、それと全兵士に伝言を。敵の総大将である第一皇子ユーファスを最優先に捕縛せよ。ヤツさえいなければ戦争は終わる。身柄は神国に引き渡す条件だから、可能な限り殺さないようにと。」
《はは!!》
希望を取り戻した彼らは再び目に光を宿して最終決戦の準備を始めた。
ーー1日後ーー
「大公様!!前線の兵士から連絡が!!中央区で民衆の暴動が起きているようです!!」
「なに!?こんなタイミングでか!?クソッ!侵略者に怯え、自分たちだけでも助かろうという魂胆か!」
「はい、ですが中央区には兵を固めていましたので、現在暴動の沈静化にあたらせています。相当数の住民が蜂起していますが、この数ならギリギリ何とかなりそうだと将軍から連絡がありました!!」
「バカか貴様は!!この非常時に兵力を削がれれば、ここの守りは弱くなるそうしたら奴らが」
「ほ、報告!!帝国軍約2000がどこからか出現し、一斉攻撃を始めたと!!」
それは考えうる限り最悪のタイミングでの襲撃だった。民衆の暴動を鎮圧するために半数近い兵を使っていた為、中央区の守りは薄くなっている。
「クソッ!!やはりそうか!このタイミングを奴らが見逃すハズが無い!!しかし、この動きの速さ…民衆の中に奴らのスパイが紛れ込んでいたか。仕方ない!蜂起した民衆は全員殺して構わん!!とにかく速やかに暴動を沈静化し、帝国軍を迎撃せよ!!」
ドガン!!
大公が命令を下した瞬間、近くで大きな爆発音がして建物が揺れる。
「大公様!!奴らがこの建物に侵入しました!!お早く避難を!…ぐわぁ!!」
続いて報告に来た兵士が吹き飛ばされて大公の足元に転がる。そして、扉の先には異様な雰囲気を纏った男が立っていた。
「ほーん、1人強そうなヤツがいるじゃねぇか!!俺とやろうぜ!!」
そう言って笑いながら突進してくるのは、兵士を吹き飛ばした将士だった。将士が向かってくる先には、大公の護衛と思われる屈強な男がいた。男も接敵に気付き、大公を背にして剣を抜く。そして、男の剣と将士の拳がぶつかる。
「おっさんやるな。俺の拳を耐えるなんて、いい剣持ってんじゃん。」
「貴様!!鈴木の倅か!!この裏切り者が!!」
「おっさん、親父を知ってんのか?…まぁいい。俺は別に裏切ってなんかねぇよ。元からアンタら上層部のやり方は気に食わなかった。何より親父を洗脳しやがった大公は許さねぇ!!」
そうして将士が拳に力を込めると、男は剣ごと吹き飛ばされる。しかし、男もすぐに体勢を立て直すと、大公を守るように動く。
「大公様、この男は俺が抑えますからお逃げください!!」
「く、クソ!!」
「おっと!2人が重なってていいのか?舐めんなよ!」
そう言って凄まじい勢いで接敵した将士は思い切り振りかぶった拳を男にぶつける。男は背後の大公を守るために両腕で剣を抑えてガードするが、その勢いを相殺出来ずに吹き飛ばされる。その際に後ろにいた大公も巻き込まれる形で激しく壁に激突した。
「ガハッ!!」
「そっちは気絶したか。だがお前は無事なようだな。」
将士のパンチをもろに食らった男は両腕がズタズタで気絶しており、男が勢いを軽減した事で大公は意識を残していた。
「はぁはぁ…ま、待ってくれ!!降参する!命だけは助けてくれ!!」
「ダメだ、人の人生を弄んだお前はここで殺す。地獄で反省してろ。」
そう言って将士が拳を振り上げると、背後からその腕を掴む男がいた。
「待て、やり過ぎるなと言っただろうが。後は俺がやる。お前は下がれ。」
全くの気配も無く現れたユーファスに将士も驚きを隠せない。しかし、父親を洗脳した男を前に将士は不快感を隠さない。
「チッ!気配も完全に消せるのか。やっぱりお前はバケモンだな。はぁ…好きにしろ。ぶっちゃけ俺から言わせれば、親父が洗脳されたのは親父が弱いのが悪い。お前に負けたのもな。だからそこまで恨んじゃいねぇよ。だが、理屈と感情は別だ。コイツは許せねえ。ユーフ、ぬるい始末付けやがったらテメェも殺すからな。」
ユーファスと大公を睨みつけながら将士は背を向けて歩いて行った。
「さて大公殿、俺がユーファスだ。お前と話をしに来た。内容は俺が言わなくても分かるな?」
周りの兵士も既に倒されており、ここから逆転の術はないと悟った大公は命乞いを始める。
「は、はい!公国の帝国への属国化ですね?もちろんお受けします。私を含め、公国は皇帝陛下に服従を誓います!!」
そのまま大公は目の前のユーファスに土下座した。
(クソガキが!!私をこんな目に遭わせよって…だが、このままやり過ごせば神国からの援軍が来る!!そうしたらお前を人質に取って、帝国軍を撤退させてからお前を嬲り殺してやる!その後は神国と同盟を結んで帝国も滅ぼしてやる!!)
「……いいだろう。公国が帝国の属国になると言うのならこれ以上争う必要は無い。必要な書類を用意しているから、今この場で書け。」
「はい、ただいま。……カッ!」
大公がペンを取った瞬間、剣が振り抜かれる音がする。
「俺に嘘を付けると思ったのか?お前の考えなど全てお見通しだ。それに、お前は国のトップとして好き放題やってきたようだな。この国に潜入させた者たちから聞いた。地獄で反省していろ。」
立ち上がった大公の目を見た瞬間、ユーファスは腰に下げた剣を神速で抜き、大公の首を刎ねた。そのまま大公は何も発する事なく即死した。
「これで終わったな…爺、後処理は任せる。」
「かしこまりました。」
そう言ってユーファスは大公がいつも座っている豪華な椅子に腰掛ける。
「…先ず一つ…帰ったら祝杯を上げねばな。…ねる、見ていたか?」
「はい、ユーフ様の凛々しいお姿をこの目に焼き付けさせていただきました。」
「そうか…俺も頑張った甲斐があったな。これから暴動を起こした住民たちをどうするか……いや、今だけはこの勝利の喜びに浸らせてもらおう…」
この日から、東側の大国の一つである公国は帝国に完全敗北し、属国となった。
公国編はここで終了です。次は少し内輪の話になります。
補足
将士の父親は、開戦前にユーファスが殺した軍人です。(目を抉られた人)
彼は大公(真なる王)に洗脳されており、将士はその事を恨んでいました。




