急襲
「G班はしばらく待機、O班が到着し次第、次の戦場へ送る……J班は町の残った兵士を使って西側に陣を敷け……Y班は………」
戦争が始まってから、各班からの作戦の成功報告を受けてユーファスは次の指示を飛ばしていた。ユーファスの構える天幕には10台以上の携帯電話がひっきりなしに鳴り続けているが、ユーファスは全てを同時に聞きながら的確な指示を飛ばす。
ユーファスは20人から同時に話しかけられても全ての内容を完璧に記憶し、脳内で処理することが出来る。それによって現状で戦場に出ているおよそ3000人の兵士たちの全てを1人で操っている事になる。
そんな様子を護衛として天幕の中で見つめるルナリカは、驚愕の表情を見せる。
「なんと言うお方だ…かれこれ5時間以上続いているが、その精細さは全く衰えない。これが本当に同じ人間なのか?」
「驚くのはまだ早いですよ隊長殿。私も全ての電話を聞いていましたが、コチラ側の死傷者は未だ0です。その上で、およそ15班の作戦が終了しており、公国の実に10分の1は制圧が完了しております。」
「何!?まだ開戦してから2日しか経ってないのに10分の1だと!?それに死傷者0!?ありえない!!私も少し拝見したが、成功率は高いが確実に犠牲は出るような戦術ばかりだった。全てが上手くいくはずがない!」
「殿下は開戦に踏み切る前に公国のあらゆる場所に手紙を出しました。ある場所では領主の弱みを握って強い兵を外に出させたり、公国の上層部からの手紙を模倣して命令書を出した所もありましたね。殿下にかかれば、玉印を模倣する事も容易い。」
「玉印の模倣…公国のあの複雑な印を模倣したというのか…そんな事が…」
その話を聞いて、ルナリカは尊敬を通り越して畏怖の感情を抱いていた。
「ジーガス殿、貴殿は先代皇帝の頃から宰相として帝国を支えて続けてきたはず。今の帝国があるのは、貴殿の手腕によるモノだと父上から聞いた事がある。そんな貴殿が先日、急に宰相を引退したというのはまさか…」
「ええ、ユーファス殿下に仕える為です。私の今までの人生、帝国や陛下への恩義、全てを捧げてお仕えする為には宰相の地位は邪魔でしたので、一時的に宰相の地位は捨てました。私のような非才な身では全てを捧げねば殿下のお側に立つ事はできませんから。」
「なるほど…殿下の事を知らねば、馬鹿げた事だと思っていただろうが、今では全くそうは思わん。私もこの方にもっと早くお会いしていたら、全てを捧げていたでしょう。それに、一時的とはどう言う事なのですか?」
「簡単な事ですよ。私は後任として私の部下の中で最も優秀なモノを据えましたが、彼も殿下の才能に比べれば月とスッポン、殿下が成人すれば自動的に殿下が宰相となられる事でしょう。彼も上昇志向が強い男ですが、殿下の才能の前では争う気すら起きないと言っていましたからね。」
「爺!ねるを呼んで来い、15分だけ休憩する。」
2人が話している中、ユーファスが急にジーガスに話しかける。
「はい!ただいまお連れします。では、ルナリカ殿も失礼します。」
「はい、私も外で護衛に戻ります。」
そう言って2人は天幕の外に出た。
(本当に恐ろしい才能だ。これでまだ18歳だと言うのが信じられん。あの慎重な大将軍閣下が大陸統一などと言う馬鹿げた戦争に乗り出したのも納得だ。このお方の力があれば、我がレトローム家の悲願である戦争の終結が実現されるかもしれない…)
ルナリカは希望に満ちた目で、天幕を振り返った。
「失礼します、殿下。お嬢様を連れて参りました。」
「お久しぶりです、ユーフ様。先ほど到着いたしました。」
しばらくすると天幕の中にジーガスと ねるが入ってきた。2人の挨拶を無視してユーファスは電話を取り続ける。そしてそのまま少しした後、突然立ち上がった。
「爺、これから15分は指揮を任せる。ねる行くぞ。」
「はい、お任せください。どうぞごゆっくり。」
「って、ええ!?ゆ、ユーフ様!?」
ジーガスに一時的にそれを任せたユーファスは早歩きで ねるの元まで行き、有無を言わさずにお姫様抱っこで彼女を天幕から外に運ぶ。そのまま2人が入った別の天幕には大きなベッドが置かれていた。
「きゃ!!」
「動くな、じっとしていろ。」
そう言ってベッドに ねるを寝かせたユーファスはそのまま抱き枕のようにして ねるを抱きしめたまま眠ってしまった。いきなりの出来事で ねるは困惑する。
「ええ…もう寝ちゃったの…よっぽど疲れていたのね…もう…ユーフ様ったら…私をぬいぐるみとでも思っているのでしょうか…うふふっ…」
ねるは眠ってしまったユーファス顔を見つめながら、背中を優しく撫で続けた。12時間近く気を張り続けているユーファスにとってこれが唯一の安心できる時間だった。ユーファス曰く、この方法が最も睡眠効率が良いらしい。
しばらくして日が落ち、3日目が終わった。しかし、終了報告の電話は鳴り止まず、ユーファスが自由になったのは夜の12時ごろだった。朝から食事や飲み物もほとんど摂らず、動き続けていたユーファスも流石に限界で瞼を擦りながら食事を摂っていた。
「はい、あーん。」
「ああ…ありがとう、元気になった気がするよ。」
と言っても隣に座った ねるが母親が赤子にするように食事をユーファスの口元に運んでいた。これがユーファスの1日のご褒美の時間だった。
「それにしてもユーフ様、全ての指揮をユーフ様が取らずとも良いのではありませんか?普通はそれぞれの指揮官に判断を委ねるモノですよ。」
「それでは、正確性と迅速さに欠ける。俺がやらねば、大切な兵を無駄に失ってしまう。大陸全ての国に挑まねばならないこの現状で兵の命は何よりも大切だ。だから俺がやらねばならん。ほら、手が止まっているぞ。」
「しかし、殿下。流石に1人では限界があるかと。このままでは殿下が過労で倒れてしまいます。そうなればこの軍は終わりです。やはり私もお手伝いを…」
「いやダメだ。爺の力は信用しているが、2人ではどうしても対処が遅れる。各拠点の連携を密にしておかねば、隙が生まれてしまう。だから、俺1人でやるしか無いんだ。」
「うむむ…かしこまりました。では、お嬢様にお手伝いしてもらうと言うのはいかがでしょうか。」
「ええっ!?私がユーフ様のお手伝い!?…それってまさかいつもの…」
「それは良い提案だ。ねる、明日からお前は俺の隣にいろ。いつでも俺が触れられるようにな。」
「やっぱりぬいぐるみじゃないですか!!私なんかがいても邪魔なだけですよ!!」
「邪魔かどうかは俺が決める。お前はただ俺の横で可愛く座っていればいい。」
「本当にやるんですね…」
ねるは反論する事を諦めた。次の日から ねるが横で座った事で、ユーファスの作業効率が上がった。
ーー1ヶ月後ーー
「そうか、では次の作戦に移行する。L〜R班は合流して、都市制圧に当たれ。班編成は……」
戦争開始から約1ヶ月、公国内での激しい戦争を続いており、帝国側の死者も200人を超えた。しかし、公国側の被害はそれよりも遥かに大きく、実に国の3分の1が帝国の手に落ちた。毎日のように天幕で指示を出すユーファスの隣には ねるが座っていた。
「ユーフ様、今日は何故帯剣しているのですか?」
「それはな、お前を守るためだよ。」
「それは一体どう言う…」
「殿下!!敵襲です!!この拠点が襲われています!!」
そう言って見張りの1人が必死の形相で天幕に入ってきた。それを聞いて ねるは驚きの声をあげるが、ユーファスとジーガスは眉ひとつ動かさない。
「予定時間ぴったりだな。ねる、爺、行くぞ。」
「かしこまりました。」
「行くって、敵のところへ!?ユーフ様が何故わざわざ行かれるのですか!?護衛の方々にお任せすれば良いのでは?」
「お前に格好いい姿を見せたいからに決まっているだろう。俺から目を離すんじゃないぞ。」
そう言って ねるの手を握って天幕の外に出ると、襲撃を仕掛けてきた公国の兵と護衛の帝国兵たちが戦っていた。予め伝えられていた帝国兵が優勢だったが、敵も精鋭を連れてきていたようで、所々で苦戦している。しかし、そんな中で1人だけ異彩を放つ存在がいた。
「はぁあ!!」
それは帝国軍人で唯一白い鎧を着用する事が許されている女、東軍軍隊長ルナリカだった。彼女は代々軍人をしている有名な軍人の家系の女で、先代『大将軍』の娘である彼女の実力も帝国軍随一であり、次々と敵を倒していく。
「流石はレトローム家の現当主。彼女の実力は申し分ないが、後継者問題があると言っていたな。例えばだが、爺の息子を彼女の婿にするのはどうだ?」
「それはいいですね。ヤツもまだ独身。気が強い女を好む我がベレンザの血筋も彼女であれば適任でしょう。帰ったら妻に相談してみましょう。まぁ、彼女が生きて帰れればですがね。」
獅子奮迅の活躍をする彼女だったが、突然動きを止める。その前に立つ男の姿を見て、動きを止めざるを得なかった。
「彼が殿下の仰っていた敵の隠し玉ですか?まだ随分と幼いように思えますが…」
「おそらくな、格好は一兵卒と言った様子だがあの身のこなしは常人ではない。強いぞ、アイツは。」
ルナリカは切れかけた息を整えながら細い剣を正眼に構えていつでも動けるように準備する。
(この少年…得体の知れない強さを感じる。見たところ素手のようだが、何か武器を隠し持っているかもしれん。)
その少年は目の前のルナリカを無視して辺りを見渡しながら、吠える。
「おい!ユーファスとか言うクソ皇子はどこだ!?ここにいるんだろ?早く連れてこい!!」
それに対してルナリカが反応する。
「連れてくるわけ無いだろう。殿下を守る事が私の勤めだ。殿下!!下がっていてください!!コイツは私が!」
そう言ってルナリカはユーファスの方を見ながら前の男に話す。
それを遠目で見ていたユーファスとジーガスはため息をつく。
「はぁ…なんで俺の居場所を馬鹿正直に言ってしまうかねぇ…」
「全くです。彼女はポンコツだとは聞いていましたが、ここまでとは…」
少年がルナリカの見つめる先を見ると、1人だけ他の軍人とは明らかに雰囲気が違うユーファスが立っていた。それを見て少年は笑みを見せる。
「アイツが第一皇子か!!教えてくれてありがとうな、デカい姉ちゃん。」
自らユーファスの居場所を教えてしまった事に気付いたルナリカは挙動不審になる。
「な!!わ、私はそんな事言ってないぞ!!あのお方は…いや、あの子供は殿下などでは無い!!」
再び正体をバラしたルナリカに少年は可哀想なものを見る視線を送る。
「…アンタ、天然だってみんなに言われないか?」
「だ、黙れ!!私は天然などではない!!殺す!!」
家族からも、部下からも天然だと影で言われている事を知っていたルナリカは図星となり、顔を真っ赤にする。そのままルナリカはその少年に襲いかかる。しかし、少年はそれを見ても一切動じずに、ルナリカの剣の軌道を凝視する。ルナリカの剣が少年に直撃する瞬間、少年の拳が跳ね上がり、剣を根元から折ってしまった。
「なに!?」
「動揺してる場合じゃ無いぜ!デカい姉ちゃん!」
少年は振り終わりで隙ができたルナリカの懐を既に侵略しており、ルナリカの腹に拳を捩じ込む。
「グゥ!!そこだ!!」
完璧な軌道で少年の拳がルナリカの腹に打ち込まれる。
しかし、ルナリカは口から吐血しながら、自分の腹に打ち込まれた少年の右腕を狙って、折れた剣を振り下ろす。それは完璧なカウンターのタイミングで回避は不可能だった。
ガキィン!!
「ふぅ…危なかった。姉ちゃん、天然なのにそこそこ強いんだな。俺は嫌いじゃないぜ。だが、これで終わりだ!!」
折れた剣は少年の右腕に完璧にヒットしたが、少年の腕は切られる事なく、薄皮一枚斬っただけだった。
「な、何故だ!?…ゴフッ!………」
少年は腹を捉えている右拳を開いて押し付け、発勁の要領でルナリカの鳩尾を破壊した。
あまりの勢いにルナリカは10メートル以上吹き飛ばされ、一つのテントに背中から突っ込んだ。何とか立ちあがろうとするルナリカだったが、肋骨が折れ、内臓にもダメージを負っていた事で、そのまま地面に倒れ、気絶してしまった。
それを見た公国の兵士の1人が声を上げる。
「よくやった新人!あとは俺が!!…ガッ!」
ドン!!
倒れたルナリカにトドメを刺そうとする直前、その兵士は頭を撃ち抜かれて倒れる。それを見て少年も眉を顰める。
「テメェ…やりやがったな。」
「彼女は大切な俺の部下だ。殺させるわけにはいかない。それと少年、俺に恨みがあるんだろ?かかってこい、相手をしてやる。」
「少年って、テメェも俺と変わらないぐらいの年齢だろうが!それに恨みだと!?よく言うぜ、親父をその手で殺したくせによぉ!仇だ。テメェは俺が殺す!!」
その瞬間、少年がユーファスに襲いかかり、2人の激しい戦闘が始まった。
ーー1時間後ーー
「ぐぉおお…クソがっ!!ヒラヒラ逃げやがって!!正々堂々勝負しやがれ!!」
1時間もの間ユーファスに攻撃を繰り出し続けた少年だったが、ユーファスの巧みな防御に全て阻まれ、致命傷を与える事は出来なかった。
「はぁはぁ…はぁはぁ…」
対するユーファスも少年の防御力の前に、全力の一撃でさえ、擦り傷すら付けることが出来なかったため、ユーファスは回避を軸にしたヒットアンドアウェイの戦法にシフトした。
しかし、少年の攻撃は一撃一撃全てが高威力。拳が通り抜ける音は、轟音を発し、地面に当たった際は大きなクレーターを作る。まともに受ければ、ユーファスの防御力では重傷ではすまない。そんな即死級の連続攻撃を皮一枚で回避するユーファスにもプレッシャーを与え続ける。
しかし、その地獄を乗り切った末にユーファスはやり遂げる。その瞬間、均衡が崩れる。
「ふぅ………ここだ!!」
「何ぃ!!」
ルナリカがつけた少年の右腕についた擦り傷、ユーファスがこの一点を狙い続けること479回目、ついに傷が激しく開き、腕から大量の出血が始まる。しかし、ユーファスも集中力の限界を迎えようとしていた。体力はとうに尽きており、手を膝について肩で息をしている。
「ハァハァ!!…」
(やはり強敵だった。当たれば即死の超高速連打、それを反撃を交えながら1時間耐えきった。あの出血量…後10分だな。)
少年は止血をしようとするが、止血するための布となら衣服はユーファスに既にほとんど切り裂かれている事を悟る。
「クソがぁあ!!」
(クソっ!この男、どんな格闘センスだ!どれだけ打ち込んでも全て完璧にいなしやがる!魔力や身体能力も俺とは天地の差があるのに、一撃が通らねぇ!一発でもまともに入ればコイツは倒せるのに!!…それに周りの奴らは全員やられた。作戦は失敗か…だが、もう作戦なんてどうでもいい!今は何としてもコイツに勝ちたい!!ヤツは体力がもう限界だ。対して俺はまだまだ戦える。もっと速く、もっと強く、もっと硬く!)
「ふぅ…はぁああ!!!うぉらああ!!」
そうして、先ほどと全く変わらない精度で少年は突っ込んでくる。
そして再び激しい攻防が始まる。今まで通りに回避するユーファスだが、体力と集中力の限界からか、拳が皮膚を掠めるようになった。掠った部位からは少なく無い量の血が出る。
「チッ!!はぁはぁ…」
「どうした!?回避が雑になってるぜ!」
「舐めるなぁ!!はぁぁあ!!…くっ!!」
「ここだ!」
「っ!!」
少年はユーファスの足が一瞬だけもつれた瞬間を狙ってユーファスの左手首を掴んだ。そして、そのまま少年が力を込めると、ユーファスの手首は大きな音を立てて根本から容易く折れた。ユーファスの顔に苦痛が滲む。
「グゥ!!だが、これを待ってた!!」
「なにぃ!?」
ユーファスは手首を掴まれたと全く同時に右手の手刀を少年の左目に突き立てる。初めて攻撃がヒットした安堵で一瞬だけ気が緩んだ少年はガードが遅れ、その手刀が左目を抉る。
「グハァ!!負けるかぁ!!」
そう言って少年は左目を貫かれたまま、掴んだ腕を引っ張って目の前にユーファスを拘束する。
「イッテェな…だが捕まえたぜ。もう逃さねぇ!!」
「クソッ!」
そしてそのままフリーの左腕で高速連打を繰り出す。強大な力で押さえつけられたユーファスは逃げる事ができないので、左目から抜いた右腕一本でその攻撃を捌き切るしかなかった。
「うぉおお!!」
「はぁぁああ!!」
2人の最後の攻防は1分にも満たない短い時間だったが、激しい拳のやり取りとなり、互いに血飛沫を撒き散らした。
「…はぁはぁ…クソ…が‥」
出血が限界に達した少年が先に地面に崩れ落ちる。対して少年の激しい連打をいなしきったユーファスの右腕は、左腕とは比較にならないほどボロボロであり、もはや原型を留めていなかった。
「はぁはぁ…グゥ!…俺の…勝ちだ…」
「殿下!!」
「ユーフ様!!」
決着がついた瞬間、近くで見ていた2人が倒れそうになるユーファスに駆け寄ってくる。
そしてジーガスは凄まじい手際で、応急処置を施していく。しかしあまりの重傷にジーガスの顔に焦りが浮かぶ。
「はぁはぁ…みっともない主ですまんな、爺。」
「いえ、ですがこれは…殿下、このままでは右腕が一生使えなくなりまする。お嬢様、申し訳ありませんがよろしくお願いします。」
「はい、ただいま。」
そう言ってジーガスは ねるを呼び寄せ、能力で腕を治療させようとする。
「分かりました。すぐに行います。」
意図を汲み取った ねるがユーファスの腕を触りながら能力を発動しようとした時に、ユーファスが待ったをかける。
「待て!ねる、俺はまたでいい。先ずはこの男を治してくれないか?」
そう言ってユーファスは折れた左腕で倒れた少年を指差す。
「殿下!何を言っているのですか!?敵を助けるなど!?」
ジーガスもその判断に意を唱える。
「黙れ、爺。ねるは俺のモノだ。だから、能力を誰に使うかは俺が決める。」
「ですが!…かしこまりました。」
ユーファスはボロボロながら強い視線でジーガスを黙らせる。ジーガスもその目を見て言いたい事を全て飲み込んで頭を下げる。
「と言うわけだ。また、お前に頼ってしまって悪いが、やってくれるか?」
「私は大丈夫ですが…この方が全回復してしまったら、ユーフ様に襲いかかってくるのでは?私の能力は連続では使えません。そうなったらユーフ様は…」
「安心しろ、そんな事にはならない。だからやってくれ。」
「…はい。分かりました。」
そう言って ねるは倒れた男の元まで行き、能力を発動させる。少年の全身が発光し、しばらくすると傷が元通りになった。
「はぁはぁ…すみ…ません…」
能力を使い終わった ねるはその場に倒れそうになるが、ユーファスが折れた左腕で支える。そして、ねるはそのまま意識を失った。
「ありがとう、しっかり休んでくれ。爺、頼む。」
「かしこまりました。」
そうしてジーガスに ねるを預けたユーファスは立ち上がる少年を見つめる。
「おい…なんだこれは!?やられた傷が…左目も元通りになってやがる!どういうことだ!?」
「彼女の能力だ。彼女が目覚めたら感謝するんだな。」
「何!?失った部位まで治せるのか…なんという能力だ…って!そんな事はどうでもいいんだよ!!なんで俺を助けた!?俺はお前の敵だぞ!?」
「ああ…殺すには惜しい男だと思ってな。早速だが名前を教えてくれるか?」
「は?名前って…まぁいい。俺の名は鈴木将士だ。」
「なるほど。では、将士!お前は俺のモノになれ!!」
ユーファスはいきなり意味不明な事を言い出した。それを聞いた将士も懐疑的な表情を浮かべる。
「は?何言ってんだお前?正気か?」
「俺は正気だ。そして俺は手に入れたいと思ったモノは全て手に入れる。お前のその強さと精神力、何としても欲しい!!」
「おいおい…冗談じゃないぞ、なんで俺がお前のモノにならなきゃならねぇんだ。」
「お前は俺に負けた。生殺与奪は勝者の特権、つまりお前の命は俺のモノだ。理由などそれで十分だろう。」
「ぐっ!それは…た、確かに俺はお前に負けたが、あれはあの女の傷があったから負けたんだ!だから、勝負はやり直し!!俺はまだ負けてねぇ!!」
「言い訳か、見苦しいぞ。お前が俺に命を助けられた事だけが全てだ。違うか?」
「ぐぬぬ…違わんな。」
悔しそうにする将士に対してユーファスが畳み掛ける。
「鈴木将士、俺と共に来い!そうすればお前は更に強くなれる!!」
「……」
それを聞いて将士は少しの間考える。
「ああぁ!!クソッ!仕方ねえ!確かに俺はお前に負けてそこの女に命を救われた。その恩義は返さなきゃならねぇ。いくらお前が親父の仇でもな!だが、一つだけ条件がある。お前のその怪我が治ったらもう一度俺と戦え!俺は全力のお前を殺して、親父の仇を取って自由になる。それでいいな?」
「ああ、交渉成立だ。よろしくな、将士。」
「チッ!俺がお前を殺すまでだがな。今はよろしくさせてもらうぜ…ええっと、なんて名前だっけ?」
「ユーファスカイト・サクラヤだ。ユーフとでも呼んでくれ。」
「ああ。よろしくな、ユーフ。」
そうして2人は固い握手を交わした。




