G班
場面は変わって、とある4人組のグループの話です。
メンバーは、新人のハリート、リーダー気質のアフル、気性の荒いバーン、プライドの高いお嬢様のチゼルです。
「はぁ…不安だ。」
「おいおい、どうしたんだハリート。まさかビビってんのか?」
「違いますよアフルさん。メンバーが不安だって言ってるんです。よりによってあの2人がウチの班だなんて…」
そう言ってハリートが眺める先には、不満そうに椅子に腰掛ける2人の男女がいた。
「クソが、あのガキ絶対許さねぇ。」
「よくもこの私に無様な声を…お父様に言いつけてやりますわ。」
それは先ほどユーファスにやられた2人だった。痛みはある程度引いたようで、作戦を聞いてからずっとあの調子だ。
「おい、2人とも。俺たちのG班はそろそろ出撃の時間だ。不貞腐れてないでさっさと行くぞ。」
「チッ!分かってるよ。」
「上官でもないのに私に命令しないでくださる?私は勝手についていきますのでご心配なく。」
「お二人とも、文句を言うのは結構ですが、チームワークを壊すような真似はやめてくださいね。」
「よし、G班行くぞ!」
そうしてこの4人からなるG班は戦地へ向かった。
G班に任された任務は公国の辺境の村の制圧だった。
「それにしても、いくら辺境の小さな村と言えど人口は1000人近くいますよ。僕たち4人だけで制圧できるとは到底思えないのですが…」
「うーん…実は俺もずっと疑っていてな、この村には何度か来た事があるが公国の兵士も100人近くは配置されているはずだ。4人でどうにかなるレベルじゃない。頼みの綱はこの指示書だが…」
そう言ってアフルは渡されていた紙を開くが、その紙には
初日の夜中に村に忍び込み、村で一番大きな建物に火をつけた後、3日間待機せよ。後日コチラから連絡を入れる。
と書いてあった。
「一体どういう意味なのでしょうか。僕には見当もつきません。」
「うーむ…その建物の中に大量の兵士でもいるんじゃないのか?それとも、火薬の類が集められた場所で村全体に広がる火事を引き起こすとか?」
「なるほど、流石はアフルさんです。…あっ!アフルさん、着きましたよ。ここがその村です。」
4人が歩いている道の先に複数の建物が見えた。山に囲まれる場所に位置するその村は天然の要塞となり、村に入れる道は一つしか無く、そこには大量の公国の兵士が検問を行っていた。
「もうすぐ夜明けだ。完全に日が落ち切るまでは、見つからないように少し離れて待機しよう。」
「また野宿かよ。いい加減飽きてきたぜ。」
「全くですわ。ここにはお風呂もありませんから、私の美しい髪が傷んでしまいます。」
そう言って不機嫌になる2人を見て、アフルが以外な提案をする。
「ん?アンタ風呂に入りたいのか?俺の能力でお湯なら出せるぞ。それに何故か簡易的なプールも渡されてるから、そっちで入って来てもいいぞ。」
アフルの能力はお湯を出す能力だ。そのお湯は非常に綺麗な水で、飲料水としても使えるという便利な能力だった。
「それは本当ですの!?何という偶然でしょうか!!早くお風呂に入らせてくださいませ!!」
チゼルが目を輝かせてアフルに迫る。それを見たアフルは少し悪い顔をしながら提案する。
「そうだな…俺をこのグループのリーダーと認めるなら出してやってもいいぞ。どうする、お嬢様?」
「もちろん認めますわ、リーダー!!その代わり明日以降もよろしくお願いいたしますわね!!」
数日間入れなかった風呂の誘惑に比べれば、チゼルの下らないプライドなど取るに足らないものだった。
「あっさりかよ…分かったからちょっと待ってろ。」
そう言って2人は木の影で風呂の準備を始めた。
「チッ!女は風呂ごときで従順になれて羨ましいぜ。俺は腹が減った。そこのお前、なんか持ってねえのか?」
バーンは大食漢で、食にうるさい男だった。最近では配給食の量も質も少なく、イライラが溜まっていた。それを聞いてハリートは思い出したかのように話し出す。
「あっ、そう言えば殿下から大きな荷物を渡されていました。みんなで食べてくれと仰っていたので、おそらく食料かと。」
そう言ってハリートは背負ったバッグからとある箱を取り出して開ける。
「うおっ!!何だこりゃ!?」
「おお!!凄いですね。どれも高級食材ばかりです。こんな物を頂いても良いのでしょうか?」
「あのクソガキもいいとこあるじゃねぇか!!早速食おうぜ!!」
「おっ!美味そうな飯だな!!俺にも食わせてくれ!!」
戻ってきたアフルもその食事を見て興奮を隠せない。後から知ったことだが、これらの食材は全てユーファスの自費で捻出したモノであり、G班に与えられた食材だけでも、彼らの1ヶ月分の給料ほどの価値がある食材だった。
そうして各々の時間を過ごしながら夜更けを待った。
太陽が完全に沈み、辺りは真っ暗になった。街灯も殆どない村で、真っ暗闇の中、村に侵入する事は容易だった。4人が中に侵入して、少し奥まで進んだ時、先頭を進むバーンが全員を止める。
「止まれ…おい、あの建物じゃないか?今まで見た建物の中で一番デカいぞ?」
「そうですわね…場所も村の中心部ですし、私も間違いないと思いますわ。」
「ええ、ですが周りには兵士が警護しています。…ここからでは暗くてよく見えませんが。」
「…15、いや16人だな。俺は夜目が効くからよく見える。」
「なるほど、放火するには戦闘は必至か。お嬢、ここから火をつける事は出来るか?」
「火を届かせる事は出来るでしょうけど、建物を燃え上がらせる程の火は遠すぎて無理ですわ。何か火種が無いと。」
「なら僕の能力を使うのはどうでしょう?僕は可燃性の油を生み出せる。この建物ほどでしたら、全体を油で覆えます。」
ハリートの能力は可燃性の油を生み出すこと。30メートル程の射程があって、その圏内であれば100リットル程度まで油を生成できた。
「へぇ…この場では最適な能力だな。」
「ハリート、お嬢、見つかる前に急いでやってくれ。」
「了解です。」
「了解ですわ。」
そう言ってハリートは地面に手をついて目を瞑る。そして少しすると、ハリートの能力が発動し、建物全体が少しずつ油に覆われていく。深夜で明かりが少なかった為、周りの兵士たちはそれに気づかない。
そして、チゼルが右手を前に出して集中力を高める。
「はぁ!」
その放たれた炎は建物へ一直線で飛んでいき、着弾した。その瞬間、油によって建物全体が一気に燃え始めた。
「て、敵襲!!敵襲!!」
「どこからやられた!?」
「クッ!!急いで火を消せ!!」
周りにいた兵士たちはパニックになった。その隙に4人は脱出を図る。村からの脱出で走る中、チゼルがアフルに対して疑問を呈する。
「リーダーさん、彼ら消化に専念していて何人かなら奇襲で殺せたのではないかしら?やらなくてもよろしくて?」
「そうだぜ!油断した16人程度なら俺が全員倒せた。今ならまだ戻れるぞ。」
「いや、ダメだ。殿下からの指示書には兵士を殺せとは書かれていなかった。それに騒ぎを聞きつけて他の兵士たちも集結するはずだ。奴らに俺たちを認識させる訳にはいかない。ここは撤退だ。」
そう言って2人を説得して、村から脱出した。
再び拠点に戻った4人は任務の成功を労っていた。
「ふぅ…これでとりあえずの命令は終わりだな。お疲れ様。もう少し離れた場所で3日間待機しよう。本部から連絡が来るはずだ。」
「なんだ、これで終わりかよ。俺はまだ何もしてねえってのによ。」
「いや、道中アンタの目の良さに助けられた。アンタの目が無ければ、確実に途中で敵に見つかっていた。アンタは十分に役割を果たしただろう。」
「そうですわ。それにまだ任務は完遂していません。油断大敵ですわよ。」
「分かってるよ。…んで?お前はさっきから黙り込んでどうしたんだ?」
「いえ…思ったよりもあっさり終わったなと思いまして。僕やチゼルさんの能力といい、あまりにも都合の良い展開でしたよね?まさか…」
ハリートが予想を言う前にアフルが答える。
「ユーファス殿下の仕業だな。薄々勘付いてはいたが、俺たちの能力やチームバランスは完璧に近い。それに狂犬や我儘令嬢を手懐けるモノまで用意してやがった。これが3000人の全ての班に当て嵌まるとしたら、それはもう人間の為せる技ではない。なにせ、俺たち3000人の性格や能力を全て把握されているという事だからな。」
「いやいや、それはねえだろ。あのガキを買い被りすぎだ。偶々だって。」
「そうですわ。そんな事が出来る人間など最早、人ではありません。…それはそうと「我儘令嬢」とはまさか私の事ではありませんよね?」
「この班に女はお前しかいないだろ?我儘お嬢様。」
「おい!『狂犬』ってのは俺の事じゃねえだろうな!ぶっ殺すぞ!」
「み、皆さん、落ち着いてください。まだ、殿下からいただいた高級食材がたくさんありますから、今から食べませんか?お酒もたくさんありますよ。」
「おっ、酒もあるのか。本当に気が効くお方だな。お前らも呑むだろう?」
「当たり前だ!新人!さっさと俺の分を注いでくれ!」
「僕ですか…分かりましたよ。」
「私は遠慮させていただきますわ。夜更かしと夜食は肌に悪いですからね。」
「あっ!チゼルさん用にスイーツもありますよ。これは帝都でも中々買えない『モンビー』のモンブランです。食べますか?」
「何ですって!!あの帝都の超人気店のモンブランが!!早くそれを私に寄越しなさい!!」
「はっはっは!!夜食は肌に悪いんじゃなかったのか!!まぁいい、今日は4人で乾杯だ!!」
そうして4人は任務の成功を祝って祝杯をあげた。
ーー翌日の村ーー
「聞いたか?『憩いの里』が放火されたらしいぞ。」
「ああ、それにまだ犯人も見つかってないらしい。」
「いや、犯人は帝国軍に決まっているだろ。」
「そうとは限らないぞ。俺は一昨日聞いたんだ。この村にはスパイがいるかもしれないって、村長が誰かと話してるのをな。」
「何!?俺たちの中に裏切り者がいるってのか!!」
「ああ…事実、その可能性は高い。何故なら昨日被害に遭ったのはあの建物だけで、死者や行方不明者は0だったらしい。それに焼け跡から大量の油が検出されたそうだ。予めあの建物に油を仕込めるヤツなんか、この村の住人しかありえないだろ。」
「マジか…いよいよこの村も危ねえって事だな。このままどこかに避難するしかないな。」
「そうだな。にしてもどこに逃げればいいんだ?中央の都市部には人が溢れてるだろうから、受け入れてもらえないだろうし…」
不安が募る彼らだが、最近引っ越してきた1人の男が噂を伝える。
「…あくまでも噂だが、敵の指揮官である第一皇子は非常に慈悲深い男で、降伏した村や町には一切手を出さないらしい。」
「本当か!!なら、最悪の場合は全面的に降伏しよう。そもそも、公国のトップであるあの男にはムカついてたんだ。それに駐屯する兵士たちもこの村のシンボルであるあの場所を簡単に焼かれやがって…何のためにこの町に来ているんだ。」
「全くだ。あの場所は俺が子供の頃からあった思い出の場所なのによ…」
「そうだな。あの役立たずどもが…いや、やっぱりアイツらがこの村を守るのは無理だ。今から村長のところへ行って降伏するように言いに行こう。」
「ああ、俺たちも一緒に行くぞ。」
そう言って村人達が村長の元へ行くのを見て、その1人の男は少しニヤつきながら後をついて行った。
ーー村長宅ーー
「村長、どうしましょうか?住民たちが家の前に集まってきています。皆、口々に帝国に降伏せよと訴えていますが…」
「そうだな…皆の気持ちはよく分かる。だが…」
村長が何かを言おうとした時、遮るように1人の軍人が話し始める。
「そんな事を認める筈がないでしょう。奴らが攻め込んできた暁には、村人全員を動員して最後の1人になるまで戦ってもらいます。安心しなさい。この村には私の精鋭が100人と村人も1000人ほどいます。帝国軍は全部で3000程度と聞いておりますから、この村に1000人以上が派遣される事はまず有り得ない。であれば十分に勝機はあります。」
「……そうですね。頼りにしてますよ隊長殿。」
(クソ、村のシンボル一つ守りきれないで何が精鋭だ。偉そうにするんじゃねぇよ。だが、この男に刃向かえば帝国だけでは無く公国の本部を敵に回す事になる。本当に八方塞がりだ。このままでは、住民の怒りが爆発するか、全員が逃げ出してしまう。)
「それにしても、外がうるさいですね。全員殺しましょうか。」
そう言って隊長であるその男は剣に手をかけながら外に出ようとする。
「お、お待ちを!!彼らは村のシンボルである『憩いの里』を失った事で悲しみに暮れているだけなのです!!私が説得しますから、どうか鉾をお納めください!」
そう言って村長はその隊長に頭を下げる。
「いいでしょう。彼らも大事な戦略ですからね。しかし、明日までこれが続くようならその村人は反逆罪として殺します。」
「ありがとうございます!」
そうして村長と補佐の男は部屋を出た。その道中で男が話しかける。
「…村長、やはり我々に残されたのは降伏しかありません。あの男の言う通りにしていては、確実に全員が帝国兵に殺されます。」
「……最悪の場合はそうするしか無い。だが、隊長殿が皆を殺す事だけは避けねばならん。とりあえず、私が皆を説得する。それでもどうしようもなければ……」
「…村長…」
その時の村長の顔は覚悟の決まった男の顔だった。
ーー2日後ーー
「もしもし、コチラG班です。殿下、指定された時間になりましたので連絡させていただきました。我々に次の指示をください。」
「こちら本部。一度しか言わないからよく聞け。これから、村に向かって堂々と進め。敵に見つかっても構わん。そのまま、お前たちが焼いた施設の場所まで真っ直ぐに向かって行くだけでいい。そうしたら、村の代表者が話しかけて来るはずだ。後は上手くやれ。以上。」
そう言って電話を切られてしまった。
「で、殿下!それだけですか!!殿下!?…切られた…」
「アフルさん、殿下は何と?」
「…あの建物の焼跡まで真っ直ぐ進めとだけ言われた。」
「は?何言ってんだ!?ここは敵地だぞ!!こんな真っ昼間から攻め入ったら敵の兵士に見つかるに決まってる!!囲まれて殺されるぞ!!」
「全くですわ。こんな馬鹿げた特攻作戦など従えません。私は降りさせてもらいますわ。」
「おいおい、ちょっと待てよ。隊長にも言われただろ?どんな命令でも殿下の命令には必ず従うようにって。そうじゃなきゃ、俺たちは隊長に殺されちまうよ。」
「そうですよ、殿下には何か意図があるに違いありません!そうですよね、アフルさん!!」
「…いやぁ…俺も流石にこれは無謀だと思うけどな…」
「あのガキ、俺たちが気に食わねえから捨て駒にしやがったんだ!!従順な兵士以外はいらねえってな!!」
「あの程度の事でヘソ曲げるなんて、所詮子供ですわね。」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕にも殿下の意図は分かりませんが、捨て駒にしようとする軍人に対してあんな豪華な食事をくれたりしますか?それに、こんな回りくどい殺し方をする意味もありません!」
「そうだな。俺も、殿下はそんな器の小さい男だとは思わんな。仮にこれが捨て駒だったとしても、この戦争に勝つ為のモノだろう。お前ら、軍人としての誇りを忘れたのか?国の為に死ぬのが、俺たちの誇りだろうが。」
「チッ!それは忘れちゃいねぇよ。俺はただ、あのいけすかないガキの掌で転がされた挙句に無駄死にするのが嫌なだけだ。」
「そうですわね…リーダーさんの言う通りですわ。帝国軍人として、これが次に繋がる死であるなら、私も受け入れましょう。ですが、これがただの無策な特攻だったならば、地獄から這い出てきてあの子供を呪い殺してやりますわ。それでいいですわね!」
「そうだな、そん時は巻き込まれた俺も一緒に殿下を呪い殺すのを手伝ってやるよ。ハリートもそれでいいだろ?」
「はい、でも何となくですが僕はみんな死なないと思っています。何となくですが。」
「そうだな…よし、覚悟が決まったヤツから言え。全員揃ったら行くぞ。」
「覚悟だと?そんなの軍に入ったその日からしてるぜ。」
「私も大丈夫ですわ。」
「……ふぅ……ふぅ……すみません。お待たせしました。僕も行きます。」
そう言って4人は森を抜けて村へ歩き出した。そしてすぐに村に入る大きな道へ出た。そこからは村が一望でき、村からもコチラが視認できる。
「さて、いつ襲われてもおかしくない。警戒は怠るなよ。」
4人は警戒しながら歩を進めるが、襲われる気配など一切ない。そのまま村の入口まで来た。
「こんなに堂々と歩いてていいのかよ…もう入口まで来ちまったぞ。」
「そうだな…もしかしたら俺たちに気付いてないのかもしれない。急いであの建物まで行こう。」
4人が中に入ると、街で歩いている村人を何人か見つけた。
「!!」
「お、おい!……逃げちまった。」
村人たちは4人を目にした瞬間、血相を変えて逃げ出してしまった。
「まぁ、戦闘員じゃない一般人は逃げるに決まってるわな。だが、兵士と思われるヤツらが1人もいないのが気になる。どこかで潜伏しているのか?」
「そうですわね…私たちを奥まで誘い込んで絶対に逃さない構えかもしれませんわ。」
「ああ、奇襲に警戒しながら進むぞ。」
そう言って警戒しながら歩く4人だったが、結局誰にも出会わずに中央の建物まで来ることが出来た。
「あれですね…到着です。」
「おいおい、結局見つけたのは村人ばかりで兵士は1人もいなかったじゃねえかよ。」
「もしかしたら兵士は全員撤退したのではなくて?」
「そんなはずはない。俺の予想ならそろそろ……ほらな。お出ましだ。」
その瞬間、4人の周りから大量の兵士と村人が現れる。
「来やがったな!ただでは死なねえぞ!!」
「全員戦闘準備!!……ん?、おい!待て!コイツら武器を持ってない。それに戦闘の意思が全く感じられないぞ。」
バーンが襲いかかる直前、異変に気付いたアフルが彼を制止する。しかし、猛るバーンを見た人たちは皆が恐怖の表情を見せ、一斉に地面に這いつくばる。
「ひぃいい!!」
「…は?何やってんだ?お前ら、なんで土下座してんだ?俺たちを殺しに来たんだろ?」
「何ですかこの人たちは。いきなり気持ち悪いですわ。」
「帝国軍の精鋭の皆様!!驚かせてしまい、本当に申し訳ありませんでした!!我々に戦闘の意思はありません!!どうか鉾を納めていただけないでしょうか?」
村人の中の1人が大きな声でそう言い放った。
「それは一体どういう事だ?俺たちを敵だと分かっていながら何故戦おうとしない?…お前ら軍人だろ?最期まで国の為に戦うのが責務じゃないのか?」
それを聞いた1人の兵士が口を開く。
「……貴殿のおっしゃる通りだ。だが、我々の目的は民を守る事。無謀な戦いに彼らを巻き込むぐらいなら、貴方がたの第一皇子の慈悲深さに賭ける方が得策だと考えたんだ。一度、彼の話を聞いてやってくれないか?」
そう言ってその軍人は先ほどの男を指差した。指差された男は全員の前に出て、話し始める。
「帝国軍の皆様、私はこの村の村長代理です。今はこの村の代表者という立場にあります。どうか私の話を聞いていただきたい!!」
その男は覚悟を決めた顔で4人の前に跪いた。
「…話となんだ?聞くだけきこう。」
「我々は全面的に降伏いたします!!ですから、どうかここにいる村人の命だけは助けていただけないでしょうか!!」
その男はそれを言いながら地面に頭を叩きつけた。
「こ、降伏!!おいおい、冗談だろ。」
「一体どういうことですの?私には全く理解できませんわ。」
驚愕する2人を差し置いて、アフルだけは冷静に状況を理解していた。
「…それがこの村の総意なんだな?…言いたい事は理解した。だが、理由を聞かせてくれないか?」
「はい!この村は元々独立した集落でしたが、地形の良さを活かした天然の要塞として帝国軍への防波堤とするべく公国に支配されました。しかし、我々には公国への忠誠心は全くありません。故に、貴方がた帝国軍と戦う理由はなく、少しでも多くの村人が助かるために降伏するという結論に至りました。ここにいる100人近い軍人の皆様にも了承いただいております!」
「なるほど、理由は分かった。だが、お前たちが裏切らないという保証はどこにもない。村長はどこだ?あと、この隊の指揮官はどいつだ?その2人は人質として拘束させてもらう。出てきてくれ。」
それを聞いた瞬間、周りの村人たちが暗い顔をする。中には涙を流す人もいた。そんな中、その男が涙ながらに話し始める。
「…グゥ!…すみません、帝国軍人様…我々の村長は昨日、息を引き取りました!!ですから、私が人質となります!!村長程ではありませんが、私にもそれぐらいの価値はあるはずです!!ですから、彼らには手を出さないでいただきたい!!」
「村長が昨日死んだ!?誰にやられたんだ?病気か?」
「グゥ!!……」
代表の男は涙を流すばかりで声が出ない。代わりに兵士の男が話す。
「結果から申しますと、この村の村長殿は我々の隊長を襲った事で、相打ちとなり2人とも死亡してしまったのです。…ですが、村長殿は決しておかしくなったわけではありません!…我々の隊長は公国のトップである大公爵に洗脳されていました。隊長は公国の為に、1人でも帝国軍を減らすために徹底抗戦の方針を変えませんでした。しかし昨日、周辺の村々が帝国に攻め落とされたという話を聞き、中には降伏した事で村人全員が助かったという噂が入ってきたのです。それにより、村人全員の抗議が始まり、耐えかねた隊長がその1人を斬り殺してしまったのです。それに怒った村長が隊長を…」
「俺たちは洗脳を受けていない。公国への忠誠心も多少はあるが、あんなヤツの為に無駄死にするのはごめんだ。俺たちも全面的に投降する。だから、村人たちには手を出さないでくれ!!」
その瞬間、兵士たちが一斉に頭を下げる。中には震えている者もいるが、その目には高い決意が宿っていた。
「どうするよ?俺にはコイツらが嘘ついてるようには見えねぇがな。個人的には暴れ足りないが、お互い死なずに済むならそれが一番だ。俺はリーダーに任せるぜ。」
「まさか、村がこんな事になっているとは…アフルさん、どうしますか?僕も貴方に任せます。」
「私もですわ。ロレトス家の女として、一度言った言葉は違えません。リーダーに従いますわ。」
「……分かった。降伏を受け入れよう。俺の勘だがアンタらは嘘をついちゃいない。俺はそれを信じる。代表者の2人だけこの場に残ってくれ。今後について話したい事がある。」
3人の合意を得てアフルは降伏の受け入れを宣言した。それを聞いて村人たちは歓喜した。
「あ、ありがとうございます!!では、コチラはどうぞ!!この村の特産品もご用意しております!!是非皆様で召し上がってください!!」
「おっ!飯か!いいねぇ!ちょうど腹減ってたんだ!俺には酒も頼むぜ!!」
「私はスイーツを。それと、村で一番大きい温泉に入らせてくださる?化粧品なども見せていただきたいわ。」
「隊長、よく分かりませんが上手くいきましたね。僕たち運がいいですね。」
「運ねぇ…俺には殿下がここまで全部想定済みなんじゃないかと思えて仕方ないんだ。敢えて何もしない3日間と言う、村が恐怖に押し潰される絶妙な日数、周りの村を生かした事による降伏という甘い逃げ道、問題児2人を制御し完璧に活かしきる為の俺とお前というメンバー構成、全て読んでいるとしたら殿下は本物の…」
そのタイミングでアフルの電話が鳴る。
「はい、コチラG班。」
「そろそろ終わった頃だと思ってな。次の指示を伝える。G班はしばらく待機、O班が到着し次第、次の戦場へ送る。それまで英気を養っておけ。以上。」
再び一方的に電話を切られた。
「タイミングも完璧だな…これが、ユーファス殿下か。本当に恐ろしいお方だ…あの方なら本当に世界を…」
これが一番大変だった…




