六殺目 成人
「フゥゥーー」
深く息を吐き、集中力を高める。
そして、感情を殺意で埋め尽くし……
殺気を解き放つ
─────────ズンッ
アビトから何者も寄せ付けない、全てを蹂躙し、圧倒的な力を見せつけるような、そんな青黒い殺気が放たれる。
──そして次は、自分の体力を可視化させて…
見える、自分の体に流れるエネルギーが、心臓に貯まっているエネルギーが…。そして、ここにッ
放出している殺意を体の中に入れ、心臓に混ぜ込む。
──よし、殺意のエネルギーが出来た。これを拳に流し込み、吸収させるッ
アビトの拳が青黒い光と、強烈な殺気に包まれる。
準備が整った。
ゆっくりと目を開き、睨みつける。目の前にあるのは、五メートル以上はある巨大な岩。
構えをとり、息を吸い込む。
──これを殺す……体を捻り、勢いをつけてッ!!
「……殴殺!!」
殺意に満ちた拳が、巨大な岩に突き刺さる。
─────────ドゴォンッッ!!!!
一瞬にして、巨大な岩が粉々に砕け散った。
「よし!! 完璧。さっすがアビト君〜」
自分の拳を笑みを浮かべながら、見つめる。
アビトは現在、十五歳。成人したのだ。
スキル『流拳殺技』を発現させた時から今日までの三年間、アビトは今まで以上に死にものぐるいで稽古をした。
文字通り、"死にものぐるいで"だ。何度も死にかけ、何度も殺されかけた。
だがそのおかげで、今やBランクの冒険者となっていた。
本来は冒険者登録したらFランクから始まるのだが…
ギルドマスターのオキド・シークが彼に言ったのだ。
「アビト君はもうそこら辺の冒険者と同じくらい強いし、しかもガイトさんと同じスキル持ってるんだから……Bランクスタートにしちゃおっか!!」と。
そして今日、アビトが旅立つ前の最後の稽古。
内容は、兄弟子たちと十人でオーク村の討伐だ。
メンバーはAランク一人、Bランク三人、Cランク七人。
準備運動を終わらせたアビトは、集合場所へと向かった。
-----------------------------十数分後
「よし、じゃあいつもの始めるぞ」
兄弟子が戦先頭に立ち、息を深く吸う。
道場『流拳技』には討伐前にやるルーティンがある。
そのルーティンは、その場にいる一番強い弟子が掛け声をし、その他はそれに合わせ雄叫びをあげる。
そして……そのルーティンは討伐対象の近くで、大声でやる。
流拳技は奇襲などはしないのだ。自ら襲撃をバラしていくスタイルなのだ。
──あぁーこんなふざけたルーティンも最後か。そう思うとなんだか寂しくなっちゃうなぁ
そんなことを思っている時に、それは始まった。
今日の掛け声担当である、Aランクの兄弟子が叫ぶ。
「偉大なる流拳技の弟子たちよ!! 準備はいいかぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
それに続け、俺たちも叫ぶ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「己の拳に、怒りを、憎しみを、悲しみを、殺意をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
「偉大なる流拳技の弟子である我が命ずる……殺せぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
殺気と雄叫びを放ちながら、オーク村へ突撃する。
もちろん、さっきのルーティンで襲撃はバレているので、フル装備したオークたちがぞろぞろと出てくる。
だが、そんなものは関係ない。
"オーク"対"流拳技"の時点で勝負は決まっている。流拳技はオーク共には決して容赦はしない。
なぜなら——
流拳技はゴブリン、オークものが大っ嫌いだからだ。
たくさんの特殊性癖を持った男が集まる道場『流拳技』
どんな性癖でも受け入れてきた道場『流拳技』
だが、ある三つの性癖だけは禁忌とされている。
それを持っている人間を見つけた、またはその場面に遭遇した場合、即刻処刑しろと言われている。
それは、
三大性禁——
「強姦」 「寝取られ」 「ゴブリン、オークもの」
この三つだ。
なので、
「オラァァァッ死ねぇクソオークが!!」
「クソ豚が! 女騎士さんが可哀想だと思わねぇのか!!」
「可哀想じゃ抜けないんだよッ!!」
山全体に、オークたちの悲鳴が響き渡る。
泣くオーク、流拳技の威圧で腰を抜かすオーク、股間を潰され、もがき苦しむオーク。
子どものオークや赤ちゃんオークも居たが、慈悲などはいらない。
どうせこいつらも将来、敗北騎士お姉さんにクソみたいなことをするからだ。
そんなこんなで、
オークどもをぶっ殺していると、兄弟子の一人が叫んだ。
「おい!! オークキングだ!!!」
一番デカい家から、他のオークより一回りほど巨大なオークが出てきた。
『オークキング』Bランクの魔物で、オークの中でトップクラスのパワーと統率力を持っている。
──なるほどねぇ、そりゃあこんなデカイ村も出来るわけだ。ってことは、こいつを倒せば終わりか。今回も無事に討伐完了しそうだなぁ
そう思っていたのは俺だけじゃなかった。兄弟子たちもそう思っているだろう。なぜなら、こちらにはAランクとBランクが三人もいるのだ。
いくらオークキングだろうとも、負けるわけがない。
だが、そんな俺たちの目に許し難い光景が映った。
オークキングの家から、人間の女が四人出てきた。
髪も肌もボロボロ。服も着ていない。
目に光が無く、希望を捨てたようなそんな目だった。
彼女たちがどんな目にあったか、何も言わなくても分かる。
そんな彼女たちもオークたちの悲鳴を聞き、何事かと思い、家から出てきたのだろう。
「なにこの状況? オークたちが死んでる…」
キョロキョロと辺りを確認する。
その時、
「一体何…が……起こっ………ぁ…あ゛ぁあ゛ぁ」
彼女たちの瞳に俺たちの姿が映った。
「う゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁ」
光を失った目から涙が溢れ出し、あらゆる感情が詰まった悲鳴をあげた。
そんな彼女たちの姿を見た瞬間、その場に居た全員がとてつもない怒りと殺意を抱く。
このオークキングは、完膚なきまでに殺さなきゃいけない。誰しもがそう思った。
だが、一人だけ他とは比べ物にならないほどの殺気を放っている男がいた。
殺気を操れる唯一の男——アビトだ。
「すみません、ここは俺にやらせてください」
オークキングに歩みを進める彼に、Aランクの兄弟子が訊く。
「やれるか? 相手はお前と同じBランクだぞ」
その問いに対し、振り返ることなく答えた。
「殺します」
殺気をさらに解き放つ。
そんな彼の姿に、オークキングが額に冷や汗を流す。
「ハハッ、アビトも強くなったな。あんだけの殺気を放てるようになるなんて。俺でも体の震えが止まらないよ」
エネルギーに殺気を混ぜ、拳に込めて吸収。拳が青黒く光る。
「かかってこいよ、クソオーク。殺してやるから、殺しに来い」
左半身を前に出し、右半身は少し後ろに。右の拳を軽く握り、左は人差し指でクイックイッと挑発をする。
オークがその挑発に乗り、右拳で殴り掛かってくのに合わせ、左手で横からオークの拳に力を加え、攻撃の位置をずらす。
─────────ビュンッ
オークの攻撃が空を切った。
その隙に、すかさず左足を踏み込み、右の拳をオークの腹目掛けて——
「殴殺!!!!」
「オクゴブッ!?」
オークキングの土手っ腹に風穴が空き、
─────────ズドンッッ
その巨体が後ろに倒れる。
オーク村討伐
――成功――
その後、オークたちの魔石や素材を回収し、女性たちと一緒にギルドに帰る用意をしていた。
オーク村ということで、一応女性の体を隠せるローブを持って来ていたため、女性に着せる。
女性たちは泣きながら「ありがとうございます、ありがとうございます」とずっと感謝をしてくれていた。
その時、俺たちは強く思った。
ゴブリンとオークは絶滅させなければ、と。
-----------------------------帰宅中
「グヘヘヘヘヘ」
拳を強く握りながらニヤけていると、
「どうしたんだアビト? またキモい笑い方してるぞ」
俺とそこまでキモさが変わらない兄弟子が話しかけてくる。
「オークキングを倒したから、オークキングのマナが大量に入ってきたんですよ!!」
「そうか〜Bランクを一人でだから……そりゃあ変な笑い方をするわな」
「でしょ!? 今、めちゃくちゃみなぎってますよ!!」
──また強くなったのを感じる!!
『マナ』とは、ダンジョンやモンスター、魔物が保有している力の源のことだ。
それは、力を求める者には強靭な筋力を、体力を求める者には強靭な心臓を、防御力を求める者には強靭な肉体を。
マナは、戦う者の『望み』に応じて力を与える。
俺は、"力"と"体力"を中心に上げている。
格闘家はもちろん攻撃力が必要だし、流拳殺技は、殺意と体力を混ぜて、殺意のエネルギーを作る。
そして、
殺意に体力を混ぜれば混ぜるほど威力が増す。
だから体力が必要なのだ。
-----------------------------
ギルドに魔石や素材、そして女性たちを引き渡し、道場に帰った。
道場に入ると兄弟子たちが――
「オークキングをアビトが一人で倒したんだぞ!!」
と、一緒に討伐をしていた兄弟子から聞いて盛大に褒めてくれた。
「アビト、良くやったな!! お前のおかげでたくさんの女の子が救われたぞ!!」
「お前は女騎士たちにとっての英雄だ!」
「これで汚される女の子がまた減ったぞ!!」
──あ、一人でオークキングに勝てたことにじゃなくて、女の子たちの未来を救った方を褒めるんだ……
なんとも言えないような気持ちになっていると、奥から師匠が出てきた。
そして、
「アビト、良くやった。十五歳でオークキングを一人で倒すとはな。さすがわしの息子じゃ」
とても褒めてくれた。
──ぱぱぁぁぁぁ〜
相変わらず稽古以外では俺に甘い師匠に感激をしていると、笑っていた師匠の顔が一気に真剣な表情に変わった。
「これでお前は立派な冒険者でもあり、流拳技の弟子でもある。オーク村討伐が最後の稽古だと言ったが…わしが直接最後の稽古をしてやる。準備しろ」
「はい!!」
そう言われ、いつも稽古で着ている紺色の道着に着替え、軽いストレッチをしながら、師匠が待つ広場の真ん中に向かう。
その広場を兄弟子たちやババァ全員が見守っていた。
なぜか……それはもちろん、俺が旅立つ前の最後の姿を見るためだ。
師匠やババァにとっては息子
兄弟子たちにとっては本当の弟のような存在だからだ。
全員に見守られながらも、互いに礼をする。
そして半身になり構え、拳にエネルギーを込める。
──さっきよりも多く、濃くッ!!
「始め!!」
──俺は師匠を超える!! だから、師匠を殺すつもりで……いや——
殺すッ!!!!
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!! 殴殺ッ!!」
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「楽しんでこい、アビト」
「ふんッ、もうあんたに回復しないでいいと思うと精々するよ」
師匠とババァが嬉しそうな、それでいて寂しそうな顔をしている。
「アビト!! 頑張れよ!!」
「たくさん女の子引っ掛けてこい!」
「見たことないエロ本あったら送れよ」
「どこの店が良かったかも手紙で書けよ!」
相変わらずどこかおかしい兄弟子たちだが、なぜか名残惜しさと愛くるしさを感じる。
少し切ない気持ちになっていると、師匠たちが前に出てきた。
「アビト、最後にワシらからの餞別だ」
そう言いながら、師匠とババァが俺の目の前に立つ。
──なにするんだろ?
そんな事を考えていると、二人から
「……ッ!?」
恐ろしく、恐怖の塊のような光が
温かく、優しさに溢れる光が
俺を包み込んだ。そして二人が言う。
「「我が息子に」」
「流拳技の」
「聖母の」
「「加護があらんことを」」
その二つの光には、確かな愛が感じられた。
こぼれそうになる涙を、震える体を必死に抑え
「今よりもめちゃくちゃ頑張って、今よりもめちゃくちゃかっこよくなって、今よりもめちゃくちゃ強くなります!! みんなに俺の活躍が届くくらいに!!!」
そして、
「今までお世話になりました!! 行ってきます!!」
そうして、師匠の拳で顔をパンパンに腫らした俺は、道場『流拳技』出て、旅を始めた。
父親を超えるために
こんにちは、マクヒキです!!
これからアビトが旅に出て色々な経験をします。楽しみにしていただけると嬉しいです!!




