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五殺目 成人

フゥゥーー。


深く息を吐き、集中力を高める。

そして、感情を殺意で埋め尽くし、殺気を解き放つ。


アビトからは強烈な殺気が放たれる。何者も寄せ付けない。

全てを蹂躙し、圧倒的な格の違いを見せつけるような、そんな青黒い殺気。


そして、次は、自分の体力エネルギーを可視化する。


見える、自分の体に流れるエネルギーが、心臓に貯まっているエネルギーが。


放出している殺意を体の中に入れる。

体の中で蠢く殺意を、心臓に貯まっているエネルギーに混ぜ込む。


よし、殺意のエネルギーが出来た。


これを拳に流し込む。流し込んだエネルギーを拳に吸収させる。


アビトの拳が青黒い光と、強烈な殺気に包まれる。

準備が整った。


目の前にあるのは、五メートル以上はある巨大な岩。



これを殺す。



「……殴殺!!」


殺意に満ちた拳が、巨大な岩に突き刺さる。



ドカーーン。



岩が粉々に砕け散った。


「よし!! 完璧。さっすがアビト君〜」


俺は今十五歳。成人したのだ。

スキル『流拳殺技』を発現させた時から今日までの三年間、俺は今まで以上に死にものぐるいで稽古をした。

時には殺意のエネルギーの操作をミスり血反吐を吐き、時には師匠に半殺しにされ、時には兄弟子たちと一緒にサンダードラゴンの巣に放り込まれたり。


本当に頑張ったなぁ……。

あー思い出しただけでムカついてきた。普通そこまでやるか?! あの時まだ成人してなかったんだぞ!しかも我が子だぞ!! サンダードラゴンの巣に放り込むとかイカれてんのか?


だがそんな俺も、今や立派なBランク冒険者だ。

本来は冒険者登録したらFランクから始まるのだが、


ギルド長オキド・シークが言ったのだ。

「アビト君はもうそこら辺の冒険者と同じくらい強いし、しかもガイトさんと同じスキル持ってるんだから。Bランクスタートにしちゃおっか!!」


あの人、見た目だけで中身は相当なバカなんじゃ?


そして今日は、俺が旅立つ前の最後の稽古。

兄弟子たちと十人で、オーク村の討伐だ。

メンバーはAランク一人、Bランク三人、Cランク七人だ。


集合場所に集まり、オーク村の近くまで移動する。


「よし、じゃあいつもの始めるぞ」

兄弟子が言う。


道場『流拳技』には討伐前にやるルーティンがある。

このルーティンはその場にいる一番強い弟子が掛け声をし、その他はそれに合わせ雄叫びをあげる。


そして、そのルーティンは大声でやり、しかも討伐対象の近くでやる。流拳技は奇襲などはしないのだ。自ら襲撃をバラしていくスタイルなのだ。


あぁーこんなふざけたルーティンも最後か。そう思うとなんだか寂しくなっちゃう。

そんなことを思っている時に、それは始まった。


Aランクの兄弟子が叫ぶ。

「偉大なる流拳技の弟子たちよ!! 準備はいいかぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


それに続け、俺らも叫ぶ。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「己の拳に、怒りを、憎しみを、悲しみを、殺意をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」


「偉大なる流拳技の弟子である我が命ずる——」

「殺せぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


殺気と雄叫びを放ちながら、オーク村へ突撃する。

もちろん、さっきのルーティンで襲撃はバレているので、フル装備したオークたちがぞろぞろと出てくる。だが、そんなものは関係ない。オーク VS 流拳技の時点で勝負は決まっている。流拳技はオーク共には決して容赦はしない。


なぜなら——




流拳技はゴブリン、オークものが大っ嫌いだからだ。




たくさんの特殊性癖を持った男が集まる道場『流拳技』どんな性癖でも受け入れてきた流拳技。

だが、ある三つの性癖だけは、禁忌とされている。

それを持っている人間を見つけた、またはその場面に遭遇した場合、即刻処刑しろと言われている。



三大性禁——

「強姦」 「寝取られ」 「ゴブリン、オークもの」


この三つだ。



「オラァァァッ死ねぇクソオークが!!」

「クソ豚が! 女騎士が可哀想だと思わねぇのか!!」

「可哀想じゃ抜けないんだよッ!!」


山全体に、オークたちの悲鳴が響き渡る。

泣くオーク、流拳技の威圧で腰を抜かすオーク、股間を潰されもがき苦しむオーク。子どものオークや赤ちゃんオークも居たが、慈悲などいらない。どうせこいつらも将来、敗北騎士お姉さんにクソみたいなことをするのだろう。


そんなこんなでオークどもをぶっ殺していると、誰かが叫んだ。

「おい!! オークキングだ!!!」


一番でかい家から、他のオークより一回りほど巨体なオークが出てきた。

オークキング。Bランクの魔物で、オークの中でトップクラスのパワーと統率力を持っている。


なるほどねぇ、そりゃあこんなデカイ村も出来るわけだ。

こいつを倒せば終わりだ。今回も何事もなく終わりそうだな。


そう思っていたのは、俺だけじゃなかった。兄弟子たちもそう思っていただろう。こっちにはAランクとBランク三人もいるのだ。いくらオークキングだろうとも、負けるわけがない。



だが、そんな俺たちの目に、許し難い光景が映った。



オークキングの家から、人間の女が四人も出てきた。

髪も肌もボロボロ。服も着ていない。目に光がなかった。希望を捨てたようなそんな目だった。


彼女たちがどんな目にあったか、何も言わなくても分かるだろう。


そんな彼女たちも、オークたちの悲鳴を聞き、何事かと思い、家から出てきたのだろう。


そして、光を失った目に、俺たちの姿が映った瞬間、彼女たちは溢れんばかりの涙を流していた。




その場に居た全員が、とてつもない怒りを、殺意を抱く。

このオークキングは、完膚なきまでに殺さなきゃいけない。誰しもがそう思った。




だが、一人だけ他とは比べ物にならないほどの殺気を放っている男がいた。殺気を操れる唯一の男——俺だ。


「すみません、ここは俺にやらせてください」

そういう俺に、Aランクの兄弟子が訊く。

「やれるか? 相手はお前と同じBランクだぞ」


その問いに対し、オークキングに歩みを進めながら、俺は答えた。


「殺します」


殺気をさらに解き放つ。オークキングの額には冷や汗がダラリと張り付いている。


「ハハッ、アビトも強くなったな。あんだけの殺気を放てるようになるなんて。俺でもアビトの殺気で体の震えが止まらないよ」


エネルギーに殺気を混ぜ、出来た殺意のエネルギーを拳に込めて吸収。拳が青黒く光る。


「かかってこいよ、クソオーク。殺してやるから、殺しに来い」


左半身を前に出し、右半身は少し後ろに。右の拳を軽く握り、左は人差し指でクイックイッと挑発する。


オークが挑発に乗り、右拳で殴り掛かってくる。左手でオークの拳に横から力を加え、攻撃の位置をずらす。半身になってるから、オークの攻撃は空振りする。すかさず左足を踏み込み、右の拳をオークの腹目掛けて——



「殴殺!!!!」



「オクゴブッ」



オークキングの土手っ腹に風穴があく。

オークキングの巨体が後ろに倒れる。


オーク村討伐、完了だ。


その後、オークたちの魔石や素材を回収し、女性たちと一緒にギルドに帰った。

オーク村ということで、一応女性の体を隠せるローブを持って来ていたため、女性に着せた。女性たちは泣きながら「ありがとうございます、ありがとうございます」とずっと感謝をしてくれていた。


その時俺らは強く思った。



ゴブリンとオークは絶滅させなければ、と。



オークキングを倒したことで、オークキングが保有するマナが大量に入ってきた。

また強くなったのを感じる。ダンジョンやモンスター、魔物はマナという力の源を保有している。

それは、力を求める者にはパワーを、体力を求める者にはスタミナを、防御力を求める者には強靭な肉体を。


マナは、戦う者の「望み」に応じて力を与える。


俺は、パワーと体力を中心にしている。

格闘家ファイターはもちろん攻撃力が必要だし、流拳殺技は、殺意と体力エネルギーを混ぜて、殺意のエネルギーを作る。


そのエネルギーは殺意が混ざっているので操作することができるのだ。

拳にエネルギーを送り、吸収させることで、「殴殺」という通常のパンチよりも高い攻撃力を発揮するパンチを放てる。つまり、体力を消費すれば、するほど威力が上がる。


だから体力が必要なのだ。


ちなみに、流拳殺技には拳の威力を上げる「殴殺」の他に、腕の振りの速度を上げる「流殺」などの技があるが、これらの技を作ったのはもちろん師匠だ。


そしてスキル名や技名は一番最初に発現させた人、作った人が命名する。


殺意と流拳技を操って戦うから「流拳殺技」。

殺意を込めて殴るから「殴殺」。

殺意を腕の中に流し続け、速度を上げるから「流技」。



うん、なんとも師匠らしい、安直な名前だ。





ギルドに魔石や素材、そして女性たちを引き渡し、道場に帰った。

兄弟子たちが「オークキングをアビトが一人で倒した」と聞いて盛大に褒めてくれた。


「アビト、良くやったな!! お前のおかげでたくさんの女の子が救われたぞ!!!」

「お前は女騎士たちにとっての英雄だな!」


あ、一人でオークキングに勝てたことじゃなくて、女の子たちの未来を救った方を褒めるんだ……。


なんとも言えないような気持ちになっていると、奥から師匠が出てきた。


「アビト、良くやった。十五歳でオークキングを一人で倒すとはな。さすがわしの息子じゃ」



ぱぱぁぁぁぁ〜



「これでお前は立派な冒険者でもあり、流拳技の弟子でもある。オーク村討伐が最後の稽古だと言ったが、わしが直接最後の稽古をしてやる。準備しろ」


そう言われ、いつも稽古で着ている紺色の道着に着替える。

軽いストレッチをし、師匠が待つ広場の真ん中に向かう。兄弟子たちやババァ全員が見守る。

なぜなら今からアビトの最後の稽古が、そして──────流拳殺技同士の本気の殺し合いが始まるから。


互いに礼をし、半身になり構える。拳にエネルギーを込める。さっきよりも多く、濃く。


「始め!!」


俺は師匠を超える。師匠を殺すつもりで、いや——



殺すッ!!!!








-------

「楽しんでこい、アビト」

「ふんッ、もうあんたに回復ヒールしないでいいと思うと精々するよ」


師匠とババァが嬉しそうな、でも寂しそうな顔をしている。


「アビト!! 頑張れよ!!」

「たくさん女の子引っ掛けてこい!」

「見たことないエロ本あったら送れよ」

「どこの店が良かったかも手紙で書けよ!」


相変わらず、どこかおかしい兄弟子たちだが、なぜか名残惜しさと愛くるしさを感じる。


師匠たちが前に出てくる。


「アビト、最後にワシらからの餞別だ」

そう言い師匠とババァが俺の目の前に立つ。



なにするんだろ?



そんな事を考えていると、師匠とババァから——


恐ろしく、尋常じゃない殺気が、

温かく、優しさに溢れる光が、


俺を包み込んだ。そして二人が言う。





「「我が息子に」」


「流拳技の」

「聖母の」


「「加護があらんことを」」






深く息を吸い込み、満面の笑みで、


「今よりもめちゃくちゃ頑張って、今よりもめちゃくちゃかっこよくなって、今よりもめちゃくちゃ強くなります!! みんなに俺の活躍が届くくらいに!!!」



こぼれそうになる涙を、震える体を必死に抑え、



「今まで、お世話になりました!!!!!!」


「行ってきます!!!」


そうして、顔を師匠の拳でパンパンに腫らした俺は、道場『流拳技』を出て、旅に出た。


こんにちは、マクヒキです!!

これからアビトが旅に出て色々な経験をします。楽しみにしてくれると嬉しいです!!

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