五十三殺目 復活
「少年、……戻ってこい…最強になるんだろ」
Sランク冒険者シニィ・テラルが祈りを込めながら、アビトに回復魔法を掛け、
「クソッ…ここまで魔力を込めても……」
その彼女の弟子であるSSランク冒険者ルーシェ・ナイトウィルが回復魔法の効果を上げる聖域を展開し続ける。
「……」
だが、そんな彼女たちの魔法でもアビトの体は未だ原型をとどめておらず、呼吸も意識も戻らないでいた。
「アビトお願い……お願いだから……また一緒にッ…」
その横では、セレネ・ナイトウィルが欠損したアビトの右腕を両手で握りしめ、咽び泣きながらも声を掛け続けている。
「ねぇ…なんで……ッ…なんで答えてくれないの…」
息を吹き返さない彼の姿、高ランク冒険者二人でも回復出来ないような傷、そして――そんな状況にも関わらず何も出来ない自分の弱さで、彼女の精神は既に限界を超えていた。
「…アビト………」
-----------------------------そして、少し離れた場所では、
「フハハッッ!!!! 素晴らしい剣術だ!! 先程の言葉は訂正しようッ」
「うっせぇぞ!! そう言いながら俺の攻撃全部防いでるじゃねぇかッ!!」
その場には流転の魔王ヴォルク・カレイドとSSSランク冒険者アタラウス・ロゼ。
そしてアタラウスの後方に十数人の高ランク冒険者が立っていた。
「そんなことはない。我も少し動揺しているぞ……この時代にここまで基礎を徹底し、技術を磨き上げている者などそう居ないからなッ」
「いやぁ〜そ、そこまででもないけどぉ〜」
「だが――なぜスキルを使わない? 先程の技であれば貴様が優勢になるやもしれんぞ」
「おめぇが能力使ってないからだよッ!! なんか俺だけズルしてるみたいじゃん!!」
「舐めたことを……死ぬぞ?」
「いいも〜ん!! 俺がお前のこと殺すも〜ん!!」
最強同士の争いに…ましてや殺し合いに相応しくない程、呑気な会話をしている二人。
だが、その会話を聞くだけでは到底想像出来ぬような戦闘を二人は繰り広げている。
アタラウスの刃とヴォルクの拳――その二つがぶつかる度に暴力的な衝撃波が辺り一面に響き渡っていた。
「おいッ!! お前アタラウス様のサポートするはずだろ!? 行けよ!!」
「無理に決まってんだろッ!! 誰があんなバカみたいな戦闘に参加出来んだよ!!」
「はぁ!? お前Sランクじゃねぇのかよ!! あの太った子はセレネ様の為に死ぬまで戦ったんだぞ!?」
「んなもん知るかッ!! ……つか、てめぇもSランクだろが!!!! お前がサポートしろや!!」
「余裕で死ぬわ!! お前目ついてんのかッ!?」
その戦闘はアタラウス本人が集めた実力あrySランク冒険者でさえも、怖気付く程激しく恐怖に満ちていた。
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「シニィさん!! …ック……これ以上は聖域が魔力に耐えられず崩壊しますッ!!」
「ダメだ……ダメだダメだダメだダメだ…少年…君は死んじゃいけない、ダメだ…私じゃ……クソォッ!!!!」
ただでさえ、彼を生存させる確率が極わずかなにも関わらず、魔王ヴォルクのスキルの影響で回復魔法が効きづらく長い時間を要していた。
そして治療を初めて約十分。
修復することができたのは手足が五割程。
胴体に至っては三割にも満ていない。
全てを修復するにはあと二十分以上は掛かってしまう。
果てして二十分経った後で、彼は息を吹き返すのか。
その答えを彼女たちは理解していた。
だがそれでも、
「アビトッ!! アビトッッ!!!! ア゛ヒ゛ト゛! ! ! ! 」
誰一人として諦めることなく、魔法を展開し続け、回復魔法を掛け続け、意味がないと分かっていながらも必死に声を掛け続けていた。
「アビト!! アビト!! アビ…… ア…… 」
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「アビト。今日はお前に"ある技"を教えるぞ」
「ある技? どんなのですか師匠?」
「その技はな、自分よりも圧倒的に強い、勝てる可能性が微塵もない相手に使う技だ」
「なんで勝てる可能性が少しでもある相手には使っちゃダメなんですか?」
「この技は自分の限界以上の力を引き出し、殺意の赴くままに敵を殺す」
「おう」
「つまり"暴走"だ」
「おん」
「少しでも勝率がある相手に"暴走状態"で勝つのと、"自分の実力だけ"で勝つのは……どっちがカッコイイ?」
「あなるほど……」
「そういうことだ」
「どうやってその技を使うんですか?」
「それを今から教える。よく聞け」
「うい」
「まず、大量の殺意を放ち……」
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「アビト!! お願い戻ってきて!!!! お願い……だか…ら」
呼び掛ける彼女の声が止まる。
──……なに……これ? アビトから…
それはセレネが見つめるアビトの体から、不吉な気配を纏った青黒い光が漏れ始めたからだ。
「これどこかで……ッ?!」
──これ……私を逃がしてくれた時にも
その光は数刻前、セレネが彼から感じ取った恐怖のオーラと同じモノだった。
だが、
「シニィさんこれッ!!」
ソレが出ているということはアビトが生きているということだと感じた彼女は、隣で回復魔法を掛け続けるシニィの方を振り向く。
「殺…気……? でもまだ意識も、怪我も…」
しかしシニィは先程よりも深刻な顔になり、ボソボソと呟き始めていた。
隣にいるセレネにも聞こえないような声量で。
「し、シニィさん?」
「意識が戻った? いや……その傾向も全く見られない…」
「これ……どういった状況で…」
そんな彼女の反応に疑問を抱きつつ、何を言っているのかと耳を澄ませると、
「なぜだ? スキルは意識の元に発動するはずだ……なのに少年のスキルが……」
「え…? アビトにスキルが……これが…?」
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「師匠、大量ってどのくらいですか?」
「お前が制御出来ぬ量だ」
「え?! 制御出来ない量って……ヤバくないですか? 僕、前それで暴れて兄弟子半殺しにしちゃいましたよ?」
「あぁそうだったな。だが、アイツは当時のお前より強かったはずだったろ?」
「あッそういうこと!? じゃあとにかくいっぱい殺気放てばいいんですね!!」
「違う」
「え、違うの?」
「その放った殺気を消さずに体内に取り込むのだ」
「いや、制御出来ない量を出してるんだから無理でしょ…」
「それを死ぬ気でやるのだ」
「おっふ」
──結局力技じゃん……
「取り組むことが出来れば、体中のエネルギーと混ざり合い、身体能力や脳の処理能力が上がる。そして殺気の濃度が上がることで操作性もエネルギーの質も上がるのだ」
「ふーん……ちなみに師匠は使ったことあるんですか?」
「ある。だが、今では我を失わずにそれを使いこなしている」
「ほえ? そんなめっちゃ強くなる技を正気を保ったまま扱えるんですか?」
「お茶の子だ」
「マジかよ」
「ちなみにソレをワシみたいに扱えるようになると、二つ上のランクぐらい強くなるぞ」
「マジかよおい。……じゃあ僕でもあの"壁舐め野郎"に勝てますか?」
「あいつは……まだ無理だ。頭はおかしいが実力は本物だからな」
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「どんどん膨れ上がってくるッ……どういうことだ?!」
彼の体に何が起きているのか分からず、動揺を隠せないシニィに対し、
「また……これ…だ」
溢れ出すアビトの殺気の量に比例し、セレネの顔色が悪くなり、今にも倒れそうになっていた。
彼の強烈な殺気で意識が遠のき始めているのだ。
「やだ…アビ……ト、また、、、無茶、」
セレネの呼吸が止まり、目の前がかすみ始める。
「セレネ…ちゃん…」
心配するシニィの声すら遠のいていき、
「――ッ!? セレネちゃん!!」
体が横へ崩れる。
その瞬間――
消えた。
先程まで全てを蹂躙するかの如く放たれていた殺気が、一瞬にして消えたのだ。
「ッぷは!! はぁはぁはぁはぁ」
殺気が止まったことでセレネの呼吸も戻り、なんとか気を失わずに起き上がることができた。
「大丈夫かい、セレネちゃん?!」
「はい……なんとか……」
体の中には気絶直前の感覚がまだ広がっており、その気持ち悪さで口元を抑える。
まだ気分が悪く、今にでも吐き出しそうな状態。
にも関わらず、
「アビトは……」
彼の心配をし、シニィに問いかける。
「分からない。ただ、」
すると問いかけた彼女が彼の体を指を差した。
「え…」
その先には、
「傷が治ってッ……いや、違う…なにこれ…青い…」
欠損していたアビトの手足やえぐれていた腹部には、紺色の肉体が造られていた。
「殺気が消えたと同時に……」
その肉体には恐怖の気配が消えており、ただ青黒いオーラが漂っている。
だが完全に消えているからこそ、現在のアビトの気配は更に異様なモノとなっていた。
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「で、取り込んだ後はどうするんですか?」
「取り込んだ殺気を体力のエネルギーと混ぜ、殺意のエネルギーを作る。そしてそれを全身に廻せ」
「……殺気って自分が制御出来ない量ですよね? それを?」
「エネルギーと混ぜて、廻す」
「どうやって?」
「踏ん張る」
「……」
──このジジィ…殺してやろうかな……
「廻すことで身体中が強力な殺気に満たされる。だから我を失い殺意の赴くまま暴走するんだ」
「なるほどねぇ」
「ちなみに怪我や負傷をしていたら、殺意のエネルギーが勝手に修復したり、補ったりしてくれるぞ」
「なにそれすっご。それってどういう原理なんですか?」
「……お前じゃ分からん。説明しても」
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─────────ザザ、、、ザザ、、、
微かにザラついた音がした。
「ッ?! アビトッッ!!!!」
それはアビトの手が動き、地面を掴んだ音だった。
さらには、
─────────はぁ…はぁ…はぁ…はぁ
呼吸の音も鳴り始め、
「少年!!」
そのままゆっくりと体を起こし、
「あ……よ……よか゛っ゛た゛……アビト…ありがとう…」
目を開けた。
復活したのだ。
回復魔法が効かず、手足がちぎれ、胴体にも大きな空洞ができていたにも関わらず、
意識が戻って起き上がり、目を開けたのだ。
「ア゛ヒ゛ト゛ォォォ!!!!」
そんな彼の姿にセレネは思わず抱きつき、喜びを幸せを、そして感謝を全身で表現し、声を上げる。
「本当に良かったッ……私……わ゛た゛し゛……あ、ッ…アビ…トが…死んじゃってたら……」
泣きじゃくりながらも必死に今の思いを伝えるため、更に顔を近づける。
「わ、わたしの……はじ、めッッ…ての仲間で……相棒で……本当にだ………」
しかし――顔を近づけた瞬間、セレネの言葉が詰まった。
「え……?」
それは、
「なに…を……言ってるの…?」
アビトが小さく呟いていたからだ。
「……せ……こ……」
「アビ……ト……アビト…アビトッアビトッッ!! アビトォッッ!!!!」
まるで正気を取り戻させるように、セレネがアビト両肩を掴み、激しく揺らす。
「こ……ッ……せ」
それでも彼はある一点を見つめながら
「アビトッ!! アビト!! 落ち着いてッッアビト!! アビトッ!!!!!」
「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」
そう呟いていた。
こんにちは、マクヒキです!!
最近プライベートが忙しく、なかなか更新が出来ていなかったですが、これからは元のペースで更新出来そうです!!
これから、そしてこれからもこの作品を読んでもらえるとドチャクソ嬉しいです!!




