五十二殺目 魔王VS魔王討伐部隊
「ア゛ヒ゛ト゛ッ…ぁ…゛……ア゛ヒ゛ト゛! ! あ゛ぁ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛」
セレネの悲痛な叫びが響き渡る。
煙が晴れた彼女の足元には、
手足が原型が無くなるほど捻れ、
身体中からは大量の血液や体液が流れ出ており、
胴体には大きな風穴が空いた
アビト・ハーライドが転がっていたからだ。
「ア゛ヒ゛ト゛ッ゛ッ゛! ! ア゛ヒ゛ト゛ッ゛ッ゛! !」
手や衣服が汚れることなど気にも留めず、倒れている彼の体を掴んで揺らすが、
「ア゛ヒ゛ト゛ッ゛ッ゛! ! お゛ね゛か゛い゛! ! 返事してッ!!!!」
アビトが動くことはなかった。
「なんで…なんでッ!! 生きて戻ってくるって言ったじゃない!!」
その場には、一人のか弱い少女が生きているはずのない少年を抱きしめ、叫び続けている光景が流れていた。
そこにいた者全員がその二人を見つめていたが、慰めることも駆け寄ることも……話しかけることさえも出来なかった。
それほど重たく、凍てつくような空気が流れていた。
だが、
そんな光景を見せられ、ずっと黙ってただ見ているだけの弱者はその場にはいなかった。
「ルーシェ!! 聖域を使えッッ!!!!」
シニィの叫びで凍っていた時間が動き始める。
『熾天聖域!!』
ルーシェの声と共に辺り一面が光り輝き、討伐隊を囲うように神々しい光の半球が作られた。
ルーシェが唱えた光属性魔法の上級魔法である『熾天聖域』
この魔法は任意の場所に聖域を創ることができる。
その聖域の効果は複数あるが最も代表的なモノは、
"浄化"と"治癒促進"
呪いや感染などを祓い、怪我や傷の回復を早める。
そして、回復魔法の効果もあげるのだ。
「セレネちゃん、そこどいて!!」
魔法が発動されたと同時に、シニィがアビトの元へと駆け寄った。
「息は…」
アビトの顔に耳を近づけ呼吸を確認する。
「……」
「――ッ…クソッ!!」
数秒耳を澄ませた後、呼吸を確認していたシニィの表情が歪み、拳を自らの体に打ち付け始めた。
「シニィさん…ア、…アビ…トは……」
その反応は情緒が安定していなかったセレネにも、"息をしていない"ということを察することができた。
体は原型をとどめておらず、呼吸もしていない。
それは確実な死を表していた。
だが、
「私が治す!!!!」
それでも現最強の回復魔法使いは諦めてはいなかった。
「…ッ絶対に死なせない!! セレネちゃんは少年にずっと呼び掛けて!!」
──あの岩にぶつかるような攻撃を受けるまでは息も意識もあったはずだ。…まだッ!!
「は、はい!!」
僅かな希望に賭け、魔法を発動させる。
『超越再生!!』
シニィの手から黄緑色の霧が噴き出し、アビトの体を包み込む。
上級回復魔法『超越再生』この魔法は欠損、負傷した部位を元通りに再生させることができる。
「あ…アビトの腕が……」
魔法の効果で原型が無くなるほど捻じ曲がっていた彼の腕や胴体の穴が再生していく。
が、シニィの顔はさらに苦痛な表情へと変わった。
「ッチ!! このペースじゃダメだ…時間が掛かりすぎる…」
この魔法は負傷した者がマナを有していればいるほど、回復魔法の質と量、そして時間が求められる。
さらに負傷した原因の攻撃がスキル、もしくは強力な魔法の場合、体に残ったスキルの残骸や魔力の影響で回復魔法が効きにくいのだ。
そして、今回の負傷の原因は最強の魔王のスキルによるもの。
通常の回復魔法よりも格段に時間が掛かってしまう。
それを察したシニィが、
「ルーシェ!! もっと効果をあげろ!!」
いち早く復活させるため、聖域を展開し続けるルーシェの方を振り向き、指示を出す。
その時――
─────────バンッッッ!!!!
突如、その場に大きな破裂音が響き渡った。
そしてその音と同時に、
「ほぉ……貴様は"不老の聖女"ではないか。確か部隊には入っていなかったはずだが?」
「――ッ!?」
「あ…ぁあ……あ…」
その破裂音と同時に、先程まで巨岩の奥にいた流転の魔王ヴォルク・カレイドが目の前に立ちはだかっていたのだ。
「どうした? さっさと回復を続けろ」
不敵な笑みを浮かべながらアビトを回復させているシニィを見つめている。
「は……今の一瞬で…?」
その笑みはシニィの体が激しく震える程、恐怖に満ちていた。
「回復に集中しなくていいのか?」
「くッ…」
──クソッ!! どうする……私は何も出来ないし、あの速度なら他のヤツらが魔王に攻撃する前に、確実に私たちの方が先に殺されるッ
彼女は現在、ヴォルクに攻撃することができない。なぜなら、一瞬でもアビトへの回復魔法を中断させると僅かな可能性が完全に消え去るからだ。
そしてもちろん、その場から離れることもできない。
文字通り、"死の間際"
「その男は必ず生き返らせろ…遠くない未来に利用するからな。できなければ……分かるな?」
「……ッ」
だが、それでも、
「……ハハッ」
彼女は震える頬を無理やり引き上げ、
「黙ってなよ……ちゃんと殺してあげるからさ」
ヴォルクを睨みつけながら、言葉を吐いた。
その行動はSランク冒険者"不老の聖女"としてのプライドが――そして、
「ククッ貴様ごときが我を殺せるとでも?」
「そんなの無理に決まってるでしょ」
──おい、もう……
「私じゃアンタは殺せない。だから――」
──……起きてるんだろ?
「あんたを殺すのは……」
「――ッ!?」
突如、ヴォルクとシニィの間に一人の剣士が立ち塞がった。
「俺のかわいいかわいい友達を怖がらせないでもらってもいいか?」
「お前は…!?」
『神鳴』
その男の声と共に、手にしていた刀が地響きのような音を鳴らしながら振動し、
「――ッグ!!」
その震える刃がヴォルクの胸元を斬り裂いた。
「おッ! 俺の攻撃効くじゃねぇか!!」
「……」
斬られた箇所からは血が流れ、ヴォルクは赤く染った胸を抑える。
それに対し男は自分の刀を見つめ、
「こりゃイケるぞ!?」
異様に高いテンションで素っ頓狂な声を上げていた。
「おいおい、これワンチャン倒せるよ!?」
そして、アビトとの戦闘でこちらも異様に昂っているヴォルクは胸元を抑えながらもその笑みを絶やしてはいない。
「フッ、挨拶もなしに斬りつけるなど……先代に申し訳ないと思わないのか?」
不気味な笑みを浮かべながら吐いた言葉は、非常に皮肉に満ちていた。
「なに言ってんだ。先代はもう死んでんだから"申し訳ない"とかそういうのいらねぇだろ。てか、お前が殺したじゃねぇかッ!!」
そう叫びながらもヴォルク同様、ニヤけた表情をしているこの男は、
「そうだったな。しかし…我の元に来たということは……先代のように殺されたいからだろ? アタラウス・ロゼ――」
「現代の『剣聖』よ」
「んなわけねぇだろ、お前バカか?」
無造作に整えられた白髪混じりの茶色の髪に灰色の袴を着付け、刀を握る中年のこの男こそが、
SSSランク冒険者 三名の内の一名
名は、アタラウス・ロゼ
異名『天災の剣聖』
シニィの昔ながらの友であり、流転の魔王 ヴォルク・カレイド討伐隊の主導者である。
「というか俺、先代の剣聖とそこまで関わりなかったぞ? 流派もちげぇし」
そんな男は目の前に最強の魔王がいるにも関わらず、大きく欠伸をし、だらしなさを醸し出している。
未だ楽観的な思考をし、挙句の果てには刀を構えずにいた。
なぜそこまで余裕な態度をとれるのか?
それは彼も"最強"だからだ。
そんな彼に、
「おい、アタラウスッ!! いつまで寝ていたんだい!! 死ぬとこだったんだぞ!?」
旧友であり、アビトを回復中のシニィが罵声を浴びせた。
「ごめんってシニィちゃん。でもちゃんと守ったぞ?」
背中越しで顔は見えないが、その声からは申し訳なさが一切感じ取れない。
「――チッ!! もういい!!」
自分の命の危機だったのにも関わらず、反省の色が一切見えない男に舌打ちしつつ、
「全員、作戦通りアタラウスの援護をしろッ!! そしてここから離れた場所で殺れ! いいねッッ!?」
「「はい!!」」
アタラウス同様、魔王ヴォルクに武器や杖を構えている冒険者たちに指示を出す。
すると、
「ルーシェちゃんはどうすんだ? ルーシェいないと俺勝てないぞ?」
未だヴォルクと睨み合っているアタラウスが、現在も聖域を展開し続けているルーシェへ言った。
「私は今手が離せないッ……貴様一人でヤれ!! その男の回復が終わり次第私も向かう。そいつはここで死んでいい人間ではないッ!!」
いつものように冷たい目でアタラウスを見つめながらも、その表情はどこか疲労した様子だった。
そんな彼女の発言に、
「ハァーッ、シニィちゃんとルーシェちゃんにここまでさせるなんて……その太っちょは何者だ?!」
アタラウスが驚きの声を上げながら未だに回復中のアビトの方を振り向き、見つめた。
その瞬間――
「貴様……さては自惚れてるな?」
「あ」
「おい、バカッ!!」
ヴォルクが一瞬で間合いを詰め、
「――ゴハッッ!?!?」
アタラウスの横腹を拳で撃ち抜いた。
「おい……アタラウスッ!!」
ギリギリで反応し、拳との間に刀を挟み防御を試みたが、あまりの威力に刀ごと体にめり込み、その勢いのまま吹き飛んだ。
「貴様が斬ったのはたった薄皮一枚だ」
殴った体勢から戻ったヴォルクが胸元から垂れていた血を指で拭うと、そこから非常に浅い傷跡が出てきた。
指に着いた血ははらい、
「だがそれは…確実に我を殺そうとした攻撃だ。よって、」
両手を広げ、
「今から貴様らを鏖殺するッ」
ヴォルクが天を見上げ、高笑いをあげた。
そして、少し離れた――アタラウスが吹き飛ばされた所からは、
「ごめん、シニィちゃん!! ルーシェちゃん!! 俺、勝てないかもッ!!」
こんにちは、マクヒキです!
初の現役SSSランク冒険者の登場です!!




