五十一殺目 間に合
──この一撃に全てをッ
己の限界を超え、怪物へと変貌したアビトが
「己の拳に殺意をぉぉぉぉ!!!!」
その拳に、残りの体力と全ての殺気を注ぎ込む。
「う゛お゛お゛お゛ォォォォォ」
ヴォルクに飛びかかり、濃く強烈な殺気を纏わせた一撃を、
『殴殺ッッ!!!!』
顔面に打ち込んだ。
その威力は――
「ククッ素晴らしい………素晴らしいぞッ!!」
アビトの全力の一撃は、
「なん…で、……だよッ」
流転の魔王から、たった一滴の血を流させることしか出来なかった。
「良い拳だ……久々に我の脳が揺れたぞ」
挙句の果てには、そんな攻撃を喰らってもなお、一歩たりとも後ろに下がっていなかった。
どっしりと構えた仁王立ちのままだった。
「ク…ソ…がッ……」
ただ、口からポタッと赤い雫が一回落ちただけ。
そして、
「貴様なら……アビト・ハーライドならッ!! 我の願いが叶うかもな!!」
天高く空を見上げ、手を大きく広きながら高笑いを上げる。
「ククク……フハハハハハハッッ!!!!」
その姿はまるで恐怖そのものだった。
それに対しアビトは、
「……ぁ…ぁ……ぐッ…ぁ」
今の一撃で体力を使い果たしたことにより、拳が力なく垂れ下がっていた。
「ぁ……はぁ…ぁ……」
全身で呼吸をするも、息を吸う体力すら残っておらず、もう倒れても……死んでもおかしくない状態だ。
そんな状態の彼にヴォルクが言う。
「貴様には散々楽しませてもらったな」
「…ぁ…ぁ……ぁ」
言い返す力がなく、アビトは睨みつけることしか出来なかった。
「それに今回の件で、我の未来がとても良いものになりそうだ」
鋭く突き刺さる瞳を気にすることなく、
「"コレ"は本物の強者にしか使わないのだが……」
ヴォルクは動かないアビトの腹部へ指を伸ばした。
「今回は特別だ。我からの褒美だと思え」
「ぁ…ぁぁ……ぁ…」
腕を動かすことも出来ないアビトはただされるがままの状態、抵抗すら出来なかった。
「……死ぬなよ」
そう呟きながら、伸ばした中指を力を溜めるように親指に引っ掛けると、
「……ぁ…ぁ…ぁ」
指先の空間が歪み、透明な丸い塊へと姿を変え、
『圧壊』
破裂した。
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「全員速度を上げろッ!!」
「「はい!!」」
ルーシェの指示で部隊の移動速度がさらに増す。
山道を大きな蹄で駆け巡る褐色の剛毛に覆われた馬"ノーム・ホース"が、大地を強く鳴らしながら加速する。
そして先頭を走る一体のノーム・ホースには、焼けた肌の少女とそれに泣き縋るように抱きつく黒髪の少女が乗っていた。
「シニィさん……アビトは…」
「正直に言うと……ッ…少年を死なせずに連れて帰ることは難しい」
手網を握るシニィが悔しさを堪えながら呟く。
「この部隊は、流転の魔王を倒す為だけにアタラウスが作った少数精鋭の最強部隊だ。そして今回の為に長い時間を掛けて情報収集をし、作戦を練ってきた」
「アタラウス様自ら、それに長期にわたって……しかも姉さんもシニィさんもいる……」
「そうだ。さらに成功率を上げるため、前線から身を引いていた私まで連れ出され、この作戦が決行された」
「……だ、だったら!! 魔王に…だっ……て」
"勝てるはず"そう言おうとした時、後ろから見ていたシニィの顔が
「それでも私は…………私たちは…」
「生きて帰れるとは思っていない……」
小刻みに震え、うなじからは汗が流れていた。
──もしかして、シニィさん…
「知っているかい、セレネちゃん」
「え…」
「…Sランクでも死ぬのが怖いんだよ」
「――ッ」
セレネはその時改めて理解した。いや、させられた。
Sランク冒険者であるシニィだけでなく、他の高ランク冒険者も。そして、
「ね、姉さん……」
自分にとって超えなければならない壁であり、雲の上の存在でもある
『SSランク冒険者 ルーシェ・ナイトウィル』
彼女でさえも、身体を震わせていたからだ。
そして、
"最強の存在である彼女らが震えている"これが表す意味は…
「さっきの続きだけどね」
「は、はい」
──さっきの…?
シニィが後ろを振り向くことなく続ける。
「私たちでも生きて帰れる自信がない相手と……」
「あ……」
「少年は二十分以上戦闘をしている」
最強である姉、そしてその師匠であるシニィと奇跡的に遭遇し、微かに光を取り戻したセレネの希望が――
「私たちが助ける前に……」
「既に殺されている可能性がある」
再び、完膚なきまでに打ち砕かれるということを意味していた。
「それも………極めて高確率で、だ」
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ルーシェが先頭を走る討伐隊が森を抜け、辺り一面岩肌のマテリアル大地に突入していた。
「セレネ!! ヤツらはどこで戦闘している!?」
「た、たしか……あの大きな岩山の奥ッ!!」
彼女が指差したのは、周りのよりも一際大きく、そびえ立つような巨岩。
セレネは馬車まで逃げる際、あの巨岩の横を通ったのを覚えていたのだ。
「あそこか…近いな……」
その巨岩まではおよそ二キロ。
最前線を走るルーシェが、その瞳をギラリと光らせ、杖を天高く突き上げながら叫ぶ。
「全員、ここから先は一秒たりとも気を抜くな!! その一瞬が貴様らの最後だと思え!!」
「「「オオォォォォォッッッ!!!!」」」
ルーシェの鼓舞により部隊の全員が、自らを奮い立たせる雄叫びを上げた。
「アビト……お願い…」
「……ッ少年…」
皆それぞれの覚悟を決め、巨岩へ向かう。
ある者は自らの命を、ある者は家族を、ある者は友や仲間を、そしてある者は大切な者の命を。
そんな思いが駆け巡っているなか、
「即、馬を降りて戦場に向かうぞッ!!」
ノーム・ホースの強靭な脚力によって、全員が巨岩の前に到着した。
だが、
ルーシェが部隊に指示を出したその時、
「ルーシェさん!! 戦闘音も、どこかで戦っている様子もありません!!」
「ッチ!! やはり…もう…」
部隊から少し離した位置で偵察をしていた冒険者が戦況を伝えに来た。
その内容はアビトと魔王が現在も戦っている痕跡がないというものだった。
「……仕方がない。私が直接確認をするッ!!」
討伐対象である魔王とアビトがどこにいるのかを把握するため、
『天使の羽』
翼を生やし、上空から状況を伺うことにした。
その時――
─────────ス゛ト゛ン゛ッッッ ! ! ! !
「――ッ!? 何が起きた…いや、何が通った……?」
翼を広げた瞬間、目の前にそびえ立っていた巨岩を"何か"が貫き、粉砕した。
その影響で辺り一面土煙で視界がボヤける。
「お、おい…一体何が…」
「ルーシェ様の…魔法か?」
そんな状況を誰も掴むことができず、困惑していると、
「思っていたより早かったではないか。さては…あの女だな」
突如として響いたその声は、微かに高揚しており、
「全員構えろォォォォォ!!!!!!」
その声の方向には人影が現れていた。
ルーシェの叫びで皆が武器を構え、その影を睨みつける。
「やはり…バレていたか…」
徐々に煙が晴れていき、その姿がだんだんと顕になっていく。
だがその全貌を見らずとも、その場に居た者全てが誰なのかを理解していた。
ルーシェでさえも呼吸が乱れ、息が荒れてしまう程の圧倒的なオーラ。
「お前が流転の魔王…ヴォルク・カレイド……だな?」
「ハハッ、ご名答!!」
不敵な笑みを浮かべながら立っていたのは、紺と橙色の髪をなびかせ、額からは二本の角が生えた魔物――七騎の魔王が一人、流転の魔王だった。
「…と、言いたいところだが、貴様らは我を倒すためにわざわざここまで来たのだから……分かるのも当然か」
そして、それだけではなかった。
「本来であれば貴様らがここに来るまでには城に帰るつもりだったんだがな……」
そう言いながらルーシェを――いや、煙が晴れたルーシェたちの"足元"を指差し、
「せいぜいその男に感謝するんだな」
呟いた。
「は? その男だと……」
その言葉でルーシェが足元を確認しようとした瞬間、
「イ゛ヤ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」
セレネの悲鳴が響き渡った。
それは感情が溢れ出し、喉が引き裂けそうな、悲惨で悲痛な激しい悲鳴だった。
なぜなら、彼女の足元に巨岩を猛スピードで貫いた"モノ"が転がっていたからだ。
「ア゛ヒ゛ト゛ッ…ぁ…゛……ア゛ヒ゛ト゛! ! あ゛ぁ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛」
彼女の足元には、
手足が原型が無くなるほど捻れ、
身体中からは大量の血液や体液が流れ出ており、
胴体には大きな風穴が空いた
アビト・ハーライドの姿が映ったからだ。
こんにちは、マクヒキです!!
ぐちゃぐちゃアビトです




