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五十殺目 居るはずのない姉と妹



「なぜお前がここにいるのか聞いているのだ、セレネッ!!」



彼女が振り向いた先にいたのは


「姉さん……」



ここにいるはずのない実の姉ルーシェ・ナイトウィルであり


そして、



「だからなぜこッ――!?」



「姉さんッ!! 姉さんッ!! 姉さんッ!! 姉さんッ!!!!」



いてほしいと願い続けたSSランク冒険者でもあった。



「姉さんッ!! 姉さんッ!!」


彼女は慌てて姉にしがみつき、泣き叫ぶように名を連呼する。危険な目に遭っている仲間のために。



セレネは成人する前から、姉のルーシェに自ら話しかけるのは愚か、助けを求めるなど決してしていなかった。

自分と比べられる存在で、自分が劣等感を抱いている原因だからだ。


そしてルーシェもセレネに特別な用がない限り話しかけることはなかった。


そんな間柄だからこそ、ルーシェは目の前の妹がどれ程までに焦っているのか、危険な状態に陥ってるのかをすぐさま理解した。


「姉さんッ!! ねえさッ――」



─────────パチンッッ



「落ち着けッ!!」


泣き叫んでいたセレネの頬を手のひらで打ち付け、正気を取り戻させる。


「一体何があった。そして、なぜここにいるのかを簡潔にまとめろ。でなければなにも分からないぞ」



普段はしないような優しい口調といつものような鋭い目でセレネを見つめた。



「はぁ……はぁ…」


そのおかげで少し落ち着きを取り戻し、呼吸を整え、呟く。


「せ、世界中を…旅……を…初めての仲間…してて…」



「あぁ」



「魔神…の、し…城に行って……」



「……魔神城に行ったのか?」



「うん……それ…で…魔王がいて……」


喋れば喋るほど涙が溢れ、言葉がおぼつかなくなる。


だがそれでも今なにが起きているのかを伝えるため必死に言葉を吐き出す。



「…ぁ……い、今…なかッ……仲間が……魔王…と…戦って」


嗚咽混じりだったが伝えなければならないことは全て言った。


あとしなければならないのは姉に助けを求めることだけだ。


だから涙で視界が霞む瞳を擦り、真剣な眼差しで姉を見つめる。



だが、


「魔王だと……」


ルーシェの表情は怒りでも同情でもなく困惑で満ちていた。


そして、落ち着かせる立場だった彼女が声を荒らげた。


「…まさか……流転かッ!! 流転の魔王か!?」



「う、うん……なんで…る、流転って……」



「今、流転とお前の仲間が戦っているのか!?」


なぜルーシェが流転と分かったのかは分からないが今重要なのはそこではない。


今最も重要なのは、


「そ、そうなの……アビトが…アビトが今戦ってるのッ!! わ、私の仲間で、相棒なの!! 私の恩人なのッ!!」


自分のために命を懸けて戦っている彼の命が最も大事なことだ。



「だからお願い……アビトを助けて…」


声は震え、目は潤み赤く腫らしながらも縋る思いで必死に助けを求める。



だが、セレネは分かっていた。



そんなことを言ってもこの姉はセレネのために…ましてやセレネの仲間の為に自分よりも格上である魔王に立ち向かう訳がないと。


しかし、命を懸けて戦っている彼を助けれる可能性があるのは目の前にいる姉だけだ。

だからどんな手段を使ってでも、どんなに関係性が悪くなっても…ナイトウィル家を追い出されることになるとしても、


彼を助けたい。姉に助けに行かせる。



そんな思考を巡らせていた時、ルーシェが呟いた。



「おい…今……アビトと…言ったか?」



「そ、そうよ!! アビトが…魔王と戦ってるの!! だから!!」



「……そいつの苗字は?」



「はぁ?」


それは全く場違いな疑問だった。一分一秒を争っているにも関わらずだ。


それに対し、セレネはもちろん声を荒らげた。


「今そんなこと関係ないでしょ!? 時間がなッ――」



「そいつの苗字はッ!!!!」



だが、そんなセレネの声をかき消す程の声が上げられた。


さらには叫んだルーシェの瞳は、"魔王"と聞いた時よりも瞳孔が開いており、震えていた。


そんな目を見た彼女は言葉を飲み込み、姉の言う事に従うしかなかった。



「ハーライド……アビト・ハーライドよ」



「……ハーライド」


その名を言うとルーシェは何かを覚悟した表情になった。



「そいつは…お前と近しい歳の黒髪の太った男か?」



「な、なんでそれを!? 姉さんアビトのこと知ってるの?!」



「そうか。あの男か…」


セレネの言葉に耳を貸すことはなく呟く。



「ねぇちょっと!!」


ルーシェの袖を掴むが、



「……」


またしても耳を貸さず、



「…ッ!! もうそんなことはどうでもいいから早くアビトのところにッ――てえ?! ちょ、ちょっと!!」



さらには彼女の体を持ち上げ小脇に抱えた。



「流転がもう既に……それにアビト・ハーライドか…ッチ」




そして、もう片方の手にある杖を振り上げ、



天使アークエイル



そう唱えた。


すると瞬く間に、ルーシェの背中からは白くて美しい大きな羽が生まれ、


「落ちたら死ぬからな」



「へ…」



空高く上昇し、



「あ、ちょ、ま、待ってぇ!!」



猛スピードで森の奥へと飛んでいった。




「わああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああああ」






-----------------------------


「う゛お゛ぉぉぉぉぉぉ!!!! 『殴殺ッ!!』」



「ハハハッ!! 格段に威力が上がっているぞ!!」


二人の拳が激しくぶつかり、周りの瓦礫が浮き上がる程の衝撃波が広がる。



「グアアアァァァァ!!!!」


拳を押し付けながら、もう片方の拳でヴォルクの顔を狙うが、


「威力は良い。だが…先程よりも雑になっているぞ!!」



「――ごふぇッ」


その際に開いたアビトの横腹に強烈な蹴りが入る。


体が横に吹き飛び、尋常じゃない勢いで大きな岩山へと打ち付けられた。



「しまった……つい力を入れ過ぎてしまったな」


高揚する顔を抑え、岩山に突き刺さったアビトの元へヴォルクが近づく。



「もしや、もう終わってしま……」


だが、何かを感じ取り、足を止める。


さらには不敵な笑みを浮かべながら岩山を睨みつけた。



「……クッ」



それは何故か、



目の前の岩山が小刻みに震え、ヒビが入りる。



それは――



「ックク…貴様はどれだけ我を楽しませれば気が済むのだッ」




魔王に冷や汗をかかせる程の殺気が出ていたからだ。




─────────ドガーーンッッッッ



「グオアラァァァァァッ!!!!」



岩山が弾けると同時に咆哮を上げ出てきたアビトは、



「なんだその姿は……」



口からは荒れた息と一緒に血液混じりの唾液がこぼれ落ちており、


体は地面を手足でしっかりと掴んだ四つん這いの体勢で、


ギラリと光る瞳は獲物である魔王一点だけを見つめていた。



その姿はまるで――




「まるで獣だな」




「ウ゛ア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


再び咆哮を上げたアビトは手足で地面を踏み込み、駆け出す。



「……貴様は本当に我好みの男だ!!!!」



その速度は一時的にシルフィード・ホースの速度を超え、



──この一撃に全てを





「己の拳に殺意をぉぉぉぉ!!!!」





ヴォルクに飛びかかったアビトの拳には、今までで一番濃く、強烈な殺気が纏われていた。




『殴殺ッッ!!!!』




その威力は――





-----------------------------



「ここからは歩け」


小脇に抱えていたセレネの体を下ろし、さらに森の奥へと進み始めた。



「はぁはぁ……姉さん!!」


一向に自分の話を聞かず、自分勝手に進んでいく姉の後ろを追いかけながらセレネが叫ぶ。



「黙って着いてこい」


だが、ルーシェはそんな叫びも気にすることなく森を進み続けた。



歩くこと数分



「着いたぞ」


ルーシェがある茂みの前で立ち止まった。

だがそこには生い茂っている草木しかなく、なぜ彼女がここに来たのかセレネには分からなかった。



しかし、ルーシェがその草木を掻き分けると



「え……なにこれ?」



一際開けた場所が現れ、



「なに…この人たち……」


そこには十数人の冒険者と同じ数の馬がいた。


それだけではない。


一人一人がセレネでも分かる程の強者特有のオーラを放っており、よく見ると馬も山道に強い土属性の人工魔物『ノーム・ホース』だった。



なぜこれほどまでの強者たちがここに集まっているのか、なぜ自分をここに連れて来たのか理解することが出来なかった。



だが、そんなセレネを横目にルーシェが叫んだ言葉で少しだけ状況が掴めた。



「聞け!!」


その一言で全員の視線がルーシェに集中する。



「予定より早いが只今より"魔王討伐"を決行する!! 今すぐ出発の準備をしろッ!!」



「ま、魔王…討伐……」


──え…ていうことは……姉さんたちは流転の魔王を討伐するためにここにいる…集まってるってこと……? だから流転って分かってた?



さらに大きな情報が増え、セレネの思考はまとまらないでいた。


だが、


──だったらアビトが助かるんじゃ…


その情報は自分にとって最高と言っていいほどのモノだということは分かった。



「現在、ある男が魔王と戦闘を繰り広げている」


続けざまにルーシェが喋る。


すると、



「もう魔王がいるんですか!? 予定ではもう少し後だったはずでは!?」


一人の冒険者が叫んだ。その顔は動揺に満ちており、声も震えていた。ルーシェの発言があまりにも予想外だったのだろう。



「そうだ……つまり前々から極秘に行っていたこの作戦がどこかから漏れ、こちらの動きが完全にバレているということだ」



「嘘だろ…どこから情報が…」



「ヤツは我々と戦わず逃げるつもりだろう。ならば魔王が足止めを食らっている今、我々も戦闘に参加し、ヤツの首を刎ね、亡き者にするぞ!!!!」


全員が困惑していたが、ルーシェの落ち着いていながらも堂々とした態度での指示で、



「は、はい!!」


冒険者たちが慌ただしくも覚悟を決めた表情で準備をし始めた。


「武具は全て装着しているな!?」



「作戦をもう一度頭に叩き込めッ!!」



ある者は装備の確認を。ある者は作戦の復習を。一人一人が決戦のため、僅かな時間で万全の状態まで備える。



そんな時、



「ルーシェ!! 一体どういうことだい!?」



「あ……」


セレネにとって聞き覚えのある声がした。



「もう既にある程度の準備は出来てるけど、いきなり出発なんて覚悟とか色々あるだろ!!」



「はい。ですが今現在、魔神城に魔王が到着しており、戦闘を初めています」



「その情報も一体どこで入手したんだ!?」



「落ち着いてください。時間がありません」



「時間がないって……全員が命を懸けてるこの状況なのに、そんな指示で動けるわけがないだろ!!」



ルーシェに詰め寄る彼女だが、



「そもそも、その情報に信憑性はッ――」



ルーシェの背後から現れた少女の姿を見て、言葉が詰まり、思考が停止した。



「せ、セレネちゃん……?」


そこには、こんな場所にいるはずのないセレネが涙を流しながら立っており、



「シニィさんッ!!」


シニィに抱きついてきた。



「なんでここにセレネちゃんが…」


そんないきなりの状況でシニィは動揺を隠せないでいた。



だが、



「セレネちゃん…少年は……?」




「……ッ…ごめッ……なさ…い」




「――ッ」



彼女は紛れもない英雄の一人で、現最強の回復魔法使ヒーラーいだ。


様々な試練、命懸けの戦闘、死の狭間を経験してきた。


だからこそセレネの表情とその一言で、何が起きたのかを一瞬で理解した。



「ッチ!! そういうことかッ!!」


今回の魔王討伐隊のメンバーの中でも上位の経験と歴があるシニィは自分がやるべき事、出来ることをすぐさま考え、実行に移した。


「全員準備は出来たか!? 戦闘は私とルーシェが走る!! 全員ついてこいッ!!」



「シニィ様!! まだアタラウス様が!」



「そのバカを早く叩き起して馬に乗せろ!! 時間が無い!!」



「はい!!」




ルーシェの指示から約一分。



魔王討伐部隊は魔神城へと馬を走らせた。




こんにちは、マクヒキです!!


またまた急展開になりましたが、面白くなると思うので次回を楽しみにして頂けると嬉しいです!!


そして、3000pvありがとうございます!! めちゃくちゃ嬉しいです!!


あとなんやかんやで50話いきました!!

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