四十九殺目 それぞれの思い
「俺はアビト・ハーライド」
「俺はガイト・ハーライドの息子で、セレネ・ナイトウィルの相棒だ」
先程とは違う、興奮しているような笑みを浮かべながら髪をかきあげて――
「殺してやるから殺しに来いッ!!!!」
魔王ヴォルク・カレイドへ向け、叫んだ。
「…クックッ……なるほどな、アビト・ハーライド……あの男の息子か…」
その叫びでニヤける顔を手で押さえ、
「その若さで人並み外れた肉体と精神……」
ヴォルクが独り言のように呟く。
──どんどん殺気が膨れ上がってるッ
「部下から聞いた信じ難い噂……」
──気を抜くな…絶対に……
攻撃を仕掛けた瞬間、殺される。
それを確信しているアビトは呼吸をゆっくりと整え、カウンターを狙う。
それに対しヴォルクは、
「何よりその圧倒的な殺気……あの時とそっくりだ……クック…ククッ……フハハハハハ!!!!」
高笑いを上げ――
「そういうことかッ!!」
─────────ズドンッッ
「ック!!」
アビトに向け、強烈な突きを放った。
──あっぶね!! 速すぎだし、重すぎる。…受け流すのが遅かったら頭ヤられてたぞッ
しかし放たれたソレはアビトの流技により、彼の顔を横切り、岩山へとぶつかった。
「良い反応だッ」
そして、
──今なら入るッ……殺意を込めろ!!
瞬く間に、強く握られた拳が青黒い光と殺気を放ち、ヴォルクの顔へと向かう。
『殴殺ッ!!!!』
─────────ドゴォ
殺意に満ちた拳が顔に突き刺さる。
だが――
「威力も技術も申し分ない……」
「――ッ?! ……ふざけるなよ… 『殴殺ッ!!』」
さらにもう一発顔に撃ち込むが、
──……嘘だろ……ここまで格が…
その顔からは一滴の血も流れていなかった。
「クソッ」
反撃を警戒し一度後ろへ下がり、再び構えをとる。
──攻撃が効かないってレベルじゃないぞ…。それにアイツ……殴った後も…
その目線の先には、確かな威力を誇っていたアビトの拳を喰らっても尚、ニヤけた顔を――いや
アビトの拳を喰らって、さらに高揚したような顔をする怪物が映っていた。
「……何がしたいんだよアイツは」
──…でも、セレネさんが遠くに行けるまでの時間を稼げる…アイツのスピードから逃げ切るには最低でも三十分くらいは……
警戒しながら思考を巡らせていると、
「クック…喜べ!! アビト・ハーライドよ!!」
ヴォルクが両手を広げながら天を見上げ、
「あ?」
「我は数十年ぶりに……」
「昂っているッ!!!!」
アビトを睨みつけた。
そして、
二人の目が合った瞬間――
「…は?」
視線の先に居たはずのヴォルクが一瞬にして消え、
「――ッグハ!?」
同時にアビトの腹部に拳がめり込んでいた。
「さぁ貴様の力を見せてみろッ!!」
ヴォルクが叫びながら、拳を振り抜く。
振り抜かれたアビトの体は大きく吹き飛び、遠くの岩山へ激しく叩きつけられる。
「ゴハッ!!」
──……やばい……今の…死ぬ……あれ、通常攻撃だろ? これじゃ三分も持たなッ――
「まだ終わりじゃないよな?」
倒れ伏すアビトの目の前に、再び一瞬でヴォルクが移動した。
見下ろしているその目は激しく燃えており、一秒たりとも彼から外れることはなかった。
──クソッ……弱音吐いたところでなんにもなんねぇ!!
口から血を流しながらも立ち上がり、
「当たり前だろ……かかってこいよッ!!」
拳を構え、
『流殺ッ』
拳、そして腕全体に殺気を流した。
──こっちも速度上げてやるよッ!!
アビトが拳を振りかぶり、
「いいぞ!! その調子だ!!」
ヴォルクもそれに合わせ、
─────────ドォォォォォンッ
二つの拳が激しくぶつかった。
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「はぁはぁはぁはぁ……」
血濡れた服と壊れた調理器具を持った少女が荒れた大地を駆け抜けていた。
「はぁはぁはぁはぁ……ック…アビトッ……」
その赤く腫れ上がった瞳からは涙が溢れ、口からは震えた声が漏れていた。
そんな状態でさらに数分走り、
「……た、たしかあの辺に…」
荒れた息を整えながら辺りを見回す。
「あッ…あった!!」
すると探していたソレを見つけだし、駆け寄った。
「良かった…やっと見つけたわよシルフィード・ホース」
彼女が探していたのは、この旅でずっと共にしていた風属性の人工魔物――シルフィード・ホース。
通常の馬より数倍速く走れる馬型の魔物だ。
「お願い……あなたの力を貸して…」
体と馬車に繋がっていた紐を解き、その上に跨る。
「近くの街まで三十キロ……そこまで行けば…誰かが……」
──アビト……待っててッ!!
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「うおりゃああぁぁぁ!!!!」
掴んだ腕で体勢を崩し、足を払って地面に叩きつける。
「ハハッ次は体術か!!」
「だけじゃねぇよ!!」
──腕一本持ってくッ
腕を抱き、足を絡め、関節技に入ろうとするが――
「そんな簡単にヤられるわけがなかろう」
腕に絡まるアビトを強引に持ち上げ、
「――ガハッ!!」
地面に叩きつけた。
叩きつけられた体が地面で激しくバウンドし、大地が大きく揺れる。
「だけじゃないぞ」
不敵な笑みを浮かべながら、ヴォルクがもう片方の腕を振り上げた。
「クッ……『殴殺!!』」
無理な体勢になりながらも抵抗するが、
「その体勢でマシな攻撃が出来るわけないだろッ!!」
「グハッ!!」
ヴォルクの攻撃に押し負け、顔面に強烈な一撃を喰らってしまう。
「まだまだまだまだ!!」
─────────ドスッ、ゴンッ、ベキッ、ズンッ
片手でアビトの体を地に押し付け、もう片方の手を硬く握り叩きつける。
逃げ場のない地面を背に、一撃一撃が正確に突き刺さっていた。
さらに、その威力はアビトの力など軽々と超えていた。
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「お願い誰か……誰か居て……」
馬を猛スピードで走らせながらセレネが祈る。
──……高ランク冒険者が一人でも……いやAランク、Sランクくらいじゃダメだ…
最低でもSSランクがいないと…
それに…街にSSランクが居たとしても、アビトのところに戻るまで、合計三十分以上はかかっちゃう……
しかし、祈りながらも頭の中ではそれが無意味ということが分かっていた。
近くの街でこの世に十人しかいないSSランク冒険者を見つけ、彼の元へ戻ってくる。そして戻ってくるまでの三十分間、ただの少年が最強の魔王相手に生き残る。
これが彼女が祈っていることだ。
そして、それは"不可能"と自ら言っているのと一緒だった。
だが彼女は"命を懸けて自分を逃がしてくれた彼に死んでほしくない" "彼ならまだ生きている"という矛盾しながらも強い思いで走り続けていた。
「お願い…誰か……」
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「はぁはぁ…はぁ……『殴殺!!』」
「もう終わりか? 痛くも痒くもないぞ」
残り少ない体力を振り絞り攻撃を放つも、かすり傷一つ付いていなかった。
「うおぉぉぉぉ!!!! 『おうさッ――グハッ…」
ヴォルクに拳が当たるよりも早く、アビトの腹部に拳が突き刺さる。
「……またそれか。所詮はまだ幼い人間…時間が足りぬな」
「クソが……」
冷たい目で見つめるヴォルクに負けじと睨み返すが、
「クッ……グ…ブハッ……」
口から大量の血液が噴出し、膝から崩れ落ちた。
「……」
「これまでか」
倒れ伏したアビトを見つめ呟く。
「…しかし、どうすればこの男が更なる力を発揮できる……」
呟きながらも血まみれの彼の周りをグルグルと周っていた。
「確か…流拳技は殺意を操ることであれ程までの力を生み出していたはずだ……」
更なる進化が見たいため頭を動かし、策を練る。
「……ッ」
すると、周り続けていたヴォルクがふと足を止め、ある考えを呟いた。
「…あの女を目の前で殺すか」
その案は何とも残酷で、無慈悲なものだった。
命を懸けて逃がした仲間が結局敵に捕まり、挙句の果てに怒りの材料として目の前で殺されるのだ。
完全にアビトの力にしか興味が無くなったヴォルクが倒れ伏す彼に背を向け、セレネが逃げた方へ歩みを進める。
「あれだけセレネ・ナイトウィルを生かそうとしていたのだ。殺せば数段は強くなるだろう」
そして、その案は――
「ヤツは人工魔物に乗って逃げると言っていたな。であれば…少々力を使った方がいいッ――?!」
残酷、無慈悲なだけでなく、
「ハハ……いいぞ!! いいぞ、アビト・ハーライドォ!!」
確実に、
「そうだ!! 我はその殺気を待っていたんだッ!!」
彼の殺意を極限まで膨れ上がらせていた。
「……」
殺意でアビトの脳には先程までの、時間を稼ぐ、セレネを逃がすといった思考が消え、
彼の頭の中には――
「殺す」
流転の魔王を殺すこと以外無くなっていた。
立ち上がった彼の体からは、見た者を恐怖で気絶させ、近くにいる者を殺してしまいそうな程の殺気が溢れていた。
「貴様は我の期待以上の男だ!!」
さらに、
『――』
小さく呟くと、
「ハハハハハッ!!!! 数段というレベルではない……生物としての格が上がっているぞッ!!」
彼は己の限界を超え、"怪物"へと変貌した。
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「あ……街が」
彼女の目には分厚く、天まで届きそうな程の巨大な要塞に囲まれた街が映った。
──やっと着いた……でもシルフィード・ホースの限界が……
優しく撫でたその馬は、全速力で山道を走り続けていたため、魔力、体力ともに限界がきていた。
「もう少しだけ……もう少しだけ耐えて…」
不安や辛さで胸がいっぱいになりながらも、彼を助けたいという思いだけで行動を続ける。
──旗が立ってるのが向こう側だから、あっちの方に……
速度を少し落とし、街の入口の方へと向かう。
──中に入ったら、すぐギルドの場所を聞いてそこに行く。それでSSランク…の冒険者に……助け…を……
「……う゛ぅ……ぐッ…ぁ……」
だが、もう既に彼女の心は折れていた。
いくら魔神の城から一番近い街だとしても、SSランクの冒険者がいる確率など零に近い。ましてや今から最強の魔王と戦ってくれる者など……
アビトはまだ生きている、私が急げば彼を助けられる。
そんな思いは一秒一秒経つごとに弱くなり、非情な現実によって掻きけ消されていった。
しかしそれでも尚、セレネの"アビトを助けたい"という思いだけは消えてはいなかった。
それだけの思いで、泣きながらも馬を走らせ続けると
「あ、あれか…」
入口らしき門を見つけた。
「い、急いで…急がないと…」
馬の速度を上げ、門に駆け出した。
その時――
「おい……なぜ………ここにいる…」
横から声が掛かった。
「……え…なんで……」
思わず馬を急停止させる。
「それはこっちのセリフだッ!!!!」
その声はセレネにとって一番聞き馴染みのある声だった。
「なぜお前がここにいる!?」
「なんで……姉さんが……」
こんにちは、マクヒキです!!
明けましておめでとうございます!!
今年は頑張って面白い話を届けていきたいと思っています!!
反応していただけると嬉しいです!!




