四十七殺目 魔神城
「あれが魔神の城? グチャグチャじゃない」
可哀想なくらい原型がない城を見ながらボソッとつぶやく。
「本ではオジッ……大賢者様がぶっ壊したみたいな感じで書かれてましたからね」
歩き始めて約三十分。アビトたちは城から数百メートル離れた場所に立っていた。
「地面もグチャグチャだったから足腰がしんどかったですね」
「ホントそうよ! 足の裏がものすごい痛いの!!」
セレネが地べたに座り込み、怒りを露わにする。
ここはアビトたちが言うように、魔神戦争の影響により足場が悪くなっているので、二人は馬車を置いて徒歩で移動していたのだ。
「でも……ん゛ん〜…あとちょっとで到着するわね」
体を伸ばし、もう一度気合いを入れ直す。
「もうひと踏ん張りですね!!」
一息つき終わり、再び魔神の城へ歩き出す。
「それにしても城に近づくにつれ、どんどん跡が大きくなってますね。地面からエグれたであろうデカい岩とかが沢山あるし……」
「まぁ城を中心に戦闘してたんだから、しょうがないわよ」
「城なんて壊れちゃってますしね……」
「壊れてるというか、もう消滅してッ――ん?」
突如セレネが険しい表情を作り、城付近を睨みつけるように見つめ始めた。
「どうしました?」
アビトが不思議そうに問いかけると……
「あれ……人……じゃない?」
と、セレネが予想だにしない返答をした。
「え?! 人?! そんなまさか……」
──まさか……バカか?! 俺たちと同じバカが来たのか?!
驚きながらも彼女の視線の先へ、目を凝らし見つめると、
「えぇ?! いる!? な、なんで?!」
なんと彼女の言う通り、城の瓦礫付近に深くフードを被った者が居たのだ。
「あれ誰かしら? たぶん高ランク冒険者よね? 顔隠してるし」
「バカは顔隠さないんですか? 僕たちみたいに」
「バカはアビトだけよ」
「へ……」
「……」
「あ、そうですか……」
──クソッ!! 否定ができない!!
絶句しながらも再度、目を凝らすと……
「え? 待って…あいつどこかで……」
アビトがそんな言葉をボソッと呟き、険しい顔をする。
「見覚えあるの? もしかして知り合い?」
さらに目を凝らしジッと見つめる。
「僕の知り合いだったらここに来る可能性は……」
──たしかに俺の知り合い…道場の奴らは高ランク冒険者が多いし、なによりバカしかいないから可能性は全然あるけど…なんか違う
だが、どこかで見た事がある。
もっとジッと見つめ、悲しくなるほど出来の悪い脳みそをフル回転させ思い出す。
──え〜っと…え〜あーえ〜――ッッハ?!
「……略奪王…」
小さく呟いたその言葉は、重々しく、恐怖が混ざった声色をしていた。
「略奪…王……って…サマクランドの?!」
魔神城に居たのは、サマクランドでアビトたちの財布を盗んだ凶悪な犯罪者だった。
「セレネさん…シッ……」
人差し指を口に当て、静かにするよう指示をする。
「あ……ごめん…ど、どうするアビト?」
アレが『略奪王』と分かった瞬間、二人の顔がこわばり冷や汗をかき始めた。
それは仕方がないことだった。なぜならヤツは、
「もっと城を見たいところですが…逃げましょう。Sランクレベルのアイツにまた見つかれば……」
アビトの無言の意味をすぐさま理解したセレネが静かに頷く。
略奪王はAランクパーティー相手に一人で勝利する程の実力を有している。
しかしアビトはBランク、セレネに至ってはDランク。
手も足も出ないことは、彼らも理解している。
「な、なんでアイツがここにいるのよ……サマクランドで活動してたんじゃないの?!」
「最後の最後で最悪の出会いをしちゃいましたね…」
「……もう…ここから離れるしかないじゃない」
「ですね。なるべく音を立てないようにしながら馬車まで向かいましょう」
理解しているからこそ、気付かれぬようゆっくりと近くの岩の裏に隠れ、様子を伺いながら逃げ始めた。
が、
「え……ア、アビト…」
「どうしました? 早く移動しましょうよ。バレますよ?」
岩陰からコソッと城を見ていたセレネが震える声で呟いた。
「略奪王がいない……」
「はッ?!」
──今の一瞬で?!
アビトも慌てて城の方を見たが
そこには誰もッ――
「また会ったな」
「――戦闘態勢ッッ!!!!」
背後から声がした瞬間、アビトがフライパンを構え、叫ぶ。
──は? いつ来た? どうやって? おかしいだろ…なんであの距離をこんな一瞬でッ!! しかも声がするまで気付かなかった!!
アビトが振り向いた先には、フードを被った大柄な男が立っていた。
──落ち着け……焦るな、動揺するな。一瞬足りとも気を抜くな、目を逸らすな……
だが、そんな予期せぬ事態にも関わらず、瞬時に冷静さを取り戻し、震える体を抑えつける。
「……え…い、い、いつの間に……」
「セレネさん!! 戦闘態勢ッ!!!!」
「あ、あぁ……あ……ぁ」
だが、セレネは違った。
彼女の生存本能が悲鳴を上げ、体が自然と崩れ落ちていたのだ。
「セレネッ!!」
アビトが叫ぶが、彼女からは大粒の雫と声にならない声が溢れていた。
──クソッ!! 完全に戦意喪失してるッ
そんな二人を仏頂面で睨んでいた大柄の男――盗賊王がセレネを見つめ、
「フッ、やはりナイトウィル家の落ちこぼれだな」
そして――
「それより……貴様は何者だ? なぜ我の圧に耐えれている?」
アビトを見つめ、問いかける。
「……ッ」
──ッチ!! 頑張って耐えてんだよ、こっちは!!
負けじと震える瞳で無理やり睨み返す。
すると、
「おい、我の質問に答えろ。さもなくば……」
「殺すぞ」
「――ッ?!」
──マジかよ……このレベル………
それは紛れもない怪物級の――ガイト・ハーライドに近しい"殺気"だった。
──こいつ……Sランクなんてレベルじゃないぞッ!! 少なくともSS…下手したら……
「本当に死にたいのか?」
さらなる殺気が、威圧が放たれる。
「……ック!!」
それによりアビトの震えも増していく。
──無理だ…死ぬ……どうする…せめて、せめてセレネさんだけでも…
アビトが必死に生き残る方法を考える。
その時――
『シャ、シャドウ……バレット』
「……ッ?!」
か細い声が聞こえた。
セレネだ。
彼女の前には黒き弾丸が生成され、
「セレネ!! うッ――」
放たれた。
─────────シュンッッ…………
放たれたと同時に一瞬の沈黙が流れた。
「アビト……な、なんで…」
そして最初に震えた声を上げたのは、攻撃を仕掛けたはずのセレネだった。
それは、
魔法を放った瞬間、セレネの目の前にはアビトと略奪王が重なって立っていたから。
だけではない。
「貴様……本当に何者だ。攻撃にも反応をし、この傷を負っても尚、正気を持っている。それに、なぜそのレベルの武具を持っている?」
「お前こそ何者だよ…。ようやく顔全体が見えたと思ったら……"魔物"じゃねぇか」
「ア、ア…アビト……そ、それ……」
セレネの瞳に映し出された光景は――
「しかも……このフライパンも、エプロンも、両方Sランクに付与されたやつなんだぞ…なのに」
「なのになんで……貫通してんだよ…」
右胸を貫かれたアビトの姿だった。
「……ア…アビ…ト…か、体に……腕が…」
セレネが魔法を放った瞬間、魔物が目にも止まらぬ速さで彼女に攻撃を仕掛けたのだ。
それにアビトが反応し、庇うような形で攻撃を受け止めた。
だが――
ヤツが放った鋭い手刀の突きが、Sランク冒険者『不老の聖女』が付与した"フライパン"と、Sランク冒険者『炎帝』が付与した"エプロン"を、そして――アビトの右胸をも貫いたのだ。
「マジで…お前なんなんだよ……最悪の犯罪者だと思ったら魔物だし…ってことは魔物が盗みしてたってことだろ? しかもこんなバカみたいに強い魔物が…もう分かんねよ」
胸に突き刺さったままの状態でアビトが語りかける。
「それはそうだろうな。我の考えなど貴様ごときに理解出来る訳がない」
「アビト…に、逃げ……」
セレネの声はもうアビトには届いていなかった。
「お前が何者かだけ教えろよ」
だがアビトが魔物を先程よりも鋭く、強く睨みつける。
そしてその瞳には何かを確信しているようなモノが宿っていた。
「………貴様はその傷だ。直に死ぬのは確実だろう。そして…その女を殺す、これも決定事項だ」
「良いだろう冥土の土産に教えてやる」
─────────ズボッッ
「――ック!!」
アビトの体から引き抜ぬいた腕を、胸の前でもう片方の腕と組み、
「我は――」
「七騎の魔王が一人」
『流転の魔王 ヴォルク・カレイド』
こんにちはマクヒキです!!
これからも応援よろしくお願いします!!




