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四十五殺目 サキュバスさんを守れ


『シャドウ・バレット』


そう呟いたセレネの前には数十発の黒き弾丸が生成され、



「死ね」


その弾丸を、抱きつく直前だったアビトと年上・高身長・黒髪ロング・ムチムチ・癒し系メイドお姉さんに変身したサキュバスに向けて放った。



「やばい…マジで殺せれるッ」


アビトは急いで投げ捨てたフライパンを拾い上げて、



「お姉さん!! 僕の後ろに隠れてッ!!」


弾丸から彼女の身を守るように、セレネの前に立ちはだかった。



「すぅー」


息を深く吸い込み、集中させる。


──腕の振りの速度を最速でッ



「そいやぁぁぁぁああああぁぁあああぁぁああぁ」



─────────キンッキンッキンッキンッ……






「ッチ」


激しい金属音が鳴り終わったと同時にセレネの舌打ちする音が聞こえた。



「威力も速度も上がりすぎてしょ…」


サキュバスへと向かった弾丸を全てフライパンで防いだのだ。



だがしかし、


「なんで魔物を守ってるの……」


彼女の怒りはまだ収まってはいなかった。



「セレネさん落ち着いて!! あれ演技だから!! サキュバスとそういうことするわけないじゃん!!」


──本気で俺のこと殺しにきてる…。ちくしょうッ!! これじゃお姉さんとすんごいことする前にセレネさんに殺されるぞ!?



怒り狂ったセレネをなだめるようと試みる。



「なんで守ってるのかって……聞いてるでしょッ!!」


が、それはセレネの怒りを増加させる燃料になってしまった。



「やばいやばいやばいやばい」


──セレネさんの理性なくなっちゃった!! どうする? どうすればいい? ちょ、あの殺気はやばいって!! な、なんで?! なんでそこまで怒るの?! そんなにサキュバス嫌いだったの?!



慌てふためくアビトだったが、その後ろでは…


「なにあの子?! 女連れだったのなら先に言ってよ!! お姉さん怖いんだけど!? イヤァァァァァ!!!!! 死にたくないッ!! 私まだ千人も食べてないのよ?! このままじゃ落ちこぼれサキュバスになっちゃうじゃない!! イヤアアァァァァァ!!!!!」


サキュバスがアビト以上に慌てふためいていた。



だが、そんな動揺が止まらない二人のことを気にすることなくセレネが再び杖を構える。



「さっさと黙って死ね」


杖に魔力を込め魔法を生成し始めた。



「――クッまた殺しに……って、え?」


だがその様子を見たアビトがある異変に気づいた。



──なんか……魔力とか光り方とか…いつもと違うような?



そんな疑問を持ったその時、後ろでアワアワ言っていたサキュバスが叫んだ。



「ちょっと!! あれ……中級魔法じゃないッ!? なんで中級を扱える女魔法使いと一緒に来たのよッ!! お姉さん勝てないじゃない!!」


それはあまりにも予想外のことだった。



「え?! ちゅ、中級魔法?! え、えぇ?! セレネさんBになっちゃったの?!」


中級魔法、それを扱えるのはBランク以上の魔法使いだけ。


それが世間一般的な常識だ。


なのにも関わらず、Dランク冒険者であるはずのセレネが扱い始めたのだ。



「死ね……」


杖をアビトたちに向け、



「セレネさん待って!! 中級はダメだって!! 俺も死んじゃうかもだから……あ、そっか殺すつもりだもんな…」


──……納得してる場合じゃないよね?!





陰影シェイドウィップ




─────────バチンッッ!!!!







「あわわわわわ……」



「めっちゃえぐれてる……」



禍々しい鞭を"地面"に放った。



「次はないわよ。早くそこからどきなさい、その女を殺すから」


さらに一本、そしてもう一本。


合計三本の鞭をしならせながらセレネが言う。



「クソ…」


──流石に守りながら中級魔法は厳しいぞ…

それに相手はセレネさんだ。反撃なんて出来るわけがない


もう…諦めるしか……




諦めようとした、その時――



「――ッ?!」



「あ…あ゛ぁ……私のサキュバス生ここで終わり…」


サキュバスが雫を落としながら、



「お願い…君しかいないの。助けて……」


アビトに抱きついた。



「ッチ!! 早くそこから離れなさい!! さもないと――」





「セレネさん…」






「あなたとは戦いたくなかったです…」


そう言いながら、フライパンを構えセレネを見つめた。



「あ?」



「もしかして…守ってくれるの?!」


タワワで豊満な体をさらに押し付けながらサキュバスが言う。



「もちろん。だから、彼女を止めている間にお姉さんは逃げてください」



「んん〜大好き!! 絶対恩返ししに来るからね!!」


さらに体を密着させると、アビトの顔が緩み、赤くなった。



「グヘヘヘグッググへへへへ」



「ねぇ、唇をこっちに向けて」


抱きついたままのサキュバスがアビトの顔を手で挟み、自分の方へと向かせる。



「え、あ、え、ちょ、……いいんですか?」


──キスだぁ!! キッスするんだぁ!! ……ど、どっちのキスだ?! とりあえず、ぶちゅってしてから考えよう!!



「チューしたら…元気でるでしょ?」



「はい!!」


動揺して泳ぎまくっていた瞳をキリッとさせ、彼女を見つめた。



「では……いただきます」



「ンフフッ。召し上げれ」


口付けを交わそうとするサキュバスを……いや、




そのサキュバスにデレデレし、むしろ自分から口を近づける


アビトを――



「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」



本気で殺そうとしているセレネが一本の鞭を振りかぶり、





─────────ク゛シ゛ャ゛ッ!!!!


「ごふぇッッ?!」



全力でアビトの胴体へ振り向いた。



「どば……ゴス…へデブ…」


セレネが放った全力の中級魔法をモロで喰らい崩れ落ちる。


「だ、大丈夫?! 絶対鳴っちゃいけない音したよ?!」


先程まで赤く染まっていたサキュバスの頬から一気に血の気が引いていく。

それでもアビトの背中をさすりながら心配の声をかける。



「…ぐはッ……アバラが数本ヤられました…」



「そんな…。――ック!!」


アビトの辛そうな姿に少し涙目になった瞳をギラリと光らせ、セレネを睨む。



「ちょっと!! あなた酷いじゃない!!」



「あ? なにが?」


依然として殺意の勢いが止まらないセレネがゴミを見るような目で見つめ返す。






「だってあなた……この子の彼女なんでしょ?!」



が、


「へッ?! は?! なッ?!」



「いくらなんでも彼氏に中級魔法を使うなんてッ!!」



「ち、違うわ!!」


一瞬にして乙女の瞳に変わった。



「あれ? 違うんだ」


そしてサキュバスの目も変わった。



「そうよ!! アビトは相棒よ!! こ、恋人なわけ……ないじゃない!!」


先程とは一変して顔全体を赤く染め上げ、恥ずかしさを隠すようにセレネが叫んでいた。



「ふ〜ん。だったら怒る必要なくない? 恋人関係じゃないのなら、私とこの子がそういうことをしてもあなたに被害は出ないじゃない」


その瞳はよからぬ事を考えているモノに変わっていた。



「それはそうだけど…。で、でも!!」



「"でも"なぁに? この子は気持ち良くなって元気になる。そして私はあなたを攻撃するつもりはないから、終わったらすぐにここから離れるつもりよ。なのに怒ってるのはどうしてかしら?」



「――ック…」



「何か不都合なことでもあるのかしら? もしかしてぇ〜この子のことが――」





「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」




─────────バチンッッ!!!!


大きくしならせた鞭をサキュバスに向け放つ。



だが、


「あら? そんなところに私はいないわよ?」


その鞭はサキュバスから大きく外れていた。



「うっそぉ動揺しちゃってるの?! ……ってことは本当にこの子のことがす――」



「うるさぁぁぁぁい!!!!!」



─────────バチンッッ!!!!



もう一度鞭を振るうがまたしても外してしまう。



「アッハハハ!! はぁ〜面白い。闇属性魔法シャドウ・マジック使いは動揺すると魔法を制御出来なくなるってのは本当だったのね」


高笑いをあげたサキュバスが元の姿に戻り、翼を広げ、


「あ、ちょっと!!」



「私じゃあなたのことを殺せないし、これ以上ここにいても良いことなさそうだから。あッ!! ――絶対に恩返ししに来るからねー!!」



空へと舞い上がって消えてしまった。



「クソッ……逃げられた!! ん゛ん゛…もうッ!!」


──本当に最悪!! アビトはサキュバスにデレデレしてたし、サキュバスが急に大きな声で変なこと言い出すしッ!!



堪えきれない怒りで地団駄を踏んでいると――


「大きな声……ハッ!!」


──大きかったのは……アビトに聞こえるように!?


その時、彼女はようやくサキュバスの企みに気が付いた。



「ア、アビト!! あの女が言ってたことは全部嘘だから!! あなたなら分かるわよね!?」


顔を赤くしながらも誤解を解こうとするが


「……」



「本当に違うから!! 私はアビトのことを大切な相棒だって思ってるから!!」


アビトは俯いたまま反応しなかった。



「……」



「だから…その……す、好きとかそういうのじゃ――」



「う…さ…」



「ん?」





「うるさいッ!!!!」





「………え?」



突然、アビトが叫びセレネを睨みつけた。



「セレネさんの…」



「ア、アビ…ト…そ、それ…」


その瞳からは涙が零れ落ち、口からは血が流れていた。



「あ…わ、私のせい…で……」


──私がアビトに魔法をぶつけたから…


「ご、ごめん!! ……ついカッとなっちゃって…ごめんなさい!! ほ、本当にごめんなさい!! 私…アビトを傷つけ……」


誠心誠意謝るがアビトの表情は変わっていなかった。







「セレネさんのせいで!!」









「サキュバスとエッチなこと出来なかったでしょッ!!!!」





「……」





「サキュバスとエッチなことがぁ!!!!」





「……」





「出来なかッ――」





「フンッッッッ!!!!!!」



─────────ズドンッッ!!!!




「嘘だ…ろ」



「――ッチ、最低」



「ここにきて……」



「物理攻撃…だ……と……」




セレネの黒かった杖が赤く染まっていた。






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