四十四殺目 みんな大好き
「アビト〜、お腹空いた〜」
正面に座るセレネさんが足をバタバタさせながらお腹空いたアピールをしてくる。
「あとちょっとで完成するので、もう少しだけ我慢しててください」
ハーブ牛の肉と野菜を炒めながら答える。
「は〜い」
彼女は昨日起きた「セレネさん野外トイレ事件」を無理やり自分の記憶から忘れさせたのだ。
何故かと言うと、今までとは比にならない醜態をさらしたことで死にたくなったそうだ。
寝ようとしても頭の中であの時の光景を思い出して、もがき苦しみ。
馬車を操縦している時には何度も意図的に事故を起こし、俺もろとも何もかも消そうとしていたらしい。
だが、そんなことは出来ないので唯一の方法である自分の記憶を無理やり消すことを選んだそうだ。
しかし、どうやって消したのか聞いても「エヘヘヘ」としか返ってこなかった。
何だか怖かったのでそれ以上「セレネさん野外トイレ事件」について触れないようにした。
「ねぇ〜まだ〜?」
未だに足をジタバタさせている彼女がまたアピールをしてくる。
「もう少しだって言ってるでしょ!! というか…そんなにお腹が空いたんですか?」
事前に作っておいたソースをかけながら返事をする。
「…何だか急に食欲が増したのよね。昨日もたくさんご飯食べたはずなのに……。なんでかしら?」
お腹を手で抑え、空を見上げながら呟いた。
「な、なんででしょうね……」
──たぶん…食べたのが全部出ちゃったからじゃ……
世の中には思い出さなくても良いものがあると聞いたことがあるので、余計なことは言わないようにした。
-----------------------------数分後
「よし!! 完成しましたよー」
完成した料理を皿に盛り付け、セレネさんの前に出す。
「うわぁ美味しそッ!! これなに!?」
「これはタコスです!! 肉と野菜をソースで炒めたものを皮で挟んでるんですよ」
「良い匂い〜。もう食べて良いわよね!?」
そう言いながらキラキラした目でこちらを見てくる。
「はい、もちろん!! 食べていいですよ!」
その言葉でセレネさんがタコスを掴み、
「やった!! じゃあいただきま――」
「――ッ!? 戦闘態勢ッ!!」
口に入れようとした瞬間、俺が叫んだ。
「え?! え、い、今?!」
俺の声で口に入る直前だったタコスの動きが止められた。
「セレネさん食べるの止めて!! 強い魔物が近くに現れました!!」
「ま、待ってよ!! 私すっっごくお腹空いてるのよ!? しかも目の前に美味しそうな料理があるのに…お預け?!」
セレネさんが悲しそうな辛そうな顔をしている。
ここ最近可哀想なので食べさせてあげたいのは山々だが――
「現れたのはおそらく…Bランクです」
「B……」
その言葉と同時にセレネさんの顔が下がる。
「あっちはまだ気づいてないですけど、ご飯中や移動中に気づいて、襲ってくる可能性があります。なので今のうちに倒しておいた方がいいと思います」
お腹を抑えながら俯いていたセレネさんだったが、バッと顔をあげた。
「分かったわ!! さっさと倒してご飯にするわよ!!」
「了解!」
-----------------------------
足音を立てずに魔物の方へ近づき、木々の間をかき分けている。
歩みをどんどんと進めると、正面には少し開けた場所が出てきた。
そしてそこから
──ここから殺気がする…
セレネさんにハンドサインを出し、二人で木の後ろに身を隠しながら、魔物の方へ顔を覗かせた。
その時――
「――ッ?!?!?!?!!??」
声にならない声が出てしまった。
それはなぜか……
「フンフフ〜フンフン〜」
開けた場所の中心には岩があり、そこに魔物が鼻歌を歌いながら座っていた。
こちらに気付いている様子はなく、宙に飛んでいる蝶を眺めている。
その姿を見た瞬間、俺の足が自然にその魔物へと進んでいた。
「ハッ!?――ア、アビト?!」
もうセレネさんの声は俺に届かない。
なぜなら――
「サキュバスだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
木々から体をさらけ出し、サキュバスに指を指して叫んだ。
「フン〜フフンフッ――えッッ??!! に、人間?!」
突然の叫び声にびっくりされたサキュバスさんが動揺した声を出していらっしゃる。
「サキュバスだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
頭の中にはこの言葉しか出てこなかった。それくらい嬉しい出会いだった。
「き、気づかなかった…い、いつから居たの?!」
「サキュバスだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
「な、なに…あの子? 怖いんだけど…」
サキュバスさんが少し引きつった表情をされている。
「サキュバスだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
だが、そんなことはお構いなしに叫び続けると……
「ちょっとごめんね。お姉さんいきなりの事で頭が回ってないんだけど……」
胸に手を当てて深呼吸をし、落ち着きを取り戻したサキュバスさんがこちらを見つめた。
「そんなに嬉しそうな顔をしているってことは、敵意はないのよね?」
「はいッ!!!!」
満面の笑みと元気な明るい声で返事をする。
「そ、それなら良かったわ」
軽く咳払いをし、立ち上がった。
その瞬間、俺の瞳に映されたその姿は――
綺麗なピンク色の肌で、しなやかに伸びた手足。さらに引き締まっている部分は引き締まっており、出ている所はもの凄く出ている。
「うっわ…。素の状態でも綺麗なのかよ……」
サキュバスさんの全身を見た時、思わずそんな言葉が出てしまった。
背丈は俺よりも高く、背中からは大きな黒い翼が、お尻からは先端が黒の尻尾が生えていた。
そして、なにより……
「エッッッッ」
布面積が少なかった。
「ンフフフ。そうでしょ? 人間の男はこういう服装の方が変身する前から興奮してくれるのよ」
「わぁ〜サキュバスさんはすごいや……」
今にも溢れ出しそうな"たわわ"がサキュバスさんが動く度に激しく踊っている。
そして、なによりッ!!
「……ふ、太もも…」
「あらぁ…ボクは太ももが好きなのね」
とても綺麗で美しく、フォルムも、ツヤも素晴らしい太ももをされていた。
そのせいか、俺の目が太ももから移動しなくなった
「フフッ、もう我慢できないみたいね」
「はいッ!!」
「なら早速始めましょうか」
「あ、あれは…まさか!?」
こちらを見つめたサキュバスさんの瞳が突如としてピンク色に変わった。
「なるほどねぇ〜。ボクは良い好みをしてるわね」
「ま……まさか」
「準備はいいかしら? "へ〜んしん"」
その言葉と同時にサキュバスさんの体を覆い尽くすような眩いピンクの光が放たれた。
「『ラブ・コスプレイ』だぁぁぁ!!!!」
ラブ・コスプレイとは……
光が消え、サキュバスさんの全身が再び俺の瞳に映る。
「さぁ、どうかしら?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「年上高身長黒髪ロングムチムチ癒し系メイドお姉さんだぁぁぁぁぁ!!」
ラブ・コスプレイとは……
サキュバスが"見た男の好みの姿"に変身出来る能力のことだ。
「どお? 君の好みになった?」
「あ゛ぁ…あ゛あ゛あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛」
涙が止まらなかった。
「ウフフッ。良かった! お姉さん、君に喜んでもらえて嬉しいよ!!」
「う゛ぅぅう゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」
──話し方も俺好みになってる……
しかも――
「君は長い方が好きなんだね」
「あ゛あ゛ぁぁぁ!!!! ガチのメイド服だぁぁぁ!!!!!」
──エッチなお店に置いてあるような、ミニスカートのお遊びメイド服じゃなくて…
本物の貴族に仕えてるメイドさんが着る、分厚くてロングスカートのメイド服だぁぁぁぁ!!!!!!
「顔からスタイル、服装まで完璧に俺の好みだ……グスンッ…生きてて良かった……」
「それだけじゃないよ!!」
「え?」
穴という穴から水を垂れ流している俺に、お姉さんが近づく。
そして、その長いスカートの裾を握りしめ…
「ここも君の好みでしょ?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
捲り上げた。
捲り上げたスカートの中から現れたのは、
「白タイツだぁぁぁぁ!!!! オーバーニーソックスだぁぁ!!!!」
太ももの中盤まである、白くて美しい代物だった。
極めつけは……
「ムチムチ太ももだああああぁぁぁあああぁぁ!!!!!!!!」
とてつもなく美味しそうな太ももだった。
「…グへッ……ジュルッ…グへへへへへ、グヘッヘヘ」
溢れんばかりのヨダレも笑みも止まらなかった。
「もう我慢できないでしょ? おいで!! お姉さんがいっぱい甘やかしてあげるからッ」
そんな俺にお姉さんは両手を広げ、微笑んだ。
もう既に俺の理性など無くなっていた。
エプロンを脱ぎ捨てて
「いただきます」
そう言いながら、お姉さんの元へ歩み始める。
その時――
『シャドウ・バレッド』
─────────シュンッ!!
その声で…いや、その"攻撃"で俺の理性は元に戻った。
頬から流れた血を触りながら、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、とんでもない殺気を放ちながら、こちらへ杖を向けているセレネさんがいた。
その瞳は黒く染まっており何も映っておらず、感情のこもっていない表情をしていた。
『シャドウ・バレッド』
再び魔法を唱えた彼女の前には、数十発の黒き弾丸が現れた。
しかも、一つ一つに込められている殺気と魔力が今までとは比べ物にならない。
そして彼女は一言、
「死ね」
そう呟き、全ての弾丸を俺たちに向け放った。
「やばい…」
──マジで殺しにきてるッ!!
こんにちは、マクヒキです!!
ブクマありがとうございます!! めちゃくちゃ嬉しいです!!
これからも頑張って面白い作品を作っていくので、応援よろしくお願いします!!




