四十三殺目 体調不良
「セレネさん大丈夫かな…」
猛スピードで移り変っていく景色を見ながらポツリと呟く。
彼女は昨夜、生で食べるととんでもない腹痛を起こす雪鹿の肉を半ナマで食べたのだ。
──まぁ少ししか飲み込んでないって言ってたし…それに今朝も特に問題なさそうだったから大丈夫か
そんな心配を抱きながら馬車に揺られる。
-----------------------------三十分後
――右前の方から殺気を感じるな…これは…気づいてるっぽいな
万が一の時の為にエプロンを身にまとい、セレネさんが居る御者席に向け叫ぶ。
「戦闘態勢ッ!!」
「…え……あッ!! りょ、了解!!」
一瞬の沈黙の後、馬車が急停止した。
──ボーッとしてたのかな? いつもより反応遅かったけど
疑問を抱きえながら急いで馬車を降り、殺気がする方へ構えをとる。
ゆっくりと降りてきたセレネさんが声を掛けてきた。
「敵はどのくらい?」
「敵は三体でDランクくらい……ですけど…」
降りてきた彼女に状況を説明しようと振り返ると
「ん? どうかした?」
「汗…凄くないですか?」
彼女の額にはたくさんの汗が張り付いていた。
「…あッ……な、なんでだろう。気にしないでいいからね」
そう言いながら慌ててローブの袖で拭った。
「そうですか? あと少しで敵が襲ってくるので準備しておいてくださいね」
「うん!! 任せて!!」
後ろに並んだセレネさんが杖を構え、魔物が現れる方を睨みつけた。
-----------------------------数分後
「本当に大丈夫なんですか?」
セレネさんの顔色は悪く、先程よりも汗が酷くなっていた。
「大丈夫よ…」
そう言った彼女の顔は明らかに引きつっていた。
「絶対大丈夫じゃないでしょ!! さっきも魔法を外しまくってたし!! 全然集中出来てなかったじゃないですか!!」
戦闘時、セレネさんの魔法は一発も当たらず結局俺が全て倒してしまったのだ。
「ごめんね、次は当てるから…。だから心配しなくていいわよ」
「心配しますよ!! ……もしかして、調子が悪いのって雪鹿のせッ――」
「大丈夫だからッ!! だから…もう気にしなくていいわよ」
原因を言い当てようとした俺の言葉を遮るように彼女が叫んだ。
「わ、分かりました…」
そんなセレネさんの圧に押し負けてしまい、引かざるを得なかった。
──えぇ〜、絶対大丈夫じゃないでしょ…
まぁ本人が大丈夫って言ってるから良いのか?
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「今日はぁ〜お昼に倒したぁ〜ウッドボアの煮込みハンバーグ〜」
戦闘をしてから数十分後、馬車の中で晩ご飯の仕込みをしていた。
「おいこれ絶対美味いだろ…」
匂いだけで興奮が止まらない俺はずっとグヘグヘしていた。
のだが――
「仕込みの時点でめっちゃいい匂ッ――ホワァ?! ちょ、ま、グハッ!?」
突然馬車が急停止し、その勢いで興奮していた俺は壁に激突してしまった。
「いったぁ!! な、なに?! 敵?! セレネさん大丈夫ですか!?」
何事かと思い、御者席に居るセレネさんの方を見ると――
「え?! いない?! なんで!? セレネさん!? セレネさん!?」
セレネさんはどこにもいなかった。
慌てて馬車の上に乗り、辺りを見渡すがどこにも彼女の姿は見えなかった。
「やばいやばいやばいやばい」
──セレネさん居なくなっちゃった!! 嘘…攫われた?! 今の一瞬で?! でも殺気無かったし…待って、どうしようどうしよう?!?!?!
一瞬でセレネさんが消えたため、俺の頭も一瞬でおかしくなった。
急な展開で情報が整理出来ず、アタフタしていると
「アビトッ!!」
近くの茂みからセレネさんの声が聞こえた。
「セレネさん?! 無事ですか!? 今すぐ、行きますからね!!」
馬車から飛び降り、彼女の元へ向かおうとしたのだが
「来ないで!!」
その声で静止させられた。
「なんでですか?! というか、なんでそこにいるんですか!!」
状況が掴めていないので質問をする。
「そんなことはいいから、大声で歌って!! 今すぐ!!」
が、返ってきたのは意味不明な指示だった。
「歌うって…な、なんで?! 状況が…」
「いいから早く歌ってって!! 周りの音をかき消すくらいに!!」
「ちょ、本当に意味が…………あッ」
その瞬間、俺はこの状況を理解できた。
「もしかして、ウンッ――」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
セレネさんの叫び声が森全体に響き渡った。
──なるほど!! 我慢出来なくなったから急いで茂みに入ったのか!! ってことは……?
「やっぱり雪鹿のせいじゃないですか!!」
俺の予想は的中していたのだ。
「いいから黙って大声で歌えぇぇぇ!!!!」
──黙って歌うって……矛盾しちゃってるじゃん…
セレネさんおかしくなっちゃったよ
あまりの腹痛におかしくなった彼女を心配していると、あることを思い出した。
──あれ? この旅でセレネさんがトイレに行ったのって…初めてじゃない?! そういえば一回も「トイレに行ってくる」とか聞いたことないッ!! 初トイレ?!
セレネさんはこの数週間、俺にトイレへ行くことを、トイレをすることを隠していたのだ。
──俺は普通に「トイレしたいので止めてください」とか言うけど、セレネさんは一度たりとも言ったことがない……つまり!?
俺は深く息を吸い込み、茂みへ向かって叫んだ。
「セレネさぁぁぁん!!!」
「な、なに!? 早く歌いなさいよ!! も、もう……」
「僕は……」
「女の子はトイレをしないっていう馬鹿げた幻想を抱いてないので安心してくださぁぁぁぁぁい!!!!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
-----------------------------数秒後
「ガ〜〜タァ イェ〜イェエェ ベルトォォォ〜ウォウォウォ〜 ヨンジュウゥゥゥ〜デニィ〜ルタァイツッ」
「変な歌を歌うなぁぁぁぁ!!!!!!」
-----------------------------数分後
「……み」
「え? なんですか?」
「……みを」
「ふえ?」
「だからッ!!」
「紙を投げてって!!!!」
「……紙? え…忘れたんですか?! 紙は必須でしょ…」
「うるさい!! 黙って投げろッ!!」
「……ごめんなさい」
急いで荷物の中から紙を取り、とんでもない殺気が放たれている茂みの方へ投げる。
「そ〜〜れッ!!」
「……ありがと」
-----------------------------数分後
「あ…おかえりなさい!!」
茂みの奥からセレネさんが出てきた。
「う、うん……ただいま…」
だが彼女の声は震え、目が赤くなっていた。
──これ完全に泣いてたな…てか、鼻すする音聞こえてたもん……
何か声掛けてあげた方がいいよね?
暗い雰囲気の彼女に掛ける言葉を考え、実行に移す。
「セレネさん!!」
「……なに?」
「セレネさんって結構面白いですよね!!」
『シャドウ・バレッド』
─────────シュンッッ
「……わぁお……」
「次はないからね」
放たれた弾丸は俺の顔ギリギリを通り抜けた。
「ごめんなさい…」
──やっぱりセレネさんとルーシェさんは姉妹だな……
遅れてしまい申し訳ございませんm(_ _)m
私生活が忙しくなっていたので、遅れてしまいました。
ですが、明日から元の生活に戻るので投稿頻度を元に戻していきたいと思います!!




