四十二殺目 攻略成功
「……グスッ…う゛ぅ…わすれ……ひっぐッ……てた…」
──なんか……面白くなってきたな、この人…
その後もセレネさんは体中を真っ赤にしながら、羞恥心に耐えられず泣いていた。
「そう……だった…。私…成人した時…ひっぐ…お母様に説明してもらってたのに……」
「セレネさん…ネージュ・オルムに来てから散々ですね。雪山から滑り落ちるし、うさぎは殺されるし、恥ずかしい行動をするし、めっちゃ重要なことを忘れるし…」
「うさぎを殺したのはアビトでしょ!!」
涙を飛ばしながら、怒声を上げた。
「あ…そうだった」
──そうだった、俺めっちゃ殺してたわ。…でも、そのうさぎで作ったパエリア、セレネさんも食べてたよね?
だが、これを言うとまた怒られそうなので、口を慎み、大人しく棒立ちをしていると……
「そういえば、なんで血脈に来たのか言ってなかったわね」
と、やっと泣き止んだセレネさんが、血脈部屋の地図を見ながら歩き始めた。
「あ……確かに聞いてなかったですね。というか、血脈に行くって言われたのもついさっきですよ?」
そんな言葉を投げかけたと同時に、彼女が目的であろう本棚の前に到着した。
「……一言多いわよ。ここに来た理由は二つ。一つ目は私のご先祖さまがどのくらい活躍したのか、どんな風に戦っていたのかを知るため。そして二つ目は…」
そして、到着した本棚を漁り始め、
「え〜っと…ここら辺にあるって…書いてあったんだけど……あッ!! あった!!」
一つの本を手に取った。
「それは何の本ですか?」
「これはね…『魔神戦争』の本よ」
「え……」
思考が停止した。
セレネさんがそんな俺を気にすることなく、話を続ける。
「ほら、最後にアビトが行きたがってた"マデリラ大地"に行くじゃない? それなら魔神戦争の内容を知っておいた方がより感じれる物ものがあると思うのよ」
「そ、その本に…魔神戦争の内容が?」
──俺の…知りたかったことが……
「そうよ。はい、どうぞ」
未だ頭が動かない俺に本が渡される。
──『魔神戦争』
三十年前、魔物やダンジョンを生み出し、人類を滅亡させようとしている諸悪の根源『魔神オバロス』率いる魔神軍と、
当時のSSSランク三人
『大賢者』 『霹靂の剣聖』
そして、
『流拳技』ガイト・ハーライドが率いる人類が互いの存亡を掛けた争いのことだ。
その戦争は、師匠が"歴代最強の冒険者"と言われるようになったきっかけでもあり、冒険者を引退した原因でもある。
俺はずっと知りたかった。師匠が歴代最強となった戦いを…冒険者を引退した理由を…
でも師匠は教えてくれなかった。俺だけではなく兄弟子たちにも。
そして、世の中のほとんどの人間もその全容を知らない。
魔神戦争の全てを知るのは、その場に居た者たちだけだ。
だから今回の旅で、戦争の跡地に行って少しでも情報を得ようとしてたけど……
「……僕、セレネさんと出会えて本当に良かったです」
ふと、心の声が漏れてしまった。
「な、なによ急に!! そんなに知りたかったの!?」
「はい、とても」
つい漏らしてしまったくらい嬉しかったのだ。
するとセレネさんが嬉しそうなホッとしたような表情を浮かべ…
「そっ。なら良かったわ」
微笑んだ。
──セレネさんは最高だな…
「じゃあ読みますよ」
俺も微笑み返し、本を開くと――
「うん! じっくり読んでいいか……」
いきなりセレネさんが固まり、少し顔が赤らむ。
そしてモジモジしながら
「やっぱり……私も一緒に…読みたい……」
照れていた。
彼女も、もちろんこの本を見るのが初めてだったため、早く読んでみたかったらしい。
──かっっわい!! やっぱりこの人最高だ!!
二人でイスに座り、テーブルに本を広げ読み始める。
-----------------------------一時間後
「す、凄かったわね……」
「そうですね」
「あんなに激しい争いが三十年前に繰り広げられていたなんて…」
「そうですね」
「怒涛の展開だったわね」
「そうですね」
「この本を読んで、改めて理解させられたわ。今の私たちがあるのは確実に三十年前に命を掛けて戦った英雄たち、そしてなにより……」
「……」
「『流拳技様』のおかげだってことを」
「そうですね」
この本を読んで、ずっと知りたかった真実を知った。
師匠が歴代最強の冒険者と言われた理由も、冒険者を引退することになった原因も全て。
全てを知った上で、一番最初に出てきた感情は――
「カッコイイ……」
-----------------------------
「じゃあ、一緒に行くわよ?」
「はい!!」
セレネさんと横に並びになり、
「せーのッ」
足を一歩、同時に外へ踏み出す。
「「ダンジョン攻略成功!!」」
パーティーを結成して、初めてダンジョン攻略をした。
「私、初めてダンジョン攻略できたわ!! しかもCランクよ!? 自分のランクよりも高いダンジョンなのよ!!」
セレネさんが過去一はしゃいでいる。余程、攻略できたのが嬉しいのだろう。
「もう十分Cランクの実力はあると思いますよ。一人でモンスター倒してましたし」
「それ言うならアビトもじゃない! 二人とも確実に強くなったわよ!!」
彼女が満面の笑みでこちらを見つめる。
──この笑顔が心臓に響くな。でもなぁ〜今さら、「実はBランク冒険者なんです!!」とか言えないし…
「そうですね!」
こちらも満面の笑みで笑い返す。
──もうこのまま嘘を突き通していこ!!
ダンジョン攻略をした俺たちは、
最後の目的地
『魔神戦争跡地』
マデリラ大地へ向かう。
-----------------------------数日後
「ふぅ。やっとネージュ・オルムから出たわね」
「寒さのせいでシルフィード・ホースの動きが鈍くなってましたもんね」
氷の大地を抜け出し、現在は開けた山道から少し森へ入った場所で野営していた。
「ここからマデリラ大地まで…モグ…五日くらいね」
彼女がそう言いながら、雪鹿のステーキを頬張る。
「すみません、僕が行きたいって言ったから…。移動だけで残り少ない日数をたくさん使っちゃうのに…」
──せっかくの休学期間を俺の希望で半分近く埋めちゃったから、申し訳ないんだよな……
心苦しい気持ちでいると、
「……モグモグ…ゴクンッ。いいのよ気にしなくて。私もいつかは行っておきたいって思ってたから…あむッ…ちょうど良かったわ」
再び肉を放り込み、気にする素振りを見せなかった。
「…ッ!! ありがとうございます!!」
「それに…モグモグ……あの本を読んだら…モグ…行く予定で良かったって思ったわ」
「どうしてですか?」
「だって行ったら絶対に…モグ…自分の価値観とか……モグモグ…視野が広がって…ゴクンッ…さらに成長出来ると思うの」
彼女はむしろ賛同してくれていた。
「確かに…読む前と後では、感じ方が全く変わりそうですよね」
「でしょ!? だから残りの日数を全部使ってでも行く価値はあるの!!」
キリッとした目で俺を見つめる。
──こんなことをいちいち気にするなって顔だな…
「ハハッ!! その通りかもしれませんね!!」
そんなセレネさんの気遣いに喜んでいると――
「あと…私はあんな遠い所にアビト以外と行く気なんてないからね」
「え……な、な…なんでですか?! ぼ、僕となら良いんですか?!」
と、いきなりドキドキする言葉を放ってきた。
「そうよ。アビトとだから行くの」
動揺している俺に対し、
「ち、ちなみになんでですか?」
彼女はフライパンで焼かれている肉を取り、
「そんなの決まってるじゃない……あむッ…アビトと一緒に居ると楽しいからよ」
そんな言葉を吐きながら口に肉を入れる。
声や表情には出ていなかったが…
頬が少し赤らんでいた。
そんな彼女を見て――
「それ……半ナマですよ…」
「え……」
セレネさんが急いで口から取り出した雪鹿肉は……
「どうしよ…ちょっと飲み込んじゃった…」
彼女の頬以上に赤かった。
雪鹿の肉は絶品と称される程美味で有名だが…
ナマで食べると、とんでもない腹痛が起きるのでも有名だ。
こんにちは、マクヒキです!!
魔神とか魔王とかいるらしいですよ?!




