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四十一殺目 血脈


Cランクダンジョン『空白の氷室』


ダンジョンボス『フロスト・ウィッチ』



――討伐成功――





したけど……


「あれ? マナが吸収されてない…」



「魔石も無いですよ」


本来、モンスターを倒すと得られるはずのマナや魔石が無かった。



二人で地面を這いつくばって、魔石を探すが、


「本当にないじゃない!? あれだけ強かったんだから、濃い魔石がどこかにあるはずなのに」



「魔石を落とさないパターンってあるんだ…」



どこにも無かった。



「ハァ……ていうか、あいつ絶対Cランクじゃないわよね」


セレネさんがため息混じりに愚痴をこぼす。



「喋ってましたしね。普通、喋るやつはBランク以上ってのが普通ですから…」


──それに俺の殺気感知で感じた強さと全く違ったてた…なんで? 殺気は明らかにCランクだったのに……



頑張って倒したのにも関わらず、変な空気になってしまった。



─────────パチンッ


が、セレネさんが立ち上がり、頬を叩いて気持ちを切り替えた。


「まぁ、あのモンスターを倒せるくらい私たちが強くなったってことが分かったから、結果オーライよ!!」



「そうですね!! 今回のダンジョンでさらに強くなったのは確かですから!」


俺も立ち上がり、気持ちを切り替える。



「ボスの討伐完了と言うことで!! 帰りま…」



「よし、それじゃあ目的の場所に行きましょうか!!」


と、セレネさんがフロスト・ウィッチが座っていたソファーを指差した。



「え…目……的? ダンジョン攻略じゃなくて?」



「…アビトってよく色んなことを忘れるわよね? 用があるって言ってたじゃない。だからここに来たのよ」


呆れた表情で見つめてくる。



「あ…そういえばそんなことを言ってたような」



「ハァ〜全く…さっさと行くわよ」


セレネさんがソファーに向け歩み始める。



「はーい」


後に続き、俺も歩き始めたところで、ある疑問を思い出した。



「そういえば、なんでここに来た理由を教えてくれなかったんですか?」



ソファーに着いた彼女が振り返ることなく答える。


「それはね……」



─────────ギギギギィ



「うぇ? ……蓋?」


セレネさんがソファーを移動させると、その下には分厚い鉄板の様なものが現れた。




「この先にナイトウィル家の『血脈けつみゃく』があるからよ」



「血……脈……?」


──血脈って…なんか聞いたことがあるような…

なんだったけ? 血脈…血脈…血脈…血脈…




……あッ!! 思い出しッ………えぇ?!




「け、血脈?! ここがナイトウィル家の血脈?! やっば!!」


──『血脈』って、全貴族が必ず持ってる隠し部屋みたいなやつでしょ?! しかもその中は一族の歴史とか、秘匿情報とか、その家独自の技術とかが隠せれてるんでしょ?!


簡単に言っちゃえば、その家の核心でしょ?!




「そうよ。だから、ボスを倒しきるまで教えてなかったのよ」



「うえ、ちょ、うえ?!」



とんでもないことを知ってしまい動揺が止まらない。



貴族は自分の家系の血脈がどこにあるかは、絶対に他人に教えてはいけない。


それは当たり前だ。


それが仲間であっても、友であっても、恋人であっても…その家系の者以外知ってはいけないのだ。



なのにも関わらず俺は知ってしまった。



しかも知ってしまった血脈が、冒険者大国であるエルドリア王国の中で、最も高い地位にいる冒険者貴族『ナイトウィル家』のものを。



「さ、早く入るわよ」


アワアワしている俺を他所に、セレネさんが蓋を開き穴に入る。



「ちょ、ちょっと待ってください!! なに普通に入ってるんですか!! え、ど、どういうこと?! 僕に教えちゃダメでしょ!? 一緒に入るなんて尚更ですよ?!」



「うるさいわねぇ。アビトなら良いって思ったのよ」


穴から上半身だけを出しながらそう答えた。



「信頼してくれてるのは嬉しいですけど、まだ出会って二週間くらいしか経ってないんですよ!?」



「良いのよ、気にしなくて…」



「気にしますよ!! だって、たった二週間しか一緒に居てないやつに血脈を……」



そんな言葉を投げかけた瞬間――




「だからぁ!!」


セレネさんが勢いよく下に潜り、目だけを出す。




「その"たった二週間"で……信頼したのよ…。自分家の血脈を教えるくらいに……ね?」



声は震え、微かに出ている耳や頬は赤く染まっており、こちらを見つめている瞳は少し潤んでいた。





そんなセレネさんの姿を見て、



──かわいッ!! めっちゃ照れてるじゃん!! 顔が真っ赤でちょっと泣いてるし!! 恥ずかしすぎたんだ!! 恥ずかしすぎて、照れすぎて泣いてるんだ!! かっわい!! てか、そんなに信頼してくれてたんだ!!



心の中で大はしゃぎしていた。








──でも




だが、




「でも……血脈を教えるのはやり過ぎでは?」




「……ッ!?」


そんな一言で、彼女の顔が先程とは比べ物にならないくらい赤くなった。



「セレネさん自身の秘密とかだったら分かりますよ」



「う゛ぅ……ッ……」



「でも、ナイトウィル家の血脈って……エルドリア王国の国家機密レベルじゃないですか。さすがにそれは……」



絶対にやってはいけないことを、照れて恥ずかしがりながら相手にやってしまった。


しかも、それをその相手に指摘された。


指摘された瞬間、冷静になり、

自分が今、めちゃくちゃ恥ずかしい存在だということに気が付いたのだろう。


その結果――



「ッ…ク……んッ……ぐぅ……」


先程までこちらを見つめていたセレネさんの瞳からは、潤むでは済まされない量の雫が落ちていた。



──あ…耐えきれない羞恥心で泣き出した……

顔もめっちゃ震えてる…。耐えようとしてるのかな? 耐えれてないですよ? 溢れてますよ?




プルプルと必死に耐えていたセレネさんだったが、




「う゛う゛ぅぅぅ……う゛る゛さ゛い゛!! も゛う゛…アビトのことなんて信頼しない!!」



─────────バンッッ



叫びながら、蓋を全力で閉めてしまった。




「……」


──泣いて、怒ちゃった…どうしよう…



俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。



「……」


──この旅がめちゃくちゃ楽しくて、舞い上がっちゃったんだろうな〜。初めて出来た信頼できる仲間に見せてあげたいって。

だから行く予定じゃなかったここに行きたいって言ったのか……



「……」


──さすがにセレネさんの気持ちを考えなさすぎたか? 照れながらも頑張って言ってたもんなぁ……


あんなに俺のこと信頼してくれてたんだ






しっかりと閉じられた金属の蓋を見つめ――






「でも、血脈はやり過ぎだよね?」





─────────バンッッ





「うるさい!!!! さっさと入れ!!!!」




「……ごめんなさい」



どうやら、聞こえていたらしい。







-----------------------------


「はい…着いたわよ」


俺の目に巻かれた布が外される。


さすがに部屋までの入り方などは教えられないと言われ、ここまで目隠しで誘導されながら来たのだ。



そして、


「うわぁ、すっげぇ。マジの秘密基地じゃないですか」



「どんな感じかは事前に聞いていたけど…こんなに雰囲気のある部屋だったなんて……」


ちなみに、セレネさんもここに来たのは初めてらしい。




俺たちの目に映ったのは、入口と同じ鉄板で囲まれた部屋だった。


移動中に聞いた話では、この鉄板は一枚一枚に強力な付与エンチャントがされてあるらしい。



そして、広さは縦十五メートル、横十メートル程で少し広め。



壁一面には古びた本棚が並べてあり、中には様々な種類の本がビッシリと置かれている。


他にも、カッコイイテーブルや世界地図など気になる物が沢山あったが…



ダントツで目を引く"モノ"が部屋の奥に置かれていた。



「これは…ヤバすぎるな……どんな化け物だよ…」



「そこにはナイトウィル家の現当主が討伐した魔石を置くらしいわ。単独で討伐した中で一番強かったやつのね」



「た、単独?! これを一人で!? 現当主やっば!!」



そこに置かれていたのは一メートル程の禍々しい光を放つ魔石だった。



「現当主……私のお父様が倒したのよ」



「マジかよ……ちなみに…これ何の魔物ですか?」


恐る恐るセレネさんに聞くと、



「それは、確か……」








「『黒竜よ』」








「きッッッッッッも!!!!」



あまりの大物に大声を上げてしまった。



「ちょっと、本人の目の前で父親の悪口言わないでよ」


セレネさんがジト目で見てくるが、そんなものは関係ない。



「だ、だって!! 黒竜を単独ってキモすぎでしょ!? 黒竜って!! こ、黒竜?! えげつな!!」


──黒竜ってSSランクの魔物でしょ?! た、単独?!



「はぁー、お父様は元SSランクだったのよ。魔王幹部の討伐作戦の指揮をとるくらいに強かったわ」



「ふえぇ〜。ナイトウィル家やっば」


と、ビビりながらもそんな何気ない一言を放つと、セレネさんの顔が一気に暗くなった。



「そうよ。ナイトウィル家の冒険者はSSランクになって当たり前なのよ。お父様や姉さんみたいにね……」



──あ、地雷踏んだ……。てか、SSランクが当たり前の家系でDランクかぁー。そりゃあ「落ちこぼれ」って言われたり、自信が無くなったりするわな。

一般家庭で見たら、十七歳でDランクって優秀な方だけどなぁ。……くぅぅ〜



しんどい空気が流れ始めたので、良い空気に変えなければ!! と思い、そこら辺に落ちていた資料を拾う。



「こ、これなんですかぁ〜」


が、余りにも明らさま過ぎて、棒読みになってしまった。



「ふぅー。……気を使わせて悪かったわね。それは…」


セレネさんが一息吐き、俺が手に取った資料を見る。






「……え〜と、『人工ダンジョンボス、フロスト・ウィッチの計画書』ね……」


セレネさんの顔が一気に青ざめる。




それはなぜか――



資料を一緒に見ていた俺には分かる。





その資料のタイトルの下に……





「ナイトウィル家の者一人一人が持っている家紋のペンダントをフロスト・ウィッチに見せれば、動きは止まる」


と、書いてあったのだ。



そして、さらにその下には、



「このことは、ナイトウィル家の者全員に伝えておくこと」


と、書いてあった。






ゆっくりと、資料からセレネさんに視線を移すと――





「……グスッ…う゛ぅ…わすれ……ひっぐッ……てた…」





──あ〜また耐えられない羞恥心で泣き出した……




こんにちは、マクヒキです!!


評価や反応ありがとうございます!!


めちゃくちゃ嬉しいです!! これからも頑張っていくのでよろしくお願いいたします!!

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