三十九殺目 攻略を目指して
「ご飯にしましょうか!」
「やったー!!」
俺たちはそのままの勢いで、一階層モンスターを殲滅し終えた。
ので、疲れた体をしっかり休ませてダンジョン攻略が出来るようにすることにした。
──今日は〜なにに〜しよっかな〜
保存鞄を漁り、作る料理を考えていると、、、
──大根、卵、こんにゃく、お揚げ、ちくわ…
おでんが「俺を作れ」と叫んでいる……
ということで、おでんを作ります。
…おでん染み込ませ中…
「セレネさんって強くなりましたよね? Cランクのモンスターを一人で倒してましたし」
大根の染み込み具合いを確認しながら質問をする。
「それ私も戦闘中に思ったのよ!! たぶん、ストーカー・リザードンを何体も倒したおかげね。威力が前と比べ物になってないもの」
と、セレネさんがキャピキャピしながら話す。自分が一歩成長したのが嬉しいのだろう。
だが、俺が言いたいのはそういうことではなく
「威力もそうですけど、僕が言いたいのは戦い方の方ですよ」
「戦い方?」
「はい。戦法とか駆け引きとかですよ。敵の動きとかよく見てましたし、視野も広くなってたと言いますか…」
「んッ……」
──なんだ、この反応?
俺の言葉を聞いて一瞬びっくりした表情をしたが、その後笑顔と照れが混じった顔をした。
「き…気づいてくれてたんだ……」
「気づくと言うより、戦ってる最中に分かりました。いつもより動きやすかったので」
「そっか…」
「はい! 僕の死角にいるモンスターから倒したりだとか、僕が次起こす行動を予測して魔法を放ってるなぁーって」
すると、
「…ん゛!! よし!! よしよしッ!! やったぁ!!!!」
セレネさんがガッツポーズをし始めた。
「ど、どうしました?」
あまりの昂りように質問をする。
「私ね、このダンジョン攻略のためにトレーニングしてきたの!!」
前のめりになり、俺に喜んでいる経緯を話す。
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「なるほど〜。そういうことか」
なぜ、喜んでいたのか……
それは、俺が夜な夜なやっていた一人稽古を見て、"私もアビトみたいに、実際の戦闘を意識しながらトレーニングをして、役に立つんだ!! 強くなるんだ!!"と、思ったのだと。
そして、この日の為に隠れてしていたトレーニングの成果を、俺に見せることができたから、気づいてもらえたから、とてつもなく嬉しいらしい。
──めちゃくちゃ可愛い理由だったなぁ。
……というか、ムラムラ発散一人稽古見られてたの?!
あっぶね!! 声に出してなくて良かったぁ!!!!
「うん! だからアビトがそれに気づいてくれて嬉しかったのよ!!」
セレネさんが顔を近づけ、俺に喜びを伝えてくる。
「あ、明らかに上手くなってましたもん。それに、魔法の使い方とか、セレネさんが考えた作戦もめちゃくちゃ良かったですよ」
──顔ちっか!! 至近距離はまだ慣れてないから!! 緊張するでしょッ!!
「あの作戦は、アビトの敵の居場所が分かる能力のおかげよ!! それに奇襲に気づけるし、逆に自分たちが奇襲できる。しかも闇の中で戦える近接職なんて最っ高よ!!」
至近距離でたくさん褒めてくれるので、照れと緊張がもの凄い。
「じゃ、じゃあこのままの調子で、空白の氷室を攻略しちゃいましょうか!!」
「えぇ、もちろん!!」
-----------------------------翌日
「セレネさん!! 見て!! あった!!」
「本当!? 良くやったわ!!」
アビトが見つけたのは、五階層へ続く階段。
アビトたちは二階層、三階層、そして四階層を攻略し、
後は最後の五階層……
ボス部屋だけとなっていた。
階段を降りると、その先には大きな氷の扉がどっしりと構えていた。
「確認お願い」
セレネが小さな声でアビトに話しかける。
「了解」
アビトも同じように小さな声で返事をし、瞳を閉じる。
ボスの強さの確認だ。
──ん〜、今までのモンスターたちよりは強いけど……二人でなら余裕で勝てるな。セレネさん一人では厳しそうだけど
「敵は一体。強いですけど、ストーカーよりかは弱いですね」
「分かったわ。でも、油断せずに行きましょう」
「はい」
扉の前に立ち、その重々しい扉を引いて開ける。
入ってみると、中は大きなドーム状の部屋で出来ていて、中央には物が一つだけあった。
ソファーだ。
「あいつ偉そうですね」
「そうね、私たちが目の前に居るのにまだくつろいでるわよ」
そのソファーには、人型のモンスターが肘をついて横になっていた。
「なんかムカつくんで、セレネさん殺っちゃってください」
まだモンスターとは距離があるため、セレネに任せる。
「任せなさいッ『ダークネス・ボルト!!』」
黒い稲妻が一直線に突き進み、確実にモンスターの頭を狙っていた
──精度も上がってない?
アビトがセレネの魔法に感心を示す。
だが……
「初めまして、私はこのダンジョンの責任者…」
その"モンスター"が、いや…その"女"がダークネス・ボルトに手をかざした瞬間――
「嘘でしょ……」
「フロスト・ウィッチです」
冷気でかき消した。
「わーお」
──相手も魔法使いか…。まぁこのダンジョンだから氷属性魔法だよね〜
……え!? 今しゃべった?! Cランクで人語話せるモンスター居たの?!
伸びた手がゆっくりと動き、アビトたちの体と重なった。
「よろしくどうぞ」
──やっべ
「セレネさん!! 動かないで!!」
アビトが何かを察し、叫ぶ。
「え? どうし…」
セレネが瞬きをした間に、フロスト・ウィッチの前には二十本程の氷の刃が出来ていた。
『アイス・ブレイド』
全ての刃が放たれ、一本一本が正確にアビトたちを狙う。
「一瞬で?!……嘘…避けきれ…ない」
彼女の顔が青ざめ、震える。
──これがCランクのダンジョンボス…技術も魔法の錬度も、私より格段に上だ……
だが、しかし
──でも、こんな相手に立ち止まってなんかいられない!!
震える体を無理やり動かし、杖を構える。
「私は姉さんに勝たなきゃならないの!!」
彼女も同じ数の黒い弾丸を作る。
『シャドウ・バレット!!』
そして、氷の刃に迎え撃った。
が、
「あッ…」
その弾丸全てが刃に切られ、消滅した。
撃ち負けたのだ。
さらに、その刃はスピードを落とすことなくセレネたちに向かっている。
魔法を扱うセレネには分かった。
その刃は正確さだけではなく、威力も一本一本が自分の命を容易く奪えるということを。
──私…ここで……死……
死を悟り、刃が突き刺さろうとした瞬間――
「しっかり、僕の体に隠れててくださいよ!!」
アビトが彼女の前に立ちフライパンを振り上げ、
「ッッッよいしょぉ!!!!!!」
アイス・ブレイドを叩き落とした
彼女に刺さろうとしていたもの全てを。
「あいつはストーカーより弱いですけど、知性がある分厄介です」
フロスト・ウィッチを睨みつけながら、背中越しに話し続ける。
「だからあいつは、今までの作戦じゃ通用しないと思います。なので…」
「……ッ」
危機的な状況とアビトの真剣な声に息を呑む。
「なので……二人とも暴れましょうか!!」
「え」
「暴れながら、お互いに合わせましょう!!」
唐突におかしなことを言った。
「ど、どういうこと?! 暴れながらって……好き放題やるってことでしょ!? そんなことしながら合わせるなんて無理よ!!」
それに対し、もっともなことを言うセレネだったが、
アビトが振り向き、目を細めながらニヤけた。
「僕たちならイけるでしょ?」




