表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

三殺目 輝くちくび




「あっっっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

叫びと同時に、自分の胸の奥から熱が湧き上がるのを感じた。眩暈のような熱さ。視界の端に、まぶたの裏に残る光の残像がちらつく。


え、なんで光ってんの?なんで光ってんの?なんでちくび光ってんの?!


周囲を見れば、兄弟子たちの目が一斉に胸元に向けられている。その視線は、興味と困惑と少しの好奇心が混じったものだ。



見ないでください。



ねぇやめてよ。見ないでよ。ただでさえ今、熱と光でいっぱいいっぱいなのに。そこに羞恥心も入ってきたら、俺おかしくなっちゃうよ......


泣きそうになる顔を必死に引き締める。


だが、兄弟子たちはそんなことはお構い無しに、まるでお化けを見つめるかのように固まった目でこちらを見続ける。 そして兄弟子たちが叫ぶ。


「お、おい!!師匠に伝えてこい!!今すぐ!

アビトお前も体拭いて今すぐ師匠のところにいくぞ。」


えぇなんでぇ?なんで師匠にもこのアチアチきらびやかちくび見せなきゃいけないの?育ての親に?このちくびを?

え、なに?死ねってこと?!羞恥心で死ねってこと?!


仕方なく震える手で体を拭き、下はパンツとズボンだけを履き直す。左胸を片手で必死に覆い隠しながら、居間へ向かった。胸を覆う手の間から、薄く光は漏れている。見えないようにしているつもりでも、光はどうしても視界にちらついた。


居間に入ると、そこには師匠と兄弟子たち、そしてババァがいた。全員揃っていた。全員の視線がいっせいに俺へ向く。空気は静まり返り、鼓動が耳で鳴るようだ


俺は理解した。

これが巷で噂の「公開処刑」ってやつか、と

頭をよぎるのは、場の雰囲気に対する子供じみた皮肉だけだった


「アビト、手をどけろ」

師匠が言うので渋々ちくびをさらけ出す。


「おおぉ。本当に、本当に発現したんだな!!」

「発現?どういうことですか?シャイニングちくびが発現したってことですか?」

「違う、たまたま光った場所がちくびだっただけだ。アビトお前にスキルが発現したんだ」


兄弟子たちのざわめきが一気に広がる。好奇心と、純粋な驚き、そして喜びが混ざり合っている。


「え?!スキルって」

俺の出来の悪い脳みその動きが止まった。

スキル。スキルって言えば、、、

師匠が嬉しそうに、ニヤけながら言う

「あぁそうだ。スキルとは、主に魔法使い以外の者にも現れる特異な力だ。魔法とはまた別の枠組みで、その者の資質と強い意志によってのみ現れる。つまり──選ばれし者にしか与えられぬものだ。力があり、才があり、何よりそのスキルを持つに相応しい強い意志を持った者にだけな。よくやった。さすがわしの息子だ。」



俺の胸の中で、熱はまだ微かに残っているが、その熱は恐怖だけではなく、少しの誇りと震える期待へと変わっていった。


道場が沸いた。俺も自然に雄叫びをあげ目から涙が出てきた。


選ばれたのだ。俺には才能が、力が、強い意志があったのだと証明されたのだ。

嬉しい以外の何物でもない。これで近づける。あの時の師匠のような、兄弟子たちのような立派な男に。


「アビト、明日はお前のスキルを鑑定してもらうぞ!」


この喜びと光るちくびを胸に刻み、これからももっと強くなっていこう。







翌日――。

俺は師匠と並んで、冒険者ギルドへと歩いていた。


冒険者ギルド。

そこは冒険者を支援し、依頼人と冒険者をつなぐ機関だ。討伐や護衛といった依頼を受け付けるだけでなく、魔物の素材やダンジョンで拾った財宝を査定してくれたり、冒険者登録を行ったりする。

そして何より重要なのが――スキル鑑定。


スキル鑑定に使われるのは、古のダンジョンから発見されたという石版の魔道具。

表面はひび割れ、淡く光を放ち、見る者を不思議と惹きつける。名を「スキル石」。


そこに触れるだけで、自分に発現したスキルの名前と内容が分かる。

今の俺にとって、それは人生を左右する一大イベントだった。


胸の奥が熱くて仕方がない。


グへへへへ……手からビームかなぁ。それとも体が巨大化するやつか!いや、透明人間だったらどうしよう!?

やべぇヨダレが止まんねぇや。



想像するだけでニヤける。

自分でもちょっと情けないと思うが、それほど楽しみだったのだ。


妄想に耽っているうちに、俺たちは目的地――エコキャル支部へ到着した。


ギルドに入るのはこれが初めてだ。

これまで兄弟子たちと一緒に魔物狩りやダンジョン探索へ出かけたことはあったが、あくまで稽古の一環であって、正式にギルドへ顔を出したことは一度もなかった。


師匠が重厚な扉を押し開ける。


中は少し古びていたが、床や壁には歴戦の傷跡が刻まれている。そこに立つ冒険者たちは、一人一人が勇ましく、武器や防具にはもちろん体中には冒険者としての勲章が刻まれていた。これが冒険者か。そう思っている俺に鋭い視線が注がれた。


――そう、俺はまだ十二歳。しかも冒険者ですらない。

そんなガキが大人の巣窟に足を踏み入れたのだから、怪訝な視線を向けられるのも当然だった。


だが、彼らの目が俺の隣の人物――師匠を認識した瞬間、空気は一変した。


「りゅ、流拳技様!?」

「な、なぜギルドに……!? 普段は弟子たちが依頼を受けていたはずでは!」


ざわめきが一瞬で広がる。

そう、俺の師匠は伝説級の男――ガイト・ハーライド。かつてSSSランク冒険者と呼ばれ、今なお名を轟かせる人物だ。


冒険者たちは慌てて頭を下げ、背筋を伸ばした。あまりの態度の変わりように俺は、

さすが元SSSランク。全員がペッコペコしてるな。なんか面白いな

と、一人ニヤケていた。


師匠が受付のところまでまっすぐ歩いていき、


「今日は息子のことで用がある。受付の嬢ちゃん、話を聞いてもらえるか?」


師匠がお願いした相手がびっくりしながら返事をする


「は、はいっ! も、もちろんです!! どうぞ裏の部屋へ!」


慌てて案内を始めたのは、胸の大きな眼鏡の受付嬢だった。動揺して声が裏返っている。


――かわいいな。


部屋に向かう途中も、周囲の冒険者たちのざわめきは止まらない。


「おい……あれが流拳技様の息子だってよ」

「噂には聞いてたけど、本当にいたんだな」

「でもあんまり似てなくないか? ……太ってるし」



……太ってるは余計だろ。



心の中で毒づきつつ、聞き流した。



---


案内された部屋に入ると、受付嬢が改まって口を開いた。


「それでは、本日はどのようなご用件で……?」


「わしの息子にスキルが発現した。鑑定をお願いしたい」


受付嬢の目が大きく見開かれた。

「す、スキル!? この子にですか!? わ、わかりました! ただいま準備いたします!」


驚くのも無理はない。

冒険者人口は世界でおよそ五十万人。だが、その中でスキルを持つ者はたった百五十人程度しかいない。

子どもであろうと大人であろうと、スキルが発現した時点でどんちゃん騒ぎになるのは必然だった。


数分後。

扉が再び開き、スキル石を抱えた受付嬢と、一人の男が姿を現した。


眼鏡をかけ、髪を几帳面に分けた男。落ち着いた佇まい。

俺には分かる。こいつは、、、頭が良い!!


男は椅子に腰を下ろすと、懐かしそうに師匠を見やる。

「お久しぶりです、ガイトさん」

「あぁ。お前も今やギルド長か。大きくなったな」


少し照れた笑みを浮かべ、男は俺に視線を移した。

「君がアビト君か。私はこの支部のギルド長、オキド・シークだ。よろしく」

「はじめまして。師匠の息子、アビト・ハーライドです。よろしくお願いします」


へーこの人がギルド長なんだ。もっとゴツめの強面おじさんかと思ってた。


固く握手を交わすと、ついに本題へ。


「それではアビト君、スキル鑑定を始めよう。これがスキル石だ」


目の前に置かれた石版。淡い光が脈動している。

ついにこの瞬間が来たのだ。昨日は楽しみすぎて一切寝れなかったんだ。


あ゛あ゛興奮が、アドレナリンが、ドーパミンが止まんねぇぞ、おい。


俺は震える手を石に置いた。

次の瞬間、眩い光が手を包み込み――そして静かに消えた。


石の表面に、文字が刻まれる。



---


スキル「流拳殺技」《りゅうけんせつぎ》


効果:自分の体力エネルギーを可視化できる。殺意を操ることができる。



---


「う、うわあああああぁぁぁっ!!」


その場にいた全員が、同時に声を上げた。


スキル「流拳殺技」――。

それは、かつて世界を震撼させた伝説の男。

そう、ガイト・ハーライド本人が持っていたスキル、そのものだったのだ。





スキル「流拳殺技」は、

長い歴史の中でガイトしか発現させてない珍しいスキル。


ギルド長のオキドが声を震わせた。

「《流拳殺技》……。長い歴史の中で、ガイト様以外に発現させた者など存在しなかったはず……」


師匠はゆっくりと目を閉じ、そして低く笑った。

「そうだ。このスキルは、本来――わしのためだけに生まれたものだ」


場に緊張が走る。

師匠が続ける。


「殺意を操る力も、体力エネルギーを可視化する力も、すべてはわしが戦いの中で必要とした結果だ。言うなれば「流拳殺技」は、わし自身の生き様そのものが形となったもの。……だからこそ、わし以外に発現することはないと、ずっと思っていた」


そこで、ガイトはふっと視線を落とし、口調を和らげた。


「だがな……この力をわしだけで終わらせるのは惜しいと思ったんだ」


師匠は続けた。


「だから、わしは道場『流拳技』を開いた。弟子を取り、いつか誰かにこのスキルと技を継がせようとした。……だが、弟子たちは強かったが、このスキルだけは誰一人として芽生えなかった」


その拳が、静かに震える。


「諦めかけていたんだ。これは本当に、わし一人にしか許されない力なのだと。……だが――」


そこで、師匠が俺の肩に手を置き、目を細めて笑った。


「まさか……お前が、この力を受け継ぐとはな。アビト。これは偶然ではない。運命だ」


その言葉に、部屋の空気が震える。

受付のお姉さんは息を呑み、ギルド長でさえ深く頷いた。


《流拳殺技》。

それは本来、ガイト・ハーライドのためだけに生まれたスキル。

だが今、息子アビト・ハーライドへと――確かに継がれたのだった。


こんにちは、マクヒキです!!これからスキルが発現したアビトがどんどん成長していくので楽しみにして貰えると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ