三十八殺目 雪山のダンジョン
「はぁ…はぁはぁはぁ……はぁ」
アビトが白い空気を吐きながら、肩で息をする。
「はぁはぁ……アビトのせいよ…はぁ」
その隣に立つセレネも、同じように息が荒れている。
「最初は僕のせいですけど、その後、二回連続でセレネさんが道ずれにしてきましたよね?!」
「ち、違うの!! 滑り落ちた時にたまたま掴んだのが、アビトの足だったのよ」
「二回目は、思いっきり僕の腕を掴んできたじゃないですか!!」
「それは、アビトが助けてくれると思ったからよ! それに"助け合うのが仲間だ"って言ってくれたじゃない!」
「"助け合う"と"道ずれ"は違います!!」
「……ッ。そんなこと言うんだったら、頂上ギリギリでアビトが滑り落ちた時、わざわざ私も麓まで降りたのよ!?」
「それに関しては、ごめんなさい!!」
アビトが鼻息を荒くしながら、叫ぶ。
「怒りながら謝るな!!」
セレネも感化されたように、声を荒らげた。
「謝ってないセレネさんよりかはマシです!!」
「はいはい、私もアビトを道ずれにしてごめんなさいね!!」
お互いが怒りを露わにしながら、顔を背け、険悪な空気が流れる。
ダンジョンを目指し、雪山を登ること約十時間。
麓まで四回落ちてしまったが、なんとか頂上にあるダンジョンの入口まで辿り着いた。
しかし、入口に着いた頃には二人とも体力が無くなっており、日も暮れていた。
なので、攻略する前に夕食を食べ、一眠りすることにしたのだが……
「風が強すぎて、雪が無いですね…」
「これじゃ、アイスドームを作れないじゃない」
頂上は麓と比べ格段に風が強く、雪が一切残っていなかった。
そのため、昨日のように雪で家を作り、寒さを凌ぐことができない。
「この寒さを何時間も耐えるのは無理ですよ」
「死んじゃうわね…」
険悪な空気が流れながらも、二人で「う〜ん…」と考えていると……
二人の視線が同時に同じ箇所に止まった。
「「……」」
そして、互いに目を見合わせ
「……"あれ"しかないわね」
「はぁー、やりますか。ちょっとしんどいですけど」
二人で歩き出し、高さ三メートル程の氷の塔の前に立つ。
「じゃあ、開けますよ」
アビトがセレネの前に立ち、扉を開く。開けて出てきたのは、下へ続く階段。
そして、階段を降りた先には
氷で出来た大きな通路があり、雪山の中を螺旋状に下っている。
そう、その通路こそが
『空白の氷室』の一階層
セレネの目当てであった、C級ダンジョンだった。
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「うわぁ〜、快適〜」
背筋と腕を伸ばしながら、通路を進む。
「氷で出来てるから少し寒いけど、外よりは全然マシね」
隣で歩くセレネさんは、先程よりも顔色と機嫌が少し良くなっていた。
「ここで眠るには、一階層のモンスターを全部倒さなきゃならないからね」
「そうですね。寝ている時に襲われたりしたら、危ないですもん」
──俺は寝てても殺気で気がつくけど、セレネさんは眠りが深いから危ないもんなぁ
-----------------------------歩き始めて、数分後
──あ、殺気だ。これは…俺たちに気づいてるな
「戦闘体勢!!」
そう叫び、フライパンを握りながらセレネさんの前に立つ。
「了解!」
俺の声に反応して、セレネさんも一歩下がり、杖を構える。
そして、構えをとった数秒後に
「ギュリルルルルルル!!!!!!」
殺気の正体は、天井を這いながら現れた水色のクモ型モンスターだった。
だが、クモが現れた瞬間
『シャドウ・バレット!!』
黒い弾丸が、その体を貫いた。
セレネさんの闇属性魔法だ。
貫かれたクモが地面へ落ちる。が、致命傷には至っていない。
続けざまにセレネさんが魔法を唱える。
『ノワール・ミスト!!』
彼女の杖から闇が広がり、通路をどんどん侵食していく。
「アビト!!」
──セレネさんの合図……クモまで闇が届いたのか。ってことは…
クモの殺気がある方へ駆け出し、フライパンを振りかぶる。
──ってことは…今、なんにも見えてないだろ!?
─────────ズドンッ
クモが消滅し、魔石が出てきたのを確認してから、セレネさんの方へ親指を立てる。
討伐成功の合図だ。
「ふぅー」
──うん…弱い。これならすぐに、この階層を殲滅できるな
「アビトッ!!」
魔石を回収していると、セレネさんがこちらへ駆け寄り
「最っ高!!」
満面の笑みで、手のひらを出した。
「完璧でしたね!!」
俺も手のひらを出し
─────────パチンッ
俺たちは移動中に、襲ってきた魔物の討伐やダンジョン攻略のための戦闘方法を考えていた。
まず、俺が嗅覚(殺気)で敵の位置や数、そして強さなどを確認する。
確認した際、敵が俺たちに気づいていた場合は、「戦闘態勢」と叫び、フォーメーションを組む。
敵が現れたら、セレネさんが攻撃魔法を数発放った後、視界を奪う。
奪ったタイミングで俺が駆け出し、フライパンで仕留める。
-----------------------------敵が俺たちに気づいていない場合は
──これは……気づいてないな。てか、多いな
セレネさんの前に手を出し、制止する。
そして、事前に決めておいたハンドサインで
──あそこ、 敵、 二十、 弱い
状況を理解したセレネさんが、オッケーマークをする。
杖を握り、耳を澄まさないと聞こないような声量で
『…ノワール・ミスト』
先程同様、闇が広がっていき…
「アビト」
闇がモンスターまで届いた合図。
それと同時に俺が駆け出す。ここまでは一緒だ。
だが、敵が強い、数が多い場合は……
『シャドウ・バレット』
─────────シュンッ
弾丸が俺の顔をスレスレで通り、その先にいたモンスターに命中する。
俺たちのパーティーの戦い方は、まず戦場を闇で覆い尽くす。
遠くにいる敵はセレネさんが、近くまで敵が来たら俺が。
そして、敵が強い、もしくは数が多い場合、俺が接近戦を仕掛け、セレネさんが俺に当たるのをお構いなしに魔法をぶち込む。
これが俺たちの戦い方だ。
普通は掛け声で近接職がその場を離れ、その瞬間に魔法使いがぶち込む。
なぜなら味方諸共、魔法の餌食になってしまうからだ。
それに、扱いが難しい闇属性魔法使いがパーティーにいるのなら尚更だ。だが、しかし……
ものの数秒で、敵の数が半分をきった。
そんな時だった。
「アビト!!」
セレネさんの声が氷の通路中に響いた。
放った魔法が狙い通りにモンスターの方へ突き進んだのだが、当たる直前、モンスターと俺の体が重なったのだ。
────しかし!!
しかし!! 我らのパーティーには、魔力に込められた殺気で魔法を避けれるアビトくんがいる。
魔法の弾道とタイミングを読み…
「ほいッ」
体を逸らしたことにより、セレネさんが狙っていたモンスターへ魔法が衝突する。
──フッ、華麗に躱してやったぜ…。あ、そうだった
「セレネさん!! 気にせず続けて!!」
「了解!!」
──闇属性魔法は精神安定が大事だから、俺が問題ないってことを伝えるんだったな。セレネさんを安心させるために
-----------------------------その後も
「そいッ!!」
フライパンで次々と、頭を叩き潰していく。
「どっこいしょ!!」
──何も見えないけど、シルエット的にコボルトかな?
というか、ノワール・ミストの影響で、こいつらなんの抵抗もできてないじゃん……
「ほいやっさ!!」
──改めてだけど、セレネさんとのパーティー相性が良すぎるな。お互いの息が合ってるのもそうだけど、『ノワール・ミスト』と『殺気感知』の組み合わせが強すぎるぞ…
そして、なんやかんやで
「ラストォォォ!!!!」
─────────グシャッ
全て潰し終わったので、セレネさんの方へ親指を立てる。
すると、闇がどんどん晴れていき、視界が元に戻っていく。魔法を解除したのだろう。
闇が完全に消え、セレネさんと目が合う。
その時、
「んッ!!」
彼女も笑顔で親指を立てた。
こんにちは、マクヒキです!!
これからもアビトたちの旅を投稿していくので、よろしくお願いします!!




