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三十六殺目 ボーッと



「ほげぇー」



「……あ、きた」


セレネが竿を立て、糸を手繰り寄せる。



─────────バシャッ



海中から、エサに食いついた魚が引き上げられた。




「…小さいですね」



「今回のところは見逃してあげましょ。」


魚から針を外し、海へ返す。




「……ほげぇー」



「よいしょっと」


─────────ポチャン


再び針にエサを付け、海の中へ落とす。




「ほげぇー」



「……」



「ほげぇー」



「その"ほげぇー"ってなに?」



「……なんとなく?」



「……そっ。それにしても、こうやってボーッとする時間も中々良いわね」



「そうですね。旅をし始めてから、こうやって落ち着いた時間ってあんまり取れてなかったですもんね」



「そうね〜。もう少し、このままでいましょう」



「はーい」





クマシャケとの戦闘から翌日、俺たちはボーッとしながら、堤防で魚釣りをしていた。



「……セレネさん」



「なに?」



「好きな食べ物ってなんですか?」



「……甘いもの。ケーキとか、チョコとか、お団子とか」



「ほぇー。異性の好きなタイプは?」



「んー、姉さんより強い人?」



「おっふ。あなたのお姉さんがどのくらい強いか知ってます?」



「しょうがないじゃない。これといって好きなタイプがないから」



「…学園って楽しいですか?」



「楽しくないわよ。でも、成長はできる。教師に元高ランク冒険者が多いから」



「へぇー」



「アビトって今十五歳よね。十七になったらどこかの学園に行くつもりなの?」



「今のところは、どこにも行かないつもりです。」



「そっか。料理人だものね。冒険者の学園に行く必要は無いか…」



「ないですね」





「……ねぇ、アビト」



「はい?」



「私のこと、おかしいって思わない?」



「ん? というと?」



「ほら、急にテンションが下がったりだとか」



「あぁー、それは少し思いました」



「やっぱりそうよね………」



「……」



「ねぇ、アビト」



「はい?」



「相談に乗ってくれない?」



「僕で良ければ」



「私ね、」





セレネさんから語られた話を簡単に言うと、



高ランク冒険者になって当たり前のナイトウィル家に産まれ、高ランク冒険者になるために努力を続けてきた。

だが才には恵まれず、優秀な家系の落ちこぼれとして常に周りからバカにされたり、辞めろと言われ続けた。


その結果、病んでしまったらしい。


このままではダメだ。こんな自分を変えよう、強くなって周りを見返そうと決心し、学園に休学届を出し、旅に出た。


しかし、どのダンジョンも、どの依頼も、攻略、達成が出来ず、自分の弱さに打ちのめされ、冒険者を辞めようとしていた。



そんな時に、俺と出会った。



そして今、俺との旅が想像以上に楽しいらしい。



とても楽しいのだが、「まだ弱い自分がこんなに楽しんではいけない、今の私に楽しむ権利はあるのか」など、ふと我に返るので情緒が不安定なのだと。




「だから、急に暗くなったりするの。ごめんね、迷惑かけて」



「いえいえ……」


──どうしよう…想像以上に話が重かったぞ? テンションが上がると腹痛がくるの。とか、そんな感じだと思ってた…。

とりあえず、バカにしたり、辞めろって言った奴は、後で殺すとして



……俺との旅、楽しんでてくれてたんだ!!


めちゃくちゃ嬉しいんだけど!!



ふざけたことに、俺はセレネさんの重ための話を聞いて、怒りや同情よりも、喜びの方が勝っていた。



「今の話を聞いて、アドバイスとかあったりする?」


セレネさんがクスッと笑いながら、首を傾げる。



「え? あ、えー、あー、えっと……時間もらってもいいですか?」


──これ回答次第では、セレネさんの今後の人生に影響しちゃったりするんじゃないの?!



「ウフフッ。期待してるわよ」



「真剣に考えるんで、ちょっと待っててください」



「はーい」






-----------------------------三十分後


「お、今度は大きいわね」



「……」






-----------------------------一時間後


「嘘……針が噛み砕かれてる…」



「……」






-----------------------------さらに、一時間後


「待って!! 重すぎじゃない!? アビト助けて!! 持ってかれちゃ……わぁぁぁぁぁ!!」




─────────ドボンッ




「……」





-----------------------------五分後


「ねぇ、アビト。今の私を見て何にも思わないの?」


全身から水を滴らせているセレネが、未だに熟考しているアビトに問いかける。



「……」



「見てよ、これ。ローブをいくら絞っても水が止まらないの」



「……」






「目の前で相棒が海に引きずり込まれたのよ!? 助けなさいよ!! それに、アドバイスに何時間かけッ」



黙ったままのアビトに、鬼のような形相で迫った瞬間、





「分かったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


と、アビトが突然叫んだ。



「わッ!! びっくりしたぁ」



「セレネさん!! 楽しめば良いんですよ!!」


そう言いながら、彼女の肩をユサユサ揺らす。



「なにッ…を楽しッ…むの?」



「全部ですよ! 失敗しても、この失敗は次の成長に繋げれるって良い方向に捉えたり、今の自分を見下してる奴らは、私の成長した姿を見たらどんな反応をするのかな、とか!!」



「うッ…うん。ゆらッ…すのッ…やめッ…」



「全部、前向きに捉えたり、どんな状況も楽しめば良いんですよ!! これめちゃくちゃ良くないですか!?」



「アビト……」



「何ですか!? 良いでしょ、これ!! 凄いでしょ!!」






「それ……色んな人が言ってるわよ…」






「え……」


セレネの体を揺らしていた手が、動きを辞めた。



「色んな人が?」



「うん。」



「俺のオリジナルじゃなくて?」



「うん。色んな人が言ってるし、本にも沢山似たようなことが書かれてるわよ」



「俺の発明じゃない?」



「うん。」



「セレネさんは、この考え方を知っていた?」



「うん。」






「なんだよそれぇ!! 元々あったのかよ!! ちくしょぉぉぉ!!」


アビトが膝をつき、地面を叩きながら悔しがる。



「そ、そんなに悔しがらなくても……」



「頑張って考えたのに……俺、二番手じゃんかよ!!」



「二番手どころじゃないと思うけど…」



「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」



「お、落ち込まないで! ほ、ほら!! アビトのお陰で、これから前向きに、楽しみながら生きていこうって決めたから! アビトのお陰で決心できたから!! 何時間も考えてくれて、ありがとうね!!」


項垂れたアビトの背中をさすりながら、励ましの言葉をかける。







その日の晩ご飯は、カニづくしだった。








-----------------------------翌日


「おぉー。そのモコモコ可愛いですね」



「でしょ!? ありがとッ」


白い毛皮のコートを着たセレネさんが、クルッと回り、全身で楽しさを表している。



──やっぱり、可愛いなこの人


楽しそうにしているセレネさんをニヤニヤしながら見ていると、



「そうだ!」



ふと、動きを止め、俺の方を見つめる。



「アビトの服も私に選ばせてよ!」



「良いんですか!? 嬉しいです!!」



セレネさんが、俺の服を選んでくれることになった。







-----------------------------十数分後


「アビトにはこれがいいんじゃない? 私と一緒のモコモコ!」


キラキラした表情で、アビトに灰色の毛皮のコートを見せる。



「おぉ! カッコイイ!!」



「…カッコイイ? 可愛いじゃなくて?」



「可愛いより、カッコイイの方が合いません?」



「だって、これもモコモコなのよ。モコモコは可愛いじゃない」



「モコモコは可愛いですけど、灰色はカッコよくないですか?」





「……」





「……」





「モコモコが灰色なのよ? つまりモコモコが主役、可愛いってことじゃない」



「灰色のモコモコなんですよ? 灰色はカッコイイじゃないですか」





「……」





「……」





「……」





「……」





「……気に入りはしたの?」





「はい。これを買うつもりです」





「なら……いっか」




俺たちは次の目的


地雪と氷の大地『ネージュ・オルム』へ


行く準備をしていた。




こんにちは、マクヒキです!!


いつも読んでくださりありがとうございます!!

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