三十四殺目 海だ!!
「「海だ!!」」
俺たちの目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる、青い海だった。
「ひっろ!! 海、広すぎでしょ!!」
「まだ、誰も端の方まで行けたことがないらしいわよ!」
海沿いを馬車でゆっくりと走りながら、ワイワイ盛り上がっていた。
─────────
「この風しょっぱいですよ!! あれですか!? これが潮風ですか!?」
「本当ね。匂いも全然違うわ」
─────────
「アビト!! 魚が飛んだわよ!!」
「どこ!? 魚どこ!?」
─────────
「あッ!! あの人、大きいの釣りましたよ!」
「あれが噂の"魚釣り"ね…… 後で、私たちもしましょう!」
─────────
「ビキニだぁぁぁ!!!!」
「は?」
「………ごめんなさい」
─────────海を眺めながら、シルフィード・ホースを走らせること、一時間。
目の前には、海上都市『ラピス・マリーナ』へ繋がる、大きな橋があった。
馬車が四台並べるくらいの幅があり、長さは一キロメートル程もある。
「橋でけぇ〜」
「こんな大きくて、長い橋を人の手で作ったなんて……信じられないわね」
橋の入口でマジマジと観察をしていると、都市の方から橋を渡ってきた人が話しかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、観光か?」
話しかけてきたのは、どこにでも居そうなおっさんだった。
「はい、そうです。」
「やっぱりな。地元のやつはこの橋をそうジッとは見ないからな!」
ガハハハと笑いながら、橋を手のひらで撫で始め、
「この橋は『大賢者様』が、地元の大工と協力して、作ってくださったんだ」
と、唐突にえげつないことを語った。
「だ、大賢者様がですか?!」
「あぁ。SSSランクになられる前にな。前までは、舟で行かなきゃだったから大変だったらしい」
──へぇ、おじちゃんが作ったんだ。あの人は何でもありだな
「ま、要するにこの橋は安全ってこった。都市には色んな海産物があるから腹一杯食ってけ」
「はい、ありがとうございます!」
「楽しでけよぉ〜」
おっさんとバイバイした後、俺たちは橋を渡り終わり、ラピス・マリーナへと到着した。
都市の中心部は、他の街と対して変わらなかった。
強いといえば、建物のほとんどが石作りで、屋根がオレンジ色で出来ており、
そして都市の外側、海辺にはたくさんの魚介類を扱うお店と、たくさんの舟が浮いていた。
ワクワクが止まらない俺たちは今すぐにでも、観光をし始めたいが、お金が無い。
だからまず、この都市の冒険者ギルドに向かった。
「じゃあ私はストーカーを売ってくるから、アビトは適当にやっといてー」
「はーい」
魔物を売るのは冒険者じゃないと怪しまれてしまうので、それはセレネさんに任せ、俺は何か良い情報を得られないか、ギルド内をウロチョロしていた。
──あ、魔物の討伐依頼だ。海特有の魔物も居るって聞いたけど……
貼られている依頼書を一つずつ確認していく。
──ふむふむ、やっぱり海に関係する魔物ばっかりなんだ。ハグリ・シャーク、クラーケン、リヴァイアサン、海龍………レベル高くね?!
名だたるメンツに驚愕していると、
「お兄さん、そちらは高ランク冒険者様用の依頼です。Bランク以下の冒険者様はこちらですよ」
受付嬢の日焼けボーイッシュムチムチお姉さんが、隣に立ち、説明をしてくれた。
──おいおい、ボーイッシュでムチムチは反則だろ…
「例えば、クマシャケや、魚人、人魚、ロウテイト・シージーなどが……お兄さん? その……脚をそんなに…見つめられると、」
──ハッ!! いかん。つい視線が太ももに吸い付いてしまった。
「す、すみません。ついつい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。少し恥ずかしかったですけど」
「アハハハ……すみませ……ん?」
「どうされました?」
「今……どんな魔物が出るって?」
「クマシャケや、魚人、人魚、ロウテ…」
「人魚が出るんですか!?」
「は、はい……そうですけど、なんで急に声が大きく…」
「上裸の!?」
「え、え?」
「人魚って上裸の?!」
「そ、そうですけど」
「上半身が裸で、しかも顔をスタイルもめちゃくッ」
─────────ゴンッッッ
「いっった!!」
後頭部に重い鈍痛が響き渡る。
慌てて後ろを振り返ると、俺の頭をフルスイングしたであろう杖を握ったセレネさんが居た。
「そういうことを大声で言うな!!!!」
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俺たちがここに来た目的は、海と海でしか手に入らない食べ物だ。
俺はもちろん、セレネさんもずっと海がないエルドリア王国に住んでいたため、海を見たことがないのはもちろん、魚介類も食べる機会が少なかった。
だから、俺たちは色んな食べ物を食べよう!! と、意気込んでいたのだが………
「アビト!! なんでそればっかり食べるの!?」
「ムシャムシャムシャムシャ」
「私たちここに来て、まだそれしか食べてないのよ!! 他のも食べるんじゃないの!?」
「ムシャムシャムシャムシャ」
「いい加減にしなさい!! それに、これ高いからお金がすぐ無くなっちゃうでしょッ」
セレネさんが怒りながら、俺の食べ物を回収してしまった。
「あ……あ……あぁ……俺の…」
「美味しいのは分かるけど」
「俺の…………カニ……」
俺はカニにハマってしまった。
魚屋の人にオススメは"これだ"と、言われてカニを出された時は、「キモッ」と思ったが…
一口食べた瞬間、脳みそが焼き切れる程痺れた。
それくらい美味かった。
俺の好きな食べ物ランキングで、不動の一位を誇っていた"二日目のおでん"を軽々と超えてきた。
本当に美味かった……
その後も、セレネさんと一緒に、魚や貝や、カニと同じ類いの"甲殻類"を食べたがカニ以上に響く物はなかった。
そして、お腹がいっぱいになった俺たちは、
「次は……魚釣りね!!」
「やったぁ!!」
魚釣りをすることになった。
「予約をしていた者ですけど…」
有能なパーティーリーダーのセレネさんは、予約をしていたらしい。
──やばいな。今回なんにもしてないぞ…
ギルドで"上裸"って叫んで、カニを大食いしただけだ。
魚釣りで良いところを見せなければッ
セレネさんが声を掛けたのは、十人程が乗れる舟の船長さんだった。
「さっきの嬢ちゃんか! 乗りな!!」
二人で舟に乗り、イスへ座る。
「今日の客は嬢ちゃんたちだけだ! 思う存分釣りをしてくれよ! ちなみに、俺の仲間も乗る予定だからな」
「「は〜い」」
船長のお友達三人も合流したので、合計六人で出港する。
よく魚が釣れるポイントへ舟で数十分間移動し、釣りを開始した。
釣りの仕方は移動中に教えて貰ったのだが、
「きたッ」
「おぉ!! 嬢ちゃんまた太いの釣ったじゃねぇか!」
「俺たちも負けていられねぇな」
釣り始めて約二時間、俺だけ全く釣れていなかった。
「……」
「ハハッ、坊主は殺気が出過ぎてるんじゃないのか!? そんなんじゃ魚は食いついてこねぇぞ!!」
──ちくしょう……全く楽しくない。来いよ!! 魚来いよ!!
その願いも虚しく、
「俺もきたぞ!!」
「ワイもだ!!」
「あッ私も……」
セレネさんが気まずそうな顔で、こちらを見てくる。
──これダメだ、好感度が下がったわこれ。哀れみの目で見つめられてる……
涙を海に垂れ流しながら途方に暮れていると……
「うぇ?」
いきなり俺の竿が尋常じゃない角度で曲がり始めた。
「ちょ、ま、え、おっも!! 何これ重!!」
「おい坊主!! 大物だぞ!! 頑張って引き上げろ!!」
「タモだ!! タモを持ってこい!!」
あまりの引き具合に舟上が大騒ぎになった。
「俺と力が互角だと?!」
その魚は俺の想定を遥かに超える力を持っていた。
「坊主いける!!」
「この都市の歴代記録に名前を残せるかもしれないぞ!!」
──釣り竿だと、力が思うように出せない……このままじゃ
「やばい……」
諦めかけた、その時、
「アビトーーー、頑張れーーー!!」
セレネの声が、アビトの全身に響いた。
「うおおおおりゃあああああああ」
──ここで釣り上げて、俺は………カッコつける!!
「どりゃああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
─────────ジャバンッッッッ
魚が海中から、勢い良く飛び出した。
「嘘………だろ?」
飛び出してきたのは、頭と足が魚で
「あれは」
胴体と手が獣だった。
それが目に映った瞬間、アビト含め、全員が叫んだ。
「「「「「「クマシャケだぁ!!!!!!!」」」」」」
『クマシャケ』とは、Bランクの魔物で海に生息しており、気性が荒く、海辺に住む住人を襲う。
海中であれば、Bランクでトップの強さを誇り、何人もの人間を殺している。
ではなぜアビトたちは喜んでいるのか? それは、クマシャケに付けられた異名が関係している。
それは、
『魚類最高の珍味』
クマシャケは超高級食材として知られていて、並の貴族でも滅多に食べられない代物だ。
その価値、百グラムあたり、約五十万ゴールド。
「アビトォ!!!!! 絶対に、捕まえてぇぇぇ!!!!!!」
そして、セレネの大好物でもある。
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