三十三殺目 砂漠と草原と海
「アビト!!」
セレネの声が響き渡り、それと同時にアビトが駆ける。
「オイヤァァァァァァァ」
─────────ズドンッ
ストーカー・リザードンの頭が、フライパンによって叩き潰された。
死んだことを確認し、アビトが親指を立てて、微笑む。
「完璧!!」
その言葉を聞き、セレネがドサッと座り込み、ほっと息をついた。
「ふぅー、これで五体目ね。やっとストーカーとの戦闘に慣れたわ。」
セレネが無事ストーカーを倒したことで、アビトたちは勢いづき、その後も、複数のストーカーに勝利していた。
「一体十万ゴールドとして、今五十万ゴールドだから………もうちょっと欲しいわよね」
「そうですね。ストーカーの倒し方が分かってきたので、あと五匹はいけると思いますよ」
-----------------------------そして、俺たちはそのままの勢いで、四匹のストーカーを倒し、目標まで、あと一匹になっていた。
「それにしても、本当に私たちでBランクの魔物を倒せちゃうなんて嘘みたい……。アビトのおかげね」
先程からセレネさんがたくさん褒めてくれるので、興奮が止まらない
──にしても、なんでまた、俺への好感度的なのが上がったんだ? なんかしたっけ? 全然分からん。……まぁ、いっか!
乙女心はお前らには理解できないと、姉弟子に言われたことがあるので、考えるのを諦めた。
そして、
「いえいえ、セレネさんの魔法があったから、ここまで良い感じに戦えてるんですよ」
グへへへへが出ないように堪えながら、セレネさんに褒め返す。
すると、セレネさんがギュッと杖を抱きしめ、
「ありがとッ」
と、嬉しそうに微笑んだ。
──あぁ可愛なぁ〜
可愛らしい笑顔に癒されながら、ストーカーの死体を保存鞄に詰める。
「よし、オッケー!」
詰め込み終わり、次のストーカーを探しに行こうとした……その時、
不穏な気配を察知した。
──うぇ? これ……殺気だ。それに…
目を閉じ、全身を殺気に集中させる。
「アビト? どうしたの? 眠い?」
セレネさんが不思議そうに聞いてくるが、一旦無視させてもらう。
全神経を集中し、発せられる殺気の位置と、強さを探る。
「やっば!!!!!!!」
「ど、どうしたの?! いきなり叫んで!?」
「セレネさん、馬車でここから逃げましょう!! 急いで!!」
セレネさんの手と、保存鞄を握り、馬車の所へ走り出す。
「え、ちょ、ちょっと!! どうしたの!?」
「化け物が来ます!!」
「え……化け物?」
まだ状況を理解できていないセレネさんを、無理やり引っ張り、馬車へと向かう。
なぜなら、
──この殺気、フェンリルと同じくらいだぞ?!
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「本当に上に乗ったままでいいの?」
「いいですから!! 速く!!」
「わ、分かったわ!」
シルフィード・ホースが駆け出すと同時に、俺の体が後ろへと持っていかれる。
──後ろがよく見えるように、馬車の上に乗ったけど…こわぁぁぁぁい!!
恐怖と落下に、必死に耐える。
「ねぇ、なにが来てるの!?」
何が何だか分からない状態で、馬車を走らせているセレネさんが、問いただしてくる。
「まだ何かは……」
質問に答えようとした時、馬車の後方、つまり砂漠地帯の方から、信じられないものがこちらに向かっていた。
「デッッッッッッッッッッ!!!!」
俺たちの馬車目掛け、巨大な"なにか"が迫ってきていた。
土煙を巻き起こし、姿は見えない。だが、
「あの影って……」
「アビト!! 何が居たの!?」
煙に隠れていたその巨体が、徐々に顕になっていく。
──おい、おい、おいおい!!!!! マジかよ?!
土煙の中から現れたのは、先程までアビトたちが戦っていた"魔物"だった。
「ストーカーです!! でっっっっかいストーカーですッ!!」
土煙から出てきたストーカーは、先程のストーカーよりも五倍以上の大きさがあった。
──普通のストーカーでも、俺よりデカかったのにッ。
あいつ、ドラゴンなんかより全然デカイぞ!!
俺の声を聞いたセレネさんが動揺した表情で、御者席から顔を出した。
「うそ……あれって」
「あのデカいストーカーのこと、知ってるんですか?!」
セレネさんが顔を青く染めながら、叫んだ。
「あれ、クイーン・ストーカー・リザードンよ!!」
──名前からして、ヤバいやつじゃん!!
「クイーンは………Aランクよ!!」
──Aってことは…襲われたら……確実に死ぬ……よね?
え?!
「ヤバいじゃないですか!! セレネさん戻って!! そして、もっと速度出して!!」
「わ、分かってるわよ!!」
セレネさんが御者席に戻り、さらにシルフィード・ホースの速度を上げた。
「あいつってどれくらい強いんですか!?」
速度が上がり、さらに落ちそうになる体を必死に支えながら、声をあげる。
「肉弾戦なら、ドラゴンに勝つらしいわよ!!」
「えぇぇぇぇ!!!! あいつドラゴンより強いんですか?! ダメじゃん!!」
「物理攻撃だけだったらね。ドラゴンは飛べるし、魔法も使えるから………って!! クイーンの方が速くない?!」
セレネさんの言う通り、俺たちとクイーンの距離が少しずつ縮まっていた。
「アビト!! なんとかして!!」
「ちょっと待っててください!!」
「急いでぇ!!」
保存鞄を漁り、この状況を打開出来る物がないか探す。
──あれでもない、これでもない、それでもない……何か良いの…何か…何か……こ、これ……イケるか?!
「お前に託したぞ!!」
保存鞄から"ある物"を取り出し、そして投げる。
「くらええぇぇぇぇぇぇ!!!! 何かあった時のために買っておいた、俺のローション(五百ミリリットル×十二本)をぉぉぉぉ!!!!!!!!」
クイーンが通るであろう場所目掛け、十二本の瓶を全て投げる。
そして、数秒もしないうちに、ローションが投げられた場所を、クイーンが通った。
─────────ズルッ ……………ズドンッ!!!!!!
ローションを踏んだ、クイーンの右前脚が大きく滑り、その巨体ごと地面へ勢い良く倒れた。
「アッハッハッハッハハハハ!!!! 見たか!! これがローション大人買い(一ダース)の力だぁぁぁ!!!」
ローションのおかげで、俺たちは無事に逃げられた。
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逃げ切った頃には日が暮れていたので、草原で野営することにした。
そして、
「ねぇ、アビト。なんでローションなんか持ってたの? しかも、大量に……」
「……」
絶賛俺は、ローション尋問を受けていた。
「なんで黙るの? もしかして、なにかよからぬ事に使おうとしてたんじゃないの!?」
「…………肌の…保湿…的な?」
「保湿?! 何を言って……って、よく見たらアビトの肌意外に綺麗ね」
「え?」
「え?って……保湿してるんじゃないの?」
──あっ
「そ、そうですよ!! ほら!! ローション使ってたからモチモチですよ!!」
何事もなかったかのように、自分の頬を指で押し、モチモチアピールをすると、
「確かにモチモチね。羨ましい」
そう言いながら、セレネさんが顔を近づけ、指を伸ばした。
─────────モチッ
「キャッ」
草原に、アビトの小さな悲鳴が響いた。
「……」
「……」
「あ……ごめん。いきなり触っちゃって…」
セレネが慌てて、アビトの顔から指を離した。
「そ、その……アビト? 顔が赤く……」
「………」
「ご、ごめんね!!」
「い、いえ………」
そのままセレネが後ずさりをし、焚き火の反対側へ移動した。
そして、アビトは
──は、恥ずかしいぃぃ!!!! 女の子みたいな声出しちゃったじゃん!!
いきなり顔が急接近してきて、いきなり指で顔を触られたせいで…
恥ずかしぃ、もうお婿に行けない…
セレネさんにめちゃくちゃダサいところ見せちゃったぁ……
もう、ダメだ。この旅はもうずっとダメだ
顔を埋め、落ち込んでいた。
─────そして数分間、気まずい空気が流れた。
恥ずかしさのあまり、ずっと蹲りながら座っていると、
「私は気にしてないから!!」
セレネさんが、再び俺の隣へ座り、励ましていた。
「変な…声……出しちゃった…」
だが、その慰めにより、さらに泣きそうになった。
「本当に気にしてないから!! 私のせいだし!! それにアビトのかわいッ…プッ……悲鳴も…クックク…"キャッ"って……」
セレネさんが、体の震えと笑いを必死に堪え始めた。
「ごめん……ちょ、ちょっとッ……待って…ククッ…アハハハハハハ!!」
遂には、我慢出来ずに吹き出し、お腹を抱えながら、笑い転げた。
「もう……料理作りません…」
そう言いながら、セレネさんの方に背中を向け、毛布に包まる。
「え?! ちょっと待って!! ごめんなさい!! もう笑わないから!! そ、それに、本当に可愛かったのよ!? ねぇ、アビトの料理が食べたいの!!」
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なんやかんやありながらも、二日後には……
「アビト!! 見えてきたわよ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ、スゲェェェェェェ!!!!!!」
俺たちの目に映ったのは、
「「海だ!!」」
どこまでも広がる、青色の海だった。
こんにちは、マクヒキです!!
これからは、三日に一回投稿していきたいと思います!!
どうかこれからも、読んでいただけると嬉しいです!!




