三十二殺目 次の都市へ
------------翌朝
「アビトー、準備は出来た?」
「はい!! もう行けます!」
お金が無くなった俺たちは、2日目にして次の都市に行くことになった。
「じゃあ、馬車を取りに行きま……」
「どうしたんですか?」
セレネさんが、何かを思い出したような表情をした。
「ごめん、アビト! ちょっと先に行ってて!!」
「は、は〜い。」
──どうしたんだろ、急に。………トイレかな?
俺は"女の子はトイレしない!!"みたいな馬鹿げた幻想を抱いてないのに…
だからといって、「トイレ、行ってらっしゃい!!」と言うわけにもいかないので、そのまま馬車を置いた場所まで行った。
-----------------------------数十分後
「セレネさん遅すぎないか? 襲われてたりとかしてない……よね?!」
不安になりながら、馬車の周りをグルグル回っていると、誰かが走ってくる音が聞こえた。
「ごめーん、遅くなっちゃった!」
走ってきたのはセレネさんだった。
「良かった〜。何かあったかと思いましたよ」
「心配してくれてたの? ありがとうね。略奪王のことについて聞いてたのよ。また、盗まれないように色々情報を、ね?」
「あぁ〜そういうことか。とりあえず何もなかったなら良かったです! じゃあ、行きましょうか!!」
「うん!」
そして俺たちは、砂漠の商業都市『サマクランド』を旅立ち、次の目的地である海上都市『ラピス・マリーナ』へ馬車を走らせた。
-----------------------------数十分前のセレネ
「らっしゃい。……って、昨日の嬢ちゃんじゃねぇか」
「お、お邪魔します」
「どうしたんだ?」
相変わらず怖い見た目をしている店員だが、以外に優しい性格をしている。
人間、見た目で判断はしてはいけないと再認識させられた。
「お願いがありまして」
「俺に出来ることなら何でもいいぞ」
「略奪王の情報が欲しいんです。また盗まれたり、襲われたりしないために。」
「たしかに嬢ちゃんはまた狙われても、おかしくないな。全然、構わんぞ。」
「ありがとうございます。そ、その……もう一つお願いが…」
「なんだ? 言ってみろ」
恥ずかしさを隠せず、モジモジしながらも、声を出す。
「……………しくて」
「あ? なんだって?」
「き………の…とり……しくて」
「嬢ちゃん、ボソボソすぎて聞こえないぞ」
どんどん大きくなっていく羞恥心を必死に堪えながら、呟く。
「き、昨日の服を…取り置きして……ほしくて……」
「ガッハッハッハッハ!!!!」
それを聞いた店員が大声で笑い、さらに恥ずかしさが増していく。
「笑わないでください!!」
「ハッハハハ。すまねぇ、すまねぇ。いいぜ、嬢ちゃんが買いに来るまで、ずっと取っておいてやるよ」
「ありがとうございます…」
「もう直しちまったから、一式全部探すの手伝ってくれよ?」
「は、はい!」
-----------------------------そして、現在
「オッロロロオロロロロロッロロ」
「そんなに乗り物ダメなの? そこまで速くなかったわよ?」
「景色…ウプッ……見てたら、目が回ちゃって…」
「この旅、ずっとその調子じゃ大変そうね」
「もう慣れましたから、だいじょッオロッオロロロロ」
「はいはい、無理して喋らなくていから」
セレネさんに背中をさすられながら、ゲロを吐きまくっていた。
そんなふざけたことをしているこの場所は、砂漠と草原の境目。
目当てのBランクの魔物、『ストーカー・リザードン』
通称、『ストーカー』の生息地だ。
ストーカーは、大きなトカゲで、背中が硬い鱗で覆われていて、それに足が速い。
攻撃方法は、突進や尻尾の振り回し、噛みつき。
全てが、近距離攻撃だ。
そして、俺の攻撃方法はというと……
「オロロロロッ…あ゛あ゛胃が気持ち悪い。あ、セレネさん後ろからストーカー来てますよ?」
「え?」
セレネが後ろを振り向くと、砂漠の方から砂埃を巻き上げ、こちらへ向かって来ている影が見えた。
「本当に来てるじゃない!! アビト急いで!!」
「ふぅー、全部吐ききったんで、もう大丈夫です」
そう言いながら、バッグに入れていた"あれ"を出す。
「作戦通りにいくわよ!」
「了解!」
アビトがセレネの前に立ち、腕を振りかぶる。
セレネが杖に魔力を込め、魔法を唱える。
土煙がどんどん大きくなり、近づいてくる。
そして、土煙から姿を現したのは、砂と同じような色した大きめのトカゲだ。
「アビト、むちゃしないでよ」
「分かってますよッ」
目の前まで猛スピードで、走ってきたストーカー目掛け、
「うおらぁぁぁ!!」
フライパンをフルスイングする。
─────────ゴーーーーーンッ
アビトがフライパンで殴ったことにより、ストーカーが後方へ飛ばされた。
「セレネさん!!」
セレネの杖の先が紫色の光を放ち、黒き弾丸が生成される。
──狙うのは鱗がない……腹の部分!!
狙いを定め、放つ。
「『シャドウ・バレット!!』」
─────────キンッ
「クソッ」
だが狙いが逸れ、背中の鱗に当たり、弾かれる。
「気にしないで、次の作戦やりましょう!!」
アビトの声で、揺らいだ精神が落ち着きを取り戻す。
飛ばされたストーカーが立ち上がり、鬼気迫る顔で、こちらへ迫って来る。
だがその顔は、口先が潰れており、血がダラダラと流れていた。
──アビトの攻撃が効いたんだ。これなら…いける!!
「分かったわ、『ノワール・ミスト!』」
杖から闇の霧が、セレネを、アビトを、そしてストーカーを包んでいく。
辺り一面が闇に覆われ、その闇は使用者以外の視界を奪う。
相手の周り、全てが死角になるこの魔法は、とても強力であり、闇属性魔法使いの間で長く愛されている魔法だ。
だが、この魔法が全くと言っていいほど通用しない者たちがいる。
闇属性と反対の魔法を扱う、光属性魔法使い、"視覚"以外の五感が優れている者、そして……
──お前は見えてないかもしれないけど、俺は分かっちゃうんだよなぁ………お前の殺気でッ
そして、第六感を持っている者
何も見えずジタバタしているストーカーに詰め寄り、頭にフライパンを叩き込む。
「よいしょぉぉぉ!!!!」
すかさず、地面に叩きつけられたストーカーの、腹と地面の間にフライパンを潜り込ませ、
「そして、フライパン返しぃぃぃぃ!!!!」
フライパンに乗ったストーカーが、天高く舞い上がる。
「空中の無防備な体勢ならッ」
──もっと魔力を込めて
「『シャドウ・バレット!!』」
勢い良く放たれた弾丸が、ストーカーの腹に突き刺さり、貫通する。
だが、
「セレネさん!! まだ死んでない!!」
「もう一発……」
──いや、もう一回撃ち抜いても同じだ………なら!!
深く息を吸い、吐く。
心を落ち着かせ、ストーカーの傷口を目掛け、
「『ダークボルト!!』」
放たれた稲妻が、ストーカーに向かうが、
「あッ!!」
その稲妻はストーカーの上を通ろうとしていた。
──また制御が……アビトが作ってくれたチャンスを無駄にした……ダメだ、このままだとアビトが…
「そーーーーーーれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
その時、ストーカーの真下からアビトの声が響いた。
その声と同時に、ストーカーに猛スピードで近づいていく"モノ"があった。
「ふ、フライパン?!」
アビトが投げたフライパンが、ストーカーを上へと押し上げた。
「ギィィヤァァァァ」
再び上がったストーカーに、セレネのダークボルトが衝突した。
しかし、
──威力も足りてない……
腹の表面が黒く焦げたが、まだそれでも死んではいなかった。
「こ、攻撃を続けないと」
──このままだと、武器が無くなったアビトが、ストーカーに……
セレネの精神が再び揺らいだ。
「『ダークボルトッ』」
稲妻が大きく逸れ、どこにも当たることもなく、消えた。
「だ、ダメだ……私じゃ…」
セレネの視線は、落下をし始めたストーカーから、その下にいるアビトへと移った。
フライパンを投げてしまったことで、攻撃方法が無くなってしまった。
さらに、アビトは戦えると言っても本職は、料理人だ。
素手の料理人の真上から、Bランクの魔物が降ってくる。
つまり…
──アビトが、死んじゃう!!
「アビト!! 逃げ……」
"逃げて"とアビトに叫ぼうとした時、セレネの目にはある姿が映った。
「セレネさん、もう一回!!」
アビトがセレネに笑いかけ、人差し指を立てていた。
「な、なんで……」
──何回も失敗しているのに、なんで、またチャンスをくれるの?
半ば無理やりパーティーを組んで、しかも、迷惑もたくさん掛けてるのに……なんで
今、自分が死にそうだって、分かっているのに……
「セレネさん!!」
その時、セレネの頭の中である言葉が思い浮かんだ。
アビトが満面の笑みで見つめ、立てていた人差し指をセレネの方へ向ける。
「やっちゃえ!!」
その姿から感じられたのはただ一つ。
『信頼』だ。
「私をここまで信頼してくれたのは、あなたが初めてよ……」
──まだ、出会って一週間近くしか経ってないのに、誰よりも、私のことを……
目に浮かんだ涙を拭い、杖を力強く握る。
心を落ち着かせ、ただ一つのことだけを考え、魔力を杖先に集める。
──アビトの信頼に応えたい
狙いを定め、そして、叫ぶ
「『ダークボルト!!』」




