三十一殺目 盗まれた
「財布が………ない…」
──あ、セレネさんが泣きそうになってる…
少し涙目になったセレネさんが、慌てふためく。
「な、なんで! ポケットに入れてたのに…」
オロオロしながら、全身をくまなく探しているセレネさんに店員さんが問いかける。
「ここに来る前に誰かとぶつかったりしなかったか?」
「あ…ここに入る前に少しだけ男の人とぶつかりました。………まさか!?」
──あぁ〜なるほど。そういうことか
「盗まれたな」
「嘘…全然気づかなかった」
セレネさんが肩を落とし、誰がどう見ても分かるくらい落ち込んでいる。
「よし、さっきのやつ探しだしてぶち転がしますか。なんとなく顔は覚えてるんで」
──うちのセレネさんを泣かせたカスは確実に殺す。完膚なきまでに殺すッ
そう思いながら意気揚々と店を出ようとすると、店員さんが前に立ちはだかり、俺を止める。
「ちょっと待て」
「なんですか? 止めても無駄ですよ」
「まぁ一回落ち着け」
俺を宥めながら、セレネさんの方へ向いた。
「嬢ちゃんは、もしかして貴族か?」
予想外の質問に、セレネさんが驚きの声を上げた。
「なんで分かったんですか?!」
その返答を聞き、ため息混じりに話し始めた。
「あんちゃん……諦めな」
「なんで?」
「最近、あいつの目撃情報が報告されたんだ。それに、活動する予定の場所に居る同業者を、まず潰してから、活動を始めるらしいんだ。だから、盗むやつは、今のサマクランドにはあいつしか居ない。」
「あいつ?」
「盗んだやつはおそらく、異名『略奪王』。長年捕まっていない犯罪者で、貴族や高ランク冒険者、つまり立場が上のやつらばかりを狙うんだ。貴族から盗んだり、冒険者を襲ったりな。」
「だからセレネさんが狙われたのか…でも、それと諦めは関係あるんですか?」
「あんちゃんは、Sランク以上の実力があるか?」
店員さんが、真剣な眼差しで見つめてくる。
「……つまり、そういうこと?」
「あぁ、そういうことだ。この前この都市に来たAランクだけで結成されたパーティーが、略奪王一人に負けた」
「えぇ〜無理じゃん!!」
「そうだ。だから、不可能なんだ。」
「Aランクパーティーが負けるなんて…。Sランクの上位じゃないと倒せないわね……」
セレネさんがさらに落ち込むが、無理やり笑顔を作り、その笑顔をこちらに向ける。
「アビト、そんなやつに盗られたのなら仕方がないわ。ありがとうね。」
そんなセレネさんの顔を見ると心が苦しくなった。
──クソッ。ぶっ殺したいけど、俺じゃ勝てないな……。逆に殺される
行き場のない怒りを必死に抑えていると、あることを閃いた。
「なら、僕が買いますよ! 僕が選んだ服ですし!!」
──ここでプレゼントとしたら、クソカッコよくね?
「え?! 申し訳ないわよ!! 元々私が買うつもりだったし、それに私の不注意で……」
「気にしなくて良いですよ。僕からのプレゼントっていうことで!!」
「で、でも…」
「あんちゃん、カッケエな」
──やばいな。イケメンムーブが気持ちよすぎる
イケメンムーブをカマしながらレジに行き、店員さんにお金を払う。
「え〜と、三万五千ゴールドでしたよね」
「あぁ、そうだ」
「え〜と」
「あんちゃん?」
「え〜と」
「ア、アビト?」
「え〜と」
「あんちゃん泣きそうになってるぞ?」
「盗まれた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「えぇ!? アビトも?!」
「二人ともか…」
「え、ちょ、ま、ちょ、え?」
──な、なんで?! 俺ぶつかってないよね!? あの一瞬で?! 俺の財布も盗んだの?! やっっっっっっば!!!!!!
「おいおいマジかよ。じゃあ、あんちゃんも貴族なのか?」
「ただの料理人です」
「なら…………嬢ちゃんのついでだな」
──ついで?! セレネさんのついでで盗まれたの!? 俺のお金そんな雑な扱いされたの!?
泣きそうになりながら、セレネさんを見つめ
「僕、財布に全額入れてました……」
全財産が無くなりました。
すると、セレネさんの表情がさらに暗くなり、
「わ、私…も……」
一つ目の都市で、パーティーの全財産が無くなりました。
泣きながら落ち込んでいると、ふと、疑問に思ったことがあるので、話を戻す。
「そ、そういえば、何でセレネさんが貴族って分かったんですかね?」
「あいつは、有名どころの貴族全員の顔を覚えてるって話だぞ」
「はぁ〜、何よそれ……この都市に入った時点で、盗まれるのは確定してたってことじゃない………」
店の中には信じられないほどのドス黒い空気が流れていた。
すると、
「このまま帰すのも忍びねぇ。あんちゃんたちは俺の服を気に入ってくれたんだ!! 俺からの気持ちだと思って、選んだ服は持って帰ってくれて構わん!!」
「マジですか?!」
「で、でも申し訳ないですよ」
驚く俺と、申し訳なさそうにするセレネさんを気にも留めず、
「良いんだ!! 次、サマクランドに来る機会があったら、この店に顔を出して、また服を褒めてくれるだけで良いんだ。だから、持ってけ!」
店員さんの漢気溢れる態度に、俺たちは互いの顔を見合い、頷く。
「「ありがとうございます!!」」
と、お礼をした時……
「アンタ!! 今日も借金取りの人たちに土下座しに行くよ!! 地面に頭擦り付けたら数日は伸ばしてもらえるからね。このままだと、あの子達の食べるご飯が………あッお客さん?! ごめんなさい、気が付かなくって。失礼しました〜」
店の奥から、中年の女性が出てき、帰っていった。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れた。
「借金があるんですか?」
「あ、あぁ」
「ちなみにおいくら?」
「一千万ゴールド……だ。言っただろ? 服が全然売れてないって」
「子どもたちのご飯がないんですか? ちなみにおいくつ?」
「結構ギリギリだ。六歳と三歳で両方とも女だ」
「……」
「……」
「……」
「お返しします」
「す、すまねぇ」
-----------------------------その後、アビトの部屋
「……」
「……」
「……」
「……」
「食料は僕の保存鞄に沢山あるので大丈夫ですね」
「そうね。でも、お金がないから次の街では宿取れないわね」
「……」
「……」
「ダンジョンでお金稼ぎます?」
「ここら辺はダンジョン無いらしいわよ。次の街までの道のりにもね」
「……」
「……」
「魔物は?」
「魔物も居ないらしいわ。道のりには魔物が出るには出るらしいんだけど、Bランクの魔物しか出ないんだって」
「……」
「…私が貴族だから、アビトも……」
セレネさんが瞳に涙を浮かべ、俯く。
「いや!! セレネさんのせい…じゃ………」
──あれ?
「グスンッ…………わッ、な、なに?」
俯いていたセレネさんの肩をがしりと掴み、揺らす。
「道中に出てくる魔物のランクが何って言いました?」
「び、Bランクよ。だから私たちじゃ…」
「………………勝てるじゃん!!!!!!」
──だって俺も、Bランクだもんッ!!
Bランクの魔物なら俺一人でも倒せるもん!!
「え? でも私Dランクだし、アビトも同じくらいの強さでしょ?」
──俺が料理人じゃなくて、本当はBランクの冒険者って知らないから、無理もないか……
だが、ここは勢いでいかせてもらうッ!!
「セレネさん!! その魔物倒して、お金を稼ぎましょう!! それしかない!!」
さらに、揺らす。
「で、出来るのならそれが良いけど……私じゃ、」
「出来ますよ!! セレネさんはダンジョンで、Cランクのモンスターを追い詰めたじゃないですか!! それに、Bランクの魔物を倒したら、大量のマナを吸収して、めっちゃ強くなりますよ!!」
悩んでいたセレネさんが、ハッとした表情をし、徐々に明るくなる。
「そ、そうよ! 私はCランクのモンスターを倒せるくらいの力がある!! だから…Bランクの魔物にだって……きっと…」
だが、Bランクの魔物に通用するとは思ってはいないようだ。
表情がまた暗くなってしまった。
──ここはイケメンムーブをぶちかますしかないな
「セレネさん」
「なに?」
セレネさんに微笑みかけ、元気づけるような声で、
「一人じゃないですよ!! 僕も居ますから!! 一緒に頑張りましょ!!」
「…………調子に乗るなッ!」
──コツンッ
「いたッ」
──また杖で叩かれた…。イケメンムーブ失敗したか?
そのままセレネさんが立ち上がり、扉の方へ向かった。
だが、チラッと見えたセレネさんの表情は、喜びと、楽しさが混じったような笑顔だった。
その時、扉を開け、部屋を出ようとしていた歩みを止めた。
「もう一日くらい観光していたかったけど、お金が無いから仕方がないわ。明日のお昼に出発するわよ」
そして、こちらを振り向き、
「だから、ちゃんと準備しておきなさいよ」
微笑んだ
「相棒!!」
こんにちは、マクヒキです!!
たくさん読んでいたき感謝しかないです!!
これからもどうぞよろしくお願いいたします!!




