二十九殺目 サマクランド
「じゃあまずは、砂漠の商業都市『サマクランド』ね!!」
「は、は〜い……」
プロワセから出発した俺たちは、帝国の隣にある砂漠地帯の都市に向かうことにしたのだが、、、、
「ちょ、セレネさん?! 速くないですか!?」
「当たり前じゃない! シルフィード・ホースなんだから!!」
俺たちの馬車を引っ張ているのは、銀色の毛並みをした大きな馬。
名高い魔法使いたちが、生み出した人工魔物の一つだ。
移動には打って付けの風属性であり、体内のマナを消費することで、普通の馬車より四、五倍の速度で走ることができる。
少しでも多くの国や都市を回りたいとのことで、セレネさんがポケットマネーで買っていた。
シルフィード・ホースって、ポケットマネーで買える値段じゃないのに……さっすが貴族
だけど……
「セレネさん! 速度落としてぇぇぇぇぇ」
──あまりにも速すぎる!! こっっわッ
普通の馬の速度でも怖いのに!!
御者席に座っていたセレネさんが、ニヤけながら振り返る。
「もしかして、怖いの?」
「べ、別に!! 怖くないですけど!! でも、速すぎると危ないかなって!!」
キャビン内の手すりに抱きつきながら強がると、
「ふ〜ん、そっか! じゃあもう少し速く走っても大丈夫よね!!」
「え…………ッッッファ」
大きな銀馬が風を切り裂き、駆け抜ける。
「ちょ、むりむりむりむり!!!!!!! 止めてぇぇぇ!! 謝るからぁぁぁ!!!!」
「アハハハハハ!! 気持ちいい!!」
-----------------------------
「オロロロロロロッ」
「ご、ごめんね…アビト。誰かと旅をするの初めてだったから、つい楽しくなっちゃって……」
「ぜんぜ…ウプッ…大丈夫でオロロロロッ」
その後も移送を続け、日が暮れ始めた頃には目的地まで残り三割程の距離まで進んでいた。
そして、ちょうどシルフィード・ホースの体力と俺の馬車酔いが限界に達したので、川沿いの開けた土地で野営をすることにした。
「調子に乗りすぎてた……ごめんなさい」
「い、いえ、、気にしないでッッッください。僕も途中から楽しくなってましたかオロロロロロッ」
「本当にごめん…って?! なんか黄色の出てるよ?!」
──本当に気にしないでいただきたい。これが兄弟子だったらぶち殺していたが、セレネさんなら全然良い。
それに、背中をずっとさすってもらってて、内心テンションが上がってる。
興奮ゲロが止まらない……
「うわぁぁぁ!! 緑になった!? なんで!?」
-----------------------------
「今日のご飯は、コス・ウルフの赤ワイン煮込みです!!」
その後、復活した俺は料理を作り、
「柔らかいし、美味しい〜」
──やっぱり夜になるとムラムラするッ!!
欲を発散させるために、一人稽古をし、
──やっぱりアビトは今日もトレーニングしてる……すごいなぁ
「セレネさん、朝ですよ〜」
朝日が昇り始めたため、出発の準備をし、
「んん〜。おはよう〜」
一時間後には、
「うわ!! すっご!!」
見渡す限りの砂の世界が広がっていた。
「本で読むとじゃ全然違う……来てよかった」
砂漠地帯に到着をしたのだ。
そこからさらに、砂漠を一時間程馬車で移動するのだが、
「暑っつい」
セレネさんが額に出来た汗を手で拭い、水を飲む。
事前の情報通り、砂漠地帯は気温がものすごく高く、空気も乾燥していた。
大抵の人間なら、この暑さに苦しめられるだろう。
だが俺が…
「なんでアビトは平気なの? こんなに暑いのに」
「実は僕が着てるこのエプロン、火属性の付与がされてるんですよー」
「付与!? しかも、火属性!?」
そう俺のエプロンは火属性の付与がされているおかげで、着用者の暑さ、熱耐性が上がるのだ。
だから俺は今もこうして、爽やか笑顔を作ることができる!!
「だから、僕のことはお構いなく〜」
爽やかスマイルでセレネさんに微笑むと、セレネさんから微かな殺気が発せられた。
「ねぇアビト、少しの間だけ貸してくれない?」
「えー、嫌ですよ〜。僕暑いの苦手ですし」
「お願い、私も暑いの苦手なの」
「ん〜」
「少しの間だけ!!」
「じゃあ、ちょっとだけですよ?」
「本当!? ありがと!!」
渋々エプロンを手渡すと、セレネさんが満面の笑みで喜んでくれた。
──うん。可愛いからいっか!!
────────数十分後
「セレネさん、もう無理!!」
「ごめん、ごめん。あと少しだけ〜」
「それもう三回目ですよ!? 約束が違うじゃないですか!!」
セレネさんに奪われました。
「そうだけど……これを着てから暑さが一気になくなって風が気持ちいいのよ。それに、もうあの暑さを味わいたくないって気持ちが………ね?」
爽やか笑顔で、こちらを見てくる。
──あッ、可愛い!!
「……じゃない!! 死んじゃうから!!」
「分かったから、あと五分だけ」
──分かってないじゃん!! 確かにエプロンを脱いで、この暑さに戻るのは嫌だろうけども!!
はぁ、しょうがない
「分かりました。」
「ありが…」
「ところでセレネさん。昨日セレネのせいで体調を壊したんですけど覚えてます?」
「……ごめんなさい」
-----------------------------「よし、通れ」
「店多ッ」
あれから数十分後、俺たちは無事に目的地である砂漠の商業都市『サマクランド』に到着した。
サマクランドは大きな門で囲ってあり、中に入ると大量の出店が目に入ってきた。
「さすが、商業都市ね。どの店も質の良い物を揃えているし、なにより活気に溢れてるわね」
俺たちがここに来たのは、砂漠と世界最大規模と言われているサマクランドの店が目当てだ。
セレネさんが言う通り、店の量だけでなく質が良い。だからここでしか手に入らない物がいくつもあるらしい。
そのため、サマクランドは人気の観光地の一つとされている。
俺たちは都市を回るため、宿を取り、荷物や馬車を置きに行った。
────コンコン
「は〜い……ハッ!!」
扉を開けると、準備満タンのセレネさんが立っていた。
上から着ていた茶色のローブを脱いでおり、青のワンピースだけを着ていた。
「私は準備できたけど、アビトはもういい?」
「……」
「どうしたの? もしかしてまだ調子悪い?」
──薄手生地ノースリーブだと?! かっわい!!
それに、ワンピースだったんだ!! ロングスカートだと思ってた……かわい!!
厚手のローブから、このワンピースは…………ギャップが素晴らしいな
「ちょ、ちょっと!! なんでそんなにジロジロ見るの?!」
「あまりに可愛いから……」
「お世辞はいいって言ったでしょ!! 早く行くわよ!」
──やっぱり褒め言葉は通用しないな。ツンデレって大抵褒め言葉で照れるもんじゃないの? 漫画だとそうだったんだけど……
そもそもセレネさんはツンデレなのか?
セレネさんと一緒に都市を練り歩き始めたのだが
「私たち結構見られるわね」
「そうですね〜。でも、"たち"ではないと思いますよ」
──見られてるのあなただけですよ?
「やっぱり私たちが黒髪だからかしら? よく間違われるのよね、英雄の一族に」
──あなたが可愛いからでしょ、どう考えても。
その顔に、そのワンピースは誰だって目で追っちゃうでしょ!!
いやらしい目と嫉妬の目で見られながら、俺たちのサマクランド観光が始まった。
こんにちは、マクヒキです!!
そうだと思います




