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二十八殺目 一ヶ月の思い出へ



「私、聖母様が大好きなんです!!」



──え?



「な、なんでですか?」



戸惑いを隠せていない俺に、キラッキラした顔を近づけセレネさんが語る。



「だって、聖母様っていえば、この世で最も人の命を救った人じゃない!!」



「へ、へぇ〜」


──ちっっか!! 顔ちっっっか!! てか、いい匂いが……



「しかも、回復魔法使ヒーラーいなのに、ドラゴンの住処に単身で乗り込んで、近くの街を救ったんだよ!!」




──それ確か、ババァのお気にのムキムキ兄弟子がドラゴンにズタボロにされたのがムカついて、そのドラゴンの住処に突撃したんですよ?





「優しくて、温かみがあって、癒しと強さを持った人を好きにならないわけないじゃない!!」




──やっぱりババァはどこで美化されてるな。あいつ外ズラだけは良いもんな。噂じゃ好きな冒険者ランキングで毎回上位になってるって話だし……


なんかムカついてきたな






「ねぇ!! アビトも好きよね!?」




──やっぱり近いな!! どうしよう…チューしてやろうかな? あっちからこんなに顔を近づけて来たってことはチューの合図では? いいよね? これいいよね?!




ブチューとしようとした時、ニコニコしながらセレネさんの話を聞いていたシニィさんが口を開く。





「セレネちゃんはマァリさんが好きなんだね! 良かったじゃないか!! しょうね…ムグッ?!」



──シニィさんに俺が嘘ついてるの言ってなかった!!



「な、なにしてるの?」



いきなり、シニィさんの口を手で塞いだことでセレネさんが怪しんでいらっしゃる…だが、今は無視しよう!!



「シニィさん? 一回裏行きましょうか!!」











「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。何するんだい少年!!」


無理やり裏に連れ込んだことでシニィさんがぷんすかしている。



「すみません。ちょっと事情がありまして……」













------------------


「なるほどね。セレネちゃんの事情は分かったけど、少年はどうしてあの子と組みたいんだい?」



「一番は親近感ですね。お互い家族に最強が居て、その最強に追いつくため、超えるために頑張っているところに親近感が湧いちゃって…」




「確かに、そうありえないよね。家族にSSランク以上の冒険者が居て、目的も同じで、しかも互いに一人で旅をしている時に、人が全く来ないダンジョンで出会ったって…………ほぼ運命だね」




「グヘヘヘヘヘヘヘ。う、運命だなんて、そんな〜」







「でも、タイプだからでしょ? 一番の理由」



「……」



「可愛いもんねセレネちゃん」



「……」



「一緒に旅をしたら、さぞかし楽しいだろうね」



「……」



「何か言いなよ少年」



「……よし、セレネさんの所に戻りましょうか!! これ以上裏に居たら怪しまれますし!!」



「おい、図星だろ? 少年」














「あ、おかえり。なにしてたの?」



「お、お腹が痛くなっちゃって……トイレに」



「そうだったんだ。大丈夫?」



「はい!!」



シニィさんが、うわぁ〜みたいな顔をしているがひとまず無視をして、本来の目的を話す。



「シニィさん、良い感じの武器ないですかね? 餓猟の料理人にピッタリのやつ」



「あ〜、そういえばアビトはナイフで戦ってたもんね」




「え? 少年は餓猟の料理人じゃ……あ、そっか」



俺の設定を忘れかけてたシニィさんが商品棚に向かい、ガサゴソ漁る。


そして、棚から取り出されたのは"フライパン"だった。



「これはどうだい? 少年」



ただのフライパンだ。



「フライパン? これで殴るってことですか?」



「そうだ。少年は殴る方がいいだろ? それにこれはただのフライパンじゃない」




そう言うと、シニィさんがフライパンを自分の胸に当て 、セレネさんに指示を出す。



「セレネちゃん、フライパンに魔法を撃ち込んで!!」



「え?! なんでですか!? 私がいくら弱いっていっても、フライパンくらいは貫通しますよ!?」



「いいから、いいから〜」



「で、出来ないですよ!!」




セレネさんが頑なに断るので、次は俺が指名された。









「じゃあ、少年!! 君がこのフライパンを殴ッ」









───────ズドンッ







「ファッ?!」









──すっご!! 結構強めに殴ったのに……



「壊れてない!!」






「ちょっと、少年!! なんでいきなり殴るんだい!!」



「あの流れは殴れってことじゃないんですか?」



「そうだけど!! まだ良いよって言ってないでしょ?! それによく躊躇なく殴れるね!?」




「うわぁ」




シニィさんが先程よりも遥かにぷんすかし、セレネさんがドン引きしている。



「だって〜」




「何?! 言い訳かい!?」




「だって〜全力で殴っても、たぶんあなた死なないでしょ?」




「チッ!! そうだよ!! 少年が全力パンチを何十発も打ち込まない限り、死なないよ!!」




「そっか、シニィ様はマナをたくさん吸収しているから、頑丈なのか。Sランクだし……」




ぷんすかシニィさんが、はぁ〜とため息をつき、話を戻す。



「このフライパンは付与エンチャントされたフライパンだ」




「付与?! どの魔法使いの方が付与されたんですか?」



セレネさんは、驚きの声を上げるが、





──またふざけた物が出てきたよ



セレネさんがワクワクしながらフライパンを見つめてるけど……


気づいてます? フライパンですよ? 目の前に付与されたフライパンがあるんですよ?! おかしいでしょ!!





すると、シニィさんがお決まりのフハハハポーズを取り、叫ぶ。




「それは私が付与したフライパンだ!!」



「え?! シニィ様が!?」





──この人も付与できるのかよ…


付与って相当な時間と魔力使うんじゃないの?

それを、フライパンにって……


やっぱりババァの弟子だな








「そしてその効果は、超耐久と自動修復だ!!」





「え?」





「私は回復魔法使いだからね!! 他の魔法使いより耐久性が高くなるし、フライパンが自己再生をするようになる!!」





「ふえ?」





「さらに!!」




「このフライパンで作った料理は………」





「ほえ?」





「食べた者の体力の回復速度を上げる!!」





「ふええぇぇぇぇぇ」





「そして極めつけは、自動修復機能が付いているため、フライパンは常に清潔な状態にされる!! 魔物を殴って血が付いたとしても、一瞬で綺麗サッパリさ!!」


















「買ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」




──自動修復ってことはどんだけ殴っても壊れないってことでしょ!? しかも頑丈!!


それに、『流拳殺技』は体力を消費するから、体力回復の速度が上がるのは、必要すぎる!


さらに清潔は、野営での衛生問題が解決する!!






俺の買ったコールにシニィがニヤリと笑い、両手を前に出す。






「二千万ゴールドになります、お客様!!」




「は?」




「二千万」




「俺がお金ないの知ってますよね?」




「うん!! 二千万」





泣きそうな目でセレネさんを見つめるが、



「た、確かにそのレベルの付与がされている物なら、二千万はするでしょうね……」




助けてくれないらしい。






「二千万」


シニィさんが、腹立つほどの満面の笑みで両手を前に出し、金を要求してくる。





──どうする? 殺すか? でも今の俺にシニィさんを殺せるだけの力があるのか?


いや、殺る、殺らないじゃない!!



殺す!!








どうやって殺すか考えていると、シニィさんが片手を引っ込め、もう片方で握手を要求してきた。





「少年、取引だ。このフライパンは少年にあげよう。その代わり、旅が終わったらプロワセを、この店を中心に活動してくれ。」





「え?! 無料!? ちなみになんでここを中心に?」




──美味しすぎない? フライパン無料はもちろん、ここはなんでも揃っているし、何より帝都の近くだ。なんの損もない……




「私の研究の手伝いをしてほしい。言っただろ? 私は今前線から退いているって。それは、ある研究をしているからさ」




「ほえ〜」




「研究の助手として、君が適任だと思ってね。どうだい? この手を取るかい?」















-----------------------------「じゃあ、シニィさん!! 行ってきます!!」




「うん! 行ってらっしゃい少年、セレネちゃん!! 帰ってきたら冒険話をたんと聞かせてくれよ! 研究のことは帰った時に説明するから、今は楽しむことだけを考えな!!」





「はぁぁぁぁぁい!!! フライパンありがとうございます!! 楽しんできまぁぁぁぁす!!!!!!」








そうして、俺とセレネさんの一ヶ月間の旅が始まった。

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