二十七殺目 旅の準備
──び、びっくりしたぁ……
襲われちゃうかと思ったけど………
アビトが掛けてくれた、毛布をギュッと握りしめ、丸まる。
──私がちゃんと寝れているか確認しに来ただけか…
それに毛布まで掛けてくれたし、アビトって結構良い人なんだ…
男の人と初めての野営だったから、ちょっと警戒してたけど、、、なんだか申し訳ないなぁ
申し訳なさが残っているが、安心して寝れる。そう思っていた時、焚き火の反対側から音がした。
────シュッシュシュッ、ドンッ、ザッ
なんだろう? アビトが何かしてる音かな?
寝返りを打つフリをして、体をアビトの方に向け、薄く目を開けると、、、、
──なに……あれ? 殴ったり、転がったりしてる?
その目には、アビトが空中に攻撃を放ち、体を逸らし、何かを躱しているような姿が映った。
……まるで、何かと戦っているように。
アビトの目は真っ直ぐと何かを見つめ、息が荒くなり、汗をかいても、戦うのを辞めずに何かを倒さんとしていた。
その瞳には、確かな意志を感じた。
──トレーニングかな? ダンジョン攻略をしてて、しかもたくさん歩いてきたから、疲れてるはずなのに、
休まず強くなるための努力をするなんて……
私よりも年下で、しかも冒険者でもないアビトがあんなに頑張っているんだ……
私なんて全然だ。人よりもたくさん努力していると思ってたけど…
その時、アビトの姿に影響を受けたセレネの心に火が着き、瞳には確かな意志が宿った。
──私は今よりも、もっと頑張って姉さんに勝つ!!
-----------------------------クッソ
──あ゛あ゛ムラムラする!!
目の前に居る、仮想のフェンリルを睨みつける。
一人稽古。仮想の敵を想定し、攻撃や防御の動きを実際に戦闘しているかのように行うことだ。
ストレスが溜まった時や、普段の稽古でもやっていたものだ。
──フェンリル、お前には犠牲になってもらうぜ
その瞳には、確かな意志が宿っていた。
──お前には、俺の性欲のはけ口になってもらう!!
目の前にッ!!
可愛いッ!!
黒髪魔女がッ!!
無防備にッ!!
寝てるのにッ!!
チクショォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!
その拳は、いないはずのフェンリルを、触れられないはずの空気を砕き割った。
次の朝、なぜか俺に対するセレネさんの好感度が上がった気がした……
-----------------------------「よし、通れ」
「やっと着きましたね〜」
「ほんとよ。もう足がパンパン」
俺たちは、ダンジョンから約二日でプロワセに着いた。
「とりあえず、宿を取らない? 荷物置きたいし、ベッドに寝たいから」
「そうですね。そうしましょうか」
同じ宿の部屋をそれぞれ取り、夕方までダラダラ過ごし、その後ご飯屋さんに一緒に行くことになった。
「それじゃあ、パーティー結成を祝して、」
「「乾杯!!」」
互いのジョッキをぶつけ合い、パーティー結成おめでとう会と、これからよろしく会と、今後どうするのか会が始まった。
「一ヶ月で色々なところを回りたいから〜」
まず、どこに行くかの話になった。
セレネさんが世界地図を広げ、指で色んな国をなぞっていく。
「じゃあ、各国のそれぞれ象徴とされる街とか、特徴的な街とかどう!?」
「おぉ!! いいですね!!」
セレネさんのキラッキラした笑顔が可愛いので、正直どこでもいい。
──そういえば、セレネさんの休学期間って三ヶ月とかだっけか?
ふと、そんなことを思ったのでセレネさんに聞いてみた。
「セレネさんはこの二ヶ月どこに行ってたんですか? なるべくなら、行ってない所がいいですよね!?」
「それが、ずっと色んなダンジョンに潜ったり、魔物を討伐し続けてたから、エルドリア王国とドワン帝国だけよ」
「すっご。じゃあこの二ヶ月間本当に強くなるためだけに、努力してきたんですねー」
俺の反応に対し、セレネさんはお酒をチビチビ飲みながら、暗い表情になっていた。
「まぁね。でも、結局ダンジョンは一つも攻略出来なかったし、魔物討伐の依頼も失敗ばかりで何も成長できなかったわよ。」
──本当にツンデレ界の逸材だな〜この人。
ツンデレはたまに自虐をするからな。そこが愛らしいったらありゃしない。
「これからの一ヶ月は実力の成長よりも、自分の目で直接世界を見て、知って、体験して、知識や経験を成長させる期間にしようかなって」
頬杖をつき、ハァ〜とため息を吐いている。
──自虐ツンデレには、それ相応の対応をしなければッ
「セレネさんと一緒に色んな所を回るのめっちゃ楽しそうですね!! 僕もそれが良いです!! セレネさんとパーティー組んで良かったです!」
完璧な愛嬌のある笑顔を作り、自虐ツンデレに対抗するが、
「もう!! 変に気を遣わなくていいからッ」
────ベチッ
「アダッ」
照れてデコピンをするとは……素晴らしいな!!
そんなこんなで、色んなことを決めようぜ会が終わり、翌日二人で買い物に行くことになった。
──てかさ、何気に女の人と初めて二人っきりでご飯食べたんだけど? しかも明日ほぼデートってことでしょ? これリア充ということでいいのでは?
-----------------------------翌日
「じゃあ、行こっか!」
「はい!」
俺とセレネさんのデート(仮)が始まった。
とは言っても、旅に必要な道具などを買うだけなので、お昼くらいには買い物が終わりを迎えていた。
「うーんと、これも買ったし…あれも買ったから……私はもういいわよ!」
「僕も結構揃いましたよ! あと何か要るかな?」
──ん〜色んな所に行くから食料とかは大丈夫でしょ? ある程度道具も揃ってるし〜、餓猟の料理人用の道具も……
「あッ!!」
「何か買い忘れ?」
──忘れてた!!
「行きたいお店があります!!」
────ということで
「シニィさん、ただいま!!」
「シニィさん?…………まさか!?」
俺が行きたかったのはお馴染みのシニィさんの調理用品店だ。
「おぉー少年。無事帰ってきたか」
相変わらず焼けた肌に、濃い茶色の髪の毛、そして何より、どう見ても十歳くらいにしか見えないシニィさんが出迎えてくれる。
「ん? その子はなんだい?」
「パーティー組むことにした、セレネさんです」
セレネさんをシニィさんに紹介し、次にシニィさんをセレネさんに紹介しようとしたが……
「なんで震えてるんですか?」
セレネさんがビクビクしてる……
「だ、だって!! この人……いやこの方って、『不老の聖女』様よね? なんでアビトは気軽に話せてるの?!」
──なんでって言われても……俺のパパ元SSSだし〜、ババァも元SSだからなぁ〜
てか、あなたのお姉ちゃん、その人より凄い人でしょ!?
なんでビビるんだよ!!
「ん? 君はどこかで見たことがあるような?」
シニィさんがマジマジとセレネさんを見つめる。
「わ、私はセレネ・ナイトウィルと申します。ナ、ナイトウィル家の次女です……」
「あぁ!! 君か!! ルーシェちゃんの妹の!!」
「は、はい。そう…です……」
ビクついてるセレネさんを見て、不思議に思っていると、
「アッハハハハ、そんなに脅えなくていいよ! 君にはルーシェちゃんみたいなことしないから!!」
「ほ、本当ですか?」
「ほんと、ほんと!! あれは回復魔法の訓練のためだから!!」
──あんまり俺を省かないでほしいな。出来れば構ってほしい
「どういうことですか?」
話に入れて欲しさに質問をする。
「それはね、私がルーシェちゃんの家庭教師をやってたんだよ」
「ふえ〜」
──世間って狭いなぁ〜
「回復魔法を強化するには、自分自身に回復魔法をかけ、自分の回復魔法の特徴や質を理解しなければならないんだよ」
「おん」
「で、自分自身に回復魔法を使うためには、自分が傷ついている必要があるだろ?」
「あん」
「だから、私がルーシェちゃんをボッコボコにし続けたんだよね!!」
うっっわ
「その結果、ルーシェちゃんは私に脅えるようになったけど、今では立派なSSランクだ!!」
あの人が脅えるって相当だな……
「ちなみに、この訓練方法を私に教えたのは私の師匠、マァリさんだ!!」
マジかよ…たしかに、あのババァならやりかねんな……納得だ
だってイカれてるもん
俺がなるほどぉ〜感を出していると、セレネさんが素っ頓狂な声を上げる。
「マァリさん……って!? あの『聖母』のマァリ・リステル様ですか?!」
「そうだよ〜」
すると、セレネさんが先程の脅えていた表情から一気にパァっと顔が明るくなり、
「私、聖母様が大好きなんです!!」
え?
こんにちは、マクヒキです!!
最近色んなところでコーヒーを飲みすぎて、お金がなくなりました




