二十六殺目 初めての夜
「信じてください!! 仲間でしょ!!」
「本当に撃つよ!? 撃つよ?! 『シャ、シャドウ・バレット!!』」
---------------「ねぇアビト、なんで避けれたの? それに、暗闇の中でも見えてたよね?」
「ん〜、匂い的な?」
「的な?って……でも、実際に避けてるし、餓猟の料理人になるために、ずっと山で修行してきたんならありえるのか……」
「はい!! 修行の成果です!!」
コス・ウルフの群れはセレネさんの協力のもと、なんなく倒せた。
正直俺一人でも倒せたけど、それだと実力差があると言われて、パーティーを解散させられたら困るからだ。
俺は、出来ればずっとセレネさんと組みたい。
なぜなら黒髪魔女だから!!
まぁそれは半分冗談だが、本当の理由は親近感だったり、戦闘での相性など色々ある。
セレネさんは結構理想的な、魔法使いだ。
息をするように嘘をつきながら、コス・ウルフたちの死体を処理する。
「ふぅ〜。こっちは、魔石は全部取りましたよ」
血が染み付いた手で、コス・ウルフを担ぎセレネさんの方へ向かう。
「よし! 私も終わった…って!? なんで担いでるの?」
──なんでって言われても〜
「食料用と売る用?」
「ここから街まで、二日くらいかかるのよ? 腐るでしょ」
セレネさんがバカでも見るような目をしながら、呆れ声で言ってくるが、俺は鼻で笑い、
「フッ。セレネさん、舐めてもらっちゃ困ります」
「な、なによ?」
──舐めてもらっちゃ困りますよ。僕は今、胸を張ってプロの料理人です! と、言えるほどのブツを持っているんですよ…
バッグの中から、銀色の鞄を取り出す。
「これなんだか分かりますか?」
鞄をセレネさんが、マジマジと睨みつける。
「これは……魔法鞄? 凄いじゃない。さすが料理人ね」
両手を腰に当て、胸を張り、何処ぞのヌルテカさんと同じポーズを取る。
「それは、保存鞄です!!」
「え?! 嘘!? 本物?! なんで持ってるの?」
「なぜなら、餓猟の料理人だからぁ!!」
-----------------------------数時間歩き続け、空はすっかり暗くなっていた。
「じゃあこの辺りで野営しましょうか」
「は〜い」
何時間も一緒に居たお陰で、まともに喋れるようになったし、セレネさんのことも結構知れることができた。
ナイトウィル家の次女で、現在俺の二つ上で十七歳。
そして、エルドリア王国の首都にある、世界でもトップクラスと言われている冒険者教育機関、『王立エルドリア学園』の一年生らしい。
学園で周りとのレベルの差を感じ、もっと強くなるために思い切って休学をし、旅をしているのだと。
学園や学院とは、冒険者になった、もしくは冒険者を目指している十七歳が入学し、入学した者がより優秀な冒険者になるように教育する機関だ。
昔は、挫折したり、自信を失ってしまった若い冒険者だけが通っていたらしいが、いつしか通うのが当たり前になっていった。
普通の家庭に産まれた冒険者も、貴族に産まれた冒険者も皆通っている。
ちなみに俺は、一般家庭でもなければ、貴族でもないので通うつもりはない。
流拳技には当たり前が通用しないのだ。
「ねぇアビト、作って欲しい料理があるんだけど…」
セレネさんが言いにくそうな、雰囲気を醸し出している。
──なんだろ? さっき料理担当は俺がやるって決まったのに
「今ある材料で作れるなら、なんでも良いですよ!!」
デキる男ムーブをカマしている俺に、モジモジしながら答える。
「そ、そのパンケーキが食べたくて…アビトが食べてたの美味しそうだったから……」
──この人クソ可愛いな
「良いですよ!!」
「美味しい!! ふわっふわだし、このバターも!!」
「特製のホイップバターです!!」
──良かった〜、気に入ってもらって。さっきからムシャムシャ食べてるもんなぁ〜
「お店のより美味しい!!」
グヘヘヘヘヘヘヘ
「美味しかった。ご馳走様。」
セレネさんがパンケーキを食べ終えたが、またモジモジし始めた。
「もう一個お願いがあるんだけど…」
──ん?
「実は私……料理が苦手で、全く作れないの」
──なるほど?
「旅で野営してる時、ずっと干し肉とか保存食だけだったのよね」
──つまり?
「だから、アビトに料理教えて欲しいなって………」
──はぁーん。最初に話した時から思っていたが、この人……ツンデレの素質があるのでは?
ルーシェさん同様、気の強い部分があるし、時折見せる乙女な姿も素晴らしい。
なにより、"料理が苦手"はツンデレには必要不可欠だ
よし、どれほどか見てみよう
「じゃあパンケーキ焼きましょうか!! 簡単ですよ!」
「本当!! ありがと!」
「じゃあまずは、ボールに卵と牛乳を入れて混ぜてください」
「分かった。卵を……キャッ」
──ほほう。卵が粉砕したぞ
「次に牛乳を……あぁ!! 溢れちゃったッ」
──パック一本丸ごと、ぶち込むとは
「で、かき混ぜる。よし!!」
──いや、めっちゃこぼれてるけど?
「次はパンケーキミックスを入れて、さっくり混ぜてください。ダマが少し残るくらいでいいです」
「さっくり? ダマ? とにかくかき混ぜればいいんでしょ?」
──フッ、おもしれぇ女。サラサラにしやがった
「じゃあ、熱したフライパンに勢い良く落としてください。このお玉で三分の…」
「えい」
──そうだね。全部入れたら大きいのが出来るもんね
「泡が出てきたので、ひっくり返してください」
「えい!!」
「なんでひっくり返す勢いで、吹っ飛ばすんですか?」
「み、見ないでよ!!」
──なんか楽しくなってきたな
「もう一回やってみましょう。まだ材料はありますから!!」
その後、セレネさんVSパンケーキは、持っていた材料が無くなるまでセレネさんが敗北し続けた。
「もういい!! 私が先に寝る!! 三時間交代ね!!」
セレネさんがフテ寝しました。
──この人はとんでもない逸材だ。萌え漫画のツッコミキャラを担えるほどの逸材だ……
女の子に飢えていた俺は、この世にある萌え系漫画を全て読み尽くしている。そんな俺が見ても素晴らしいと言わざるを得ない人物だ。
オレンジ色にバチバチと燃える焚き火を挟み、セレネさんが眠っている。
──あれ? 今俺とセレネさんの二人っきり? ってことは、生まれて初めて女性と一夜を共にしている……
そんなことを考えながら、スヤスヤしているセレネさんをジッと見つめ……
──ここは人気がない場所で、そして目の前には可愛い黒髪魔女が無防備に寝ている………誰にもバレない……………
黒髪魔女……
────────────ムラッ
俺の体が自然とセレネさんの方に歩み出していた。
──黒髪魔女、黒髪魔女、黒髪魔女、黒髪魔女…
どんどん近づいていき、遂には手の届く所まで近づいた。
セレネさんの体に手を伸ばし、触れる。
そうしようとした瞬間、頭の中にある言葉が流れた。
『三大性禁』
「ハッ」
その言葉が頭に流れ込んだ俺は、我に返った。
反射的に手を引っ込め、後退りをする。
──俺は今何をしようとした? まさか……強姦?! 嘘だろ?! あまりにもの欲求でセレネさんを襲おうとしたのか?! チッ、このクソ野郎が!!
自分がやろうとした事に苛立ちを感じながら、セレネさんに申し訳程度にバッグから取り出した毛布を掛ける。
──思春期に黒髪魔女は刺激が強すぎるッ。欲を鎮めるために、あれをしよう……
こんにちは、マクヒキです!!
1000pv達成しました!!
めっちゃ嬉しいです!
これからも何卒よろしくお願いしますm(_ _)m




