二十四殺目 伝説の始まり
え? お腹が空いたからダンジョンの真ん中でパンケーキを焼いてたの? 意味が分からない……この子何者?
状況を理解するために、目の前の少年に質問をする。
「えっと……冒険者よね? 歳とランクはいくつ?」
その質問に対し、少年は俯きながら答える。
「十五歳です。料理人……です…」
「はぁ?! 成人したての料理人がなんでC級ダンジョンに潜ってるの!?」
あまりの少年の意味不明な発言に、頭に血が上り、叫んでしまった。
その時──
─────ドゴーンッ!!
二人の居た石室に、先程まで少女と戦っていたブラッド・スコーピオンが突っ込んできた。少女の大声で気づいたのだろう。
「クソッ、気づかれた!!」
──まだ十分に回復しきっていない……また逃げるしかッ
杖を構え、魔法を唱える。
「『ノワール・ミスト!!』」
石室が闇で満たされる。
──今のうちに…
その時、少女はあることに気が付いた。
──しまった!! あの子も居たんだった!
いつもの癖で視界を奪う魔法を唱えてしまい、一緒にいた少年の視界も奪ってしまったことに気づく。
──早くあの子を連れて脱出しなきゃ
そう思い少年の所へ向かった瞬間、
次は逃げられまいと、ブラッド・スコーピオンがその巨体と長い尻尾を使い、暴れ始めた。
少女を襲った時と同様、鞭のように振り回された尻尾が、壁や床を破壊していく。
不規則に暴れるモンスターと、次々と飛んでくる瓦礫で、近ずけずにいた。
「クッ。これじゃ前に進めないッ」
タイミングを読み、少年の方へ走り出そうとした。
だが……
「だ、だめ!! 逃げて!!」
しなった尻尾が、少年に向かっていた。
─────ズドンッ
「う、うそ……ど、どうしよう……私のせいで」
自分のせいで、無防備な少年に強烈な一撃が入った。
あんな攻撃をモロにくらって、無事でいる冒険者などそう居ない。しかもその攻撃を受けたのは、十五歳の料理人。
生きているわけがない。
「…私が……殺した……」
自分のあまりにも大きな失敗に、膝をつき、泣き崩れる。
「あ゛ぁ゛……なんで私はぁ゛……こんなに…」
──強くなるどころか、無理をして死にかけて……挙句の果てには、ただパンケーキ食べてる男の子を殺したッ
私があいつを倒さなきゃならない……そして少年の遺体は必ず持ち帰る
それが私に出来る償いだ
これが終わったらもう大人しく冒険者は引退しよう。学園も辞めよう……
杖を構え、魔力を込め、魔法を放つ。
そうしようとした時、
「おいゴラァ!!!!! てめぇ何してくれてんだ!!!!!」
死んでしまったはずの少年が、尻尾の裏から出てきた。
「え?……嘘、なんで?!」
しかも……
「これ見ろよ!! お前が尻尾振り回すから、持ってたホイップバターが吹っ飛んだだろ!!」
そう怒りを顕にしながら、モンスターの顔を睨みつけている。
──な、何で見えてるの?……
『ノワール・ミスト』は使用者以外は、闇で何も見えなくなる。
なのに少年は、確実にモンスターの顔を睨みつけている。
「この野郎ぉぉぉ!!」
そう叫びながら、投げたナイフがモンスターの目に突き刺さる。
──絶対見えてる!! あの子絶対見えてる!! なんで?!
さらに理解できない状況が増え、テンションがおかしくなるが、首を横にブンブンと振り、冷静さを取り戻す。
──私も加勢しなきゃ。目に刺さってるナイフは金属製だから、あそこに電気を流せば……
「『ダーク・ボルトォォ!!』」
─────バチッ、バリバリバリバリ
「ギィヤァァァァァァァ」
石室に、ブラッド・スコーピオンの悲鳴が響き渡る。
「よし!! このま…ま……」
もう一回魔法を唱えようとした瞬間、体がフラつき、壁にもたれかかる。
──ここで…………魔力切れ……?
バタッ
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──お? 魔法少女さん魔力切れかな?
結構ボロボロだったもんなぁ。それにしても……
何も見えねぇよ。魔法少女さんの魔法かな?
俺の目には真っ暗な景色と、殺気でかたどられたブラッド・スコーピオンが映っていた。
──やっぱ殺気を感知できるって便利だな〜
見えてなくても、見えるもん!!
師匠とのスキル訓練を頑張ったお陰だな〜
自分の頑張り具合に感心していると、頭から焦げ臭い匂いを放っているサソリ君が、暴れ始めた。
──とりあえず…………殺すか!!
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「それで? なんであそこに居たの?」
「そ、それは……」
私が気が付いた時には、すでにモンスターが死んでいた。
少年に聞くと私の攻撃が効きすぎて、モンスターがのたうち回り、壁や床に体を打ち付けすぎて、死んだらしい。
自分で死んだから、私にマナが吸収されていないのかしら? まぁ、確かにあの攻撃は致命傷レベルだったから……有り得るの…………かな?
その後気を取り戻し、少年を連れて一緒にダンジョンを出てきた。
連れた理由は、謝罪と疑問だ。
謝罪に関しては、「ん? 何がですか?」と、私がなぜ謝罪をしたのかの理由も分かっていなかった。
事情をちゃんと説明し、再び深く謝罪をしたがあっさりと「お気になさらず〜」と言われてしまった。
そして次に、なんであの場に居たかの質問をするが、ずっとはぐらかされている。
「料理人なのは分かったけど……なんでC級ダンジョンに居たの?」
「そ、その……」
ずっとこの調子だ。
──なんで答えないのかしら? 何か言えない事情でも?
脳をフル回転させ、なぜだか考える。
そしてふと、頭にある単語が出てきた。
「もしかして……あなた…………『餓猟の料理人』?」
その言葉を聞いた少年は、一瞬首を傾げたが、目がハッとなり答える。
「え? 餓猟? あッ!! それだ!! そうです!! それです!!」
「そういうことね! だからダンジョンに居たんだ」
「は、はい!! だからです!!」
餓猟の料理人とは、自ら危険な魔物に挑み、倒した魔物の肉を調理し、自分の店で料理を提供する者たちの呼び名だ。
その者たちは頭がおかしいという噂を聞いたことはあるが……ダンジョンでパンケーキを焼いていたからその噂は本当だろう。
でも、
「なんでダンジョンに? 死体は消えちゃうでしょ?」
少年の顔から大量の汗が吹き出た。
──動揺している?
すると、少年がゆっくり口を開いた。
「ず、ずっと…山で餓猟の料理人になるために修行をしてたから……世の中のこと知らなくて。それに旅に出てまだ少ししか経ってないから……」
──なるほど。確かにありえるわね。十五歳って言ってたし。それにパンケーキも美味しそうだったな……
あッそうだ!!
少女はニコッと笑い、少年に問いかける。
「君は一人で旅をしているのよね?」
「は、はい。そうです…」
「色々な所を旅するつもりでしょ?」
「そ、そのつもりです…」
「それに、あそこに居たってことは、結構強いでしょ?」
「そ、そこはかとなく良い感じには……」
「じゃあ、最後に。料理に自信は?」
「ま、街に店を建てたら、他の店を潰せるくらいの自信があります……」
少女は、さらに笑顔になり、少年に手を伸ばす。
「ねぇ! 良かったら私と一ヶ月だけパーティーを組まない?」
「え?! ぼ、僕とですか? 良いんですか?!」
「うん!! あ、自己紹介がまだだったわね」
少女はもう片方の手を自分の胸に当て、
「私はセレネ。セレネ・ナイトウィルよ!! よろしくね!!」
「ア、アビト・ハーライドです……」
二人が固い握手をする。
この日、"数千年後まで語り継がれる伝説のパーティー"が結成された。
これは──
『最強の父を持つ、アビト・ハーライド』と、『最強の姉を持つ、セレネ・ナイトウィル』の二人の物語─────




