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二十三殺目 出会いのパンケーキ



─────ズドンッ、ズドンッ、ズドンッ




「『ダークボルト!!』」



黒い稲妻が、赤黒い甲羅に突き刺さる。








だが、






「クッ!! 全然ダメージが入らない」



ブラッド・スコーピオンの頑丈な外殻に焦げた跡しかつかず、致命傷には程遠い。






――これじゃ倒すのに時間が掛かっちゃう。このままじゃこっちが先に潰れちゃう





必死に頭を動かし、目の前のモンスターを倒す方法を考えるが……相手は待ってはくれない



巨大なハサミを広げ、少女を切り裂かんと巨体が一直線に突撃してくる。






「『シャドウ・バレッドッ!!!!』」














-----------------------------


ボウルに卵と牛乳を入れよく混ぜる。


混ざったら、そこにパンケーキミックスを入れ、大きく、さっくりと混ぜる。



ダマが少し残る程度まで混ぜる。






コンロをつけ、フライパンに火を入れる。











-----------------------------


「ハァ、ハァ、やっと殻が砕けたわね。ここまできたらこっちのものよ」



分厚い外殻にはヒビが入り、そこからは、禍々しい色の液体が流れていた。





「『ザラーム・スピア』」



少女の杖から黒き槍が出現し、ブラッド・スコーピオンの目掛け放たれる。












-----------------------------


フライパンに火が通ったら、先程完成させた生地を上から勢いよく落とす。



弱火で三分程焼き、泡が出たらすぐにひっくり返す。




弱火で二分弱程焼き…………













-----------------------------



「嘘?! なんで!!」



中身に黒い槍が突き刺さり、確実にダメージは入った。


だが、ブラッド・スコーピオンはそれを気にすることなく、少女目掛け、猛毒な針を突き刺そうとしていた。




―――もう……魔力が……ダメ!! 心を落ち着かせなきゃ



不安を押し殺すように、杖を強く握り、再び魔法を唱える。




「『シャドウ・バレッド!!』」



鋭く伸びた尻尾と闇の弾丸がぶつかり合い、衝撃波が広がる。















-----------------------------



「グへへへへ、うっま!! パンケーキうっま!!」



―――パンケーキの焼き方が完璧すぎる。ふわっふわで、もちっもちで、むちっむちだ……





あ〜止まんねぇ、もう一枚焼いちゃお!!
















-----------------------------



「グハッ!!」



鞭のようにしなった尻尾が、少女の腹部を打ち付ける。




─────ズドンッ!!



壁に勢い良く叩きつけられ、ズルっと床に落ち、倒れふす。




──やば、いかも……意識が……



朦朧としながらも、ブレる視点を必死に目の前の敵に合わせる。




──こんなやつに……殺され、、、て……




杖をブラッド・スコーピオンに向け、か細く、すぐに消えてしまいそうな声で……




「『ノワ……ル・ミス…………ト』」




二人の居る空間が一気に闇に包まれる。

















-----------------------------


「うんま!! 二枚目もうんま!!」



──やばい。二枚目の方が興奮する。というか、パンケーキは軽いから食べた感覚が一切ない。


誰かが止めてくれないと、無くなるまで食べてしまう。



でも、止めてくれる人など、ここには居ない


だからもう一枚焼いちゃおぉ!!



「次は、事前に作っておいた『ホイップバター』で!!」




グヘッグググヘヘヘヘヘ















-----------------------------



「ハァ、ハァ、ハァ.....。やっぱりC級ダンジョンはモンスターのレベルが高すぎる.....」



何とかブラッド・スコーピオンを撒き、少し離れた所まで逃げきれた。


もう魔力も体力も、ほとんど残っていない。








だが、それでも少女は、諦めてはいなかった。








「 せめて.....もう一体だけ倒そう。それで帰ろう」





あのモンスターも、それなりのダメージが入っているが、今の状態じゃトドメは刺しきれないだろう。





それでも…………



──あと一体だけ、一体だけ倒せば、私はもっと……





自分にそう言い聞かせ、杖を握り直す。






体を休ませるため、近くにある石室に向かった。


石室の中に入るため角を曲がったその時、







―――ムシャムシャ、ムシャムシャ、グヘッヘッヘ





何かを食べ、笑う音が聞こえた。






──もしかして、私以外に来てた冒険者がモンスターに食べられているんじゃ






今助ければ、まだ間に合うかもしれない。それに、おそらく戦闘後でダメージもあるはずだ。







──食事に夢中の今なら、今が奇襲のチャンスだ








『シャドウ・バレット』を展開し、 角から飛び出した。



















「え?」








.....信じられない光景を見てしまった



















-----------------------------



──もうちょっとかな〜



フライパンに乗っているパンケーキを眺めながら、タイミングを見計らう。




「今!!」



──これは……完璧すぎる!! 過去一だ!! 表面がッ……表面がエッチすぎる!!



「グヘッグヘヘヘグヘグヘググヘ」



焼き上がったパンケーキを皿に乗せ、その上にホイップバター、そしてダメ押しに蜂蜜を〜




「ハムッ」



可愛い食音を発しながら、口の中にパンケーキを入れた瞬間


ふわっふわの生地が、ジュワ〜と溶けるホイップバターが、ジーンと広がる蜂蜜の甘みが……






「グヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」





──あ〜これダメだ。脳みそが溶ける。"ほっぺがとろける"とかの次元じゃない。遺伝子レベルで溶ける……











その時―――






「な、なにしてるの......?」








パンケーキで頭も遺伝子も溶けてしまった俺の耳にふと、可愛らしい声が入ってきた。





「うぇ?!」





びっくりしすぎて、変な声が出てしまった。




──なんでここに人が?! てか、こんな状況見られたらマズイ!!





急いで声のする方に目をやる。


そして俺の目に入ってきたのはとんでもないものが映った。










──く、く、く、く、黒髪魔女だぁ!!!!!!!!!!!!!!




声のした先には、アビトと同じ、黒い髪に黒い瞳をした少女が居た。


濃い茶色のローブの下には、青色のロングスカートを履いており、手には黒い柄で先端に青色の魔石が埋め込まれた長い杖を握っていた。





──え? え?! なんでここに黒髪魔女が?! 初めて見た!!しかも可愛いッ! 黒髪魔女はみんな可愛いって噂本当だったんだ!!





「ね、ねぇ、聞いてる? 何してるの?」





──声可愛い! 本物だ!! すげぇ〜!!





「ちょっと!! 聞いてるの!?」




黒髪魔女さんの語尾が強くなったことで、ふと我に返る。




「えっ?! 僕ですか?」




ムスッとしていて、でも不思議さが混じっている顔で聞いてくる。



「そう言ってるじゃない」





「え? 何って……パンケーキ?」





「それは見たら分かるわよ!! なんでパンケーキを焼いているか聞いてるの!」



黒髪魔女さんのムスッ度が増した。





──なんで焼いてるかって……?



「お、お腹が空いた…から?」







こんにちは、マクヒキです!!


やっぱ黒髪魔女なんだよな〜

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