二十殺目 買われて良かった
「買ッッッッッッッッッッッッッッたァァァ!!!!!!!!」
「よっっっっしゃァァァァァァァァァァ!!!!!」
俺の声に合わせ、店員さんがガッツポーズをとる。
「良かったぁ!! 売れたァ!! 売れたよぉ〜」
え〜この人泣き出したよ。なんでぇ?
「ありがとうね、少年!!」
顔面がびちゃびちゃの状態で、しがみついてくる。
「な、なんで泣いてるんですか?」
「あ、あ、あのね!!」
店員さんの話では……
酔った勢いでSランク冒険者の『炎帝』に付与をしてくれとお願いしたらしい。
そしてその時、持っていたのがこのエプロン。
その場のノリで、
「エプロンにバチバチに付与しちゃってぇ!!」
となり、お友達価格で五百万ゴールドで付与してもらったとのこと。
その後、店で、"『炎帝』に付与してもらったエプロンです"と、販売したが、数百万のエプロンを買うバカはいないということで、数年間売れ残っていたらしい。
情報量が多すぎてわかんない
え? 炎帝と友達? この人が? 火属性魔法最強の友達? 意味わかんないよ
あと、このエプロン買うやつバカって言ったよな?
本人目の前に居るんだぞ
返品するぞ?
「本当にありがとうね」
「まぁ良いですよ。結構楽しかったですし」
代金を支払い終わり、買った商品をバッグに積める。
はぁ〜もう六万ゴールドしかないよ
どうやって金稼ごうかなぁ。依頼受けれないし、ダンジョンで倒したモンスターの魔石売るにも、料理人じゃ怪しまれるしなー。まぁあとで考えるか
荷物を入れ終わったので、店員さんにお別れの挨拶をする。
「店員さんありがとうございました! いい買い物が出来ました!!」
まだ目を赤くしている店員さんが笑顔で送ってくれる。
「こちらこそありがとうね、少年!! 君のお母さん、"マァリ"さんにもよろしく伝えておいてくれ」
「は〜い」
え?
「ちゃ、ちゅ、ちょ、ちょっと待って!!」
「ん? どうしたんだい?」
「え、いや、なんで俺の母親が、ババァだって知ってるんですか?!」
「ん? あっそうだったね!! 少年は私のこと知らなかったね」
店員さんが、ん゛ん゛と咳払いをし、腕を腰に当て堂々とした表情で言う。
「私は、Sランク冒険者のシニィ・テラル。異名は『不老の聖女』だよ」
え!! 嘘でしょ?! あの!?
「『不老の聖女』って、回復魔法の性質が高すぎて、老化まで回復させるって噂の?!」
店員さん改め、シニィさんがニカッと笑顔で答える。
「そうだよ、自分に回復魔法を掛けたから、私は幼い姿なんだ」
「はぁ〜そういうことか!! そりゃあ、炎帝とも友達なわけだ。だからババァとも知り合いなんだ」
「うん、マァリさんは私の師匠だ。今でも連絡を頻繁に取り合っている。だから君のことも一目見た時から、あの人たちの息子だって気づいていたよ」
「ババァに弟子なんて居たんですか?!」
シニィさんが自分の顔を指差す
「うん、私が弟子ー」
はぇー。めちゃくちゃ初耳なんだけど。あいつ弟子なんて居たんだ。というか、あいつの弟子、『不老の聖女』だったの?!
そんな事を思っていると、シニィさんの顔が笑顔だけれど、真剣な表情になる。
俺を見つめ、ビシッと親指を立てる。
「父親を超えなよ!! アビト・ハーライド!! そのエプロンは私からの餞別だ!!」
俺、お金ちゃんと払ったよね? なのに餞別はおかしくないか?
ま、いっか
俺も親指をビシッと立て、
「あなたこそ、うちの母親超えてくださいよ!! シニィ・テラル!!」
―――俺はプロワセを出て行き、そのままの足でダンジョンへ向かった。
「とりあえず、D級ダンジョンで肩慣らしでも行くか〜」
ダンジョンのランク設定は、攻略できるパーティーの最低平均ランクで決まる。
つまり、平均がDランク以上のパーティーではないと攻略出来ないのだ。
まぁ俺はBランクの強い方だから、Cランクダンジョンまでなら余裕で攻略できる。
「パパっと攻略して、Cランクダンジョン行くか〜」
―――D級ダンジョン『彷徨う獣』
ここは鉱山跡地に発生した、獣型モンスターが現れるダンジョン
エプロン……エプロンは着ていくか?
どうしよう、恥ずかしいな。
でも、着てた方が安全か?
でも、エプロン着たままダンジョン攻略って……
―――ダンジョン内部
「おー、めっちゃ洞窟じゃん」
ダンジョンの中は、広いトンネルが奥まで続いていて、所々道が分かれたりしている。
「ここは、三階が最下層だったけなぁ」
ダンジョンは基本的に地下に続いている。
下に行けば行くほどモンスターが強くなり、最下層にはダンジョンボスが居る。
「お? なんか来るな」
少し進むと、奥から殺気が近づいて来るのが分かる。
何か多くね?
「キエェェェェェッッ!!!!」
でっかいネズミが約二十匹がこちらを目掛け襲いかかってくる。
「ロック・ラットじゃん!!」
ロック・ラットは土属性で、物理攻撃の耐性が高く、群れで行動することが多い。
こいつは、道場近くのダンジョンにも出てきたから対処法は分かっている。
拳を振りかぶり、ロック・ラットの群れを
「まとめて殴るッ!!」
―――ズドーーン
「ウェヘッヘッヘッヘ」
アビトの拳が数匹のロック・ラットを巻き込み、壁へ叩きつける。
「お前ら如きが、俺に勝てるわけねぇだろ!! 『殴殺』を使う必要もないわッ!!」
―――ズドーーン
―――ズドーーン
―――スドーーーーーーンッ
「ふぃ〜。まぁ余裕だったな」
ロック・ラットの群れの死体が消え、魔石だけが残る。
よく分からないが、ダンジョンのモンスターは死体がダンジョンに吸収されて、また新たなモンスターとして出現するらしい。
素材が回収出来ない代わりに、高純度なマナと魔石、そして稀に、モンスターからアイテムがドロップすることがある。
そのアイテムは、モンスターの能力や属性などを引き継いだ物になる。
人工的な魔道具よりも強力で、高価だ。
そのため冒険者たちは、高純度なマナとお金目当てでダンジョンに命を掛けて挑戦するのだ。
魔石を回収し、その後も奥へ進む。
ロック・ラットの群れやカッパー・スライムなどをぶん殴って、ぶん殴って、ぶん殴り回った時、
「おッ!! 階段じゃん!!」
二階層へ続く階段を見つけた。
下へ降りていくと、一階と同じような景色が広がっていた。
「うん。いっしょ」
なんの代わり映えもしないな
また奥まで続く洞窟を歩き始める。
てか、臭いな。獣型のモンスターしか出ないから、獣臭がすんごい
小腹が空いたから何か食べようと思ったけど、ここで食べたくないな。せっかくの料理が台無しになっちゃう
ダンジョンでは干し肉などの携帯食を食べるのが普通だが、俺は食事を妥協しないタイプだから平気でダンジョンで料理をする。
道場の稽古としてダンジョンに行った時も、兄弟子たちと一緒に作った。
「いやぁ〜懐かしいなー。Aランクダンジョンで兄弟子がたこ焼きを焼き始めた時は、大爆笑したなぁ」
あの人たち本当に頭がおかしかったもんな〜
思い出にふけていると、新たな殺気を感じた。
ん〜、一階層よりかは強いけど、そこまでだな
じゃあ、これ試してみるか!!




