一殺目 拾われた赤子
ここはエルドリア王国のはずれ、山中にある道場、道場「流拳技」。周囲には魔物が巣食い、幾つものダンジョンが口を開けている。
ある雨の日、道場の中がざわついた。弟子たちが集まり、誰かが声を震わせて叫ぶ。
「師匠!! その子供は何ですか?!」
「師匠、産んできたんですか? 」
「え? 師匠女の子じゃなかったよな?」
「同人誌で性転換見たことあるぞ」
耳をふさいだくなるような軽口に、ガイトは内心で舌打ちする。
何を言っとるんだ、このバカ共は。一体誰に似たんだ?
「はぁ、違うわ。捨てられてたんじゃ。山の麓で。」
肩をすくめながら、ガイトが言う。
「へぇ〜、師匠にも人の心があったんですね〜」
よし、後でこいつは殺す。
赤ん坊を抱き上げ、濡れた髪、か細い小さな手。見れば見えるほどに、捨てられていた事実が胸を締めつける。
……いや、さすがのわしでも、捨てられた赤子を見捨てるほど人として終わってはいない。
別の弟子がためらい混じりに尋ねる。
「師匠、育てられるんですか?」
ガイトは少し考えた。選択肢は他にない。そう考えると、不思議と心が軽くなった。
「そうだな。これも縁だろう。育ててみるか」
途端、道場内に歓声が上がる。
「おぉーー!! じゃあ師匠のお子さんですね! 名前はどうしますか?」
ガイトは赤ん坊の顔をじっと見つめ、少し笑った。
強く逞しく育ってほしい。特にわしのような偉大な男になってほしい。
「決めた。こいつは『アビト』。アビト・ハーライドだ。」
「ウオオオオォォォォォ!!」
その瞬間、道場は男たちの大げさな雄叫びで満たされた。誰もが祝福する。そんな中一人が呟いた。
「やっぱり師匠って安直だよな。自分の名前と似た感じで付けたよ」
よし、あいつは殺す
雨音が屋根を叩く中、小さな命はガイトの胸に静かに沈んでいた。道場は今日から、彼の新しい家になる
──たとえその家が、拳と殺意に満ちた場所であっても。
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