十八殺目 プロワセ
「やっぱデカイな」
目的地のプロワセはスレイバスと同じような大きさの街だった。
「この大きさが普通って本当だったんだ〜」
ちなみに、あの村からプロワセまでは五日くらいかかってしまった。
入口を見てみると、周りにダンジョンや危険なモンスターが多いからか、プロワセに出入りしている人のほとんどが冒険者だった。
入門するために、身分チェックをする列に並ぶ。
そして、並ぶと同時に俺の前に並んでいる冒険者たちをジロジロと観察する。
なんだあの冒険者? 装備がめちゃくちゃ金ピカだ
恥ずかしくないのかな?
そこまで金だったら、魔物とかにすぐ見つかるでしょ…
俺の前には、金ピカ冒険者が居た。
「おいおい、聞いたか?」
ジロジロ見ていると、金ピカ冒険者とその前にいる、くすんだ銀色の装備をしている冒険者の話し声が聞こえてきた。
「あぁ、あれだろ? 最近話題になってた、行方不明者が大量に出た事件の原因が分かったってやつ」
「そう、そう!! その事件の原因が、『人喰い』が村を作って、旅人や冒険者たちを騙して喰ったらしいんだ!!」
銀色の冒険者が驚きの表情を浮かべ固まる。
「『人喰い』が村を?! だから最近グールの目撃情報が多かったのか!」
声を張り上げたことで皆の視線が集まっていることに気づき、少し照れた表情で声のボリュームを下げる。
「そりゃあ大量に行方不明者が出るわけだ。村の人間全員がグールだったら誰も見抜けずに喰われるだろうからな。
しかし、それがグールの村だって気づいたやつはスゲェな」
へぇー、グールって村作るんだ。頭良すぎでしょ
「それが違うだよ!!」
金ピカが声を震わせ、怯えているような表情で言う。
「報告してきたやつが言うには、その村は崩壊してたらしい。大量のグールの死体と共にな」
へぇー、村が崩壊してたんだ
ん?
「まじかよ?! Bランクのグールの集団を全滅させるって高ランク冒険者ってことか!?」
「そうじゃなきゃありえないよな」
「なら、帝都に用があるから来てるって噂の『聖光の魔女』か!?」
金ピカが首を横に振り、重々しく答える。
「違う。村のあちこちには大きなクレーターが出来てたんだ。しかも、そこからは魔力が検出されなかったそうだ」
「え!? じゃあそれって……」
「あぁ、ただの物理攻撃で巨大なクレーターを作ったんだ。しかも、調査の結果おそらく"殴って"できた穴らしい。」
んん?
「嘘だろ?! じゃあ高ランクの格闘家がやったとことか!? 」
おっと?
「そうだ。そしてスレイバスの近くに現れたフェンリルが討伐されたって話は聞いてるだろ?」
「あれは『聖光の魔女』が倒したって話だろ? これに何の関係があるんだ?」
「トドメを指したのは『聖光の魔女』だ。トドメはな……」
「ど、どういうことだよ!! もったいぶるなよ!!」
「『聖光の魔女』が来るまで、一人でフェンリルの相手をしていたBランク冒険者が居たらしい……」
銀色が目を大きく開き、声を震わす。
「Bランクが一人でフェンリルの相手を?! 無理に決まってんだろ!!」
なんか雲行きが怪しいな
金色はニタリと笑い、答える。
「それが、今巷で一番の噂になってる『流拳技』様の息子らしい」
「ええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
銀色と、そして俺と同じように盗み聞きしていた連中が驚きの声を上げる。
ダメな予感がする
「その噂本当だったのか!!」
「スレイバスの奴らから聞いた確かな情報だ。そして、グール村を崩壊させたのもその息子だって話だ」
「おいおい、まじかよ!!」
おいおい、マジかよ
「確かに流拳技様の息子だったら有り得る……」
「それに、色んなクランや、冒険者、それに盗賊団なんかが血眼になって探してるらしいぞ」
「そりゃあそうだ。どこも欲しいに決まってる」
「それだけじゃないぞ。金銭や流拳技様目当て、それに伝説の男の息子を倒して、地位や名誉を得ようとするやつらも多いだろうな」
「しかも今はまだBランクだ。倒すなら今が、絶好のチャンスだな」
その時、入口に居た門番の声が響いてきた。
「おい!! 次はお前たちだぞ!! 早くしろッ」
金ピカと銀色が門番のところへ走って行き、身分チェックを受け、プロワセの中に入る。
「次!!」
「これ身分証です」
「料理人か。名前は…アビト……」
門番のおっさんが俺の顔と身分証を交互に見て、驚きと困惑の混じった声を発した。
「アビト……ハーライド?!」
周りに居た冒険者が、さっき通過したはずの金ピカたちが俺マジマジと見つめ、コソコソ話す。
「お、おい。ハーライドだってよ」
「でも料理人って言ってたぞ? それにハーライドって苗字は珍しくもないし」
「服装は冒険者だぞ? それに、スレイバスの奴らから聞いた情報と一致しているぞ」
「お、俺は、名前は確か、アビなんちゃらって感じって聞いたぞ!!」
次第にその場は騒がしくなり、そして騒がしくなったと同時に、一人の少年を囲む集団が居た。
一際目立つ、スキンヘッドの大男が叫ぶ。
「おい、テメェら!! こいつは俺ら、クラン『コングランド』の獲物だ!! 手出すんじゃねぇぞ!!」
大男の言葉を聞いた瞬間、周りに居た冒険者たちが次々と怯え始めた。
「コングランドだって?! 冒険者たちを襲って、成り上がったっていうクランか!?」
囲んでいる奴らが俺を見つめ、ニヤリと笑う。
俺が流拳技の息子だいうことを確信しているのだろう。
「おい、流拳技の息子。悪いが、お前は俺たちの力と地位のための踏み台になってもらう。」
強い冒険者に勝負を挑み、自分の実力を証明しようとする者がたくさんいる。
そしてその戦闘の勝敗は、降参か、戦闘不能状態になるかで決まる。
だが、偶然を装って対戦相手を殺害することで、実力をさらに証明し、殺した相手のマナをマナ・ドレインすることで力を得る奴らがいる。
「『冒険者殺し』か」
こいつらからは、人殺し特有の不愉快な殺気を感じる
「よく分かったなぁ!! 俺たちのクランは全員が『冒険者殺し』だ!!」
冒険者同士での戦闘は、ギルドや騎士団も基本的には目を瞑っている。
外での冒険者同士のいざこざは自己責任だ。
殺しても違法ではないが、世間的には非難される行為。
だから、戦闘中の殺しは"グレーゾーン"
ッチ。こうなったら、やられる前にやるしかないな
俺は無言で背負っていたバッグを下ろしす。
「おっ、やる気か? タイマンでやってやるよ!!」
そして、下ろしたバッグを漁る。
「お、お前、何してるんだ?」
無言で漁り続け、バッグの中からあるものを出す。
「あれ魔道具か?!」
「攻撃用の魔道具じゃ、ない?」
「あれは……調理用だ!!!!!!」
周りに居た冒険者たちが俺のコンロをジッと見つめる。
「あ、あれは相当高級な魔道具だぞ!! 冒険者が持つような調理用魔道具ではないぞッ!!」
「じゃ、じゃあ流拳技の息子じゃないのか?」
「でも見た目は噂通りだし、苗字だって一緒だぞ」
俺はまた無言でバッグを漁り、あの村から拝借した野菜たち、水、ローテーブル、まな板、包丁、そして鍋を取り出す。
「こ、こいつまさか!!??」
無言のまま、野菜を一センチ角に切る。
「う、嘘でしょ?!」
そして、鍋に野菜と水、そして潰したトマトを入れ、コンロに火を付け、煮立てる。
「そんな!! ありえない!!」
出来たものを皿に移し、スプーンと一緒に大男に渡す。
「こ、こいつ……」
「この状況で、『ミネストローネ』作りやがったッ!!」
フッ。こんな時に、ミネストローネ作る冒険者など存在しない。勝ったな
冒険者たちの顔が歪み、声を荒らげる。
「ミネストローネなど、少し料理が出来るのであれば誰でも作れるわ!! 騙されんぞ!! 流拳技の息子!!」
「そ、そうだ!! 俺の妹だって作れるんだぞ!!」
ニコリと笑い、大男が持ってるミネストローネを指差す。
「どうぞ、お召し上がりください」
スプーンを口持っていき、食べる。
黙ったまま、また一口、さらに一口と。
遂にはミネストローネを完食し終えた。
大男がプルプルと体を震わせ、その場に居る全員に聞こえるような大声を出す。
「行けッ!! 料理人 アビト・ハーライドォ!!」
全員が騒めき、驚く。
ただ俺を除いて。なぜなら……
「このミネストローネは別格だ!! 冒険者が作れるレベルじゃねぇ!! こいつは間違いなく料理人だ!!」
「な、なんだって?! 流拳技の息子じゃなかったのか?」
ニコッと可愛らしい笑顔をして、
「お粗末さまでした」
俺はそのまま門を潜り、プロワセに入った。
舐めてもらっちゃ困るんだよ……
道場では女にモテるために、全員プロレベルになるまで、料理の腕を磨いてんだよ
それに、ミネストローネは…………
俺の十八番だ
てか、あれグールの村だったんだ…
そういえばめちゃくちゃグールの特徴に当てはまってるわ




