十三殺目 ルーシェ
手に光の魔力を集めながら、脅してくる。
「次はないぞ、貴様のスキルは何だ?」
なんだよこの人こえーよ
「『流拳殺技』っていうスキルです」
「はぁ?」
手に集まった光がまた細長く形成されていく。
なんでだよ!! 言ったじゃん!! おい、こいつ本当にイカれてるぞ!! 言ったじゃん!!
「言ったじゃんッ!!」
あやべ、出てきちゃった。
「私をバカにしているのか? 『流拳殺技』はガイト・ハーライドのスキルだ。貴様死にたいのか?」
ねぇ矢作らないでよ!! 怖いからぁ!! 一撃でフェンリル倒したやつとか強すぎて逆にキモいから!!
「あのー、僕ガイトの息子です」
あ゛あ゛あ゛あ゛矢が完成した!! やっばい。ぶち抜かれるッ。どうする? 殴るか?! 殴れるのか!?
「証拠は?」
「特にはないです。強いて言うならスキル石で鑑定とか、直接道場に聞きに行かれるかです」
「そうか、では立て。」
ん?
「かかってこい。私が直接確かめてやる」
おいおいこいつマジかよ
「早く立て。殺すぞ」
目がガチだ。性癖バカにされた時の壁舐め先輩と同じ目してやがる
「何をすればいいんですか?」
渋々、立ち上がりながら聞く
「そうだな…本気の一撃を私に打ち込め」
お腹をポンポンっと叩いてアピールをしてくる。
いや...さすがにSSでも女の子の腹を全力で殴れねぇよ
それに、
「傷は治りましたけど、体力がないので......」
ルーシェが顎に手を当てて、考える。
「ふむ、では流拳技ガイトは殺意を操って戦うと聞く。私に向けて、全力で殺意を放て」
おー、それなら行けるわ
「分かりました。」
両拳を強く握り、体に力を入れる。
そして、殺意を解き放つ。
目の前の敵を殺すつもりでッ
―――ドゥーン
アビトから青黒い光を持った殺意が放たれる。
「ほう」
持っと、持っとだ。さらに殺意を!!
―――ドゥーーーン
さらに、解き放たれ、青黒い殺気がアビトたちを覆い尽くす。
まだだ、まだこんなもんじゃ!!
―――ドゥーーーーーン
アビトから半径三十メートル程の広さを殺気が覆い尽くす。
森には動物たちや魔物の悲鳴が響き渡る。
地面が、木が、空気が殺気で揺れる。
ルーシェがニヤッと笑い、呟く。
「これ程とはな……いいだろう。どうやら本物のようだ……な?」
もっと、もっと!! 殺意を感じろ!! 思い出せッ
―――ドゥーーーーーーーーン
「おい、もういいと、」
あの時を思い出せ
兄弟子から純愛ものだと言われて読んだエロ漫画をッ!!
中盤辺りで、主人公の目の前で、ヒロインがゴブリンに襲われて、犯されたシーンを、、、、、
思い出せッ!!!!!!!
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
アビトの殺気が森全体を覆い尽くす勢いで広がり、どんどん濃く、それでいて深くなっていく。
「だから、もういいと言っているだろッ!!」
「痛ッ」
殴られた頭を抑える。
あれ、なんかデジャブ感が?
「認めよう。確かにその殺気は『流拳殺技』でしか出せない。」
「ありがとうございます?」
さすがに、どういったスキルかは聞いて来ないんだな。
「貴様、歳と名前は?」
「アビト・ハーライド。十五歳です」
「ハッ、十五でそれほどか。貴様はアイツなんかよりも、確実にセンスと才能があるな」
アイツ誰だ? まぁいいや
「ルーシェさん。二つ忘れてますよ」
ニヤリと笑い、ルーシェさんを見つめる。
「なんだ?」
「僕は努力も、魂も、そこら辺のハンターより上ですよ」
ルーシェさんが笑い返す。
「そうだな。そうでなければ、あの状態でもフェンリルを倒そうとしないからな」
お互い微笑み合うが、ふと思ったことがある。
「そういえば、なんでここに居たんですか? SSならめちゃくちゃ忙しいでしょ?」
「たまたま帝都に用があったから、エルドリアから向かっている最中だったんだ。」
「へーでもなんでこんな森に?」
ルーシェさんがため息をつき、ジトっとした目で
「あそこまで激しい戦闘音と、熱と、殺気を感じたら、高ランク冒険者なら誰だって近くまで行くだろ」
あっ確かに、
「それに森があんなに燃えてたんだ。行かないわけないだろ」
そうだった!! 森燃えてたわ!! どうしよ、消さないと!!
どれほど、火が回ってるのかキョロキョロと森を見たら、
「あ!! 火がない!! 消えてる!」
焦げた木が倒れているだけで、火の明かりは一つも見えない。
「はぁ、私が消したんだ」
え? 火、消せるの? この人光属性の魔法使いだよね?
「もう私は帝都へ行く。時間があまりないんだ」
「うい。分かりました!」
ルーシェがフェンリルを指差しアビトに言う。
「あれはお前が街まで持っていけ。私が行くと面倒くさくなるからな」
「うい」
ルーシェが前を見て歩き出す。
「私が来たことに一生感謝するんだな。」
そう言いながら、正面を向いたまま手を振る。
「フェンリルを倒してくれて、傷まで回復を……」
回復?
「あッ!! 待って。回復して!!」
ルーシェが振り向きながらアビトに睨みつける。
「おい、貴様。私の回復魔法では不十分だと言いたいのか?」
この人、また手光らせてるよ...辞めてよそれ、死ぬから、普通に死ぬから
「ち、違います!! フェンリルを倒すために一緒に戦った人たちが居るんです!! その人たちも治してください!!」
ルーシェさんが周りをキョロキョロしている。その人たちが近くに居ると思っているんだろう。
「近くのスレイバスっていう街で今治療を受けていると思います。」
イラっとしたような表情で俺を見てくる。
「治療を受けているのなら問題ないだろ?」
ほら〜、やっぱり光の矢作るじゃ〜ん
「スレイバスにはフェンリルから受けた傷を治せる人は居ないと思います。でも、あなた程の魔法使いなら完璧に治せますよね!! 俺の傷も綺麗に治してくれたし!!」
お、光の矢の形が崩れ始めたぞ。イけたか?
「なぜ私がそんな面倒なことをしなければならない。それに時間が無いと言っているだろ」
あ〜、また矢になっちゃったよ、
でも、コールデンスのあの傷治せるの高ランクの回復魔法使いか、高ランクの光属性魔法使いじゃないと。
おそらく今、治療を受けて、生き延びていたとしても、ギリギリ持ち堪えてるだけで、数日経てば死んでしまうかもしれない。
クッソ。こうなったらしょうがない...
「取引き!! 取引きをしましょう!」
「あ?」
アビトへ向けて、光の矢が向けられるが、アビトは話を続ける。
「何でかは知らないですけど、あなたスキルに興味があるんですよね?」
「だったらなんだ?」
冷や汗を流しながらも、ニヤリと笑い答える。
「知りたいんでしょ? 『流拳殺技』がどんなスキルか」
「なッ!?」
ルーシェが驚くのも無理はない。なぜなら普通、自ら持っているスキルが何なのかは言わない。そのスキルの内容を言うなど、なおさらありえない。
そして、アビトのスキルは非常に珍しく、アビト含め二人しか発現させてない。しかも、もう一人は「歴代最強の冒険者」と言われている、ガイト・ハーライドだ。
そんなスキルの内容を交換条件に出してきた。
しかも、自分のためではなく、仲間のために。
ルーシェは戸惑いを必死に隠しながら聞く。この男が本気なのかを知るために。
「貴様正気か?」
真剣な眼差しで答える。
「はい」
「もし、断ったら?」
断るつもりは微塵もない。流拳殺技の内容を知れるのであれば、帝都などどうでもいい。内容と、そして、この男がどんな人間か知れればいい。
「色んな所で、『聖光の魔女』に瀕死の獲物を横取りされたって言い周ります」
なッ、この男……
「あなたは、もちろん知ってるでしょう? 冒険者同士の魔物の横取りは御法度だって」
この私を脅しているのか?……BランクのガキがSSランクの私に?
「貴様命の恩人に仇で返すのか?」
「仲間のためなら」
こいつ、肝が据わりすぎてるな。
それに、私に回復してもらうには、この方法しかないと確信している目だ
「だが、今回の内容を客観的に見てみろ。"新人冒険者がAランクの魔物と戦っている最中に、SSランクに横取りされた。"と言っているんだぞ?
誰がそんな事を信じる? 皆、そのSSランクに助けられたんだなと思うのが普通だ。変な目で見られるのはお前だぞ?」
アビトが目をギラつかせ、笑う。
「それは、"普通の新人冒険者"の場合でしょ?」
こいつ、本物だ
「俺は、もうBランク冒険者だ。Aランクの魔物を倒したっておかしくない。
しかも、俺は『流拳技』の弟子であり、息子でもあり、スキルを引き継いだ男でもある。
そんな男が、Aランクの魔物を横取りされた、瀕死まで追い込んでいたって言ったらみんな信じてくれると思いますけど?」
本当にイカれてる
「僕の師匠や兄弟子は僕にめちゃくちゃ甘いです。僕がナイトウィル家の人間に、初めてAランクの魔物を討伐できそうだったのに、横取りされたって言ったらブチギレるでしょうね。」
本気で私を脅して、仲間を助けるつもりだ
「あなたの家、ナイトウィル家は冒険者で成り上がって、貴族になったんですよね?
それなら強い冒険者や騎士が居ますよね? それに、SSランクのあなたも居る……」
こいつは、
「でも、うちの道場にもSSランクがいる。それに俺の父親は引退して数十年経っているが、元SSSランクです。この二つが争ったらどうなるか分かりますよね?」
こいつは、とんでもない大物になるな、
「これは、お願いじゃない。命令だ」
ルーシェを睨みつけ、先程と同等の殺気を放つ。
すると、ルーシェの体からは自然と、笑いが込み上げていた。
「アッハッハッハッ!!貴様、いい性格しているな!!」
「そりゃあどうも」
ルーシェの手からは、いつの間にか、光の矢が消えていた。
「いいだろう、案内しろ」
―――あっっぶねぇ!!
イけたわ!! ギリギリイけたわ!! 殺されるかと思ったッ!!
これしかないって思って脅したけど、、、、
こわかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
こんにちは、マクヒキです!!
以下同文です




