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十二殺目 イカれてる

―――「ドリャアアアァァァァァッ」




―――「これでも喰らえ!!!!」




―――「ラッッッッシャッ!!」




―――「らあああぁぁぁぁぁ!!!!」



木々をへし折り、枝葉を巻き込みながら、フェンリルの巨体が吹き飛んだ。



「ハァ、ハァ、ハァ、クッソあいつ何発殴ったら死ぬんだよ!?」



またすぐ立ち上がりやがったッ。こっちは両手から骨が見えちゃってんだぞ!!


フェンリルが地面を強く蹴り、再びアビト目掛け走り出す。



「もっと殺意を……」


拳に纏った殺意がさらに膨れ上がり、輝く。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!」




二人の攻撃が激突し、地面が裂け、木々がなぎ倒れ、空気までも震えて崩壊した。



「さっさと死ねやッ!!!!」



ん?



「グカァッ」


―――ヒューーーー、ズドンッ!!!


フェンリルが巨大な大木へ叩きつけられる。



「なんだ、今の感触? 何か潰れたような...」



まだ立ち上がるフェンリルを見ると、どこか違和感を感じた。



なんか、おかしい気がする。どこかさっきと違うような....



「ああああああああああ!!!!!!!!!」





あいつ、頭蓋骨潰れてんじゃんッ!!




「そっか! 体力特化だけど、攻撃効いてないないわけじゃないのか!!」



フェンリルがギリギリと歯ぎしりを立て、アビトを睨みつける。



「あれ? もしかして動揺してる? 動揺してるよね?」



フェンリルを包む青白い炎が、異常な勢いで燃え上がる。

周囲の木々も、叩きつけられた大木も、そして空気さえも焼き尽くしていった。



ブチギレじゃん




「ハハッ。でも、そんくらいじゃないと楽しくねぇよな!! お互い全力で殺し合おうぜ!!」



改めて、全てを燃やし尽くさんとするフェンリルを見てると、


「やっぱり本気じゃなかったな。攻撃も頭突きしかしなかったし…」



再び構えを取り、拳を握る。



「認められたってことでいいんだよな? かかってこいよ!!」




正真正銘の化け物と化したフェンリルが、スピードをさらに上げ、アビトに迫る。




青白い炎をまとった右爪を振り上げ、アビトの体を切り裂かんと襲いかかった。





これ喰らったらひとたまりもないないぞ!?


避けるか? 無理!!


なら、突っ込んで懐に!!







「いや、真っ向勝負だろ!! なぁ!! フェンリル!!」



大きく腕を振りかぶり、切り裂かんとする右爪を目掛け、



「こっちは、興奮がとまんねぇんだよ!!!」


『殴殺ッ!!!』



凄まじい衝撃波が森全体に響く。




互角ッ







―――いや、


まだ俺の方がう……





目の前が青一色に染まる。



「うわあああぁぁぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」




アビトの体にフェンリルの炎がぶつかる。



ブレスだ。


拳の力が抜け、そのまま右爪で体を切り裂かれる。




「く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」








―――ガクッ












巨大な炎の前には、両膝をついた少年がいた。




袴と道着の上衣が燃え、腰から上の皮膚が爛れている。

その上、大きく深い爪痕が体をえぐっていた。




「あ゛ぁ……あ゛ぁ……あ゛ぁ……」


焼け焦げた喉で必死に呼吸をしている。




痛い、熱い、ジンジンする、頭が回らない、何をされた? ブレスか? いや、そんなことはどうでもいい




─────────死ぬ




どうする? どうすればいい? 勝てる? どうやって? あっちはピンピンしてるのに、俺は立つのも限界だぞ



体力がもうない。殴殺が使えない。


俺じゃ、この目の前にいる化け物を殺せない。


壁が高すぎる。調子に乗った。

『流拳殺技』を引き継いで浮かれてた。

俺ならすぐAランクになれると思ってた。フェンリルとも渡り合えると思った



やばい、意識...が、、










―――この状況を見たら、誰もがこの少年はこのまま死ぬと思うだろう。



Aランクの魔物。一つの冒険者ギルド総出で戦っても勝率が五割も満たない。

そんな魔物の相手は、成人したての冒険者。しかも、動くことさえ出来ない傷を負っている。



誰もがこんな状況に陥ったら生きるのを諦めるだろう。



それは、少年の目の前にいるフェンリルでも同じようなことを思っていた。




―――頭蓋骨をへこませる程の、高い攻撃力を持っていたことには正直驚いた。

それに、私の攻撃を避けるででも、防ぐでもなく、自分の攻撃で真正面から対抗してきたのには、久しぶりに胸が昂った。





だが、それでも所詮は人間だった。



少し本気を出せば、肉は爛れ、体には深い傷を負い、悲鳴を上げた。


もう動くことも無理だろう。

まだ死んでいないだけでも奇跡だ。




……なのに、







なのにだ。


目の前にいる死ぬ直前の人間がまだ、こちらを睨みつけている。


その目には殺意と闘志の炎が宿っていた。










―――殺す

死んでも殺す。死ぬ前に殺す。死んだ後でも殺す。殺されるまで殺す。殺されても殺す。




まだ、まだいけるよな?



ギロリと睨みつけ、声を振り絞る。



「あ゛ぁ、あ゛ぁ、りゅ…『流拳技』……は、じ、自分が……自分が死ぬまで、」





フェンリルがニヤリと笑った







―――この人間、相当イカれてるぞ





「自分が死ぬまで、あ、あい、相手を、」


アビトから再び、全てを蹂躙するほどの殺気が放たれる。



「殺すんだよッ!!!!!!!」



爛れた腕を地面に押し付け、立ち上がる。


フラフラしていて、今にも倒れそうな状態。




そんな状態でも、半身になり拳を構える。




「おい、フェンリル。冥土の土産にお前の全力叩き込んでくれよ。俺の命で対抗してやるから。」


息を深く吸い込む。






そして―――






「己の拳に」










「殺意をぉぉぉぉぉ!!!!!」



アビトの拳に、今までよりも濃く、大きな殺意と、深く輝く青黒い光が纏っている。







その時、フェンリルが後ろに下がり、体勢を低く、そしてさらに炎を強くする。



攻撃の構えだ。




全力で攻撃してくれるんだな、助かるよ




風を熱で焦がし、切り裂きながら駆け出してくる。

そのスピードは今までとは比べ物にならい速度だった。




「俺の全てを掛けた拳。しっかり味わってくれよ」



フェンリルの速度にタイミングを合わせ、拳を振りかぶる。



フェンリルも同様に、タイミングを合わせ、右爪を振りかぶる。






「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


「ク゛オ゛オ゛オォォォォォ」






『おうさッ』









──────────ッシュン










え?





目の前を神々しく輝く矢が通った。




もっと言えば、フェンリルの頭を通った。




貫通したのだ。




「な、え? なに……が?」



フェンリルが頭から血を流しながら倒れている。

息もしてない。



理解が追いつかない。


なにが、どうして、こうなった?

あの矢はなんだ? フェンリルが死んだ?






その時、右の茂みから声がした。


「おい、貴様。ランクは?」


声のした方を見る。



茂みの中から現れたのは、長く、綺麗な金髪が特徴の綺麗な女性。

目元は力強く、金と青が混じった瞳をしている。白を基調とし、金色の装飾が細かく施されたローブ。

普通の男なら誰でも見惚れるだろう。



てか、俺も見惚れている。



普通だったらな、





―――この人ヤバい


俺には分かる。表に出ていないが、とてつもなく濃い、力強い殺気を中に秘めている。



殺気の強さは潜った修羅場の数と質で決まる。


この人からは、師匠に近しい殺気を感じる……


つまり、怪物だ。






「おい、聞いているのか?」



再び、綺麗で、それでいて力強さが感じられる声で聞かれる。



「ランクは?」


「B、ランク、です」



恐る恐る答える俺に、しかめっ面をする。



「あ? Bであの力があるのか?」



とりあえずなんか怖いので黙って頷く。



「たしかに、フェンリルごときに殺されかけるくらいだしな」



「フェンリルごとき」ってこの人どんだけだよ



目の前の人が何者か探ろうとしていると、いきなり目を見開き、こちらへ詰め寄ってくる。



「おい、まさか貴様、スキル持ちか?」



ちっか!! 顔ちっか!! 綺麗だけども!! でも、怖いが勝っちゃうッ



「は、はい。そう……です。」


「貴様は何のスキルを持っている?」



この人なんでこんなにスキルに興味あるんだろ? 余計怖いな。それにスキルはその人の個人情報中の個人情報だから、内容聞かないのがマナーなのに...


でも、助けてもらったからな


とりあえず名前聞くか



「あの〜」



「あ?」



こっわ



「お名前って何ですか?」


舌打ち混じりで答えてくれた。




「ッチ。ルーシェだ。ルーシェ・ナイトウィル」



「え?」



「早く貴様のスキルを教えろ!!」



「え?」



「いい加減にしろッ」



握っていた杖を持ち上げ、アビトの頭を振り抜く。



「ホゲッ」


え? ルーシェ・ナイトウィルってSSランク...の?






―――バタッ


「あ、しまった。つい強めに殴ってしまった。」


はぁ、全く。手間をかけさせやがって


柄が白く、先に黄色の魔石が付いた杖をアビトへ向け構え、



『ホーリー・ライト』



アビトの体が光に包まれ、爛れた皮膚が、深く抉られた傷が光に触れた瞬間、どんどんと癒されていく。





――― 見かけた時から思っていたが、この男こんな傷を負いながらも、フェンリルを倒すつもりだったのか?





バカなのか、こいつ?




しかも、逃げるでも、命乞いするでもなく、「全力で攻撃してこい」って言っていたよな?



イカれてるにも程があるな









―――数分後


「ッッッッッファッ!!」



「やっと起きたか」



「あぁ、そっか。急に意識失って…限界が来たのか、」



―――私が殴ったのに気づいてないな



「あれ? 傷が、、」



肌が元通りピチピチになってる!?



「私が治した」



「ほんとですか!! ありがとうございます。以外に優しいんですね」



ルーシェの手に光が集まり、細長い形状になっていく。



あれ? これって?



『ルーメンズ・アロー』



「へ?」




―――ッッシュン




アビトの頬を光の矢が掠める。



「勘違いするな。スキルのことを聞きたかったからだ。」




こいつあれだ。俺よりイカれてるわ





こんにちは、マクヒキです!!


トムブラウンがキモくて好きでした。

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