十殺目 いざ、森へ
「うんまぁ!! なんですかこれ? この脳みそ震えるくらい甘いの!!」
レナさんが引きつった顔で答える。
「それは、いちごアイスね。」
兄弟子から聞いたことがある。世の中にはフルーツの味がする冷たく、甘いスイーツがあると、
「これが、アイス?! あの伝説の!? めちゃくちゃ美味いじゃん!!」
俺がキラッキラした目でベロッベロにアイスを食べていると、
「ねぇアビト。本当に気にしてないの? 私たちアビトのこと犯罪者扱いしちゃったのに......」
俯いているレナさんを気にも止めずに、
「あれなんですか?!カラフルな雲みたいなやつ!!」
「あれは"わたあめ"よ」
「ほえー。じゃあ次あれ食べたいです!!」
アイスを食べ終わり、わたあめへ歩き出す。
「アビト本当にごめんね?」
「全然良いですよ! 疑われるのはしょうがないですし〜」
「で、でも!!」
レナさんが慌てながら、俺の隣へ走ってくる。
「気にしなくていいですよ。それに今こうやって美味しいもの奢って貰ってますしね!!」
あの後、俺は無事処刑を免れ、すぐ釈放された。
俺が本物の流拳技の息子だと分かり、みんなから土下座やらなんやらされた。
ソミスさんたちは泣きながら土下座をし、尋問官のおっさんは口からブルーベリーを垂らしながら土下座をし、街の人たちは俺に投げた調理器具を捧げてきた。
そんなこんなで、俺が無事に宿で休めたようになったのは、月がすっかり昇りきった後だった。
そして、今日。朝早くから俺が泊まっている宿にソミスさんたちがお詫びとして、スレイバスを案内し、俺が欲しい物はなんでも買ってくれると言うのでウッヒャウヒャで観光した。
今、レナさんに食べ物を食べさせてもらってるが、その後も色々なところに行く。
ソミスさんが武器関連を、コシノさんが施設を、ワントさんがエッチな店を案内してくる。
―――数時間後
「今日は本当にありがとうございました!! めちゃくちゃ楽しかったです!」
可愛らしい笑顔でソミスさんたちにお礼を言う。
「いやいや、元はと言えば俺たちが迷惑を掛けたんだ。これくらいのことはさせてくれ」
「アビト、明日昼だからな。ギルドの二階に来てくれ。全員集まってるから」
「は〜い」
俺は、夕方頃まで、ソミスさんたちとの観光満喫した。
そのままの足で、宿に戻り、ベッドにダイブする。
「ふいぃ〜〜い。楽しかったー。やっぱエコキャルとはレベルがちげぇや」
スレイバスは凄かった。建物はデカイは、飯は美味いは、女の子がいっぱい居るわで。もう、すんごかった。
「明日は昼からギルドか。レナさんに教えてもらったカフェで朝飯食ってから行くかー」
俺は、昼にソミスさんと、ギルマスさんから、フェンリル討伐隊のメンバーになってくれないかと言われた。選ばれたのは、Bランクで、何より師匠と同じスキルを持ってるからだろう。
もちろんOKした。
冒険者は命を懸けて、自分の大切な物を守ったり、地位や名誉を求める人がほとんどだ。
俺もその内の一人だ。
だが、一番は違う。俺が一番求めている物は、
"カッコイイ"だ
五歳の時見た、兄弟子たちや師匠の姿がずっと目に焼き付いている。
あんなのを見せられたら、憧れないわけがない。
だから、俺はカッコよくなるために、強くする。
自分の実力を、自分の魂を!!
俺がなんの縁もないスレイバスでのフェンリル討伐を受けたのも、もちろんソミスさんたちのためもあるが、一番はカッコよくなるためだ。
突然現れた、伝説の男の息子が街の危機を救う。
カッコよすぎだろッ!!
グへ、ググへ
ニヤニヤがとまんねぇ
―――翌日
「蜂蜜うんま!!道場で食べたのより、美味いわ」
昨日レナさんがオススメしてくれたカフェでパンケーキを頬張り、コーヒーを飲む。
「コーヒーもうまいなぁ。やっぱりコーヒーはブラックに限るな」
コーヒーをブラックで飲む男はカッコイイ。
そして、モテる。
だから俺は、十歳の頃からコーヒーをブラックで飲む練習をし、今では大好きな飲み物になった。
「ぷはぁ〜。美味かった〜。ご馳走様でした!!」
俺はパンケーキでテンションが上がり、上機嫌なままで、ギルドへ向かう。
「相変わらず、ゴツイな」
スレイバスの冒険者ギルド。
石造りの大きな建物。
大きな石を積み上げた壁に、分厚い木製の扉。
まるで要塞だ。
扉を開け、中に入る。
「おい、あいつだぞ」
「あれが流拳技の息子か」
「嘘つけよ、デブだぞ?」
「絶対、俺より弱いだろ」
みんな俺を見ながら、コソコソと話している。
おい、コソコソ話は下手したらイジメになっちゃうんだぞ? いいのか? パパに言っちゃうぞ?
パパが来たらお前らなんてイチコロだぞ?
とりあえず周りの冒険者の無視しながら、受付に向かう。
「すみません、フェンリル討伐でよばれたんですけど」
「Bランク冒険者のアビト・ハーライドさんですね。お話は伺っております。ご案内致します。」
受付嬢さんについて行き、二階の部屋の前まで案内された。
「こちらの部屋です。では、失礼致します。」
「は〜い。ありがとうございます」
受付嬢さんにお礼をし、目の前の扉をノックして、扉を開ける
「こんちわー。アビト・ハーライドです」
「お! 来たかアビト!!」
部屋の中には、ソミスさんパーティーにギルドマスターさん。そして、同じ鎧を着た、知らないおっさんが三人居た。
「お前が、流拳技の息子か。よろしくな。」
焦茶色の鎧を身にまとったおっさんが手を差し伸べ、握手を求める。
「俺はこの討伐隊のリーダー。Bランク冒険者のクラキ・テンヴィレだ。そしてこの二人が俺のパーティー"コールデンス"のメンバーだ。二人ともBランクだ。」
「え? テンヴィレ?」
テンヴィレって......
「あぁ。キャトスは俺の嫁だ」
「ッチ」
なんだよ、人妻じゃねぇかよ。人妻はダメだ。NTRになるから。
「何か言ったか?」
済ました笑顔で答える。
「いえいえ、おかまいなく〜」
「よし、じゃあ作戦会議をするぞ。みんな知っていると思うが、森にAランクモンスターのフェンリルが住み着いた。もうすでに森の近くの村がいくつも襲われている。」
「このままじゃ、ここ近辺の村が全滅する。下手したら、この街も狙われるかもしれない。そうさせないために、俺たちがフェンリルを討伐する必要がある。みんなそれぞれ意見や作戦内容を言ってくれ」
―――決まった作戦はこうだ。
この中でフェンリルに奇襲できるやつはいないので、真正面から戦う。
コールデンスの盾使い《タンカー》がフェンリルを惹き付け、槍使いの人妻野郎と、双剣士、そして、俺が攻撃をする。そして、後方からリナさん、サポートでソミスさんたち。
まぁ妥当といえば、妥当だろう。というか、それしかない。
相手はAランクの魔物だ。冒険者ランクと魔物のランクはFからSSSまで分かれているが、BとAの間には、越えられない壁があると言われている。
冒険者のAランクは百人程だか、Bランクは一万人以上いる。さらに、Aランク冒険者はBランク冒険者百人分の強さがあると言われている。
そのくらいの力の差がBランクとAランクにはある。
そして、魔物のランクは、その魔物を倒せる冒険者の最低ランクで決まる。
つまり、AランクのフェンリルはAランク以上の冒険者だけが倒せるのだ。
だから、フェンリルを倒すには、Aランク以上の冒険者か、Bランクを沢山集めなければならない。
だが、この街には、Bランクが十人しかいない。
他の街からAランク冒険者を呼ぼうとしても時間がかかるし、何よりAランクは引っ張りだこで、呼べないのだそうだ。
そして、Bランク冒険者を討伐作戦に募集しても、フェンリルをBランクだけで、一緒に倒そうとする命知らずな冒険者はいない。
だから、この人数なのだ。
全員この討伐で命を捨てでも、討伐をするという覚悟があるのだろう。
俺はもちろん命を掛ける覚悟がある。
それに参加した理由はカッコイイからと言ったが、半分は冗談だ。
Aランクの魔物はいつか超えなきゃいけない壁だし、自分が今どのくらいの強さか、知っておく必要があるから参加するのだ。
というか、この人たちは俺が来なくてもフェンリルをこのメンバーだけで、倒すつもりだったのか、
どう考えても無謀なのに、、、すげー覚悟だな
そんなこんなで作戦会議が終わった。
他にも色々言っていたが、俺はとりあえず殴れば良いとのことだ。とても分かりやすい。
「じゃあ、作戦決行は二日後だ!! 各自準備してくれ」
「お疲れしたー」
部屋を出ていこうとしていた俺に、人妻さんが話しかけてきた。
「アビト君。こちらがお願いした立場なのは分かっていますが、本当にいいんですか? 相手はフェンリル出すし。正直言って勝ち目はないんですよ?! 怖くはないんですか?」
優しさと不安が混ざった声で人妻さんが心配してくれている。
人妻じゃなかったらなぁ〜
そんなことは一旦忘れて、笑顔で答える。
「師匠の方が怖いですから!!」
―――二日後
「頑張れーー!!」
「ソミスさん、フェンリルをぶっ倒してください!!」
「コールデンス!! 期待してるぞー」
俺への声援は?
俺たちは街の人たちに大量の声援と期待を掛けられながら、スレイバスを出た。
フェンリルが居る森までは、馬車で行く。
およそ、三十分だ。
ちなみに、あの時。ソミスさんたちが歩きだったのは、フェンリルに馬車をぐっちゃぐちゃにされたからだそうだ。可哀想に
そんなこんなで、馬車で作戦内容をみんなで復習していると、すぐにフェンリルの近くまで来た。
ここからは徒歩で二十分くらい歩いて行く。
今回のフェンリルは、基本的に森の中にある巨大な岩の上で寝てるらしい。
カッコつけてるよな? 絶対。だってわざわざ岩の上で寝るか? 寝にくいに決まってんだろ...
もしかしたら俺と同類かもしれんな
俺はそんなふざけた思考で、自分の気を紛らわせようとしている。
なぜなら、岩までまだ距離があるのにも関わらず、とんでもない殺気をビンビン感じているからだ。
やばいな、明らかに格上だ。
このメンバーじゃ絶対厳しいだろ?
コールデンスでもギリギリ着いて行けるかぐらいだぞ?
気を紛らわせようとしても、やばい未来がずっとチラつく。
ん? なんだ? あれおかしいぞ?
殺気がどんどん大きくなってる?!
いや、違う!!
「全員止まってッ!! フェンリルがこっちに向かって来てる!」
手を横に広げみんなを静止させ、目の前の茂みをジッと見る
「な、なに?! なぜ分かる?」
クラキさんが焦った声で聞いてくるが、俺の真剣な表情で察してくれたのだろう。
「分かった。作戦通りに隊列を組め!!」
全員が武器を構え、息を呑む。
森の空気が、ピリッと張り詰める。
草の揺れる音すら、敵の足音に聞こえるほどの緊張感。
俺は、拳に殺気を纏わせ、「殴殺」の準備をする。
「アビトッ!! 来るタイミング分かるか!?」
「あと、約百メートル!!」
足音は聞こえない。だが確かに地面が“鳴って”いる。
圧力のような殺気が、皮膚を刺す。
目に見えないはずのそれが、空気を揺らして迫ってくる。
「残り、二十メートル!!」
「十五」
「十」
「五」
「零!!」
その瞬間、茂みから、巨大な"白い影"が飛び出してきた。
雪のように白い毛並みを逆立て、10メートルを超える巨体。
大きく見開かれた口からは無数の鋭い歯がギラつき、その間から青白い炎が漏れている。
「グガガガガァァァァァッ!!」
地を揺るがす咆哮と共に、全てを喰らい尽くさんとばかりの勢いで迫ってくる。
これが、フェンリル?! ヤバい、体が勝手に震える、
やっぱりレベルが格段に違う!!
フェンリルがそのままの勢いで、幹のように太い右前脚を振りかぶり、強靭な爪で切り裂く。
「ウォォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛」
盾使いが真正面から受け、なんとフェンリルの爪を弾いたのだ。
嘘だろ!? あれを弾いたのか!??
「アビトぉぉ!! やるぞ!!」
そうだ、自分がやるべき事に集中しなきゃ
クラキさんが横から槍で突き刺し、双剣士使いが体を斬る。
「クソォッ!! 毛皮が硬すぎる!!」
あんまり、二人の攻撃が効いてないな、
なら、俺が!!
「うぉおおお!! 殴殺ッ」
フェンリルの頭頂に俺の拳が突き刺さり、フェンリルの巨体が地面に叩きつけられる。
「よっしゃ!! 効いたぞ!!」
俺の拳がAランクに通用した!! イける!!
コールデンスが思った以上にやるぞ!
このまま攻めきる!!
「作戦続行だ! 誰一人、気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」
クラキさんの声が飛ぶ。
だが――次の瞬間。
目の前を、何かが弾丸のように飛んだ
「ズドンッ!!!!!!」
盾使いの体が木に叩き付けられている。
吹き飛ばされたのだ。
クラキさんが舌打ち混じりで呟く。
「やっぱり、さっき弾いたのはマグレだったかッ」
え、たまたまだったの?! じゃあダメじゃん!!
一気にコールデンスが使い物にならなくなった
「あ、」
焦る俺と、ブチ切れフェンリルの目が合った。
あ、こっちくる。
次のターゲット俺じゃねぇか!!
こんにちは、マクヒキです!!
それ以上でも以下でもありません




