九殺目 興奮
「ア、アビト? お前なんで捕まってるのに、尋問官と爆笑してるんだ?」
尋問部屋の檻の外から、ソミスさんたちが、一瞬、目を疑ったように俺を見てくる。
うわぁ、尋常じゃないくらいドン引きしてる……
「ん゛んッ!!」
おっさんが顔赤くし照れながら咳払いをする。
こいつもしかして、本当は良い奴なんじゃ?
あ、違うわ、俺が犯罪者だったからあんな態度だったのか......犯罪者じゃないよ!!
「い、いやーリラックスさせて、自然と自白させる作戦だったんだが、ダメだったかー」
白々しッ!! お前めちゃくちゃ楽しんでただろ!?
あと、めちゃくちゃ棒読み出し、、、
「アビト君! 本当にアビト君はBランクなの?」
レナさんが不安げに、俺を見上げる。
瞳の奥に、ほんの少し怒りと疑念、そして心配の色が混ざっている。
「だからそうですよ! 冒険者登録した時にギルドマスターが"アビト君強いからBランクスタートでいいよ"って言ってきたんですよ!!」
「そんなわけあるか!! お前は何回同じ嘘をつけば気が済むんだッ!!」
ソミスさんたちも、心配と疑問が混ざった顔で見てくる。
これ以上抵抗しなければ、本当に捕まってしまうかもしれない。
反論しなければッ!!
「ギルマスが、アビト君は強いし、"流拳技"の息子でもあり、弟子でもあるからって」
続けざまに、
「あと、僕が師匠のスキルを発現させたから、Bランクスタートで良いよってなったんです!!」
その瞬間、その場の空気が一瞬静まり返る。
やべ、言っちゃった......
周りを見てみると、みんながえげつない顔をしている。
目ん玉がぶっ飛ぶくらい目を見開いている。
目を見開いたままのソミスさんたちが、
「アビト、お前そんな凄いやつだったのかよ!!」
「たしかに、流拳技様の名字と同じだなって思ってたけど、」
「しかも、同じスキルを引き継いだだって?!」
「じゃあ本当だったのか!!」
俺の発言でみんながザワつく。
あれ? この感じ、どこかで見たことがある。
なんだっけ?
あッ!!これ、無自覚系主人公だ!!
兄弟子から貸してもらった本で読んだことある!!
主人公が無自覚に最強だったり、無自覚に凄い境遇で生活してたりしてたのが、周りにバレたやつだ!!
みんなはずっと、驚きの表情と声にならない声を漏らしている。
これあれでは?
自分がやっちゃったのは自覚してるけど、それを悟られないように困惑してる感出せばイけるのでは?
「ッッック!!」
尋問官のおっさんも俯いてぷるぷるしている。
尋問相手が伝説の男だと聞いてビビっているのか?
今から、これが普通じゃないんですか感を出せば、うちのパパそんな凄いんですか感を出せばイけそうだな!!
じゃあ!!これ言うチャンスでは?!一世一代の大チャンスなのでは?!
俺は、すぐさま困惑した表情を浮かべ、右手で後頭部を搔き、周りをキョロキョロ見ながら、
「え? 俺何かやっちゃいました?」
決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
やばい、興奮が五臓六腑に響き渡ってくる
やっべぇ脳汁も止まんねぇぞ、おい
俺これからこのスタンスで生活しようかなぁ〜、だって気持ち良すぎるもんッ!!!
俺の、パーフェクトやっちゃいましたか?に、尋問官のおっさんが答える。
「あぁ。やってくれたよ。予想以上にな」
ん?
思ってた反応と違う。
「アビト、お前本当に、本当に犯罪者だったのか」
んん?
「アビト君、なんで。なんで偽造なんてしたの!!しかも流拳技様の息子のフリしてッ」
んんん?
「本名は何かは分からんから、貴様の偽名で進めるぞ。アビト・ハーランド。」
?
「貴様は死刑だ」
―――
「この者は愚かにも、偉大な冒険者であらせられた、異名"流拳技"、ガイト・ハーライド様の息子を名乗った。よってこの不届き者を只今をもって、処刑する!!」
「うおおぉぉぉぉ!!」
「こ・ろ・せ!! こ・ろ・せ!! こ・ろ・せ!! こ・ろ・せ!!」
俺は今から、スレイバスの中央広場の高台で処刑されます。
両手を後ろで縛られ、跪かせられている。そして、両隣には、剣を構えている騎士団の人がいる。
そして、高台の前方には街の人たちが大勢集まっている。
これあれだ。ダメな系だ。アースドラゴンの時よりダメだ。助かる方法ないもん。
情けない言葉が頭の中を回っている。
だが俺は立派な流拳技の弟子でもあり、息子だ。
このまま死ぬ訳には、、、、、いかないッ!!
「た゛れ゛か゛ぁぁぁぁ!! た゛す゛け゛て゛ぇぇ!!」
「し゛に゛た゛く゛な゛ぁぁぁぁぁい゛!!!!」
泣き叫ぶしかない。
「黙れ、クソデブ!!流拳技様の息子を名乗ったゴミが!!」
「石投げないで!!痛いからぁ!!」
どうやら、この世の中は、高ランク冒険者は貴族と同じような立場にあるらしい。
国や民をモンスターやダンジョンの暴走などから、命を懸けて守っているからだそうだ。
全然知らなかったんだけど......
そして、うちのパパは伝説と言われている元SSSだ。
冒険者の中で最強の三人にしか与えられないランク。
下手したら、国王や皇帝より、上かもしれないらしい。そのくらい凄い立場だ。
さっすがパパ
そんな男の息子を名乗ったのだ。
嘘だったらそりゃあ死刑になるわな
あの時ソミスさんたちの「マジかよ」とか「本当だったのか」は、
こいつ、流拳技の息子って名乗りやがったぞ
本当にやばいヤツだったのか
って意味だと今さっき理解した。
「俺!! 本物の息子なんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「流拳技様に息子がいらっしゃるなんて聞いた事ないぞ!!」
「おい、フライパン投げるは違うだろ!! 相場は石だろうが!」
どうやら、師匠に息子が居ることは知られてないらしい。
どうしよう、なんも解決策が出てこない。
とりあえず、泣き叫ぶか
「息子なんですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「15年間育てられたんですぅぅぅぅぅぅ!!」
「スキル"流拳殺技"も引き継いだんですぅぅぅ!!」
「ガイト・ハーライドは俺の父親なんですぅぅぅ!!!」
やばい。石の量が増えた。
投げられる種類も多くなってきた。
たわし、お玉、レンゲ、桶、フォーク、ヘラ、まな板
調理器具多くない?!
もうダメだ。石と調理器具の嵐で誰も俺の話聞いてくれない。
そんな時だった。
透き通った声が広場に響いた。
「ちょっと待て!!!」
群衆が一斉に声のした方を見る。
そこに立っていたのは濃い青髪のロングヘア。
身長は普通だが、胸が異常な存在感を放っている。
分かる。あの人、
兄弟子のドタイプ熟女だ。
「私は、この街の冒険者ギルドのマスター。キャトス・テンヴィレです!!」
へーあんな綺麗なお姉さまがギルマスなのか。ここに住もうかな?
「アビト・ハーライドさん。私はあなたが嘘をつくような人には見えません!!」
よし、住もう
「あなた、先ほど流拳技様のスキル。"流拳殺技"を引き継いだと言いましたよね?」
周りに居たギルドの職員らしき人や冒険者が止めに入る。
「マスター何言ってるんですか!! あんな嘘を信じちゃダメですよ!!」
「それに知ってるでしょ?! 流拳技様のスキルは流拳技様専用で、 弟子がいくら集まっても、誰も発現できなかったんですよ」
キャトスさんは真剣な眼差しで俺を見つめる。
「確かにそうです。ですが、本当に流拳技様の血を引いているのであれば、可能性はあります。」
「あ、血は繋がってないです」
信じられないぐらい重い空気が流れた。
どうしよう。さっきまで真剣に俺を見つめてたキャトスさんがゴミを見る目で見てくる。
やべ、ミスった
「いや、違いますよ?!赤子の時、捨てられている所を師匠に拾われたんです!!」
俺の発言が異常過ぎて、誰も罵声も物も投げなくなった。
その時奇跡的に名案が思いついた。
「そ、そうだ!! さっき言ったじゃないですか!!
"流拳殺技"を引き継いだって!! 今から鑑定してくださいよ!!」
「は、はい。分かりました。そのために、スキル石を持ってきているので。」
キャトスさんが高台に上り、俺の横に座る。
「良いんですね? もしスキルが表示されなかった場合は即刻死刑。別のスキルだった場合は死刑まではしませんが、それ相応の罰が下されます。」
俺は真面目な表情と声で答える。
「はい。お願いします。」
縄が解かれ、右手をスキル石に置く。
高台が眩い光に包まれる。
それは、次の瞬間だった
「お、おいッ!!」
「嘘だろ?!」
「マジかよぉぉぉぉぉ!!」
キャトスさんが口を手で押さえながら叫ぶ
「スキル"流拳殺技"?! では、あなたは、あなた様は......」
「本物の流拳技様のご子息なんですか?」
スキル石には、
「流拳殺技」
という文字が浮かんでいた。
ニヤリと笑い、髪をかきあげながら立ち上がる。
仁王立ちをし、両手をポケットに入れ、集まっている大衆を見下ろしながら言う。
「俺が伝説の冒険者 ガイト・ハーライドの息子であり、そして、スキル"流拳殺技"を唯一引き継いだ弟子でもある」
さらに、息を思い切っり吸い込み、叫ぶ。
「俺がアビト・ハーライドだ!!!!!!」
き゛も゛ち゛い゛ぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!!
やっべぇ、身体中を興奮がぐちゃぐちゃにしてくる
グへッグへへへへへグッググッグへへへへへへへへへへへへへへへ
こんにちは、マクヒキです!!
特にありません




