7.仲間の文句
「はぁ?魔女殺し!?」
翌日、酒場のいつもの場所にいた団員たちを拠点に招集して話をしてみた。帰って来た反応は予想通りの困惑だ。
「あぁ、北の森に住まう魔術師を6000レナールで殺せとの依頼だ」
「ま、魔術師!?そんな依頼を受けて来たのかよ団長!!狂っちまったのか!?」
「そうですよ!そんな依頼、貴族からと言われても断りましょうよ!」
ベネリが最初に猛反対の意向を示すと、普段アホ丸出しのベンソンも周りの団員たちを巻き込んで反対の大合唱だ。やれ「絶対に敵わない」だの「何故受けた」だの、一人も文句の言っていない者はいない。
「待て!俺だって断りたかったんだ!!」
「じゃあ、なんで!?」
「俺たちが半年前に受けた依頼覚えてるか?鉱山組合からの盗賊討伐依頼だ」
「……自分が持ってきたやつですか?」
「そうだ」
ベネリが依頼を見定めた事を思い出したようだ。新人たちは何の事か分かっていないようだが、半年前からいた奴らは思い出したような表情をしている。
「でも、一体その依頼に何の関係が?」
「討伐した”盗賊”と思っていた奴らは、領主の私兵だったらしい。その私兵で北の森の魔女を倒そうとしていたのを、俺達が邪魔した」
「そんなの……あいつらが自分の正体を言わなかったのがわるいじゃねぇかよ!団長!」
「いや……俺たちは奇襲したしな……最後に口を割らなかった理由は分からんが」
その後も口々に文句を言って来る団員たちを宥めていると、ベンソンがとどめの一言を放った。
「団長、俺はそれには参加しない……金が貰えても命があっての物種だ」
「「「そうだ!そうだ!!」」」
「落ち着けよ、まだ殺すとは言ってないだろ?」
「それじゃあ、どうするってんですか?」
俺も、何も命を捨てるような事をしたい訳じゃない。一応、夜通し考えて方法は考えて来ている。
「魔女は”殺さない”」
「はぁ……でもそれじゃ依頼はどうするんです?」
「魔女にはここじゃない場所に逃げて貰おうと思ってる。魔術師のド派手な魔法を通行人に目撃させて、後は適当に殺しましたとか言っとけばいい」
周りで文句を言っていた奴らの顔が、少し感心して納得しているのが分かった。
「だから、俺達の目標はその魔女に接触する事と、そして交渉して協力してもらう事。その魔女だって死にたくはない筈だから、上手く行くと思う」
「……確かに。でも、もしその魔女に会えなかったり、会えたとしても拒否されたら?」
「会えなかったら俺たちがこのバルトンガードから姿を消すしかないな。拒否されても、会える訳だから倒せるだろ」
ここには多少の楽観があるが仕方がない。森の梟団に属する全員が罪人だと言われている現状、魔女に拒否された場合、俺達が逃げるか倒すしか生きる方法がない。
「もし、魔女に逃げてもらうことが出来たら、これ以上楽な仕事はねぇ。誰も怪我せず、話し合うだけで6000レナールだ」
散々文句を言っていた団員達も落ち着いたところで、仕事を割り振り始める。
「という訳でだ!お前らには街中で情報収集をしてほしい。北の森に住む魔女の話なんて聞いたことないからな」
「……分かりました」
渋々といった様子で情報収集に出かける団員たちを見て、ひとまず胸を撫で下ろした。このまま拒否されていたら、今まで頑張って作り上げて来た傭兵団を解散しなければいけない。どちらにせよ魔女とやらが見つからなければ逃げ出す事には変わりないが、どうせなら出来る限りのことをしてから逃げたい。
「タボールが生きていれば……な」
静かになった部屋で口から言葉が零れ出る。副団長だったタボールが生きていれば、鉱山組合の依頼を避けられたかもしれないと、思わずにはいられない。
そこから3週間が過ぎた頃になって、やっと情報が集まって来た。
まず前提として、北の森に住む魔女や魔術師の存在は誰も知らなかった。つまり、国の支配下から逃れているからと言って、特に他の人間に危害を与えることも、自分が魔術師だという事を誇示していないという事だ。そうなると更に難しいのが、街中で集まる情報に有益なものは無く、北の森近郊の村を訪ねて歩くことになり、これに時間を大分取られてしまった。
時間を掛けて北の村々で集まった情報は、『北の森に入って行く女性の姿を見たという奴が居る』『北の森の中に潜伏しようとしていた傭兵崩れが、入ったきり一度も出て来ていない』というものだった。大方傭兵崩れはその魔術師の女を見て襲ったが、殺されたとみていいだろう。
あとの情報は無かったが、同時に村に住む奴らの行動範囲を教えて貰う事で、あらかた場所を絞り込むことが出来た。
「ということでだ。明日から全員で森に入って魔女を見つけ出すぞ」
「どこにいるんすかね~」
大して探す気も無さそうなベンソンが、頭で腕を組み明後日の方向を向いている。
「魔術師は水を魔法で生み出せるからな。川沿いとかに限らないのが今回の難しい所だ」
「虱潰しすか?」
「そうだ。やるしかない」
「はーい」
気の抜けた返事が返って来るが、それを咎めるのは遠慮する事にした。ベンソン以外にもやる気が無さそうな奴は多数いて、もはや俺とベネリくらいしか気合を入れている者はいない。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。